77列車 轟音VS忍耐
もう一作のほうの宣伝をし忘れていました。
タイトル彼幽探偵でもう一作作りました。
16時32分。「特急白鳥32号」発車。「白鳥」にも車内放送はあるが、「スーパー白鳥」と違い何時に青函トンネルに入り、何時に最深部を通過するかの案内は簡単である。JRの力の比重がどちらに傾いているのかがうかがえる。
信号所で下りの「白鳥」と入れ替えを行い、木古内に到着。
木古内にはこれまで見たこともないような面白い光景が待っていた。
「なんだ、あれ。」
諫早がそれを見てふいた。
他の人も気づきその光景に目をやる。そこに書かれていたのは「スーパー白鳥」のはずだ。だが、「フーパー鳥」と書かれている。乗車位置を表す札がはげてこうなったのだ。こんな面白い光景はカメラに収める気になれない。だが、面白がって収める人もいた。例えば、醒ヶ井とか、醒ヶ井とか、醒ヶ井とか・・・。
そして、木古内を発車した後、佐久間がこういう提案をした。
「最深部のさぁ、ライトをみんなで撮ろうぜ。」
全員賛成した。シナ先生やハクタカ先輩たちは残って荷物を見ていてくれることになった。
ただ一つだけ、問題があった。
今通っているトンネルが何か分からないのだ。「白鳥」は「スーパー白鳥」と違い今何というトンネルを通っているのかという案内がない。その代わりに「間もなく青函トンネルです。」という表示しか出ない。
今何というトンネルなのか分からないまま、木古内を発車してから4本目のトンネルに入った。このトンネルが青函トンネルなのだが、「白鳥」に乗っている僕達にはそれが分からなかった。
諫早が窓に顔を押し付け自分の手で車内灯の光をさえぎり、暗闇に目を凝らす。
「たぶん、これが青函トンネルじゃないんですか。」
諫早がそう言った。
「ウソ、もう青函トンネルに入ってんの。」
佐久間が信じられないという声を出す。
「たぶん、そうだよ。これまで通ってきたトンネルと違って、走行音と一緒になって、すごく高い音が混じってる。」
さすが、隼。この音感に頼る限り、このトンネルが青函トンネルだろう、ということだった。
「もう、全員でデッキに行ってスタンバってよ。」
木ノ本がそう言うと、全員カメラを持ってデッキに繰り出した。
鼓膜がやられるほどの轟音が襲ってくる。
トンネル内壁に跳ね返るモーター音と架線を高速でする音。それらすべてが共鳴し、車体の薄い鋼鉄をくぐりぬけて車内に響き渡る。
ドアに携帯を連写モードにした状態で押しつけた。態勢を少し低くし、その時が来るのを待つ。
トンネルの中が一時的に明るくなった。吉岡海底の蛍光灯だ。
(間違いない、これは青函トンネルだ。)
心の中でその裏付けをする。
他の人はどこへ行ったのだろうか。ふとそんなことを思い、自分のいる車内を見回してみる。この車内には自分一人しかいない。
(ほかでチャンスをうかがってるな。)
と思い、もう他人のことは気にしなくなった。自分の目の前を通り過ぎる緑と青(最深部の)の蛍光灯に全力を挙げた。
吉岡海底を通過して5分。もうそろそろ青函トンネル最深部だ。車内は一段とうるさくなった。モーター音が壁に跳ね返り、クォーンという音を立てている。この音は車輪とレールが擦れている音なのだろうか。今になってはそんなこと関係ない。
(来た。)
心の中で大声をあげた。
壁にある緑のライト。チャンスは一回。連写のシャッターを切った。
1枚、2枚、3枚、4枚。4枚の写真がとられた。
果たして、グリーンライト入っているのか。それだけを考え表示される写真に目をやった。
「やったー。」
心が高ぶっているのが自分でも分かった。
2枚目。2枚目にグリーンライトが入っていた。シャッターの着られる時間が長かったからだ。グリーンライトはライトセイバーのように伸びていた。
最深部を通り過ぎ、自分の席に戻ってくる。佐久間達は列車の進行方向後ろから戻ってきた。
「お前どう、撮れた。」
佐久間の声がこの近くで話してるとは思えないほど小さく聞こえた。どうだったかと聞かれたので、さっき撮った2枚目の写真を見せた。
「これいいじゃん。送って。」
「分かった。」
メールを作成し送信する。
「俺のも送信するよ。」
「おーい。」
佐久間の写真は縦に撮ってあった。グリーンライトは画面左にチョコット写っているだけだった。
「永島撮れたんだ。私は撮れなかったけどなぁ。」
留萌が悔しそうに言う。
「永島どういう感じになった。」
木ノ本にもさっきの写真を見せる。
「うまく撮れてるじゃん。」
「あんがと。」
と言うとため息をついて、
「ダメだ・・・。ほんのちょっと前まですごくうるさい中にいたから。永島の声でも小さく聞こえるわ。」
と言った。デッキの中がものすごくうるさかったという証拠である。
青函トンネルを抜け、津軽海峡線の通って、「スーパー白鳥1号」の車内から見た青森の車両基地が見えてきた。18時40分。青森に到着。「特急白鳥32号」はこの先八戸までいき新幹線「はやて」に連絡する。
ここまで走ってきてくれた485系3000番台の黄色をベースにした顔を収め、18時46分「特急白鳥32号」を見送る。この後はすぐに銭湯に行くのではなく、「寝台特急日本海」と本州が守備範囲の「特急つがる」を見送って銭湯に行く。ハクタカ先輩たちは夕飯を食べるということで、ここで別れた。
「特急白鳥」を見送って9分後。18時55分。「寝台特急日本海」大阪行きが入線。ここを発着する他の寝台特急と同様DE10型ディーゼル機関車が先頭にたってホームに進入してきた。客車は「カニ24形」を先頭に最後尾が「オハネフ24形」、続く電気機関車がEF81-45号機だった。この「日本海」はその名の通り日本海側を通って大阪と青森の間を結んでいる。牽引する電気機関車はEF81一本で、大阪からロングランをする。編成は24系寝台客車。ほぼ登場当時のままで、飾らない編成である。19時33分。「寝台特急日本海」発車。やはり、ここでもEF81の長声はなかった。
青函トンネル内の音がどれだけうるさいか。それは耳が正常な人でないと分かりません。
普段音漏れするほどの大きさとか耳にイヤホンを近づけるだけで音が聞こえるぐらいの音で音楽を聴いている人にはうるさくないと思います。
おととい累計アクセス数3000突破。