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MAIN TRAFFIC1  作者: 浜北の「ひかり」
Kishikawa High School Episode:1
60/184

60列車 ずれたバレンタインデー

 その人はこちらを向いた。

「違ったかなぁ。」

何かを確認するように話しかけてきた。だが、元の位置からこちらに近づいて来ようということはしていない。

「・・・。」

返答がないことを察して、

「間違ってはなかったみたいだな。117系ももうすぐ引退なんだよ。皮肉だよなぁ。俺はまだ走れるのに周りがそうさせてくれない。これがあいつにとってどんな意味か。考えただけでああなるのも無理はないって感じかなぁ。」

(半分は合ってるけど・・・。)

その人は伸びをしたら階段のあるほうへ歩き出した。その後ろ姿を見送っていると木ノ本(きのもと)が話しかけてきた。

「何なの。今の人。」

「さぁ。同じ人種としか思えないな。」

「さくらもよく電車の声が聞こえるって言ってるけどさぁ。あれって本当に聞こえるの。」

「・・・。」

本当はそんな声聞こえない。電車が出している音。あれが電車の声であると考えている。だが、そのように聞こえるのは・・・。

「向こうから話しかけてくるっていうのかなぁ。」

一言そうつぶやいた。

「向こうから話しかけてくる。」

おうむ返しに返ってきた。

「電車が出してる音なんて所詮ただの音だけど、私にはそう聞こえるって感じかなぁ。感覚で悲しんでるように聞こえたりするだけだから。」

「・・・。」

もちろん木ノ本(きのもと)にはこの感覚というのは分からない。留萌(るもい)にはわかるこの声はいったい何を意味しているのか。自分に分かるのは留萌(るもい)を通して聞かされるそれだけである。

「・・・。」

「行こう。って言っても浜松(はままつ)まで直通する新快速(しんかいそく)はまだ2時間くらいあるかぁ。まずここ出てまた223系とか撮ってる。」

「また223系。もう飽きるほど見たよ。」

「ですよねぇ。」

とは言ったものの在来線ホームに戻り、時折来る223系1000番台と683系2000番台「特急しらさぎ』の写真を撮っていた。木ノ本(きのもと)は時折来る分からない車両のことを留萌(るもい)にぶつけたりしていた。そんなこんなで16時30分発の新快速(しんかいそく)浜松(はままつ)行きに乗って浜松(はままつ)まで帰った。

 2月15日。

永島(ながしま)。オース。」

「オース。宿毛(すくも)。」

どうやら宿毛(すくも)は僕を冷やかしに来たようだ。

「昨日坂口(さかぐち)さんからとかチョコレートもらったのかよ。」

「もらってないよ。」

こう言ったら宿毛(すくも)は意外そうな顔をした。そして絶対もらってると思ったのにみたいなことも言い始めた。

「もらってないものはもらってないんだから。」

永島(ながしま)もそうだけど坂口(さかぐち)さんって本当に永島(ながしま)のこと好きなのかなぁ。ちょっと怪しいかも・・・。)

 宿毛(すくも)がそう思っている時僕も心の中で考えていることがあった。

(そういえば。俺萌(もえ)からチョコレートもらったことなかったなぁ。・・・。チョコレート以外はもらったことあるのに。他から見たら変なバレンタインだよなぁ。)

 宗谷学園(そうやがくえん)では・・・、

(あずさ)はやっぱり鳥峨家(とりがや)君に・・・。」

「だから渡してないってば。」

顔を真っ赤にして黒崎(くろさき)が否定する。だけど・・・、顔が真っ赤なために説得力に欠ける。

(もえ)は。あの時話してくれた彼氏にでもチョコレートプレゼントしたのか。」

(そういえばしてなかったなぁ。って言ってもナガシィもらえるって期待してるのかなぁ。去年は受験でそれどころじゃなかったし・・・。ナガシィも期待してないよなぁ。)

「あげてないよ。」

(もえ)ってこういうことって結構ルーズなんだよなぁ。)

「・・・。(もえ)。そんな風に雑に彼氏と付き合ってたら彼氏にフラれるよ。」

磯部(いそべ)がふつうのことを言ってきた。

(・・・。大丈夫。ナガシィなら。)

「フラれるねぇ。考えたこともなかったかも。」

(おかしい。ふつうにおかしい。)

(バレンタインデーかぁ。)

 その時僕らは同じことを思い出してたと思えた。それは小学校4年生の時。2月14日。

 その日萌(もえ)は僕の家に来ていた。中学校3年生の時のように僕の家の模型をいじりに来ていたのである。駿(しゅん)兄ちゃんもここによく足を運んできていたが、名古屋(なごや)の専門学校に通うようになってからはここに来ることもなくなった。

「ナガシィ。駿(しゅん)兄ちゃん今日も来てないんだね。」

「昨日言ったよ。駿(しゅん)兄ちゃんは名古屋(なごや)の専門とかっていうところに行ったって。」

その時僕はおそらく100系をいじっていた気がした。

「ナガシィが好きな新幹線(しんかんせん)って何。」

(もえ)がいきなりそのことを聞いてきた。(もえ)はこのときまだ電車に詳しくない。ただ、言動は僕に非常に似てきてはいる。

「100系だよ。」

と言って僕は駿(しゅん)兄ちゃんからもらった写真を(もえ)に見せたと思う。

「分かった。」

(もえ)はそのあとそれだけ言って写真を持ってどっかに行ってしまった。

 10分たっても20分たっても戻って来ない。さすがに心配になってくる。多分このとき心配したのは(もえ)ではなく写真のほうだと思う。もう我慢できないと思って立ち上がった時離れのドアが開いた。

「ナガシィにプレゼント。」

僕は写真をもってどこかに行ってしまった(もえ)を怒ろうとも思っていたかもしれない。だが、それは一瞬にして拭い去られた。(もえ)が持っていたのは画用紙1枚。そこには結構いびつな100系の絵が描かれていた。描いたところは駿(しゅん)兄ちゃんが撮ってきたっていう名古屋(なごや)に止まっているときの100系の写真。100系の向こう側には駅舎らしきものが描きこまれていた。

(もえ)・・・。」

「ナガシィ100系好きなんでしょ。私が一生懸命描いた絵だし下手でも捨てたりしないでよ。」

(もえ)からその絵を受け取った時、

(捨ててたまるか。)

絶対そう言っていた。

 家に帰ってすぐに部屋で私服に着替える。着替え終わったらすぐに離れに行ってその絵の前に来た。

 紙は完全に変色していて、何年も前に描いたものだということを彷彿(ほうふつ)とさせている。だが、100系の絵であることには変わりはない。自分でもよく100系の絵は描いていた。でも、(もえ)ほど画力があるとは言えず、描いても胡散臭(うさんくさ)いだけだった。だが、この絵だけはどんなに下手でも胡散臭(うさんくさ)く思わない。それだけ嬉しかったのだろうか。

「なんで昨日じゃなくて今日なんだろうな。」

思った日が1日ずれていたことを悔やんだ。

 ふと思い立って僕は模型部屋の中を探し始めた。目的は駿(しゅん)兄ちゃんからもらった100系だけの写真のアルバム。確かこの部屋のどこかに置いてある。

 長机の下。部屋においてあるコントローラーがのっかっている机の下。ポイントコントローラーの傍ら。車両庫。いろんなところを探してようやく見つかった。アルバムも何度も目を通していたため表紙には白い筋がいっぱい走っている。

 その表紙をめくってみた。一番最初に出てくるのは100系の写真。その写真を取り出すと「1994,3,11」という数字が写真の裏。右下に書かれている。これは僕が生まれたまさにその日に撮られた写真である。その次の写真の裏は「1999,8,16」これは引退が近づいた0系とのツーショット。0系のほうは鼻に「長い間ありがとう」という文字がおどっていた。写真をもとに戻して次のページをめくってみる。左上の写真には右下に「2000,3,11」。この写真は新大阪(しんおおさか)駅で撮ったもの。駿(しゅん)兄ちゃんは人が多すぎて取るのが大変だった。と言っていたはずだ。

 この後の写真は結構曜日が詰まっている。それだけ高頻度で浜松(はままつ)駅か天竜川鉄橋(てんりゅうがわてっきょう)に通っていたそうだ。もちろんそこ以外の場所で撮られた写真もたくさんある。そしてこのアルバムの最後の1枚が・・・。

「懐かしいなぁ。」

ちょっと声に出した。駿(しゅん)兄ちゃんはこの日僕たちを浜松(はままつ)駅まで連れて行ってくれた。その時に撮られた1枚だ。日付は「2002,3,11」。僕の隣に写っているのは小学校2年生の時の(もえ)だ。その僕たちの後ろには100系が写っている。列車は駅に停車しているが編成までは分からない。下のひげのような部分がないからG編成だろうとは思う。

 何かに導かれるようにその写真をアルバムから出してみた。1枚目や2枚目と同じように裏面を見てみる。

「誕生日おめでとう」

 裏にはそれだけ書かれているだけだと思ったが、それだけではなかった。逆にこの文字が色ペンで書かれていたから余計目立ったのかもしれない。その隣に鉛筆で、

「将来の結婚相手」

と書かれていた。

 これには正直顔が赤くなった。それを自分でも感じる。

駿(しゅん)兄ちゃん・・・。」

(でも・・・将来の結婚相手かぁ。)

もしかしたらそうかもしれない。今萌(もえ)以外に彼女がいない僕にはそう思えた。

 そのあとそのアルバムは忘れないように車両庫にある引出しの中にしまっておくことにした。その場所はピンセットなどが置いてある引き出しの中で使っていないところである。

 それからというものまた同じような調子で日々が過ぎていった。

 3月11日。今日はナガシィの誕生日である。

「お誕生日おめでとう。」

携帯(ケータイ)を確認してみたら(もえ)からこのメールが届いていた。

(そういえば。10月3日にメールするの忘れてた・・・。)

重大なことに気付いた。いくらなんでもこれはひどい。もしかしたら怒ってるかもしれないと思った。

「ありがとう。でも、10月3日に誕生日おめでとうっていうの忘れててごめん。本当にごめん。」

(こんなことじゃ許してくれないだろうな。)

そのメールを見て思い出した。

(そういえば。ナガシィの誕生日のことは覚えてたけど私の誕生日のことなんてすっかり忘れてたなぁ。)

と思うとふと笑えてくる。

(なんでだろう。私にはナガシィみたいに本気で打ち込むものがないのに自分の誕生日忘れるなんて・・・。)

でも、この日親は自分の誕生日のことを祝ってくれていた。何か忘れる要因でもあったのだろうか。それともナガシィは私の誕生日を忘れるほど鉄研部に没頭していたのか。

「そんなこと心配しなくていいよ。ナガシィにはそれほど本気になって打ち込めるものがあっていいね。」

(本気になって打ち込めるものかぁ。)

 なぜか離れていても今思っていることは同じようなことに思えた。


このレでようやっと高1編終了です。いやあ長かった。書くのが大変でした。


なお、このレで出てきた撮影家は大阪に住んでいるという設定ですが、僕が知っている方言が関西弁だけ。しかも、そこの人にはなりきれないということで、これから出てくる人(東京都の人を除き)はそこの方言ではなく標準語で通したいと思っています。


・・・。もうちょっと文才に長けていれば・・・。

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