56列車 やってます
11月1日。暁フェスタ当日。今日はその1日目。暁フェスタは2日をはさんで3日にもある。
「内回りは223系の1000番台。新快速12両でいい。」
「いやまだ早い。313系の新快速8両が妥当だろ。」
と話している。その相手は留萌だ。この中では留萌が一番鉄道に詳しいという位置づけになった。ナヨロン先輩が抜けたからだ。今日はそのナヨロン先輩も来ていない。進路のことで忙しいのだろう。来ている先輩は善知鳥先輩と2年生だけ。サヤ先輩たちは遊んでいるみたいだ。その代りと言っては失礼だが、青木さんが手伝いに来てくれている。
新幹線の周回のほうはというと・・・、
「通りづらいなぁ。」
机の下を通りながら醒ヶ井がつぶやく。
「分かりました。ロケランでそこ吹き飛ばすからどいて。」
「諫早ちょっと待て。いくらなんでも・・・。」
「ああー。300系が走っているところにロケランなんてうてねぇ。」
「おい・・・。」
「あっ。青木さんこれ・・・。」
「ん。ああ。それかぁ。それがどうかしたか。・・・。」
木ノ本は白を基調とし、窓周りに青いラインが入っている車両を持って、留萌がいる周回まで歩いてきた。
「さくら。」
「何。」
「0系。」
「・・・。」
(0系・・・。かわいそうだな。B編成。)
「悪いけど、私はそんな子供だましには引っかからないわよ。それのどこが0系なんだよ。」
車両は丸い鼻に楕円のヘッドライト。そして大きな側面の窓に湾曲した運転室の窓。運転室の窓には5本くらい仕切りが入っている。さらに、下は台車がちょっと見えるだけのところまでおおわれている。一方0系はというと丸い鼻に丸いヘッドライト。側面の小さな窓(もしくは横に広い窓)と中心を頂点に広がる運転室の窓。そして、むき出しの床下機器。ここまで違う。
「えっ。0系じゃないの。」
「確かに似てるけど違う。これは試験車のB編成だよ。」
すると木ノ本は何か思い出したように、
「あっ。あの時いってたB編成ってこれのことかぁ。」
「そう。後これとうり二つのやつがA編成なんだよ。なんでこんな簡単な違いが見分けられないかなぁ。」
「うるさいなぁ。まだ勉強中なんです。」
「さっさと覚えろ。学校の授業じゃないんだから。」
「・・・。」
「まあまあ。それより次走らせるの決めようぜ。」
「次も東海だとしてだなぁ。うーん。じゃあ、117系でも走らせるか。」
「何。イイナイイナって。」
「えっ。117系のおじいちゃんのことよ。あれって0120-117-117になってるじゃん。」
(アメリカンホームダイレクト・・・。)
その頃天竜暁駅構内・・・、
「・・・。」
(久しぶりに見たなぁ。これに見たのは小学校2年生以来かぁ。あのときはこんなの気にも留めなかったのに・・・。地元のわりに影薄いなぁ。)
子供たちを乗せた下が茶色のディーゼルカーが転車台まで進んでくる。今使っているこの転車台も国鉄二俣線時代からのもの。中に積まれた錘によってそのバランスをとり今でも現役で動いている。もちろん今ここで方向転換するのは蒸気機関車ではなくディーゼルカー。時代の流れでそこだけは変わってしまった。
「萌じゃないか。」
と声をかけられる。その方向を向いてみると、
「駿兄ちゃん。」
「文化祭以来だな。」
とだけ言った。駿兄ちゃんも今転車台の上に乗りまわり始めたディーゼルカーに目をやっている。
「小学校2年生のときここに来たこと覚えてるか。」
眺めながら聞く。
「うん。覚えてるよ。あの時は・・・。」
「俺がお前らを迎えに行った。それでお前らに体験運転させたんだっけ。でも、お前らの行動力には少し驚いた。」
「驚いたって。ここには和田山さんに送ってもらったんだよ。」
「知ってるよ。智からそう聞いた。」
と言ってまた転車台に乗っかっている車両を見上げる。電車はいつもホームからの高さでしか見てないから、こんなに背の高いものだとは思わない。3、4メートルになる巨体を見上げた。その窓からは子供たちの楽しそうな顔がのぞいている。それに混じって大人たちも。はたまたその中でカメラを構えている人もいる。ふつうはできない体験だからである。
「早く上に行って智に会ってこいよ。久しぶりだろ。」
「・・・。そうだね。駿兄ちゃんも一緒に行こう。」
「俺がいたら邪魔だろ。お前が出てきたところで上にいくとするよ。」
(・・・。気遣ってくれなくてもいいのに。)
内心そう思いながら、事務所の急な階段を上った。
その頃上では・・・、
「ハルナン。お客さんだよ。はやく撮影してあげて。」
「あっ。はい。」
あわただしく元の位置に戻って暁鉄道の帽子と制服を着た子供を撮影する。
「あっちも忙しいな。」
「・・・。」
「永島。このビデオもう終わったけど。」
佐久間が話しかけてきた。今回の展示ではテレビも持ってきている。結構小さい薄型ではあるが型は古いだろう。そしてビデオデッキも持ってきている。中に入るのはビデオテープではなくDVD。デッキのわりにはしゃれている。そして今終わったといったのは家から持ってきた鉄道のDVD。今は言っていたものには世界の高速鉄道と日本の新幹線のことが流れていた。世界の高速鉄道では代表的なフランスの「TGV」。ドイツの「ICE」。イギリスの「ユーロスター」などなど。日本の新幹線ではおなじみの「のぞみ」、「やまびこ」などが収録されている。
「じゃあ、なんでもいいから適当に流しといて。」
佐久間にそう言って、他のDVDを入れさせ、流す。一番最初に流れたのはバンダイのオープニング。ということは・・・。2000年かそれぐらいの時にあった「のりもの探検隊」というビデオだ。
「トップバッターは新幹線。ってね。」
ふと顔を上げてみれば、
「萌。久しぶり。何しに来た。」
「見にきたにきまってるじゃん。展示やるって聞いたから。」
僕は萌にここで展示があるとは教えていない。それでも遠州鉄道などに張り出されるポスターで分かるか。
(誰。そんなことどうでもいいか。)
「永島。次外にこの諫早の6000番台出すから、内側にお前の1000番台お願い。」
「ああ、分かった。」
自分のカバンを机の下にしまいこんでいる白いケースから引っ張り出し、中の223系1000番台の箱を引っ張り出す。これはちょっと前大阪まで出張してグレードアップしてもらったもの。その本領を発揮するときだ。
「えーと、それどっち行きになってる。」
留萌が6000番台とにらめっこをしながら僕に聞いた。
「米原方面長浜行き。」
「よし。都合がいいね。じゃあ、それを8号車のクモハ223から入れて・・・。」
「12両編成ですけど。」
「・・・。分かった。12号車のクモハ223から入れて、そのあとは分かるよね。」
「ああ。」
僕は223系の箱を開けてまずは4両を線路上に出した。編成はとっても身軽。この4両で運転されるのは関西圏の新快速において長浜・永原以北と。なので長浜・永原~近江塩津~敦賀間はこの4両編成のみが乗り入れる。これだけだと何とも頼りない車両である。
(クハ222+モハ223+サハ223+クモハ223。後ろはちゃんと新快速米原行きになってるのね。)
横に出ている行先表示を見て何もわかってないわけではないということを実感する。
「まだあと8両もあるのかぁ。ここからはまぁ楽だからいいけど。」
姫路よりの先頭車クハ222形を線路上において、先に線路上に出した4両編成のほうへ滑らせる。クハ222形はその勢いでクモハ223と連結する。そのあとは同じように車両を滑らせ、モーターが入っている9号車(モハ223形)だけ連結し終えている車両のすぐ隣において連結。後は残った車両を線路に乗せて連結するだけである。連結が完了すると発車するときを待つだけである。
「久しぶりに見たなぁ。ナガシィの223系。」
「そりゃそうだろ。3月以来お前の前で走らせてないんだから。それに、こいつもお前に会えてうれしいだろうぜ。グレードアップして帰ってきたんだからなぁ。」
その意味はよく分からなかった。
「永島。223系準備完了。」
「ああ。いつでもオーケイだ。」
箕島の問いに答える。
「留萌。そっちの223系は準備完了。」
「オッケー。いつ交代しても大丈夫よ。」
「分かった。じゃあ、次で変えるよ。」
と言って先にホームに入ってきた外回りの383系「しなの」を構内に止める。そして、両方のポイントを変えて、223系6000番台と221系の快速加古川行きを発車させる。それと入れ替わりに来た8両の313系5000番台と300番台の新快速を止めて、ポイントを変え12両の223系1000番台の新快速米原方面長浜行きを発車させた。
萌は発車していった1000番台(223系)を追って歩いて行った。前と変わったところにはすぐに気がついたみたいで、
「ナガシィ。あれライトLEDになってるよね。」
と聞いてきた。
「やっぱりふつうに気付くよな。」
「あんな違い見分けられない人なんていないでしょ。知ってる人以外でも。」
「ハハハ。そうだな。」
(永島の彼女か。結構話もあってるみたいだし。こういうときはそんなに話しかけないほうがいいか・・・。)
真ん中に止まっている「しなの」6両と8両の313系。まずは「しなの」のほうをしっかりと閉まって、次に313系をしっかりしまう。5000番台のほうは全部出払っているから変な心配をする必要がなかったが、300番台が入っている0番台の箱は・・・。
(なんじゃこりゃ。制御電動車のクモハ313の次が中間電動車のモハ313。そしてその次はサハ313で最後がクハ312・・・。311系じゃないんだからこんなカオス編成つくるなよな。・・・。311系でもこんなチンピラ編成つくってないか。確かにクモハ311の次位はモハ310だけど、パンタないもんな。)
さらに注意して観察してみると、
(サハ313の床下が・・・。これはひどい。)
話しかけないほうがいいと思っていたが、これは話しかけないとまずい。
「永島。なんだよ。このチンピラ。」
「チンピラじゃなくて、ゴミな。どうかした。」
「どうかしたじゃないよ。どう思う。この吐き気が出そうな編成。」
編成は留萌の言うとおり吐き気がする編成だ。これがどうやって入っているのかは前述したのでこれの正しい編成を教えよう。制御電動車クモハ313、付随車サハ313、中間電動車モハ313、制御車クハ312という編成だ。
「確かに。吐き気がするな。」
「それに見てよ。これ。」
留萌はそれの2号車を取り出した。僕はその車両を受け取る前に違和感に気付いた。
そのあと、僕はその車両を正しい編成に直し、再び営業に就いた。イベントを開催している間には模型に触ってくる子供も多くいた。ひどい時には走っている車両がすべて横転する事態だった。その被害を被ったのは関西の電車321系だった。そのあとは新幹線の周回がある在来線周回にE3系「こまち」と「つばさ」が走ったこと以外は何もなかった。
2日をはさんで3日。この日も目立ったトラブルはなく終了。展示したモジュールを片付ける。ハイエースにはこの荷物の代わりに人が乗るので乗り切らない荷物は随時運び出すとのこと。その片付けが終了すると僕は迎えが来ているとことわってアド先生たちと別れた。
和田山さんは事務所の裏のほうに車をつけていた。そこまで車両の入ったバッグを背負っていく。車まで来ると、
「ようやっと終了かぁ。」
萌がいた。
「なんですぐに帰ってないんだよ。」
「迷惑だったかなぁ。」
「いや。そういう意味じゃないけど。ずっと待っててつまんなくなかったかなぁってこと。」
「つまんなくはなかったよ。立ってるのには疲れたけどね。」
「・・・。何時間たってたんだよ。」
「自分でも分かんない。」
ちょっと車の外で話して乗り込む。
「坂口様は家のほうまでお送りしますか。」
「坂口様って。さまって呼ばなくていいって言ってるじゃん。ナガシィの家まででいいよ。」
「かしこまりました。」
と言ってから車を出す。
僕と萌はその間電車の話で盛り上がった。これが普段の日常。好きなことをしている間はすぐに過ぎて、僕たちは家に着いた。
車を降りて、
「萌。送ってくか。」
「いいって。大丈夫。家まで近いんだし。」
「そうだったな。100メートルぐらいしかないもんな。」
「じゃ。また展示あったら教えてね。」
「ああ。じゃあな。」
車をはさんで僕たちは言葉を交わした。
電車に乗るとき編成ってふつうは気にしないと思います。しかし、気にする人は気にします。乗るときの重要だからです。選んで乗ったほうが得な時、少なからずあると思います。
話は変わりますが、これは一つ一つが長いため、携帯電話からのアクセスはそんなにありません。このごろアクセス数のみで考えれば低迷し続けていますが、読んでくれる人には感謝。