66列車 激怒
潮ノ谷が入部して6日。5月6日。今日は学校のハイエースに荷物を詰め込み終了。そして、翌日・・・、
「じゃあ、気を付けて帰るように。さようなら。」
2年6組担任鳥栖先生の短いホームルームを経て、僕は教室の外に出た。
「永島。今日は個人個人でクリエイトに行けばいいんだよねぇ。」
木ノ本が聞いてきた。
「ああ。」
僕はその問いに移動しながら答える。一番早く発車するバスは23分。今の時刻は15分。発車まではあと8分あるが、バスはこんなの無視してやってくる。もたもたしてると乗り遅れる。そして、同じ岸川に通っているバスグループで混んでしまう。
昇降口を出て、門の外までダッシュ。門を出て左手すぐのところにあるバス停に着いた。バス停の隣には今どこにバスがいるのかという表示が出ている。バスは今このバス停の前ととうバス停の間にいる。すぐにその姿も視界にとらえた。
バスはバス停に止まろうとしているところでドアを開いた。
「市役所経由、浜松駅行きです。整理券をお取りください。」
バスで通学している人には聞きなれたアナウンスが流れる。乗ったのは僕を入れて6人。その6人が乗車し終わるのを確認してドアが閉まる。後から来た人はもちろん置いてけぼりだ。
市役所までコマを進めて、そこで降りる。この次は歩くだけ。目的地のクリエイト浜松は前述したとおり遠州鉄道遠州病院駅の近く。そこまで行くためにはバスを使ってもいいが、この場合は歩いたほうが早いし、歩くのは別に苦痛なことではない。市役所バス停を降りて右側に歩きだし、最初の交差点を左に曲がる。そのあと道は少し下る。この位置から遠くを見てみると遠州鉄道の高架橋が見えた。
「永島先輩。」
後ろから呼ばれた。その方向を向いてみると見慣れた顔が4つある。柊木たちだ。
「永島先輩早いですねぇ。」
柊木は僕によって来るとこう言った。
「永島。翼。」
また後ろから呼ばれる。今度は木ノ本だった。言ってなかったが、さっきバスで浜松城公園付近で抜いたのだ。
「木ノ本先輩自転車こぐのに必死でしたね。」
「なんだと。そういうこと気づいてたなら、先輩に大丈夫ですかとかって声かけるのが筋ってもんだろ。」
木ノ本はそう言いながら柊木の首を絞めた。
「ちょっと木ノ本先輩やめてください。」
「・・・。榛名先輩も冗談はそこまでにして早くいきましょう。」
隼が促して、クリエイトまでの道を急ぐ。木ノ本は先に自転車でクリエイトのほうまで行った。
ついてみると何とやらだ。確かに遠州病院の近く・・・。遠州病院を降りて、左手すぐ。そこがクリエイト浜松だった。
荷物の搬入口でハイエースの到着を待つ。今日アド先生の7時間目の授業はない。到着はすぐのはずだ。待っている間に佐久間、醒ヶ井、箕島が到着。留萌は今日死んで(休んで)いるらしい。そのため来ていない。
しばらくしてハイエースが到着する。搬入口の奥のほうへつけて、僕たちが荷物をスムーズに中に運び込めるように車を止める。車が止まるのを待って僕たちは運ぶ作業に取り掛かった。この箱はすべてコンテナ輸送のために補強工事を行っている。特に「上野駅」の入った木の箱とピザ(コーナー)の入った白の箱は横化後ろ側に気の板が貼ってあって補強してある。この前よりも持ちづらくなっているのだ。
まずその箱を中に運び込む。まず細い通路を通ってその次に建物と建物の間にある入口を通り、ホールらしきところに運び込む。数段の階段があってその中に置くのだ。ここのホールはそんなに広くはなさそうだ。西側はバリアフリー対応のスロープが付いていて、東側の端にはピアノが置いてある。そしてスロープと東側の壁には所狭しに椅子が配置されている。そんなところだった。そのあとは休んでもいられない。木の箱が終わったら次は白いケースの入ったモジュール。それを運び終わったら次は学校で考えた配線をしなければならない。それと並行して、2階から机を運び出す。机の収納頃に乗っかったまま1階のホールまで運び、そこで机を出す。それが完了したら、配線だ。
まず「上野駅」を出す。この「上野駅」は4枚のモジュール。これの位置を決めて配置を行う。
「上野駅がそこに来たから、その反対側が「青木海岸」でいいのか。」
箕島がつぶやいて、
「柊木。そこの白いケースの中に入ってるモジュール出して。」
と指示を出した。でも柊木はどれがどれだかわからないらしい。
「えっと。これと、これと、これと、これ。」
僕が位置を示した。
「はい。分かりまし・・・。」
柊木は何か上のもので頭を閊えていた。
「僕が運びます。」
潮ノ谷が手を伸ばして、言われたうちの二つを運んで行った。
「あとはこれも運んでって。」
北石にも指示を出した。
「永島先輩。ちょっとここお願いします。」
隼に呼ばれた。
「何。どうした。」
行ってみるとモジュールとモジュールとつなげる作業をしていた。だが、その高さが違うそうなのだ。
「分かった。まかせろ。」
その場所を変わって連結作業に入る。他のところはモジュールを大体つなげ終わっているか仮置き状態である。ここにはもうフィーダーが埋め込まれていることから作業を進行してもいい。
「はー。」
声を上げて、モジュール同士をつなげ合わせる。だが、一声だけではつながってくれない。
「この野郎。つながれボケー。」
さらに言葉を続ける。しかし、まだつながってくれない。
「こらぁ。物体のくせに。反抗するんじゃねぇー。」
「うるさいだろ。ちょっと黙れ。」
(黙れ・・・。)
その言葉に僕の声が消える。衝撃だった。ふと顔を上げると佐久間がこちらをにらんでいる。
「ちょっと黙れよ。ここに来てるのは俺たちだけじゃねぇんだよ。ちょっとは時と場合を考えろ。」
と言ったのはここに他の部活動や生徒会のメンツも来ているからだ。
「ああ。」
僕は佐久間をにらみ返す。やっていることは小学生レベルなことも分かっているが・・・。
「なんだよ。それのどこが悪い。」
「悪いじゃなくて・・・。お前も高校生ならわかるだろ。時と場所位わきまえるってことが。」
分からないことはない。だが・・・。
「・・・。」
言い返す言葉が見つからない。しばらく口を強くつぐんでいた。
「佐久間の言うとおりだ。ちょっとは考えたほうがいい。お前が声出したいのは自由だけど、一緒にいる俺たちが恥ずかしいんだ。そういうことちゃんと考えろよ。」
箕島が口を開く。
「・・・。」
「しゃべるななんて言わないよ。でも、しゃべるならもっと声を抑えろって言ってるんだ。」
(しゃべるなら・・・。抑えろ・・・。)
一番聞きたくない。
「やめろ。」
佐久間が続けようとしたのかはわからない。いや、分かりたくもないと思った。もし言いだすのなら、僕はその言葉を遮ったことになる。
「分かったのか。」
「・・・。分からないわけじゃない・・・。でも、分かりたくもない。」
「なんでだよ。なんで分からないんだよ。」
佐久間は僕の胸ぐらをつかもうとする。
「やめろ。お前の顔なんか見たくもない。それに、いまこんなことやったらダメだろ。」
言葉を続ける。だが、向こうを引き下がろうとしない。何十秒間がそのままいがみ合っている状態が続いた。
このままいがみ合っていても仕方がない。全員元の仕事に戻って作業を再開する。
(なんだよ。なんでここであんなの思い出さなきゃいけないんだよ。あいつのことは思い出したくもない。)
記憶の中にある古い引き出しが開けかかっていた。僕はそれを必死に閉めようとしている。小さい子にありがちなことらしいが、それはどうでもいい。この後気持ちが乗らないままだった。準備し終わって、今日の部活動は終了。すぐに遠州病院にホームに駆け上がり、電車を待った。すぐに来た車両は1000形。第3編成。朝は2004だったからこれでもいいかと思い乗車する。乗車していつもの位置に行こうとしたが、そこには先客がいる。その人がこちらを向くと・・・。
「よーす。蒲谷。」
と声をかけた。蒲谷は小学校中学の同級生。実際に同じクラスになったのは6年生の時。その時には学年中に僕イコール鉄道少年で通っていた。蒲谷は隠れ女子鉄だった。そのためよく萌と話していたということもあった。
「ナガシィ君。久しぶり。」
彼女はそういうと占領状態にしていた前方を見ることのできるスペースを半分くらい開けた。
「ありがとう。」
そう言って荷物を置く。
「ナガシィ君にいいもの見せてあげる。」
と言って彼女はカバンの中に手を突っ込み何かを探す。目的のものが見つかったらしくそれを取り出した。取り出したのはアルバムだ。
「これ。ナガシィ君ならほとんどわかるよねぇ。」
ぱらぱらとページをめくる。するとその意味が分かった気がする。時折見たことないものが混ざっているだけだ。中には「ドクターイエロー」など分かりやすいものもある。
「あっ。223系だ。」
「それわざわざ選んでとってきたんだよ。ナガシィ君が好きなのって1000番台のほうだよね。」
「ああ。でも、「かもめ」は撮ってきてないんだな。」
「・・・。いくらあたしの名前がかもめだからってそんなギャグにはしないわよ。」
「・・・。」
普段だったら弾む会話なのだが・・・。
「どうした。なんか嫌なことでもあったのか。」
蒲谷は僕の顔を覗き込んだ。
「別に・・・。」
「そんなわけないだろ。萌が言ってたけどナガシィ君はよく顔に出るって。」
「そのつもりはないんだけどなぁ。」
「何あったか吐きなさいよ。」
「・・・。」
しばらくお互い見つめあっているだけになった。言いたくないということを察したらしく、
「昨日さぁ、「さくら」撮ってから学校行こうとしたら遅刻しそうになった。」
と話題を変えた。
「何してから学校いことしたんだよ。」
「いやぁ、だって「さくら」って8時08分でしょ。これくらいしないと撮れないなぁって思って。」
「で、学校には遅刻しそうになったってことは間に合ったんだよなぁ。」
「うん。8時29分に学校に着いた。それから教室に飛び込んだのが8時31分で・・・。」
「完璧遅刻じゃん。」
「でも、先生いなかったから助かった。」
「ふぅん。でも、その写真こんなかには・・・。」
「カメラで撮ったんじゃないって。携帯で撮ったの。見る。」
「うん。見せて。」
写真は見せてもらったが、乗らないというのが本音だった。蒲谷の持っているスマートフォンには他にもいろんな鉄道写真が収められていた。
翌日。5月8日。クリエイト展。
「永島。E231系内回りに出して。」
箕島からその箱を受け取る。
「ああ。」
箕島からE231系「山手線」の箱を受け取る。気が進まないままに並べる。
並べ終わるとさっさと走る車両を変えて、今まで走っていた313系5000番台を片付ける。
「・・・。」
(昨日より静かだけど・・・。)
箕島はちょっと引っかかっていた。昨日永島は「分かるけど、分かりたくもない」と言ったのだ。分かりたくもない割にはちょっとおとなしすぎる。まぁ、この方が自分たちにとっては都合がいいのだが・・・。
「今日はクリエイトで展示やってるって言ってたなぁ。」
2004を降りて独り言をいう。自分の携帯を開いてみると時間は10時00分。もうやってるよなぁと思い歩みを進める。
入り口から入って展示を行っているほうに足を運ぶ。
「ナガシィ。」
駅の近くにいた永島に声をかけた。
「ああ。萌。来てたのか。」
永島から返ってきた言葉はそれだけだった。いつもこれぐらいの言葉しか返ってこないが、今日は冷たすぎる。
(絶対何かあった。)
あたりを見回して木ノ本を探す。
(いた。)
彼女は駅の反対側のほうにいた。そっちに回って、
「榛名。ちょっといい。」
おもむろにそう言った。木ノ本はほかの人に断わって、ついてきてくれた。もちろん呼び出された方としては何か気になる。それを問うと、
「何したの。」
とまず返ってきた。
「ナガシィに何したの。」
強い口調でもう一度言う。このとき坂口の頭の中には小学校の時のある出来事が思い出されていた。
今回からの登場人物
蒲谷かもめ 誕生日 1993年7月1日 血液型 AB型 身長 168cm
これのルビ機能のルビの付き方に腹が立ちます。
個人的後書きですみません。
永島がすごく子供なのは作者が子供だからです。いつでも子供的考え方って必要なときありますね。特にストーリー考える時とか。