71列車 許容範囲
その夜もまた萌にメールした。
「それ死んだよね。ナガシィバスの中で寝れないって言ってたしね。今度はどうするの。また朝まで徹夜するつもり。」
「それ今回はしない。下手したら両方とも徹夜になる。だから、今回は耳栓持ってくことにするよ。」
「ふぅん。」
自分でも2回の徹夜は嫌である。どうにか策を講じることにしたが、果たして。耳栓があることで眠れるのかも定かではない。
翌日。
今日は臨地研修の自由行動をする班を決める。
「組みたい先輩のところ行って。」
佐久間が指示を出して、それぞれの班が編成される。結果、永島・柊木班。木ノ本・留萌・隼班。箕島・空河班。佐久間・諫早・夢前・大嵐班。醒ヶ井・朝風班。北石・潮ノ谷班。鷹倉・楠・新発田班となった。
「さて、翼。どっか行きたいところない。」
さっそく本題に入った。
「行きたいところ・・・。」
柊木はすぐに考え出した。欲張りたいもの分からないわけではないが・・・。
「北海道渡ってみたいです。」
「・・・。北海道かぁ。」
青森に8時15分に着く、すぐに行動を起こすなら、北海道の少し深いところまではいれるはずだ。だが、一つだけ問題がある。これをどうするかわからないと行動できる範囲も違ってくるのだ。
「北海道行くのはいいけど、こいつらは見ないわけ。」
「こいつら。」
僕は時刻表を指した。ここには小さい字で時刻・列車番号・列車名が記載されている。柊木は僕が指差している列車名を見つめて、
「もちろん。見ます。」
となれば9時50分までは行動できないことになる。
「なら、こいつは。」
指差している位置を変えた。今度も回答は見る。ということは9時56分までは行動できないことになる。これに一番早い「白鳥」もしくは「スーパー白鳥」は10時01分の「スーパー白鳥95号」函館行き。だが、これにはおそらく乗らないと思う。なぜなら「寝台特急あけぼの」をとっている間に発車時刻になるからだ。こんなのですぐに函館に行こうとも考えないだろう。
「・・・方向性はこれでいいな。翼。」
「はい。」
「じゃあ、1日目決めるか。1日目はどうしたい。」
再び考え出す。別に僕としては行きたいところはない。柊木が行きたいという場所についていく感じになる。
「鉄道博物館かなぁ。」
とつぶやいた。鉄道博物館は埼玉にある。もともと東京万世橋にあったものだが、この鉄道博物館が2006年に閉園。これが移転し、2007年10月14日に開園したのだ。
「じゃあ、翼。」
時刻表のページを少しめくる。
「これは。」
列車名を指差す。
「もちろん見ます。」
当然の答えが返ってきた。東京に行ってこれが走っているのに見ないというのはバカの結晶だ。これで16時20分まで上野にいなければならない。そして、この30分前ぐらいに言っとかなければならないため、15時50分までの行動になる。
「これは。」
指を右にずらす。
「見ます。当たり前でしょ。」
「これは。」
ページをめくって、
「当たり前・・・。でも、これって青森でも見れるんですよねぇ。」
「ああ。・・・。どうする。見るの。」
「・・・。牽引する機関車ってどうなってましたっけ。EF81のままですか。」
「上野から長岡までの間がEF64で、長岡から青森までがEF81だけど。」
「なら見ます。」
「分かった。」
これで18時33分から19時03分と20時45分から21時15分までは上野にいなければならなくなった。時間があるのは16時20分から18時33分までの間。この間に夕ご飯を食べ、明日の分を調達する。可能だ。19時03分から20時45分までの間に上野の近くにある銭湯に足を運び、戻ってくる。これも可能だ。
「よしなら・・・。」
時刻表をめくって1日目の行動を立てる。11時36分に東京に着いたら、次は京浜東北線に乗る。これで終点大宮まで行くなら50分ぐらい。上野で東北本線(宇都宮線)・高崎線に乗り換えるなら、30分ぐらい(上野~大宮)。もし乗り換える場合京浜東北線でも山手線でも東京~上野間は7分かかる。もし、乗り換えるなら11時43分以降の列車になる。ただ、今時刻表をめくる気力もないため、これのことは放っておいた。知らなければいけないのは帰ってくる方の時刻である。上野には15時50分前にいなければ遅刻だ。これ以降だと話にならない。時刻表をめくって一番いい時間に来るのは15時43分の列車。これの大宮発車は15時10分。これ以降の列車では話にならない。これの前に発車する列車は15時00分の列車。これは上野着15時26分。これだと少し早すぎる。抑えておくのはこの2本でいいと思った。
「なら、これは完了だね。次は2日目かぁ。」
「これは「スーパー白鳥」で北海道に渡っちゃえばいいですよねぇ。」
「・・・。それでいいけど、少なくとも特急はない。いくら蟹田から木古内まで特急が使えると行ってもそれ以外のところは普通で行こう。」
「キハですか。でも特急乗った後に普通って結構きついですよ。」
「・・・。」
分からないわけではない。それはふつうに感じていることだ。そうなるなら、この区間だけはケチらずに特急に全区間お世話になったほうがいいのだろうか。
「・・・。」
しばらく考えたが、今この段階では結論が出そうにない。なら、3日目の計画を立ててしまうことだ。3日目は移動が夜行バスになったことで仙台から東京までの間が自由行動となった。仙台到着は5時30分。17時00分に東京駅に集合する。
時刻表をめくって、東北本線の時刻表を出す。仙台の東京方面の始発列車は5時29分。これには乗れるわけもない。次は6時03分発。これには乗るのかと思ったが、朝ご飯のことを考えると乗るとは思えない。なら次だろう。7時02分の普通郡山行き。
「ナガシィ先輩。福島で降りて、「つばさ」の連結解放見るのってどうですか。」
柊木がそう提案してきた。僕は柊木が提案してきてもしなくても福島で降りて「つばさ」の連結解放を見るつもりだった。そうそう。説明が遅れたが、柊木の僕の呼び方が変わったのは文化祭の時に善知鳥先輩が植えつけたからである。
「もちろん、そのつもり。」
7時02分に仙台を発車する列車は福島に8時27分着。この後入場券を買って新幹線ホームに入れる時間は10時30分ごろまで。この間にくる「つばさ」は8時54分発の「つばさ123号」。9時17分発「つばさ128号」。9時54分発の「つばさ125号」。10時17分発の「つばさ130号」の4本。このうちどれかはE3系1000番台のはずだ。
これをとった後に在来線に戻って、10時27分発普通郡山行き。郡山到着は11時15分。乗り換えで11時19分発の普通黒磯行きに乗り黒磯に12時21分。乗り換えの間に昼ご飯を調達して、12時55分発の普通宇都宮行き。宇都宮着は13時46分。乗り換えて、13時51分発普通上野行きで上野着15時43分。
「また「カシオペア」見れますね。」
「そうだけど、2回もいいだろ。」
「じゃあ、もし1回目をミスしたらっていうことでどうですか。」
「・・・。」
これで3日目も完成。
今日の話し合いでここまで進んだ。この先は明日に持ち越しである。
翌日。2日目の自由行動について少し進展があった。
「永島。2日目お前らも北海道行くつもりなんだろ。」
佐久間が話題を振ってくる。
「そうだよ。」
「じゃあさぁ、俺たち一緒に行かねぇ。俺たちも北海道にいくからどうせなら。」
「・・・。」
考える前に柊木の顔を見る。柊木はどっちでもいいですよと言っているようだ。
「別にいいよ。」
と返事をした。
「よし。そうと決まれば・・・。永島。行動の計画はお前が立ててくれよ。俺は昼飯のほう考えとくから。」
これを聞いたら柊木は嫌というような顔をした。柊木もお昼はただの邪魔な事業らしい。僕はというとナヨロン先輩の言ったとおり、今の昼はただの邪魔な事業になっている。
「おい、お前みたいな小柄なやつはちゃんと昼食っとかなきゃダメだぞ。」
佐久間がすかさず言う。
「・・・。分かりましたよ。食べればいいんでしょ。」
どうも引っかかるような言い方だ。
「・・・。」
「工程任せるっていうのはいいけど、そっちってなんか見たい奴とかあるの。」
今度はこちらから質問する。これにより行動するべき時間帯が違う。
「なんか見れるやつあるの。」
向こうはそんなこと知らないらしい。
「ああ。9時50分にくる「ゆうづる」と9時56分にくる「あけぼの」。」
「あと19時33分の「日本海」と・・・19時27分と19時16分の「つがる」も見れますね。」
柊木が時刻表をめくりながら続けた。
「「日本海」とかはどんなのかわかるけど、「つがる」って何。」
聞き返してくる。
「「つがる」ってE751系使ったあれですよ。」
これでは伝わりにくいだろう。僕はそのあと「フレッシュひたち」のE653系に似てるやつと付け加えた。
「それも見れるの。」
「はい。まぁ、函館を16時51分に出る「白鳥32号」に乗ればの話ですけど。」
「じゃあ、帰りはそれでいいんじゃないか。」
「行きはやっぱり「スーパー白鳥1号」を待つことになりますかねぇ。「あけぼの」まで見てたら「95号」なんて乗れませんから。」
「そうだな。いくら早くいきたいからってこれに乗るバカはいないな。」
ということで、2日目は「はくつる」を下車した後常磐線の「寝台特急ゆうづる」と上越・羽越線経由の「寝台特急あけぼの」を見てから11時13分発の「特急スーパー白鳥1号」に乗車。それから自由行動で16時51分函館発の「特急白鳥32号」に乗車。青森に到着後、「特急つがる23号」と「つがる98号」を撮影。続けて大阪行きの「寝台特急日本海」を撮影ののち、銭湯に赴いて、夜行バスに乗るという工程となった。
自由行動のほうはこれで終了である。しかし、当の旅をするほうでは少々問題があるようだ。
「実はですねぇ。「はくつる」の「ゴロンとシート」が人数分ないんですよ。それでB寝台のほうを足りない分取りました。後B寝台は「ゴロンとシート」より6300円お金がかかります。今この段階で「ゴロンとシート」よりB寝台のほうがいいって人いますか。」
内訳はB寝台4人。「ゴロンとシート」15人。手を挙げた人は箕島だけだった。
「永島。B寝台と「ゴロンとシート」って何が違うの。」
醒ヶ井が聞いてきた。まったくこれだから知らない人は、と言いたくなるが答える。
「「ゴロンとシート」は素泊まりで、B寝台はシーツとかがちゃんとあるやつ。」
これで通じたかどうかは分からない。当の本人には通じたようで醒ヶ井も手を挙げた。残りは5人分である。
「どう。女の子たちはB寝台じゃなくていいの。」
「いいです。」
まず木ノ本が返事をする。それに続けて留萌、隼、楠、新発田の順で返答する。
「分かりました。他にB寝台がいいよっていう人はいませんか。」
一向に手を上げそうにない。残っているのは10人。「ゴロンとシート」にちょうどおさまる人数だ。これでだれどちらに行くことも確定した。
今日の定例会が終わろうとしているころ、アド先生は何か思い出したようだ。
「そうそう。臨地研修の時だけど、北斎院君たちも同行するそうです。」
たち・・・。これの答えはすぐに出た。同行するのはサヤ先輩と善知鳥先輩とアヤケン先輩とナヨロン先輩の4人。3年生全員が参加する模様だ。
(勉強そっちのけでやって来るのかよ。)
(暇だなぁ。先輩たちって。)
しばらく出てくる言葉がなかったが、先輩たちが来るというのは面白い。また、あんな臨地研修になるのだろうか・・・。
「・・・。」
そういうことを考えながらワイワイ騒ぎだす。これを箕島が抑えて・・・。いや抑える間もなかったか。部活動は終了となった。
「へぇ。先輩たちも来るんですね。」
隼がつぶやいた。
「みんなどういう人ですか。」
柊木が興味ありげに聞く。
「うーん。簡単に言うと北斎院っていう人は天然ボケの元部長で、善知鳥っていう人は元部活のムードメーカーで、綾瀬っていう人は部活のモジュール作った人で、名寄っていう人は北石と一番話が合う人だな。」
「なんで僕と話が合うんですか。」
「だってその人車両鉄だもん。」
「・・・。なるほど。」
「へぇ、北石みたいに全身すすだらけの人でも話が合う人っているんですね。」
「隼。それはどういうことだ。」
「まぁ、まぁ。」
喧嘩になりそうなところに潮ノ谷が止めに入る。
「それよりも俺たちは事故に会うか合わないかの方を心配したほうがいいぜ。」
「どういうことですか。」
全員の声がそろう。
「その来るっていう善知鳥先輩が言ってたんだけど、鉄研部が行くところには必ずなんか災害が起きるって。」
「・・・。」
「なんか僕たちが疫病神みたいな言い方ですね。」
「実際そうらしいんだよ。北陸行きたいって言ったら中越地震が起こったらしいし。」
「シャレじゃないってところがすごいですね。」
「・・・。」
このごろ室蘭友紀の名前が室蘭行きにしか聞こえなくなってきました。
僕は別な意味で言えば正常ですよね・・・。