64列車 戻ります
翌日。
「北石。お前部活登録届だした。」
柊木がいきなり聞いた。柊木からしてみればちょっと気になったからだ。
「えっ。・・・。まだ出してないけど。」
「お前って他の部活にでも入ろうって思ってるのか。」
「・・・。」
これの回答には正直困った。そうしたいと願っている自分もいればそうしてほしくないと思っている自分もいる。あのまま先輩たちに流されるような部活でいいのだろうか・・・。
「俺は北石も部活に入ってくれたほうがいいなぁ。」
ふと顔を上げる。柊木は机の上に肘を置いた。
「だって北石がいてくれなかったら将来部長になるの俺だろ。」
これにはあきれた。
「お前。そのためだけに俺に部活に入ってほしいのかよ。」
「ウソ。今のは冗談。ただ、お前も入ってくれたほうが楽しいかなぁって思っただけ。」
(・・・。楽しいかぁ。)
柊木から少し目をそらす。確かに。他の部活動はただきついだけ。中学の時にいた陸上部もやりたくない。自分に残されている選択肢はこのまま部活に入らないこと。しいて言うなら帰宅部に入部すること。それと・・・。
「分かったよ。翼がどういう理由で俺に来てほしいかはよく分かった。でも、俺が行ったからって後でその理由を突き付けてくることだけはやめろよ。言ったらただじゃおかないからな。」
「・・・。」
(ふぅ。よかった。)
内心そう思った。
それは昨日だった。
「北石って言う子部活登録したのかなぁ。」
「さぁ。あれから何も音沙汰ないしそうしたんじゃないの。」
「でも、そうは思えないんだよなぁ。」
留萌がつぶやいた。
「あいつにはなんか同類って言う感じがするんだよねぇ・・・。」
と言っていた。
(同類かぁ。確かに。俺が一番最初にあいつを見たときも・・・。)
そう思ったからだ。
北石は書類挟みの中から部活登録届を出した。
「今書けよ。」
柊木がすかさずせかした。
「いわれなくても書くよ。」
北石からはちょっと怒り気味の反応が返ってきた。
(鉄研かぁ。最初入りたい部活って思ってたのに・・・。でも、これでよかったのかなぁ。)
北石はその後山科先生にそれを提出した。
放課後。久しぶりに部室に赴いてきた。
「北石。」
その姿を見て全員で迎える。
「やっぱり鉄研に入りたいって思ってたんだ。」
留萌がつぶやいた。
「・・・。2・・・2年6組の北石正斗です。よろしくお願いします。」
「そんなに固くなるなって。」
僕が口を開いた。
「もうちょっとリラックスしろって。リラックス。上下関係とか気にしなくていいからさぁ。」
まぁ。上下関係を気にするなというほうが無理だろう。
「・・・。そこははっきりさせておきべきだと思いますね。」
とツッコんできた。
「まぁ、まず座れよ。荷物おいて。」
ハクタカ先輩が促して長椅子に座らせる。
「部長の鷹倉俊也。よろしく。」
「・・・。」
「そして、副部長の楠絢乃。2年生の箕島健太。醒ヶ井瑛介。木ノ本榛名。留萌さくら。そして、永島智暉。」
(永島・・・。)
「あの。」
北石がハクタカ先輩が続けようとした言葉を遮った。
「もしかして、遠江急行の・・・。」
「えっ。うん。そうだよ。」
(そういえば。こいつ金持ちだったなぁ。)
(意識しないと忘れちゃうのよね。)
(去年は鼓膜が破けるかもって思ったなぁ。)
「やっぱり。中学どこ出身ですか。」
(どっかで見たことある顔なんだよなぁ・・・。眼鏡かけてなければ・・・。)
「伊奈中だよ。」
「やっぱり。」
北石は感激したわけではないが何か嬉しく感じた。
「僕も伊奈中出身です。これからよろしくお願いします。永島先輩。」
「へぇ。世の中ってやっぱり狭いな。」
(会いたくないやつと会っちゃった・・・。)
それからしばらくして・・・、
「うーん。北石。あんまり俺のことは・・・。」
「分かってますよ。言いふらさなきゃいいんですよね。」
「いや、そうじゃなくて。同じ中学でないほうがよかった。」
「・・・。」
北石からはしばらく回答がなかったが、
「分かりました。別の学校であるようにふるまっておけばいいんですね。」
どうやら通じたらしい。
「今年は6人かぁ。理想の2倍だし。まぁよかったのかなぁ。」
ハクタカ先輩がつぶやいて、自分の荷物が置いてあるほうに歩いていく。
するとドアが開いた。久しぶりに見るアド先生の顔である。
「今年は理想の2倍入ったよ。」
その顔を見てハクタカ先輩がつぶやく。
「あっ。そんなに入ったの。」
と言ってアド先生は持っていた紙を新入部員に渡した。活動表だ。
配り終わるのを見計らって、
「その通りにやったためしがないぞ。」
後ろでだれかが言う。
「諫早君。それはどういうことだね。」
「間違ってないじゃん。この通りにやったのが何回あるって言うんだよ。」
確かに。その通りなのだ。予定表に忠実だとあとで痛い目に合う。
「それダメじゃないですか。」
北石がツッコむ。だが、そのツッコミは意味がなかった。
「大丈夫。そういうところルーズだけど、こういう部活だから。」
僕は後ろから北石に耳打ちした。
このあと1年生はステージのほうに案内されてモジュールづくりの手ほどきを受けた。去年僕たちがそうしたように。1年生ながらすぐにモジュールを一個作らされるわけだが、作らなければ関係のないことだ。
その間僕たちは部室の中にいた。
「いやぁ。今年は善知鳥先輩がいなくて助かったには助かったよ。」
「どういう意味ですか。」
木ノ本が尋ねた。
「榛名。ちょっと耳かして。」
楠先輩は木ノ本の耳に顔を近づけ、手を添える。
「・・・。」
「えっ。そんなことしろって言ったんですか。」
「うん。コスプレよりも強烈でしょ。やってるあたしたちが恥ずかしいよ。」
「・・・。そういう先輩がいるときに入らなくてよかった。」
「本当・・・。」
その頃・・・、
「おい。俺たちはポスターはがしに行くぞ。」
「えっ。」
「4月20日過ぎてもポスター貼ってあると生徒会から「バカたれ。」って文句言われるんだよ。だから行くぞ。」
「バカたれ」のところだけ裏声だった。
「はい。」
男衆で学校のポスターをはがしに行く。
ポスターは至る南棟のいたるところに貼ってある。それを一つ一つ丁寧にはがしていく。ハクタカ先輩が言うには来年も使えるようにするためだ。
貼ってあるポスターに爪を立てて紙の裏に指を入れる。そして、メンディングテープが貼ってあるところまでスライドさせて、壁からはがす。取ったポスターのメンディングテープはそのまま折りたたんで、他のポスターとくっつかないように処理をする。
「何人でもやるとはけが早いなぁ。」
ハクタカ先輩はそうつぶやいていた。
部室に戻ってきたら、ハクタカ先輩のそのポスターを引き出しの中に入れた。
「絶対忘れられそうだけど。」
楠先輩が言う。
「大丈夫だよ。誰かが覚えててくれれば。」
「あっ。じゃあ、僕が覚えときます。」
箕島がそう言って、このことは解決した。
それから数分後。今日の活動は終了したため、解散になった。
「北石が同じ中学とは思わなかったなぁ。」
「えっ。その話は・・・。」
「いいよ。俺たちだけなら。」
「・・・。永島先輩。僕疑問に思ったんですけど、部室にいた人数足りませんよねぇ。」
北石が疑問をぶつけてきた。
「ああ。あんまり部活には来ないけどもう一人佐久間って言う人がいるから。」
「なるほど。」
これだけではすぐに会話が終わってしまう。
「北石。お前何か詳しいものでもあるのか。」
「えっ。僕はディーゼルカーのことならよく分かります。」
「ディーゼルかぁ。前いた先輩の中にSLに詳しい人いたからその人とだったら少しは話が合ったかもなぁ。」
「今でも十分話は合ってますって。」
すると後ろから僕たちを呼ぶ声がした。振り向いてみると柊木と隼だ。
「なんだ。お前らもこっちなのか。」
北石がそう言った。
「なんだよ。俺たちはこっちに帰っちゃいけないのかよ。」
「そんなことねぇよ。」
「・・・。柊木も隼もどこに住んでるんだよ。」
「僕は高島に住んでます。」
「私は小楠に住んでます。」
二人とも遠江急行か遠州鉄道でしか来れないところだ。
「へぇ。ってことは俺たち自動的にあれで帰ることになるのか。」
と言ってから歩き出した。
遠江急行の涼ノ宮まで来ると、
「あれ。永島先輩、遠江急行で帰るんですか。」
「うん。そうだけど。」
それを聞いたら北石はさようならを言って遠州鉄道のほうへ走っていった。
「永島さん不便じゃないですか。」
隼が聞いてきた。
「・・・。でも、チャリがこっちの芝本に置いてあるから。こっちでねぇとダイレクトに帰れないからな。」
と言って簡易的な改札を通る。電車を待って、それに乗って帰った。普段だったら選ぶところだが、今日は朝2000系に乗ってきたので1000系でも許すことにした。
それからしばらく1年生はモジュールの製作。2・3年生はその製作の手伝いに回ることになる。そして、ちょこちょことクリエイト展での準備を進めていった。ここ数日はそれぐらいのことしかやっていない。もちろんその帰りは2000系か1000系かのギャンブル。どれに当てて帰るかでホームで粘るのだ。
最初は戸惑い気味だった北石もだんだん鉄研に雰囲気に慣れてきたらしい。数日たつと北石からは戸惑いの念が少しずつ消えていった。もちろん、最初から溶け込めている柊木や隼たちにもそういうことはあったが北石ほどではなかった。
そして、その感覚に慣れきってから数日。4月30日。今日は部活動の正式決定日。
「柊木。」
クラスの外から柊木を呼ぶ声がする。
それにこたえて柊木がその人のところに行った。
「誰だろう。」
北石は心の中で言ったつもりだったが声になっていた。
「もしかして、翼の彼女かなぁ。」
隼は柊木をにらんだ。
僕にも編集者みたいな人がいたらなぁ・・・。
そうすれば「ここはこうしたほうがもっと面白くなる」とか「これは面白くない」と言ってもらえて心強いのですが・・・。