70列車 運用と予想外
教室中がお祭り騒ぎのようにうるさくなる。ほとんどの人は「ヤッター。ヤッター。」と言っている。当然僕もその一員だ。
「ちょっとお前ら静かにしろ。まだ鷹倉先輩の説明が終わったわけじゃないぞ。」
箕島が暴走する全員のストッパーになる。
「別に、もうちょっと喜ばせといてもよかったのに。」
ハクタカ先輩は別に止めなくてもよかったといった。
「まあいいか。説明続けるけど・・・。何話せばいいんだ。」
度忘れしたらしい。ハクタカ先輩はしばらく考えていたが思い出しそうになかったので、そのまま放っておくことにしたらしい。
「早い話青森まで行くってことだよ。」
「詳しい工程とかないんですか。」
「まだ計画上だけど今のところ工程はこうなってる。」
とハクタカ先輩は工程を話し出した。
「東京まで言ったら自由行動で、22時23分の「はくつる」まで自由行動。」
「マジ。」
このことを知らない人のほとんどが声をそろえた。
「マジだよ。」
この返答には楠先輩が答えた。この後はまたワイワイワイワイ話だして、とても説明するような状態ではない。それも箕島がとめて、ハクタカ先輩はまた工程を続ける。最後まで言い切ったらあとはほぼ自由だった。
「「はくつる」かぁ。」
僕は懐かしそうにつぶやいた。当然懐かしいわけだが・・・。
「永島って「北斗星」に乗ったことあるんだよねぇ。いいなぁ。」
木ノ本がうらやましそうに言う。
「・・・。」
(このごろの永島見てると完治してるように見えるけどなぁ・・・。どうなんだろう。)
「そう。」
返答がこれだけだった。まだ、完治はしてないようだ。
「でも、あの時はシクッタからなぁ。徹夜するつもりだったけど、結局徹夜できなかったから。」
「朝まで起きてるつもりだったんだろ。」
「木ノ本。「はくつる」にのったら寝ることをお勧めするよ。あれに乗ったらすぐ寝る。それくらいしないと2日目持たないぜ。」
「分かったよ。起きてるつもりもないし・・・。」
「・・・。ならいいけど。」
こういったのは自分が経験しているからだ。どうなったかは前述したとおりだ。
「まぁ、まだ計画だからな。この先どうなるかわかんないけど、青森に行くことは確定。そうとだけ思っといて。」
と言った。これを言い終わると部活としては終了。この次からはだんだんこの内容を決めていくことになる。
その日。家に帰るとすぐに携帯を手に取った。
「今年は青森に行けることになりました。」
その返信は、
「よかったね。でも、青森には1日じゃいけないよねぇ。あっ。ブルトレにでも乗るの。」
「うん。はくつるに乗る。」
「いいなー。ナガシィいろんな電車に乗りすぎ。」
「いいだろ。」
「じゃあ、お土産にカシオペアの写真撮ってきてね。」
「まだ何日にいくかも決まってないつうの。」
「そうなんだ。じゃあ、カシオペアが走ってたら撮ってきてね。」
「はいはい。」
その端末を見ていると、
(ナガシィ・・・。うらやましいなぁ。)
天井を見上げる。天井に何か書いてあるわけではないが、暇になると天井を見るのがほぼ癖になってしまっている。
「・・・。あっ。」
ふと声が出た。「カシオペア」のことで一つ気になることがあるからだ。
それからしばらくしてその文面を完成させる。それを永島に送った。
そのメールを受けたのは離れに行ってからだ。
「・・・。」
(確かに。それ考えられる。)
これがふつうの思考だ。車両の運用は発表されているものもあるが、不可能なものもある。これは不可能のうちではないと思うが、どこに乗っているかもわからない。こんなものどこで分かるのだろうか。
(そうだ。留萌か木ノ本なら知ってるかなぁ。)
そう思ってそのメールを少し編集して転送する。返ってきた答えはいずれも「知らない」だった。
(留萌も木ノ本もこういうことは聞かされてないんだ。)
内心思う。留萌のお父さんと木ノ本のお母さんはともにJRで働いているが、これを知らないということは二人とも東海だからということになるだろう。これを知っているなら東日本の人かこれの情報を手に入れている人以外いない。少なくとも留萌たちはこの情報を握ってないからこれ以上聞いても仕方がないだろう。他に知っている人は・・・。
(蒲谷。)
ふと頭の中に浮かんだ。だからメールしてみる。それの返信は・・・、
「行き当たりばったりで冬に撮りに行った人に運用が分かると思うか。」
蒲谷も知らないということだ。他に分かっていそうな人・・・。
(駿兄ちゃん・・・。)
と思ったが駿兄ちゃんもないとすぐに思い直した。駿兄ちゃんは遠江急行で働いていて、そっちの方で忙しい。運用なんて知る余地もないと思った。分かっているとすれば、遠江急行で明日の6時50分芝本発の列車が何系の第何編成であるかということだろう。
(ナヨロン先輩。)
この人なら知っていそうだと思ったが、結果は知らない。この人にもわからないとなると僕の周りに知っている人はだれ一人いないということになる。
結局分からないままだ。蒲谷の言うとおり行き当たりばったりでそんなこと考えないというのも一つの手かもしれない。
(はぁ。共通運用ってこういう時本当に困るよなぁ。半分賭けだから・・・。)
確かにそうなのだ。
そうなるという理想はどんどん頭の中で膨らんでいく。だが、現実にどうなるかなんてこの頭で考えても分かるはずがない。考えるのはあきらめて、模型いじりにはしることにした。
それからあまり話し合いが行われることなく日にちだけが過ぎていった。7月の上旬にある期末テストのために部活動は一時活動中止となる。
宗谷でも7月の上旬に期末テストがある。ちょっと知恵を貸してもらうために今は黒崎の家にいる。
「だから、ここをこうして、こうすれば・・・。」
「あっ。そうかぁ。聞いてもよく分かんない。」
ずっこけそうになる。
「あのなぁ。でんしゃのことはすぐ入るのに、何でこういうことはすぐに頭の中に入らないんだよ。」
黒崎のほうはあきれている。今この黒崎の部屋にいるのは萌だけではない。端岡、磯部、薗田もいる。
「いやあ、趣味はどんどん頭に入って来るんだけどねぇ。勉強だけは全然頭に入ってこないんだよ。」
「ていうか、何であたしに数学のこと聞く。夏紀に聞け。」
「その割には梓よく分かってるじゃん。」
「分かってても試験で分かんないんじゃ同じだよ。あたしなんかやり方全部書いてあるのに、本番になったら散々な結果に・・・。」
どんどん梓の声が落ちていく。すると薗田が寄ってきて、
「梓北星受けたんだけど、数学がぼろぼろで落ちちゃったのよ。結構勉強してたんだけどね。」
(・・・。結構勉強して落ちたならそれはスランプになるねぇ。)
「梓。トイレ行きたいんだけど。」
磯部が持ちかける。
「トイレだったらあたしが案内するよ。ちょうどあたしも行きたかったところだから。」
薗田も立ち上がって部屋から出ていく。できない人2人が部屋から出ていくとどうしても勉強しづらくなる。磯部と薗田とは同類というところが少なからずあるからだ。
「はぁ。なんか勉強できない・・・。」
「できないじゃなくて勉強しろ。」
「そんなこと言ったって。」
部屋の中をぐるっと見回してみる。すると。机の上のノートが一冊置かれているのに気づいた。
(もしかして、さっき梓が言ってたやり方記したノートかなぁ。)
と思ってそのノートを手にしてみる。ノートを開いてみると・・・。
「ちょっとそれは見ない・・・。」
黒崎はノートを取り上げようとしていたが、もう遅かった。中を開いてみてしまったのだ。すぐに黒崎が取り上げて、大事そうに抱いて壁まで後退する。顔は真っ赤だし、ほんの少しの時間だったが、何が描いてあるのかはすぐに分かった。人の絵だが、ただの人の絵ではない。
「鳥峨家君の絵でしょ。」
図星みたいで目をそらそうとする。
「へぇ。安希には見つからないようにそういうことやってるんだな。」
端岡は冷やかす目で黒崎を見る。黒崎は相変わらずそのままの状態。ほぼ固まっているも同然だった。だが、別に黙っていても仕方がないと思ったのか。
「そうだよ。」
と口を開けた。
「やっぱり梓絵うまいね。」
「そこまでするならコクッちゃえばいいんじゃない。って言っても梓って恥ずかしがりやだし、そういうことできないかなぁ。」
「ねぇ。夏紀。萌。これに書いてあったこと絶対に安希と綾に話さないでよ。」
目を合わせようとしていないのは変わりない。
「分かったよ。」
「言う気もないし。」
「それより、安希と綾が帰ってくる前にそれどこかにしまったほうがよくない。」
「・・・。」
というと黒崎は自分の机に置いてある教科書の中に紛れさせて、カモフラージュした。
「はぁ。見つかるとは思わなかった。」
「だって。あれやり方書いたノートだって思ったもん。」
「・・・。」
「普段からあれ描いてるのか。」
「あまりそのことには触れないでよ。」
と言ったところでまず磯部が戻ってきた。ここでこの話は終了。もし自分も絵がうまかったら電車の絵に交じってこんなこと書いていたのかもと考えが浮かんだ。
それから数日後。テスト期間に入る。テストは難なくクリア。それからまた部活動が始動する。ここからは臨地研修の詰めの話に入っていく。その話し合いで工程は8月2日から4日の3日間に決まった。だが・・・。
「ちょっと、昨日ホテルを予約しようと思ったんですが、私たちが行くときはねぶた祭りの関係でホテルが取れないということです。」
アド先生は重い口調でそう言った。
(何。)
話によれば、僕たちがいく8月2日から4日にかけて、青森では東北三大祭りの一つであるねぶた祭りがおこなわれているとのこと。それに伴い青森市内のホテルはほとんど予約され、20人くらい一括でとれるホテルが一つもないのだという。
「マジかよ。」
「それで、さすがに青森で野宿するというわけにもいかないので、夜行バスを使いたいと思うんですよ。」
(出た。夜行バス・・・。)
「・・・。」
全員から出てくる言葉が消えていく。消えていく。本当ならホテルをとって14時間電車の中に乗っているはずだった。夜行バスに乗るんだったらこれが・・・。初の東北新幹線の乗車もかなわなくなる。
「翼死んだな。」
潮ノ谷が柊木に話しかける声が聞こえた。
「サイアクー。なんであんなのにつき合わされなきゃいけないんだよ。」
「べ・・・別に青森まで行けることには変わりないんですからいいじゃないですか。」
新発田が元気づけるように話しかける。
「何も考えない人がうらやましい。」
「・・・。」
なんとなくその意味は分かる。僕だって電車に乗るときは気になるのだ。特に同じ車両に何回も連続で乗った時いい加減にしてくれないかと車両に言いたくなるくらいだ。だが、その中には当然乗っていて飽きないものもある。
「うわー。夜行バス死ねよ。」
潮ノ谷は朝風を止めようとするが、他の人に伝染する。
「また、あのエンジンうるさい。」
「おっさんのいびきがうるさい。」
「いいことなんてないな・・・。」
「あれでいいことのある方がすごい。」
夜行バスで思い当たる文句を留萌、佐久間、木ノ本、空河が続けた。
携帯アクセス数がなかったりする日があります。ある日も中にはあるのですが、読んでくれないというパターンが多いです。アクセスしたのも何かの縁だと思って読んでくれないかなぁ・・・。