73列車 暇と期待
8月2日。この日は5時に起きなければならないのだが、4時に目が覚めた。
携帯電話に目をやると受信を知らせる青いランプがゆっくりとした周期で光っていた。目を通すと、木ノ本からだった。メールの届いた時間は4時06分。メールの内容は「寝台特急カシオペア」のことであった。
「EF510-500番台 北斗星色かカシオペア色どっちがひいていたら嬉しい。」
と書かれていた。
「寝台特急カシオペア」にはEF510という電気機関車に交代した。そのEF510には二つの色があり、一つは青を主体とする通称「北斗星色」。もう一つはE26系(寝台特急カシオペアの客車)と同じシルバーをまとっている「カシオペア色」である。僕は「当然北斗星色の方がいい。」と返信をした。
集合は浜松駅コンコース東海道本線改札前。集合時間6時45分。時間ぎりぎりには行くわけにはいかないと思うどころか早く青森に行きたいという気でいっぱいだった。浜松駅に着いたのは6時21分だった。改札前に行くとすでに見なれた顔が4つあった。木ノ本、留萌、柊木、隼だった。
「おはようございます、ナガシィ先輩。」
柊木にそう声をかけられた。
「よーす。」
僕も返事をする。
集合時間が近づいてくるとだんだん部員が集まってくる。ただ集まっている人は鉄研部員だけではなかった。OB・OGの顔もある。アド先生からは聞いていたが、やはり本当に来るとなると・・・。
6時50分。佐久間が5分遅刻してきたものの、部員全員が集まった。集まるとアド先生が「青春18切符」を全員に配布する。全員が「18切符」を持つとシナ先生が、
「それじゃ、改札を通って、ホームに行って。」
と声をかけた。
浜松駅の1・2番線ホームに上がると、1番線にはもうすでに373系が6両編成で控えていた。
7時05分。「ホームライナー静岡4号」はカクンと小さく揺れ、浜松駅1番線から滑りだした。
発車してからというもの僕はただ外を流れていく景色を楽しんでいた。
「永島。そこカーテン閉めて。」
醒ヶ井が目を細めながめ、手でカーテンを閉めてという動作をやる。
(KYな。)
僕は醒ヶ井の言い分を無視した。
「ホームライナー」は定刻通りに東海道本線を飛ばす。そして8時04分。静岡に定刻で到着した。静岡からは東海道本線の各駅停車で熱海までいく。
8時07分。ピンポーン、ピンポーンという音とともに片側に3枚あるドアが一斉にしまった。
「ナヨロン。オヒサァ。」
善知鳥先輩たちが名寄先輩に気付いたのか声をかけた。
「久しぶり。」
それからはそれぞれの近況を話す話に入って行った。
今のっている普通は313系-2500番台と211系-5000番台の6両編成。この溺愛の列車は東静岡、草薙、清水と各駅で客を拾って熱海を目指す。由比まで来るとこの列車は本線から外れて待避線に入り5分程度停まった。
「醒ヶ井、この停車は何の意味があるんだか解る。」
突然ではあるが、醒ヶ井に聞いてみた。
「わかんねぇよ。なんか意味あんの。」
「たぶん「ふじかわ」が抜いていく。」
醒ヶ井の知識のなさにはあきれるが、しょうがない。数分経つとさっき「ホームライナー」で使われていたと思われる373系が313系と211系の普通を抜いて行った。
富士、沼津、三島主要駅をだんだんとやり過ごしていく。函南を発車して全長8キロあまりある丹那トンネルに突っ込む。丹那トンネル内で下り列車とすれ違い見ずらいトンネル内に車内灯の白と黄色っぽい色が流れていった。そして終点熱海が近づいてくる。
「永島、降りる準備しろよ。」
と木ノ本に言われ、腕を通したままでいたバックを背中にまわし、ブルーのロングシートから腰を上げた。
「翼、ひどい。」
という声がした。後ろの方を見てみると隼がとても不機嫌な顔をしていた。
「何があったの。」
楠先輩が聞く。
「翼、後ならいい音聞けるよって言ってたのに・・・。よりによって界磁チョッパ制御のモーター音聞かせやがって。」
「だまされる方が悪い。」
「はいはい、言い合いはそこまでにして。だます方も悪いよ、翼。」
楠先輩が仲立ちに入りこの事態は沈静化したみたいだった。
9時56分。|現金自動預け払い機(ATaMi)に到着。この駅で管轄がJR東海からJR東日本に移る。この先は各駅停車でもJR東海の普通列車とはわけが違う。15両の編成でグリーン車を2両連結している。さらに片側には56枚のドアが存在し、首都圏の人の多さをさばき切る。しかし、その人の多さから15両編成の普通列車が頻発しても車内には必ず立っている客がいるほどだ。ステンレスのボディーに緑とオレンジのラインが入った車両がいるのを横目に5番線をEF210(桃太郎)が牽引する貨物列車が通過していった。そして、普通は前を行く貨物列車を追って熱海を発車する。
次に乗る列車は東海道本線の快速列車「快速アクティー」だ。快速と言っても、名古屋圏の快速や、関西圏の新快速のように通過駅が多いわけではなく、快速と言うよりはもはや「準急」に近い。
「アクティー」に乗るとすぐに暇になった。ここから先は1時間程度かかる。
「榛名。暇じゃない。」
留萌も暇なようだ。
「まぁ、ただ乗っているだけじゃ暇だねぇ。何かしない。」
「何しようか。」
二人が考え込む。
「何しようかって言っても、やることがないなぁ・・・。」
留萌には何もネタがないようだ。
「しりとりでもしない。」
「しりとり。」
オウム返しに留萌ガ聞く。
「そう。鉄道シバリでどこまで続くかやってみない。」
留萌はちょっと考えてから、
「うん。面白そう。」
と答えた。
木ノ本たちがしりとりを始めてから何分たっただろうか。国府津まで来た。国府津に来ても何か変わったことがあるわけではない。そのため僕も柊木もボーっと外を反対側の席から眺めていた。すると、上にオレンジ下に緑色をまとった何か事業車のようなものが前を通り過ぎていった。少し眠気に襲われていたが、その眠気が一気に吹っ飛んだ、
「さくら。今のなんだかわかる。」
木ノ本たちも気づいていた。
「あれじゃない。たぶん、国府津の近くの車両区に所属るクモヤ143とかっていう奴じゃない。」
「事業車までよくわかるもんだよな。」
本当だ。留萌の知識は半端ではない。国府津でクモヤ143形を見てからは木ノ本たちのしりとりも停戦していた。そして、そのまま東京まで来てしまった。
「それでは、今から自由行動にしますが、3日目はこの「銀の鈴」の前に5(17)時に集合してください。」
アド先生が3日目の集合場所の説明を聞いてから解散である。
「さて。おい、永島まずは飯にするか。」
佐久間が自分たちを誘い、東京駅のコンビニに行って、お昼御飯の調達を促した。僕はそばを佐久間はカップラーメンを買った。木ノ本達や柊木達も同じようだった。
昼を食べ終わると、
「みんなどこ行きたい。」
と佐久間が全員に行きたい場所を聞いた。なぜなら、自由行動のほとんどを佐久間と行動することになったからだ。
「僕は埼玉の鉄道博物館に行きたいです。」
柊木がまずそう言った。柊木以外で鉄道博物館に行きたいと答えたのは、隼、大嵐だけだった。他はお台場か列車に乗ったままどこかまできまぐれに行ってくると言い佐久間、木ノ本と別れた。
箕島は一足先に上野駅にいた。
「名寄先輩。ここからどこに行くんですか。」
「常磐線にでも乗ってどっかまで行ってくるか。」
名寄は箕島と空河にそれでもいいかというように聞いた。
「僕は別にかまいませんよ。」
空河が答えると箕島もこれを認めざるを得ない。
「分かりました。いいですよ。」
と答えた。
常磐線に揺られて何十分も時間がたった。ゆっくりと揺られているだけでは何ものうがないが、箕島たちは去年博多に行った時もこのような感じだったらしい。箕島は眠気が極度の位置に達しておりいつのまにか寝てしまった。空河は寝てなるものかという思いで外に目をやり続ける。ずっと目を凝らしていると、上り線の貨物列車とすれ違った。
「あっ。」
ふと声が上がる。
「どうした。空河。」
常磐線に乗った後ずっと目を閉じていた名寄が空河に聞いた。どうやら眠っていたわけではないらしい。
「今の貨物列車を牽引してた機関車、カシオペア色でしたよ。」
と答えた。
「そっか。じゃあ、今日は期待できそうだな。」
名寄は独り言のようにつぶやいた。
これは雑学ですが、阪神淡路大震災で被災した東海道本線が完全復旧するのにかかった期間が73日です。
日本の人たち頑張るとすごいことを生みますね。
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