76列車 「スーパー白鳥」で渡る
11時13分。「スーパー白鳥1号」が青森駅に到着する。「スーパー白鳥」を待っている人は多い。それはホームをざっと見てすぐに分かった。黄緑色の扉部分と客室窓の間には本州と北海道のイラストが入っており、目標は津軽海峡をロックしていた。
ドアが開き、どっと客がホームにあふれる。降りる乗客が途切れるのを待って車内に入る。車内はほぼ満席だった。赤いシートに混じって青いシートもあったがそのほとんどが埋まっている。客室に入ってすぐの席に腰をかけるようシナ先生に言われ腰をかける。僕の隣に来たのは木ノ本で、後ろの列に座ったのは柊木と隼。あとは開いている席に押し込む状態だった。
11時19分。「スーパー白鳥1号」函館行き発車。数分経ってから車内放送が始まり、ご丁寧にも青函トンネルの突入時刻と、青函トンネル最深部の通過予定時刻が告げられた。その車内放送の間に昨日「カシオペア」を牽引して行った「アオカマ」EF510-513号機、「北斗星」を牽引した「アオカマ」EF510-504号機の姿もある。ついでと言っては何だが、ラッセル車の姿もあった。それを横目に789系は津軽海峡線へと舵を切る。
津軽海峡線はほぼ単線である。周りは畑しかなく、目立った人家はどこにもない。見晴らしがとてもいい。時折駅を通過し、「間もなく蟹田に停まる」と車内放送がある。
蟹田停車。蟹田から先はJR北海道の管轄になる。(境界駅は中小国だが、「スーパー白鳥」・「白鳥」は停車しないため。)そのためここで乗務員の交代もある。蟹田を過ぎれば青函トンネルに突入し、世界一の海底トンネルをくぐって北海道渡島の大地に躍り出る。そして30秒ほどの停車を経て発車した。
蟹田を出て一番最初のトンネルに入る。
「青函トンネル・・・。」
留萌がつぶやく。
「まだ、青函トンネルじゃない。」
僕が誤解を解く。「北斗星3号」に乗った時は多い数のトンネルに何回フェイントをかけられただろうか。
2本目のトンネルに突入する。まだ違う。3本目、4本目・・・。青函トンネルは蟹田から8本のトンネルを抜いてから控えている全長53.85kmのトンネルだ。
だんだんその本命が近づいてくる。車内の電光掲示板が今通っているトンネルを示している。
トンネルに入るとその電光掲示板が変わった。
そしてついに来る。「次は青函トンネルです」の表示。
定刻通りに青函トンネルに突入。
密閉されている車内にトンネルの轟音が容赦なく襲った。
「はくつる」での約束を思い出し、すぐ後ろの席にいる柊木に声をかける。
「おい、青函トンネル入った・・・。」
「んっ。どうした。」
木ノ本が声をあげたので、口に前に人差し指を立てた。木ノ本も気になったのか後ろを覗き込んだ。
柊木も隼も寝てしまっていた。
「「はくつる」の中で徹夜してたみたいだからな。」
木ノ本が理由(その訳)を言った。
「トンネルが多いからその暗さでやられたのかな。」
「たぶんね。」
といってから、ポケットから携帯を取り出した。
真っ暗闇の青函トンネル。車窓の暗闇が少し黄色に光り、だんだんとその光が近づいてくる。目の前をEH500が通り過ぎ、その後ろに続くコンテナ貨車が確認できた。
もうすぐ、青函トンネル最深部を通過する時刻になった。最深部には緑と青のライトが壁に取り付けてある。前で見ればものすごい迫力に口が開かなくなるのだろう。長い暗闇にそのライトが通り過ぎ、寝ぼけた頭で最深部を通過したことを確認する。最深部を5分程度で駆け抜け、今度は26kmの1kmごとに12m上る急勾配を駆け上がる。途中に吉岡海底駅がある。その時だけ暗闇がまた明るくなり、白で照らされる。
また10分程度たち、周りが一気に明るくなった。青函トンネルを抜けたのだ。
トンネルを3本抜けて、木古内に滑り込む。
信号所で上りの「特急白鳥」と入れ替えを行い、一路函館を目指す。
「間もなく、終点。函館、函館です。・・・」
終点を告げる車内放送が入る。青函トンネルの時から寝入っている柊木と隼を眠りから覚まさせた。
「もうすぐ着くぞ。」
と柊木に言うと、柊木と隼の頭がぶつかりあい、二人が目を覚ました。
「えっ・・・。青函トンネルですか・・・。」
といった。まだ、寝ぼけているようだ。
函館のホームに降り立つ。当然だが、柊木も隼も機嫌が悪い。
「なんで、起こしてくれなかったんですか。」
「えっ。起こしてほしかった。」
「当然ですよ。気持ちよく寝てても起こしてください。そういう時こそたたき起こしてくれればよかったのに・・・。」
隼の方も機嫌の悪さを木ノ本にぶつけている。
「ナガシィ先輩ったら・・・。」
「でも、可愛い寝顔だったよ。」
と木ノ本が言うと、隼それはどういうことという顔をした。だが、次第に顔が赤くなった。
「ま・・・まさか、・・・。」
「翼とのツーショットとか・・・撮っていませんよね。」
声を小さくした。木ノ本が笑いだした。フォトを再生し、隼に見せた。二人の寝顔が写っている。頭は寄り添った状態になっていた。
「もう、そんな写真消してください。」
声を張り上げた。
「どうしようかな。」
柊木は隼が声をあげた理由を知りたいようで、
「どうかしたのか。」
と声をかけた。
「つ・・・翼は見ないで・・・。」
慌てて、木ノ本の携帯を折りたたむ。
「どうしたの、結香。顔真っ赤だよ。」
留萌にそのことを衝かれる。
「もう・・・。榛名先輩のせいですよ・・・。」
隼は目を細めた。
函館の改札を出る。函館の改札でも、乗車記念のスタンプを押してもらい、自分の懐に入れる。
「ここまで来たんだし、ラーメン食いに行こうぜ。」
佐久間がそう言い、全員でそのラーメン屋に行く。ラーメン屋は行列ができており、少しの間待った。海峡通りを行く、函館市交通局の市電が何両も通り過ぎていくのが見えていた。
お昼を食べ終わると、14時をすでに過ぎていた。予定より大幅に遅れている。青函連絡船「摩周丸」をのぞいてから帰ろうと思っていたが、それをするにはちょっと時間がない。
「次どこ回るってなってる。」
シナ先生にそう聞かれたとき、
「「摩周丸」を見に行くってなってますけど。」
「じゃあ、行ってみようか。」
といって、一行は青函連絡船記念館「摩周丸」によることにした。よるといってもその外をざっと見るだけである。
青函連絡船。青函トンネルが開通する前1988年まで青森と函館の間を往来していた連絡船である。青森と函館を4時間かけて結んでおり、本州側と北海道側はその連絡船の運航に則したダイヤで運行をされていた。だが、青函トンネルの開通で状況が変わる。それまで4時間かかっていた間が、2時間程度に縮まったのである。用がなくなった連絡船は、その役目を終え、廃止された。現在函館に「摩周丸」、青森に「八甲田丸」が保存されている。
摩周丸の停泊している岸壁の後ろに回り、鉄道が出入りした扉を見てみる。
「どうやって電車を乗せたんだろうな。」
北石がぼそっというのが聞こえた。
その後は、函館ドックに停泊している自衛隊のイージス艦の写真を撮って函館駅に引き返した。駅に引き返すとみんなお土産を買いにはしった。木ノ本と、留萌はお土産のことは頭にないらしく、駅の電光掲示板に目を凝らしていた。お土産ほとんどの人は白い恋人、もしくは函館ラーメン、佐久間は地域限定のお菓子を買っていた。
お土産を買い終わるとホームに上がり、「特急スーパー北斗」を写真に収めるため、7番線に急いだ。7番線にいたのは15時37分函館着の「特急スーパー北斗12号」だった。789系に似たデザインで、全面は黄緑ではなく青。また、この車両は電気ではなくディーゼルである。また全面横に書かれているFURIKO281のエンブレムがひかっていた。
「特急白鳥32号」の発車まではまだ40分くらいある。この時5・6番線の付け根から歩いてくる3人の顔ぶれが目に入った。ハクタカ先輩と楠先輩、新発田達だ。ハクタカ先輩達が函館のどこをまわってきたかは分からない。朝の時に触れていなかったが、サヤ先輩、善知鳥先輩、アヤケン先輩に、ナヨロン先輩、箕島と空河以外は全員函館に来ている。
16時18分。6番線に「特急白鳥32号」が入ってくるとアナウンスがあった。ホームの向こうに目線をやると鮮やかな黄色に白いハイビームのライトがひかる車両がゆっくりとこちらにやってきているのが見えた。みんなとっさにカメラ、携帯を起動し、写真に収めようとスタンバイする。キハ281系(スーパー北斗)の隣に485系3000番台が入線、停車した。
ドアが開き、自由席を素早く確保する。今度は朝風が僕の隣だ。発車まではあと12分。この12分の間は短くて長い。暇なため電光掲示板に目をやり流れる言葉を読む。
「この列車は特急、白鳥、32号、八戸行きです。途中停車駅は木古内、青森、浅虫温泉、野辺地、三沢です。」
日本語が終わると次は英語だ。
「・・・stop at Kikonai Aomori Asamusionsen Noheji and Misawa.」
途中から朝風と一緒になって読んでいたが、「and Misawa.」の読み方が不思議とうけた。
ラッセル車は除雪車の一種ですが、このラッセルといういわれはラッセル社が作った車両という意味があるんですよ。もはやギャグですね。