79列車 解放を見に
5時00分。これが3日目、8月4日の起床時間である。バスにはあと30分揺られる。周りをざっと見渡し起きている顔ぶれをみる。隣の朝風に目をやると、まだ夢の中。右隣りの隼、新発田に目線を向けても、二人とも夢の中。特に隼はしょうがないだろう。次は前に目を向ける。前の座席の頭が時折動いている。前の席は留萌である。ただ、寝ているか起きているのかは分からなかった。しかし、木ノ本が起きているのはすぐに分かった。
「永島。起きた。」
と聞いてきたからだ。
5時30分。仙台駅の駅前近くに到着。全員起きて、バスの外に出る。自分の荷物をバスの荷物室から出して、待機する。
「永島。今日さぁ、一緒に「こまち」の連結開放見に行かない。」
そうしている間に今日の行動について佐久間に聞かれた。
「「こまち」ねぇ。」
と語尾を濁らせてから、
「「こまち」はいいよ。「つばさ」見れるし。」
と返答をした。
「こまち」とは1997年に開業したミニ新幹線と呼ばれる新在直通新幹線秋田新幹線の列車愛称である。東京~盛岡間を東北新幹線の「はやて」と連結をする。この間は時速275km/hで飛ばし、盛岡~秋田間は時速130km/hで終点の秋田を目指す。
「つばさ」は1992年に開業した最初のミニ新幹線山形新幹線の列車愛称である。東京~福島間を「MAXやまびこ」と併結し、福島~山形・新庄間は「つばさ」単独で走る。両者ともども使われている車両はミニ新幹線の顔と言ってもいいE3(イースリー)系である。
この「こまち」と「つばさ」の一番の目玉は「こまち」は盛岡で。「つばさ」は福島での連結開放である。「こまち」と「つばさ」は連結開放をする駅まで来ると1・2分ほどの停車を経て、すぐに出発する。この出発、もしくは到着の時に行われる、作業がとても有名なのだ。これを見たいかということであった。
佐久間は自分が駄目だということを伝えると、ほかにも一緒に行かないかと誘っていた。最終的に佐久間と一緒に盛岡に行きたいと言ったのは諫早と夢前だけだった。
バスを降りてから30分くらいたっただろうか。ようやっと仙台駅に移動である。仙台(正式には岩沼)からは東北本線と常磐線に分かれて、目的地である東京へ行く。この両線の違いは走る場所だけでそれ以外はほとんど違わない。逆を言えばそれしか違わないのだ。ここから常磐線ルートで東京に行くのはOB・OGのサヤ先輩、善知鳥先輩、アヤケン先輩、ナヨロン先輩。そして箕島と中学生の新発田とアド先生。それ以外はと言うと当然東北本線ルートである。
常磐線ルートの人たちとはすぐに別れ、僕たちは腹ごしらえのために駅舎内にある立ち食いそば(うどん)屋に向かった。そば屋の前に行くとまだ営業時間ではなく、シャッターが閉まっていた。
「しょうがない。開くまでここで待つか。」
シナ先生が言う。
そう言えば、さっきから柊木の様子がおかしかった。
「どうした、翼。顔色悪いぞ。」
北石がそんな柊木を心配する。
「ちゃんと酔い止め薬飲んだのになぁ。」
柊木がため息をついた。
「まぁ、酔いやすいから仕方ないよ。」
フォローにはなっていないだろう。
「食べ物入れる前にはいてこいよ。」
平然とそんなことを言えるのは木ノ本である。すると、もう我慢できなくなったのか、
「あの、ちょっと・・・トイレ行ってきます。」
と言って、トイレのある方向に走って行った。
そんな後姿を見送りながら、
「柊木ってバスの結構前に乗ってたよな。」
後ろで醒ヶ井の声がする。
「翼先輩どうしたんですか。」
大嵐が聞いてくる。事情を知らないから当然だろう。
「ナマで見ると、またすごいなぁ・・・。」
木ノ本の声がした。
戻ってくると、少しすっきりした顔をしていた。まぁ、ずっと気持悪そうな顔でいられるよりはましである。
6時30分をまわる。朝御飯を食べるそば屋が開店し、自分たちが一番乗りでそば屋に入った。自分たちが食券を買っている間に会社に出勤する会社員の姿も見られた。朝早い会社員にとってはこういう店はとても心強いだろう。そう言えば、木ノ本もこういう店は重宝しているらしい。まぁ、彼女の方は車両撮影の時に生じる御飯という障害をなくすためでしかないようではある。
そば(うどん)を食べ終わっても佐久間は盛岡に一緒に行く人を探していた。
「永島、本当に行かない。頼むよ。」
盛岡に行く手の内はだいたい読めている。
「いかねぇよ。「つばさ」だけで我慢できるって。」
と言って盛岡行きを断った。そして、佐久間達とは6時54分付で別れた。
6時55分。普通郡山行きに乗るため東北本線のホームに降り立つ。7時02分発、普通郡山行きはまだ来ていない。このホームの左隣のホームに停まっているはJR東日本の非電化のローカル線ではたらいている「キハ110」が止まっていた。このホーム右隣りには仙台空港に乗り入れている私鉄の車両が止まっていた。留萌が言うには「SAT7000系」だそうだ。
少し経つと、自分たちが待っていた電車がやってきた。顔はどこかで見たことがある顔ではある。どこで見たものと似ているかというと青森で見た車両である。「寝台特急あけぼの」の傍らに停車していたピンクのラインの車両である。
「青森で見たやつと似てますね。」
隼がつぶやく。車両知識は何もないのだろうか。
「似てるも何も、この車両ってそれを同じだって。」
留萌が隼のつぶやきに答える。
「701系ってJR東日本が持ってるローカル線の車両。青森の方を走っているのは秋田が拠点で、東北本線を走っているのは仙台が拠点。それぞれ塗装が違って、使い分けられてるの。他にも「青い森鉄道」や「IGRいわて銀河鉄道」にも同じ車両があるよ。」
ここまでいくともはやマニアしか分からないだろう。さすがだ。
「でも・・・私は701系より719系の方がよかったなぁ。」
すぐ自分の好みにはしった。
7時02分。仙台発車。ここから途中の福島まで揺られる。2両編成の701系が3連呼。6両編成で途中の福島まで、そこから先は後ろ2両を切り離して4両で終点の郡山を目指す。(ちょっと外れているから、そんなに客も乗っていないだろう。)そんな考えでいたがそれは大きな間違いだった。6両編成という少なさから逆に立っている客がいた。さすがにそこは仙台という都市の大きさを示していた。
長町、太子党、南仙台。ゆっくりとコマを進めていく。まぁそこは普通という列車としての本質だろう。南仙台の次、名取からは仙台空港へ向かう「仙台空港鉄道」と分かれ、東北本線に進路をとる。東北本線に入って館腰、岩沼、槻木、船岡と停まっていく。
発車から1時間ほど時間がたつ。今いるところは越河~貝田の間。「間もなく、貝田―、貝田です。」という放送が入る。そう言えば越河を発車した直後のアナウンスでこの「貝田」という駅名が流れた時、朝風が昨日「スーパー白鳥」が停車した「蟹田」を連想していた。
そこからまた26分が経つ。3日目いちばん最初の目的地福島に到着した。福島で後ろ2両。僕たちがここまで乗ってきた車両が切り離される。その開放を見た後にホームから上がり新幹線の乗り換え口に行く。ハクタカ先輩たちは「つばさ」の連結開放は見ないと言って先に東北本線を南下していると言い別れた。この時間から一番早く見ることができる「つばさ」は8時52分着の新庄行き「つばさ123号」だ。
「できれば、E3系の1000番台がいいなぁ。」
ふと自分の欲求があらわになる。
それを思いながら、待合室に荷物を置く。全員で新幹線ホームに上がることはできないので誰かが荷物を見ることになった。その役はシナ先生がしてくれることになったので、僕たちは勇んで新幹線ホームに急いだ。長いエスカレーターを1段飛ばしで上がっていく。新幹線ホーム13・14番線に着いたのは「つばさ123号」・「MAXやまびこ123号」が到着する3分前だった。
8時51分。東京よりの線路上に鋭く光る白いライトが現れた。「つばさ123号」新庄行きと「MAXやまびこ123号」仙台行きだ。列車は「つばさ」を先頭にして入ってくる。白いライトは「つばさ(E3系)」のものだ。
8時52分。福島の14番線に入線。「つばさ123号」の福島停車時間は2分。この間に「つばさ」と「やまびこ」は電気的にも解放される。そして「つばさ」は在来線奥羽本線に乗り入れるための準備もこの間に行い8時54分「MAXやまびこ123号」を14番線に残して発車する。
定時着。福島に「つばさ」が到着する。列車が止まりきるのを見計らいE3系とE4系の連結部分を携帯に収める。収めるとすぐにE3系の前に急ぐ。車体長は1両20.5m。それが7両つらなり編成長は150m程。150mを全力疾走し、E3系「つばさ」の前に躍り出る。この「つばさ」に充当されていたE3系は1000番台。E3系の中で僕が一番好きな顔である。ヘッドライトは上につりあがりカッコいい。このカッコいい顔も携帯に収め、すぐに連結部に戻る。戻ると時間は8時54分。「つばさ123号」の発車時刻になっていた。最後にもう一度E3系を写真に撮る。そして・・・。
「つばさ123号」。福島発車。発車と同時にこれまでタッグを組んでいたE4系「MAX」と切り離される。E3系は14番線から走り去ると同時に連結器を車内に収納し、東京から開けていた大口を閉じながら走る。この瞬間もカメラに収めた。チャンスは一度しかない。閉まり始める時にシャッターを切る。すると閉まりかけている「つばさ」の口をとらえることができた。
今度は14番線に置いてかれた「MAXやまびこ」に照準が合わさる。このE4系はJR東日本の新幹線としては二代目の全車二階建ての新幹線(MAX)である。座席数は8両で817人。16両で運転されるときには1634人の人を運ぶことができる、日本で一番座席の多い新幹線だ。E4系は両方の先頭に連結器が収納されており、東北新幹線や上越新幹線の需要に柔軟に対応できるようになっている。
それから「MAX」を見送ってから、僕達は一時、下に待たせているシナ先生のところに戻った。
この頃「つばさ」に使われているE3(イースリー)系には240km/hしか出ないということを知りました。
「こまち」が結構飛ばしてたから「つばさ」もやってるって信じてたのに・・・。
どうでもいいですね。はい・・・。
そして、今となってはこの後書きも古くなりましたね。