78列車 青森で見た
今度は2・3番線に来る「特急つがる」を撮影する。「つがる」はほぼ名前しか知らなかったが、時刻表で調べれば、八戸~弘前の間を結んでいる特急列車ということはすぐに分かった。
19時12分。「特急つがる23号」弘前行きが先に青森に進入してきた。この「つがる」に充当されている車両はE751系という車両だ。姿かたちはE653系「フレッシュひたち」に似ている。留萌が言うには、この車両は本州に投入された車両としては珍しい交流専用の特急車両。自分の知っている交流専用の特急列車も多くはJR九州と、JR北海道だけである。「スーパー白鳥」の789系もJR北海道の所属である。
19時14分。隣の3番線に「特急つがる98号」八戸行きが到着する。「98号」に使われていたのは「特急白鳥」と同じ485系3000番台。どうやら「つがる」にはE751系と485系が使われているようである。
「つがる98号」が完全に止まろうとしている時、後ろの方から叫び声がした。叫んでいたのは諫早だった。どうして叫んだのかと気になって諫早の持っている携帯電話をのぞきこもうとする前に、
「永島さん、これ見てください。」
と言って、今撮ったであろう動画を見せてくれた。ふつうに485系が入ってくるところが写っていたが、カメラが485系を追っていくと、真っ白な光の塊が姿を現した。
「ああ・・・俺もうハイビーム嫌いだわ。」
文句を言っている。いくらなんでもこれはひどい。そんな声を全く気にせずに撮影に没頭しているのは木ノ本である。その木ノ本も「つがる23号」を見送ると、諫早にその理由を聞いてきた。内心は気になっていたようだが、集中している時は絶対に他に力を向けないというのは、撮り鉄として極度の域に達しているのかもしれない。
19時27分。「特急つがる98号」が12分の停車を経て、終点八戸を目指す時間がやってきた。
「永島さん。みんなで手を振って見送りませんか。」
夢前から提案され、すぐに賛成した。
2番線の突端に8人がたつ。485系の白いライトが鋭く目に刺さる。3番線の出発信号機が青を示す。自分の腕時計が19時27分を指す。そして、ゆっくりと「485系(特急つがる)」が動き始めた。「つがる」を見送る8人が一斉に手を振った。
自分達の斜め前に来た。思わず目線が上の方にある運転台に行く。横まで来たところで、運転士が左手を僕らの方にかざした。
「メチャクチャカッコいいぃぃぃぃぃ。」
隼がその姿を見送るなり言う。
「私もいつかああいう風になるんだ・・・。」
留萌の声が独り言のように漏れる。
「私は寝台特急であれをやってみたい・・・。」
木ノ本も思っていることは同じようだ。
「ああ、メチャクチャカッコよかった。俺もいつかああなる・・・。」
嬉しいというか、憧れの気持ちでいっぱいである。柊木も、諫早も、一様にカッコいいと言っていた。
「なぁ、永島。どうしたんだ。」
一緒に見ていた醒ヶ井が不思議そうに聞く。
「えーっ。醒ヶ井先輩、分かんないんですか。」
隼にそう言われている。
「まったく。これだから素人は駄目ね。」
留萌と木ノ本にはあきれられていた。僕の方はと言うと、この理解のなさにあきれていた。
ようやっと、青森駅の外に出る。今から銭湯に行って、疲れをいやして、嫌な夜行バスに乗る。銭湯に着くとようやっと座れると思うかのように湯船につかった。
「はぁ。」
北石がオヤジのような声を上げる。
「北石って何かと、オヤジ臭い所あるよな。」
「うるさいなぁ、黙れよ。それにお前はいるところ間違えてるんじゃないのか。」
「黙れ、北石。俺はただ髪を伸ばしているだけであって、男子だぞ。」
「あっ、そうか。お前、本当に声聞かなかったら女だよな。お前の私服姿見た1日目さぁ、お前のこと本当に女子だって勘違いした。」
「だよな。やっぱり北石もそう思うか。」
「えっ。翼もそう思ったのか。」
意外そうに北石が聞く。
「おいおい。幼稚園の時から一緒なのに・・・ひどいなぁ。」
「いや、本当。迷惑なくらい女子に見えるんだって。」
こんな話が聞きたくなくても聞こえてきた。今のところ潮ノ谷を女子と勘違いしたことはない。となると、そう思わない自分がおかしいのかと思えてきた。
一方木ノ本達の方はというと、
「榛名先輩、さくら先輩。ここ着てください。水風呂ありますよ。」
隼が二人を水風呂に誘っている。だが、木ノ本も留萌も動こうとはしなかった。
「なんで水風呂に入れるんだろうな。」
留萌が不思議そうにつぶやいた。
「さあな。ただ、一つ言えるのは・・・結香っていろんな意味でイっている人種なのかもな。」
「イってる人種か・・・。確かにそうかも。私のPFPに入ってるVVVFインバーター、ほとんど当てられたからな。」
「ねぇ、さくら。逆に結香の知らないジャンルって何か知りたくない。音鉄って結構いろんなジャンルを網羅しないといけないから。」
「確かに知りたいけどさぁ。どう調べる。」
「ディーゼルの知識はないと思うから、SLもなし。他からどう切り崩すかな。」
そんなことを考えながら、風呂から上がった。
銭湯から出た後は、遅い夕食である。青森駅近くの牛丼屋で夕食をとり、夜行バスの乗り場に行くことにした。夕食を食べ終わる時間にはねぶた祭りを見ることができる時間はすでになく、乗り場まで直行することになった。佐久間はというとねぶた祭りを見ることができなかったとずっと文句を言っていた。
夜行バスの乗り場までいくのに時間がないため130円払って青森駅構内と突っ走るか、青森駅の後ろにそびえる青森ベイブリッジを通るかの二つの選択肢があった。全員一致でベイブリッジを通って行くことになったが、予想以上に時間がかかり、銭湯に行った意味はなくなってしまった。
なんとか夜行バスの発車時刻に間に合い夜行バスの中で一息入れる。僕はすぐに耳栓をした。去年の夜行バスの中では一睡もできなかったからだ。その対策である。柊木は酔い止め薬を飲んだみたいだが、酔い止め薬が聞かないと言っていた柊木のことである。あすの朝どうなるかなんてわからなかった。
22時00分から数分経った。発車時刻はちゃんと守れていない。自分がバスを信用しない第一の理由がここにある。また、少し経つと夜行バスのエンジンが始動し、青森を後にした。目的地の仙台に到着するのは明日の朝5時30分である。
途中岩手山SAに停まったときに目が覚めた。夜行バスの中でも隣になった朝風も目が覚めたようだった。トイレに行ってすぐに寝入る。だが、一度起きてしまうとすぐに眠れない。そのため、朝風も巻き込み川柳を作った。ちなみにぼくが作ったのは、
深夜帯 ふと目が覚めて 今どこか
しっかり五・七・五である。その後岩手山SAを出発。しばらく起きていたと思ったが、そこの記憶が飛んだ。
後書きに困ってきた今日この頃。