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MAIN TRAFFIC1  作者: 浜北の「ひかり」
Kishikawa High School Episode:2
74/184

74列車 「カシオペア」 「北斗星」 「なごみ」

 15時20分。「寝台特急(しんだいとっきゅう)カシオペア」の出発まであと1時間になろうとしていた。上野(うえの)の13番線にカシオペアがやってくるのはたぶん30分前ぐらいだということで上野(うえの)の集合は15時50分となっていた。

「そろそろ、行こうか。でないと集合時間に遅れちゃう。」

と言って、柊木(ひいらぎ)達を鉄道博物館から引きずりだして、上野(うえの)に向かった。

 15時35分。上野(うえの)駅13番線に「寝台特急(しんだいとっきゅう)カシオペア」が入線してくる。

「アオカマかぁ。」

「カシオペア」の牽引する機関車を見て、留萌(るもい)が言う。

「アオカマ。」

木ノ本(きのもと)は「アオカマ」という呼び方が少し気になった。

「えっ。榛名(はるな)知らないんだ。撮り鉄だから知ってると思ったのになぁ。」

留萌(るもい)が意外そうに答えた。

「「アオカマ」って、この「北斗星色(ほくとせいしょく)」の呼び方だよ。他にEF81のカシオペア色なら「カシカマ」っていう呼び方があるんだけど・・・。」

留萌(るもい)の説明を聞いていた木ノ本(きのもと)留萌(るもい)の右肩に手をあてた。

「ごめん。私「ホシカマ」しか分かんない。」

「なんでそれだけ。」

留萌(るもい)のツッコミが飛んだ。

 高崎線(たかさきせん)の電車に乗り上野(うえの)駅まで戻ってくる。尾久(おく)を発車した直後にドアの前にスタンバイした。早く「カシオペア」が見たいのである。もちろん、推進運転(すいしんうんてん)で「カシオペア」が13番線に入線してくるところからだ。上野(うえの)着15時43分。ピンポーン、ピンポーン、ピンポーンという音がするとドアが開く。開くと同時に4人全員で走り出した。5・6番線にあふれ出た人の間をかいくぐり、ただひたすら13番線に向けて走っていく。

階段を登りきると、右にカーブを切り、上の案内板を頼りに足をひたすら動かす。大連絡橋通路(だいれんらくきょうつうろ)を13番線のある方向へ・・・。つきあたりが近くなり左にカーブを切る。左カーブの後すぐの右カーブ。階段とエスカレーターを駆け下り、ついに13番線のある上野(うえの)駅の地上ホームに到達(とうたつ)した。

自分たちの降りたところが今どこなのかはすぐには分からなかった。だが、一つだけ分かったことがあった。今自分たちがいるのは13番線とは正反対の位置だということだ。なぜこのことが分かったのかと言うと、エスカレーターを()()り、ふと顔を上げた時に入ってきたからだ。地上ホームの一番むこうに横たわる輝かんばかりのシルバーの車体。「寝台特急(しんだいとっきゅう)カシオペア」だ。

「もう来てるし・・・。」

柊木(ひいらぎ)(はやぶさ)がエスカレーターを()()ると同時に声を上げ、13番線に向けて全力疾走(ぜんりょくしっそう)する。僕も後輩に先を行かれたのではしょうがない。大嵐(おおぞれ)が上から走ってくるのを確認して、僕も柊木(ひいらぎ)達の後を追った。

 13番線の付け根にやってくる。「寝台特急(しんだいとっきゅう)カシオペア」の1号車「スロネフE26」のカシオペアスイートの顔が目に飛び込んでくる。とっさに携帯電話(けいたいでんわ)とデジカメを取り出し、シャッターを切る。今の僕にとっては後ろなんて関係ない。一枚を収めたきりでまた走り出す。少し走って足を止め側面の行き先表示にカメラに収め、また走る。5号車、6号車、7号車、8号車、9号車・・・。10号車の位置まで来ると前にいる柊木(ひいらぎ)達が見えた。しかし、僕が今一番知りたいのは柊木(ひいらぎ)達がいることを確認することではない。E26系「寝台特急(しんだいとっきゅう)カシオペア」を引っ張るEF510の色だ。

 11号車。ついに、見えた。

 シルバーの車体。12号車「カハフE26」の前にいるのは青。|青い電気機関車(EF510北斗星色)が「カハフE26」の前にいる。

 (うれ)しさが体中に広がった。

 たくさんの鉄道ファンがいるのを横目に、EF510の横に駆けよった。

「EF510-513号機・・・。」

心の中でつぶやいたつもりだったが、声になって()れた。

 513号機の前にまわってその顔を見る。真ん中にあるヘッドマーク。オレンジ色の帯が三日月(みかづき)を半分に切ったような形をしている。ヘッドマークの中心から外れた位置にある(かがや)(ほし)。そしてヘッドマークのふちにあるCASSIOPEIA(カシオペア)の文字。思わず目を細めてしまうほど明るいヘッドライト。そして、何よりもその風格に満ち満ちている機関車。何をとっても(まぶ)しかった。

「よかったな。自分が嬉しいって思った方で。」

後ろから声がした。木ノ本(きのもと)だ。首から一眼レフを提げ、シャッターをいつでも切れるように指を置いている。

「ああ、マジ嬉しい。死にそうなくらいに・・・。」

 それを聞いた木ノ本(きのもと)の脳裏に坂口(さかぐち)のことが浮かんだ。

(もえ)に「カシオペア」撮ってきてって言われてるんだろうなぁ・・・。)

 後になって佐久間(さくま)や、醒ヶ井(さめがい)、ハクタカ先輩、ナヨロン先輩達やシナ先生も集まってきた。その時になって僕はもう一人旅人が加わっていることに気付いた。サヤ先輩だ(いつから加わっていたのかは知らないが)。

 発車間際まで僕たちは「カシオペア」の写真を撮り続けた。電気機関車だけでも10枚は撮った。ヘッドマークのアップとかも含めれば15枚くらいになるだろうか。

16時19分。「寝台特急(しんだいとっきゅう)カシオペア」発車1分前。13番線出発信号機(しゅっぱつしんごうき)が青になり寝台特急カシオペア発車が()げられる。上野(うえの)駅の駅員がファンに対し黄色い線の内側に下がるように(うなが)す。

16時20分。「寝台特急(しんだいとっきゅう)カシオペア」発車。

13番線の突端(とったん)にEF510-513号機の長声(きてき)がこだまする。耳をふさぎたくなるほどうるさかったが、耳を塞いだら負けだと思った。長声(きてき)がこだまし終わる頃にはEF510-513号機の引く「カシオペア」はゆっくりと僕達の方へ近づいてきて、自分たちの横をゴゴゴゴゴという音とそれに混じる高い音を響かせ通過していった。その後ろに続くE26系はカンカン、コンコンと軽快(けいかい)にジョイント音を立てて上野(うえの)を後にする。

「スロネフE26」が横を通り過ぎ、鉄道ファン全員の顔が一斉に通り過ぎていった方向に向く。そしてその姿が見えなくなるまで見送った。

次の標的(ターゲット)は19時03分発「寝台特急(しんだいとっきゅう)北斗星(ほくとせい)」、札幌(さっぽろ)行きだ。その前にキオスクに行き、ここから22時まで動くためのエネルギーを充電(じゅうでん)するつもりだったのだが、佐久間(さくま)大宮(おおみや)にあるスーパーに買い出しに行こうと提案してきた。結果大宮(おおみや)まで行くことになったのだが・・・。

 大宮(おおみや)には「カシオペア」がいってから40分くらいたった時間に到着した。それから近くのスーパーまで足を運び、夜と明日の朝の食料を調達する。だが、佐久間(さくま)が打ち上げをやろうみたいなことを言いだして、さぁ大変だ。

「おい、永島(ながしま)。「北斗星(ほくとせい)」まであと何分ある。」

木ノ本(きのもと)が僕に聞いた。

「えーと、あと・・・。」

時計を見るといいたくないような時間しか残っていない。

「あと16分。」

「これが上野(うえの)に着くの何時だっけ。」

「んなこと知るか。もう尾久(おく)は出たんだし、全員扉の前行け。開いたら13番線までダッシュするぞ。」

18時50分。13番線に「寝台特急(しんだいとっきゅう)北斗星(ほくとせい)」が推進(すいしん)運転(うんてん)で入線する。

 そんな中ぼくたちが乗った列車が上野(うえの)に到着したのは18時53分。発車10分前。

 列車のドアが開くとすかさず飛び出した。誰よりも早く・・・。途中4号車(グリーン車)から降りてきた佐久間を確認したら、あとはもうかまっている暇ではない。木ノ本(きのもと)留萌(るもい)柊木(ひいらぎ)(はやぶさ)大嵐(おおぞれ)はすでに先行している。僕もそのあとを追った。

 さっきの「カシオペア」の時と同様上野(うえの)駅の通路を駆け抜ける。さっきと同じ通路しか早くいく方法を知らない。地上ホームまで来たら当然のことだが、「北斗星(ほくとせい)」がいるのは一番遠いホームだ。ここまで来たらではない。休んでいる暇はないのだ。さっきからもうすでに2分が経過している。駅の中には僕たち以外の人も大勢いる。全力疾走できるわけではないからだ。すぐに走って「北斗星(ほくとせい)」が止まっている13番線まで急ぐ。「カニ24」の写真をとってすぐ走る。行先をとってすぐ走る。機関車まで来てようやっと走る必要がなくなる。だが、休むことは絶対に許されない。

(EF510-504号機。)

顔を上げると数字が目に入ってくる。牽引の担当は504号機。さっきの513号機と同様「北斗星色(ほくとせいしょく)」だ。

 後ろを見ると続々と集まってくる。途中で大嵐(おおぞれ)を抜いたので、大嵐(おおぞれ)はあとからやってきた。自分の班の人がいることを確認して、504号機の写真を撮る。息を整えながら、

(間に合った。)

さっきまでの焦りはどこかに消えていた。

 19時03分。「寝台特急(しんだいとっきゅう)北斗星(ほくとせい)」発車。513号機とは違って504号機は汽笛を聞かせてくれなかった。愛想がよくない・・・。

 「北斗星(ほくとせい)」をとってからはお風呂(せんとう)で疲れをいやす。今回の臨地研修(りんちけんしゅう)では一度もホテルに泊らない。風呂はこういうときにしか入れないのだ。

 風呂(ふろ)から上がり、着替えて、コーヒー牛乳を一気飲みした。全員が銭湯(せんとう)から出て、上野(うえの)駅に向かう。もちろん「はくつる」まではまだ十分すぎるほど時間がある。ゆっくり、ゆっくり歩いて帰りたいところだ。だが、そんな気はあるメールで一気に吹っ飛んだ。

 上野(うえの)駅の近くまで来たところで、シナ先生が朗報(ろうほう)を発表した。「珍しい車両が13番線に来ています。」アド先生からのメールにはそう書かれていたらしい。

「珍しい車両か・・・。榛名(はるな)、珍しい車両ってなんだかわか・・・あれ。」

留萌(るもい)の言葉が途中で途切(とぎ)れる。木ノ本(きのもと)の姿がないのだ。

 シナ先生もそのことに気づいたようだ。

「おい、柊木(ひいらぎ)もいないぞ。」

みんなもそのことに気付いた。

「あの二人は何してるんだか。」

と言った時携帯(ケータイ)(ふる)えた。メールだ。From:木ノ本(きのもと)榛名(はるな)。内容は「なごみが来てる!!!」となっていた。

(「なごみ」。「なごみ」ってなんだろう。)

と思った。

 この部活の部員は何回走れば気が()むのだろう。また13番線ホームへ向けての全力疾走だ。13番線に行くと、「なごみ」の正体が分かった。茶色の車体が13番線にある。イメージはJR北海道の車両によく似ていた。僕にはよくは分からないが、留萌(るもい)が言うには、

天皇(てんのう)を乗せるための皇室車両(こうしつしゃりょう)。」

ということだそうだ。

上野(うえの)に「なごみ」が来てるってことは団体列車だろうな。「なごみ」ってこれまでの157系と違って、皇室車(こうしつしゃ)を外せば団体列車の運用にも()くってインターネット書いてあったし・・・。」

これに対する留萌(るもい)の予想はこういうことになるそうだ。

 「なごみ」を見送ってから一番早く13番線にやってくるのは21時15分発「寝台特急(しんだいとっきゅう)あけぼの」である。「あけぼの」は「はくつる」と同じく上野(うえの)青森(あおもり)間を結んでいる寝台特急(しんだいとっきゅう)で、元は奥羽本線(おううほんせん)という路線を経由していた。それが山形新幹線(やまがたしんかんせん)の開業のために運行路線が変更され、一つはそのまま「あけぼの」の名前を、もう一つは「鳥海(ちょうかい)」と名前を改名した。今走っている「あけぼの」は「鳥海(ちょうかい)」が再び改名した列車なのだ。

 この「あけぼの」を見送って、1時間近く後の「はくつる」を待つ。これであとは「はくつる」に乗るだけである。

「「はくつる」に乗ったらどうする。」

(はやぶさ)がそんなことを柊木(ひいらぎ)達に聞いている。

「当然寝るよ。」

そう答えたのは北石(きたいし)潮ノ谷(しおのや)だ。

「えっ、徹夜(てつや)しないの。」

「しねぇよ。だいたい徹夜してたら寝台特急(ブルトレ)の意味がないじゃんか。」

北石(きたいし)がそう答えると、

「分かってないな・・・。」

といってため息をついた。

「何が分かってないっていうんだよ。」

「まあまあ、落ち着けって。」

気がたつ北石(きたいし)潮ノ谷(しおのや)が抑えようとする。

(はやぶさ)寝台特急(ブルトレ)だから徹夜したいだけなんだからさぁ。」

といってこの仲を仲裁(ちゅうさい)する。

 同じことを話しているのは善知鳥(うとう)先輩達OB・OGとはくたか先輩と(くすのき)先輩だ。

寝台特急(ブルートレイン)なんですから、寝かせてください。」

(くすのき)先輩が言っているのは聞きとれた。

 22時00分。「寝台特急(しんだいとっきゅう)はくつる」発車23分前。15番線にブルーの車体が横たえられた。9両編成の「はくつる」。この一番最後に控えているのが最近仕事場をEF510に奪われているEF81型電気機関車。自分達の位置から見て一番前の客車が「ゴロンとシート」という素泊(すど)まり寝台である。この23分の間にEF81を写真に収めに行く。8月2日「寝台特急(しんだいとっきゅう)はくつる」に充当されたEF81は57号機だった。

 「はくつる」の車内に入り、アド先生から(もら)った寝台券が指定する寝台に行った。2段の開放式(かいほうしき)寝台(しんだい)が窓をはさむようにして配置されている。窓は通路側が大きく、寝台側は小さい。オハネフ25形100番台、オハネ25形100番台、オハネフ25形200番台はすべてこうなっている。車番号を見ると「オハネフ25-201」となっていた。

 発車3分前。22時20分。外で撮影をしていた木ノ本(きのもと)柊木(ひいらぎ)(はやぶさ)が車内に乗り込み、自分の寝台に荷物を置いた後すぐにデッキに引き返していく。「デッキにこもりドアが閉まる瞬間を見ていたいんだな」ということを直感した。

 22時23分。「寝台特急(しんだいとっきゅう)はくつる」発車が15番線に()げられる。車掌が吹く笛と、遠くで聞こえる(あわ)い57号機の長声(きてき)とともに寝台車の折り戸式のドアが閉まる。そして、カクンとも揺れずに窓の外を景色が流れ始めた。さすが。寝台列車(ブルトレ)の運転手。客車を引っ張る機関士の腕は昼走っている車両の運転手よりもはるかに技量が高い。運転手の腕の見せ所である。

 僕はすぐに寝台に潜ったが、なかなか眠ることができない。久しぶりの寝台特急(ブルトレ)だから気が高ぶっているのだろうか。大きな子供であるというのは自覚(じかく)しているもののこういうときになるとこのことが一番迷惑になる。しばし周りの音に聞き耳を立てていた。カタン、カタンというつなぎ目を軽快(けいかい)にたたく車輪の音と、木ノ本(きのもと)留萌(るもい)柊木(ひいらぎ)(はやぶさ)善知鳥(うとう)先輩、(くすのき)先輩、ハクタカ先輩、サヤ先輩・・・いろんな人の声が聞こえてきた。

 寝付けないまま何時間経っただろうか。だんだんと聞こえて来る声の数も減っていった。だが、まだ聞こえてくる声もあった。柊木(ひいらぎ)(はやぶさ)の声だ。「どんな話をしているのか。」ということを少し気にしながら、しばらくそのままでいたが、ある時を境にしてその声も聞こえなくなった。


僕が行った当日「カシオペア」の牽引担当はEF510-510号機(カシオペア色機)。「北斗星」担当はEF510-504号機でした(本編参照)。なお、「なごみ」(E655系)は行った日「あけぼの」が入線する前に13番線にお目見えしました(本編参照)。

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