80列車 「こまち」・「はやて」と暇つぶし
次の標的は「つばさ128号」東京行きだ。さっきは開放するシーンだったのが今度は連結するシーンに変わる。今度は余裕を持って14番線に行く。E4系「MAX」が先に到着し、連結器の収納部分が大きな口を開け、スタンバイする。そして次に「つばさ」がやってくる。
9時15分。「つばさ128号」が福島に到着した。連結をするときは開放する時と逆の動作をする。走りながら連結器収納部分が開き、その奥から連結器が出る。そして、連結する前に一時停車し、連結する。
(口が開くところを撮れたらいいな。)
と思っていたが、開く段階が予想以上に早かったため、今のシーンは撮ることはできなかった。そして、今回やってきたE3系は2000番台であった。この2000番台は1000番台と違い、ヘッドライトが一言でいえば笑っている。留萌は2000番台の笑いは「カワイイ要素」らしくE3系ならこれが好きだという。でも、僕にはどうもこの顔は合わないと思っている。その時だった・・・。
その時だった。キーンという聞き覚えのある小さく高い音が新幹線のホームに響き渡る。新幹線の本線を何かが通過する表れだ。その音を聞きつけ全員で13番線へ急ぐ。木ノ本と留萌と柊木はすでにカメラ、携帯を構えその列車を待ち伏せていた。
(どっちから来る。)
と思いながら、東京寄りに目線を送る。
(来た。)
東北新幹線の下り線に見える、白く鋭いライト。「つばさ」ではない。
その列車は果たして何なのか。
だんだんとその列車が近づき、その正体を現した。
先頭の黒。美しい白(白い車体)に入ったピンクのライン。ラインの下はシルバー。
この塗装だけでわかる。「こまち」だ。
6両編成の「こまち」の後ろに続くのはこれまた美しい白(白い車体)にピンクのライン。ラインの下はシルバーではなく紺。10両編成の「はやて」が「こまち」の後ろに続く。
携帯を「こまち」に向け、シャッターチャンスを待つ。
横を時速275km/hで「こまち」と「はやて」が通過する。
いいときにシャッターを切ったつもりだった。だが、写真に写っていたのは、惜しくもE3系の車体の側面だけだった。こんな写真には何の用もない。保存せずに消した。
「あっー。くそっー。」
同じホームでもう一人叫んでいる。叫んでいたのは柊木だった。
「うまくいかなかったのか。」
木ノ本が聞いた。
「・・・。」
少し間をおいてから柊木が大きなため息をつく。
(どうしよう・・・。)
自分の頭の中でどうするか考える。
「次の撮るか・・・。」
独り言が聞こえてきた。
(あれを失敗したら終わりだ・・・。)
9時17分。「MAXやまびこ128号」・「つばさ128号」東京行き発車。この列車を見送ってからはこの連結開放を取りに行っていないシナ先生と「こまち」・「はやて」の撮影に失敗してしまった柊木が再度チャンスを狙いに行っただけで、他は待合室で待っているか、まだ「つばさ」の連結開放を見に行っただけだった。
10時20分。ここでの撮影が終了し、再び在来線ホームに足を運ぶ。ここから先は東京までずっと普通である。10時27分。東北本線、上り、普通郡山行きが福島を発車する。この列車も701系通勤電車だった。また、この車両だったため、留萌が文句を言っていた。
普通列車に乗るとすぐに暇になり、全員持ってきたゲームや本にはしった。しかし、それをしない人もいる。木ノ本は持ってきた電車でGO!POKET寝台特急編の全クリを目指していたようだったが、発車時に乱暴な操作をしてしまったため減点をくらいすぐにやめていた。僕は朝風と雑談にはしった。ネタが尽きるわけではないが、安達辺りまで来ると、話すことにも限界が来た。なぜなら、雑談は今始まったものではないからだ。
「なぁ、永島。なんかやらないか。」
留萌が聞いてきた。
「やるっていっても何するんだよ。」
やるといってもやるものがないのに困る。
「あれでいいじゃん。鉄道シバリのしりとり。」
僕の前に座っていた木ノ本がその話に入ってくる。
「面白そうだね・・・。」
シナ先生もその話に入ってきた。
「でしょ。さすがシナ先生、分かるぅ。」
その後は参加者を募った。第1回鉄道シバリしりとり大会はシナ先生、空河、朝風、永島、木ノ本、柊木、隼、大嵐、北石、潮ノ谷の順番で回ることになった。醒ヶ井は鉄道知識がないためすぐにギブアップすると言って参加しなかった。
「じゃあ、もうすぐ二本松に停まるから二本松から始めようか。」
シナ先生が戦い(しりとり)の火蓋をきる。
「「つ」、ですか。「つ」、「つ」・・・津和野です。」
「「の」・・・。「能登」。」
「「と」・・・。じゃあ、「特急はまかぜ」、鳥取行き。「り」。」
「「り」・・・。東海道本線琵琶湖線栗東。「う」。」
「「特急うずしお」。」
「「お」・・・。音鉄。」
「鶴岡。」
「「カニカニはまかぜ」。」
「瀬田。」
まず1順目は普通にクリア。これから先はある意味苛酷になる。ふつうのしりとりと違うため、自分の持っている持ちネタが勝負どころになる。2順目は「た」から。ここもふつうにクリア。本宮まで来る間に何回自分に回ってきただろうか。ネタが尽きたわけではないが一人一人の考える時間が長くなった。ここまで来るとヒントの出しあいと心の読み合いが始まる。
「この車両についてるよな。」
僕が「も」に対するヒントを出した。今は柊木に順番が回っている。
「確かについてますけど、今モーターは使いません。」
柊木はヒントはあくまで最終兵器だと言った。
「くそ。いいネタが浮かばない。モハ。」
次は隼のターンだ。
「「は」か・・・。」
隼が考え込んだ。
「ブレーキシステム。」
留萌がヒントを出す。言いたいことはたぶん「発電ブレーキ」のことだろう。
「盛岡~函館間の特急。」
僕もヒントを出した。ちなみにこの列車の名前は「はつかり」である。
「寝台特急。」
今度は柊木だ。
「乗ってきたよね。」
こんなことも分からないのかという顔で木ノ本が言う。
「あっ。なるほど。「白鳥」。」
ここまで来て思いついたようだ。これを言ったと同時に柊木は「そっち。」と言っていた。彼が言いたかったのは一緒に徹夜した「寝台特急はくつる」か、彼女の名字の「寝台特急はやぶさ」のことだろう。
「黒部峡谷鉄道宇奈月温泉駅。」
大嵐はすぐにその返答を返した。
「「き」ねぇ。」
「き」から始まる特急列車、駅名はたくさんある。僕もポンと浮かんでくるものは言われている。今浮かんでくる駅名は「北陸本線木ノ本駅」である。
「鬼怒川。」
シナ先生が思ったのは鬼怒川だった。
「和寒。」
空河が両手を広げ、その後腕を交差させ、いかにも寒そうな動作をする。なんと空河が言いたかったのは「わっ、サム。」と「和寒」をかけたギャグである。
「確かにあるねぇ。」
どうやらその駅の存在を他に知っていたのは僕だけだったみたいで、他はそんな駅があるだと感心していた。
「「む」・・・。「む」から始まる奴、なんかあったっけ。」
朝風がそう言い考え込むと、
「台風のニュースでよく放映される室戸岬。」
僕はそんな雑知識も織り交ぜてヒントを出す。これで通じればある意味すごい。
「成程。「むろと」。」
どうやら通じてしまったようである。
「また「と」かよ。」
自分でヒントを出しておきながら、文句を言った。
「戸倉。」
文句を言ってすぐ切り返す。
「「ら」か。「特急ライラック」。」
木ノ本はあっという間に自分のターンを終わらせる。
「呉。」
柊木もすぐに自分のターンを終了させる。
「おい、ちょっと待て翼。よりによって一番難しいラ行で来るなんて・・・。」
ラ行で終わったことに隼が文句を言った。
「そうか。ラ行は確かに少ないけど、「れ」だったら答えやすいと思ったんだけど・・・。」
「確かに。」
柊木の言葉に僕は納得した。
「「れ」なら、昔北海道を走っていた「礼文」があります。」
北石がヒントを出した。北石の言う急行は「礼文」のこと。確かに96年の時刻表にはまだその列車が載っている。ただ、これをそのまま言うとゲームオーバーになってしまう。ここは「礼文号」にしろというある意味のメッセージだろう。
「そんなのよりもっと簡単なヒントがあるだろ。例えばレール(これ)がなきゃ電車は走れないんだからさぁ。」
ヒントの難しさに柊木がため息をついた。
「これのJR内での列車番号。」
木ノ本もヒントを出す。
「そう言えば、榛名達って去年「ひかりレールスター」に乗ったんだよなぁ。」
留萌がもう一つヒントを出す。
「君たちは乗れたんだよねぇ。私も行きたかったよ。」
去年の臨地研修に参加していないシナ先生がうらやましそうに言う。
「あっ。そういうことか。」
ここまでヒントがでなければ答えられないのだろうか。それとも隼の持ちネタが少ないのか。
「「ひかりレールスター」。」
「そっちかぁ。俺の思ってた方とは違うなぁ。」
北石が言う。
「いや、ふつう「礼文」は出てこないって。」
柊木がツッコミを入れた。
列車が郡山に到着する。到着したらしりとりは中断するかと思うのは大きな間違いである。停戦するのは乗り換えの途中だけで、乗り換えが完了すればまた始まる。次は潮ノ谷スタートだ。
「中央本線「特急あずさ」。」
この切り返しに柊木が、
「そういや、お前の好きな人の名前「あずさ」だったな。」
昔の話を引っ張り出した。
「黙れ、翼。」
潮ノ谷が荒い口調で言う。
「「さ」ねぇ。日豊本線佐伯。」
「「き」ですか・・・。紀勢本線紀伊有田。」
「武生です。」
朝風が「ふ」で切り返した。
「「ふ」かぁ。」
といって考え込んだ。
「ラベンダーの産地。」
北石がヒントを出した。
「成程。「|フラノラベンダーエクスプレス(あれ)」か「富良野駅」ですね。」
北石のヒントに空河が答える。
「富士にもあるな。」
木ノ本が続ける。
「・・・。」
僕はこのターンで「寝台特急富士」を使う気はなかった。
「VVVFインバーター(これ)もありますね。」
隼が音鉄らしい答えを思いついたらしい。しかし、これも使う気はない。
「さっきまで「つばさ」を見てきましたよね。」
柊木が言う。ここでピンときた。
「よし、こいつだ。」
(「富士」か。「VVVFインバーター」か。それとも「福島」か。)
左手の人差し指を立て、木ノ本に向けた。
「福井。」
「福井かぁ・・・。そう来るとは思わなかったわ。」
「確かにありますねぇ。」
大嵐が感心したように言う。
「でも、ここでパスするわけにはいかないからな。「いでゆ」だ。」
「「ゆ」ですか。「ゆ」ならまだ出てない寝台特急があります。「ゆうづる」。」
柊木が「ゆうづる」で渡すと隼が嘆いた。
「「る」って。「る」から始まるのって無いよう。」
「だめだ。何も浮かばない。パス。」
ヒントも出たがはやぶさにはなにも思いつかなかったらしい。ここで初めてパスが出た。
「えっ。「る」。」
大嵐にまわる。
「僕もパスです。」
二人連続でパスした。
「まぁ、「る」から始まる駅なんて二つしかないから、無理もないかもなぁ。留萌。」
北石が自分の雑学を入り混ぜた。
「名鉄伊奈。」
「「な」かぁ。南海電鉄。」
「東海道線辻堂。」
「身延線内船。」
「難波。」
その後はこんな感じで進んでいった。
考えるのが大変なんですよ。このしりとり。
僕たちも実際やりましたけど、やり始めると続くものなんですよ。パスはあってもゲームオーバーは無し。どうでもいい快挙を成し遂げています。