72列車 甘いはダメ
いつものる列車に乗れればオーケイという人はこの話はどうでもいいよとしか取れません。
少々時間をさかのぼって7月12日。
(ナガシィって今度青森に行ってくるんだろ。他になんか見れるのってなかったっけ。)
そう思いながら時刻表のページをめくる。
(「トワイライトエクスプレス」は時間的に無理っていうか青森は通らないんだよなぁ。青森通らないでどこ通るんだろう。)
こんなの知っている人に聞けば早い話だが・・・。
(まぁ、通らないものをとるっていうのもバカか・・・。)
左手につけている腕時計に目をやる。時間は16時24分。
(まだ来ないかぁ。今日は16列車も1000形だったからなぁ。14列車の30系は何に変わるかわかんないし・・・。16時48分の2003まで待つかぁ。)
白のページを何の意味もなくめくっていたが、こんなところをめくっていても地方の詳しいダイヤが分かるだけ。ここでは意味がないと思い、前にある青のページを開いた。
(・・・。そういえばよくよく考えてなかったけど「カシオペア」って走ってるんだよねぇ。)
と思って青もページの一番後ろを開いた。
「・・・。」
運転日注意の表示をじっと見ていたが、ちゃんと走っているということに安心した。もう一つ気になることはギャンブルだから、どうにもならない。それは分かっていても気になるのだ。つい、自分の理想を想像してしまう。
(他には「北斗星」と「あけぼの」かぁ。「能登」と「北陸」が見れないのが残念だよねぇ・・・。青森だったら何が見れるのかなぁ・・・。)
今度は青のページの半分くらい言ったところを開く。
(結構いろんなの来るけど、ここに来るのって大体E751系か485系のリニューアルタイプでしょ・・・。リニューアルの写真はほしいなぁ・・・。えーと他には・・・。)
ページを前に送る。
(北海道。これも忘れちゃいけないか。「スーパー北斗」と「北斗」両方見れるじゃん。よし、ナガシィにこれ注文しよう。)
臨地研修で永島に撮ってきてほしい車両の写真をどれにするか考える。時計を見てみると16時36分。いつの間にか12分経っていた。
(ヤベ。)
すぐに一緒に来ている黒崎と端岡を探した。黒崎たちは小説のコーナーにいた。
「夏紀。梓。早くいくよ。」
二人のバッグのベルトをつかんで、引っ張ろうとする。
「ちょっと待って。これ買ってからにして。」
「これまだ戻してない。」
端岡、黒崎の順に声がする。その声を聞くと萌は手を放した。
「じゃあ、早くしてよ。後11分しかないんだから。」
「なんでそんなに時間にうるさいんだよ。後11分もあるじゃん。」
「電車の席取りはそんな甘い考えじゃダメなの。」
「・・・。」
「分かった。すぐ買ってくるから待ってて。」
「1分待つよ。」
「・・・。」
どこまで時間に厳格なのだろうか。
1分たって端岡が戻ってくる。
「お待たせ。」
「よし。じゃあ行こうか。」
萌はすぐに歩き出した。それも少し早足でだ。後ろで端岡が待ってという声が聞こえているが聞いている暇ではない。しばらくすると走ってきて、萌たちに合流する。
「はぁ。これじゃあいい席取れないかも・・・。」
独り言を言った。発車時刻まではあと8分。流れていく時間というのは特に痛い。数分の差で明暗を分けるところがあるからだ。例えば、電車に乗る時。席が空席の場合ほとんどの人が決まって隅(窓側など)の席に座ろうとする。つまり、並んでいる人が多ければ多いほど自分が座りたいと思う席に座れる確率は著しく低くなるのだ。普段は気にしないが、知ってしまうとどうしても気になる。
新浜松に来て百貨店側の階段から2階の改札に上る。遠州鉄道の「ナイスパス」をカード読み取り機に当てて、すぐに上に続く階段を駆け上がった。
「ちょっと待ってよ。」
今度は黒崎の声がする。
萌はそんなこと聞こえないかのように階段を上がっていく。
「・・・。萌って待つ気無いの。」
「ハハ。そうかもね。」
「夏紀もなんだかんだ萌に振り回されてるところあるじゃん。」
「振り回されてるかもしれないけど、萌って分かりやすくていいんじゃない。あれは絶対先頭のほうに行ったと思う。」
階段を上がって反対を見る。そこには萌の姿はない。
「予想外れたな。」
「こっちじゃないなら、あっちか。」
浜松駅に近いほうに歩いていくと萌の姿をとらえることができた。
「・・・。」
萌は少し落ち込みぎみだった。
「どうしたの。」
黒崎が聞くと端岡は黒崎の肩をたたいて、これだよこれというように指差した。落ち込んでいる理由はこれだ。
「だから、甘い考えじゃ座れないって言ったのに・・・。」
「間もなく列車が到着いたします。黄色い線の内側までお下がりください。」
というアナウンスが入って向こうから電車が近づいてくる。
「フォォォォォォォォォォォォン、ファァァァァァァァ。」
(よし。)
顔を上げて入ってきた車両の形式を確認する。車両の左上に2003と書いてある。これは朝見たから知っているだけだ。
ドアが開いて、まずは降りる人を待つ。降りる人がいなくなったら乗り込む人。自分たちが乗り込んだときは案の定自分の座りたい席は埋まっていた。
「はぁ。」
ため息をついていつもの定位置に行く。
荷物を置いて前を見るとほとんど埋まっていた。端岡たちはこっちは開いてるよと言っていたが、用はない。あの席はつまらないのだ。その後こちらのほうへ来たが、ドアのところに荷物を置く。
「こっちこいよ。邪魔になるぞ。」
と呼び寄せた。
「あすこだったら広いじゃん。」
寄ってきたら黒崎はすぐにそう言った。
「梓バカだね。ドアにいると他の人に迷惑だろ。」
「・・・。」
4分新浜松に止まって発車する。この時間は帰る学生が多くなってくるため必然的に2両の車両は混む。第一通り、遠州病院と止まるだけで車掌が車内を通りたくなくなるほどの人が乗る。
「・・・。」
萌は第一通りから乗ってきた人に目をやる。ほとんどの客がドアで立ち止まる。
「・・・。」
次の遠州病院から乗ってくる人もそうだ。
「腹立つなぁ。なんで通路のほうに行かないかなぁ。」
これでさっきめいわくになるという意味が分かる。全員決まってドアに立ち止ってしまうのだ(もちろん立ち止まらない人もいる)。
「これでめいわくになるって言ったのか。」
「当たり前じゃん。私よく6時52分の列車に乗って来るんだけどさぁ、腹立つのよ。ドア付近混んでて、通路が混んでないって。なんでみんな押し込まれないのかなぁって。」
「そ・・・それは前にも聞いた覚えが・・・。」
「あっ。言ったっけ。まぁいいや。」
助信に停車。この時萌の座りたい席に座っていた先客は下車しなかった。一番近い駅は4駅先のさぎの宮。少なくともここまではこの客は降りないだろう。しかし、中にはさぎの宮で降りず、積志で降りず、西ヶ崎で降りないということも考えられる。中には芝本から二つ手前の美薗中央公園か一つ手前の小林まで降りる。または下りないということも視野に入れなければならない。この頃座らないのには少し慣れているから、28分ぐらいどうということないのだが・・・。
先客はさぎの宮で下車した。考えていた中では一番いい時に下りてくれたのだ。自分の体をよじり、席に腰掛ける。席に腰掛けたところでおいていたバッグを自分のほうに寄せる。ようやっと座れた。
座ったら乗務員室と客室を分けている窓の縁に手を置いて、乗務員室側を見る。見つめるものは速度計。だんだんと速度が上がっていき、70ぐらいを指すところで針が動かなくなる。車掌は積志に着くまでの間にこの列車で接続するバス、暁鉄道の列車をアナウンスする。積志に到着してドアを開ける。ここでは上り列車との入れ替えがある。すぐに上りの1003が来て、こちらはすぐにドアを閉める。1003が停車するのと入れ替わりに発車した。
発車するとすぐにスピードが落ちた。
(どうした・・・。)
こういうことがふつうに気になる。わけもなく速度を落とすことはない。車どおりの激しい道路の踏切にしては距離がある。他に何か理由でもあるのか。途中には歩行者専用に近い踏切も存在している。そこに子供でも入ってきたのか。
無線に耳を傾ける。だが何と言っているのかよく分からない。なぜ速度を落としたのかわからないまま、2003は速度を上げて、西ヶ崎に走っていった。
「・・・。」
電車を降りてもそのことが気になって仕方がない。そのことに頭を抱えていた。
「今度はどうした。」
端岡はずっと考え事をしているのが気になったらしい。ふつうならこんなこと考えないのだが自分の身体がどうしても考えてしまう。いや、そういう身体になってしまっているのだ。
「さっき積志発車した後にすぐにスピードが落ちたでしょ。」
「確かに落ちたけど・・・。それがどうかしたの。」
「どうかしたのじゃないでしょ。わけなくスピード落とすかよ。それの原因が気になるんだよねぇ。」
「・・・。そんなの気にしなくても・・・。」
「気になるんだよなぁ。」
端岡の言葉を遮るように言葉を並べる。
この先いくら考えても答えは出そうにない。速度を落とした理由は自分の心の中にしまうことにした。多分、二度とその箱を開けることはないだろう。
帰ったらさっき書いてきたメモを見る。
(「カシオペア」は走ってるからこれは撮れる。「北斗星」もふつうにとるだろうなぁ。「はくつる」は乗るからよし。「ゆうづる」・・・。「あけぼの」・・・。時間が開いてるけど多分・・・。これはあとでナガシィに聞くかぁ。他は・・・「白鳥」と「スーパー白鳥」と「つがる」かぁ。さすがにどれみるかまではわからないからなぁ。どう行動するのかもわからないし・・・。って聞けばいい話じゃん。・・・。「日本海」。「日本海」忘れてた。えーと「日本海」は・・・。見れる。)
メールにして2日目どうするのかを聞いてみる。
「まだ決まってないよ。」
「じゃあ、今決まってることってある。」
「ゆうづるとあけぼのの写真撮る。そんで函館に行く。ぐらい。」
「他には。」
「3日目に福島でつばさの連結解放見る。」
(「つばさ」。)
そういえばという感じだ。確かに、東北にいくということは「つばさ」も見れるということになる。確か永島が好きなのはE3系の「こまち」のほうだと思った。だが、顔も同じで塗装の違うE3系だ。「つばさ」のほうも同じストライクゾーンにいるということは間違いないだろう。永島のストライクゾーンにいないE3(イースリー)系は「こまち」の試作車と2000番台だけだ。
「じゃあE3系の「つばさ」撮ってきてよ。」
メール中に「」表記はありません。
「いわれなくてもあっちからやって来るって。」
(確かに・・・。)
ただ一つだけ問題なのは・・・。
「いつ来るかわかんないよねぇ。共通運用だし。」
「4本見ればどれかにはくるだろ。3編成しかないけど。」
「それでも心配じゃない。」
「心配だけど数うちゃ当たる…はず。」
「はずってなんだよ。」
「話変わるけど、前のあれ誰も分からなかった。」
「ああ。そうなんだ。」
(榛名ちゃんでも知らないことってあるんだなぁ・・・。ちょっとそれくらい知っとけよ。)
心の中でツッコむ。だが、それをしたところでどうこうなる問題ではない。
メールを下に読み進めていくと、
「萌的にはどっちがいい。」
とあった。
「北斗星色。」
(・・・。)
「確かに。俺も北斗星色のほうがいいなぁ。」
「じゃあ、もしとったのがカシオペア色だったら。」
「…なんもいえねぇ。」
(確かに。なんもいえねぇ・・・。)
なんか坂口たちの話が付加的になってしまっています。坂口もこのストーリーで重要な位置づけだというのは読んでいてわかると思います。それの話が薄いって・・・。
坂口は高校に入ってから独学で鉄道知識をため込んで行っていますが、僕もその状態でした。