6列車 彷徨い娘
部室の窓を割るほどの絶叫が5秒間続いた。
「マジ。ていうかふつうそういう人って北星とかに行かされるんじゃないの。」
「行かなかったんだろ。あすこは完全な進学校だし。」
「そりゃあ置いといて、なんでそう・・・ってさっき言ったか。」
「でも、ナガシィってそういう風に見えないよね。」
「いや、あの性格でそう見える方がすごいと思う。」
「もうその話やめればいいじゃないですか。同じ部員なんですから。そういう目で見ない方がいいですよ。」
楠がこの話を辞めさせてからはいつもと同じバカ騒ぎに戻った。なお、この部活のクオリティーはバカ騒ぎにある。
その頃運動場のほうでは・・・。
「友紀はソフト部でしょ。私もソフト部に入ろうかな。」
「そう。留萌は入ろうって思ってるんだ。木ノ本は。」
「えっ。まだ迷ってるけど・・・毎日練習はきついなぁ。」
「おい。中学のときだってそうだろ。だいたい運動部なら毎日練習しないとダメでしょ。」
「榛名が言いたいのは中学の途中から部活来なくなってたし、続けられるかどうか不安ってことでしょ。」
「それもあるけど・・・。」
(入るか入らないかは別として一度鉄研部も見に行ってみるかなぁ。)
ソフト部が練習する風景はもはや白黒でしか映っていない。色づいて見えていたのはオープンキャンパスで鉄研がやっていたあの展示だった。ただ、女の子が鉄研に入っていいのだろうか・・・。その口論が続いていた。
翌日。
「永島。ノートやってきたか。」
「昨日言ったじゃん。やる気ないって。」
「いや、いちばん最初ぐらいはやっといたほうがいいって。1か月くらいやってゴールデンウィークのあたりから面倒になりましたって言えば通るって。多分お前だけだぜ。1日目からやってないっていうのは。」
「・・・。」
ちょっと心配になったが、そうでもなかった。逆にやってある人のほうが珍しかったぐらいだった。
「出して損じゃないのか。宿毛。」
「いや。損とは思ってない。でもあれやるのは骨がいるってことは分かった。書くスピード速い俺でも2時間はかかったぜ。さすがに90行はきついなぁ。」
「そんなこと言わないで。よけい痛みがひどくなる。」
その放課後。
(鉄研かぁ。)
壁に貼り付けてあるポスターを見てふと思う。そう言えば岸川に来てから鉄研のこと以外正直考えたことがない気がする。
(女の子でも見に行っていいんだ・・・。よし。)
心をきめてポスターが指示する部室のあるところまで行ってみることにした。だが、体育館のところまで来て足が止まる。ここに来るとバスケット部の目がある。鉄研を見に来たと思われたくないというのも少しある。
すると、今来た方向から一人走ってくる人が見えた。矢のごとく自分の前を通り過ぎて、ドアノブに手をかけた。
(鉄研部員・・・。)
その人からは何かと自分と同類のような気配がする。思い切って声をかけてみた。
「ねぇ。君、鉄研部員。」
顔をこちらに向ける。
「そうだよ。・・・見学に来たの。」
とりあえずここははいと返事をする。そうでなければここに来た意味がない
「そう。じゃあ、昇降口で靴替えてくれば。そうすれば、ダイレクトで帰れるから。」
「・・・分かった。替えてくるけど、私部室の場所分かんないんだけど。」
「分かった。戻ってくるまで待ってるよ。」
待たせては悪いと思いすぐに皮靴に替えて戻った。戻るとさっきの人が約束どおり待っている。その後はその人に促され、靴をスリッパに替えて、バスケット部の隣を通ってステージ裏の通路を通って階段を上がる。左側のドアに手をかけて開けようとすると鍵がかかっている。
「開けんの面倒くせぇなぁ。」
独り言を言って、その場に座った。しばらく立ったままでいたが、
「ねぇ。カギ取りに行かなくていいの。」
「そのうち先輩が来るって。それまでこのままでいいよ。」
するとその先輩が来た。先輩もまた面倒くさいと言ってその場に座る。次の人もそうだ。誰か取りに行く人はいないのだろうか。すると下から怒った声がする。その声を聞くと先輩の一人が腰を上げて、ドアを開けた。
部室内に入ると携帯電話使い放題。同じ一年生と思われる人は木の棚のほうから車両を取りだして、机の上に置かれているモジュールで遊び始め、他の人は携帯電話をいじるかPFPでゲームをし始める。
「よーす。皆。」
後ろからすごく大きな声だ。ただ、今後ろから入って来た人は男子ではない。女子の声だ。
「おお、新入部員。これでナガシィとユウタンと合わせて3人目かぁ。」
「えっ、マジ。」
「サヤ先輩今気付いたんですか。」
「しょうがねぇだろ。こいつはスゲェ鈍感なんだから。」
「まだ部員になるとか限らないです。今日は部活見学に来ただけみたいですから。」
「へぇ。でもうれしいよ。名前なんて言うの。」
「木ノ本榛名です。」
「榛名ちゃんかぁ。で、ちなみに榛名ちゃん電車好き。」
「・・・まぁ、少しは。」
「へぇ。あたしは電車全く分からないけどよろしく。善知鳥茉衣よ。それで、そこでゲームやってるのがこの部活の部長の北斎院大智で、奥で携帯いじってるのが綾瀬健斗で、もう一人携帯いじってるのが・・・。ねぇ、サヤ。ハクタカって名前なんだっけ。」
「3年生分かってて2年生分かってないってなんですか。鷹倉俊也です。」
少々あきれ気味になっているのは分かる。
「それで、そこで遊んでるのが、同じ1年生の永島・・・。」
「智暉です。」
「そう。智暉君だ。」
(なんてハイテンションな部活だよ・・・。)
「まあ、部員は後2人いるんだけどねぇ。今日ナヨロンとアヤノンとユウタンはどうした。」
「ナヨロンは補修。」
まずアヤケン先輩が答える。それに続けてハクタカ先輩が、
「絢乃は日直。」
と答えた。
「じゃあ、来るっていうことだね。」
「佐久間は帰ったと思います。」
「帰ったって。面白いのに帰るなんて本当にやなやつだな。」
「まったくだ。この部活に来なくて何が面白い。」
「そこまでいう人はごく稀だと思います。」
「そうか。」
「ぼ・・・僕の場合は家でも十分楽しいですけど。」
「それはそうだろうな。」
振り向いてみるとそこにいたのはナヨロン先輩だ。
「あれ、ナヨロン補修じゃないの。」
「補修だけど、その道具ここに忘れてったみたいで探しに来ただけ。」
「多分、これだろ。はい。早くしないと補修に遅れるぜ。」
サヤ先輩がその補修道具をナヨロン先輩に手渡す。
「大丈夫。もう間に合うとか思ってないから。後、これサンキューな。」
その後楠先輩も合流。僕は昨日と同じ6時くらいまで遊ぶ。6時になると時間だと言って帰ろうとした。見学に来た木ノ本もほぼ同時に帰ると言った。
部室を出て、足早に階段を下りる。
「永島君。ちょっといい。」
まだ部室のドアの前に立っている木ノ本に止められる。
「いいけど、何。」
「私って・・・鉄研に入ってもいいと思う。」
(なんじゃそりゃ。)
今回からの登場人物
木ノ本榛名 誕生日 1993年8月13日 血液型 O型 身長 160cm
室蘭友紀 誕生日 1993年7月1日 血液型 A型 身長 162cm
留萌さくら 誕生日 1993年7月20日 血液型 A型 身長 157cm
こういう感覚って書きづらい・・・。
思い切って女子鉄も出してみました。