55列車 寂しくなる
午後・・・、
「永島。そっちの走行テストだいたいいいならこっち手伝ってくんない。」
留萌に聞かれた。
「分かったよ。」
そう言って新幹線モジュールが展開している周回に入る。こちらは在来線のモジュールが外に展開し、その内側に在来線が展開している。在来線が乗っている机と新幹線が乗っている机の間は人が一人。カニ歩きをして通れるぐらい。ここでの作業は簡単なことではない。そのため、在来線の運転設備は新幹線モジュールの中の設置し、新幹線の運転設備は在来線の外に設置する。これからやる作業はここをその状態に持っていくこと。
在来線の机の下を通って、新幹線の机の下を通る。頭をぶちそうになるくらいの狭いところを通り抜けてくると、
「何もそこから通らなくても。そっちのほうがもっと広いじゃん。」
「それ先に言ってよ。」
「・・・。分かった。じゃあ次からそこから通ってくれ。」
とあきれられた。
新幹線モジュールはこのごろ部活で作った盛土モジュールを何個もつなげて組成する。しかし、そのモジュールの高架部分を盛土と言っていいのかは別だが・・・。盛土というよりは擁壁と言ったほうがいいか。そんなことどうでもいいか。
この擁壁モジュールは前述する通り部活の時に製作した。中には角材を適当な長さに切り落とした木材、もしくはすのこを2段重ねにしたものが入っている。その上に板を敷き、釘で固定し、複線レールを敷設。バラストをまいたものである。中には真ん中をその構造にせず、高架橋になっているもの。鉄橋になっているものの2種類がある。それをランダムに並べて、新幹線の周回を完成させる。二人でやったのでその完成は早いものだ。10分たたない間に直線部分だけの作業が完了した。
「アド先生。大体こっちはできましたけど。」
「はい。じゃあ、今度は配線やってください。」
留萌はこういわれても分からない。今回が初めての展示なのだ。
「ああ、俺が分かるよ。」
その作業は僕が変わった。
「永島君いいかな。ここのカーブレールにはこのようにフィーダーを差し込む部分があります。」
その部分をアド先生が指差す。そこは何かはこのようなものが入る形状になっていて、その先には等間隔にレールの底が見える。アド先生はさらに説明を続けて、四角く、下が詰めのようになっているグレーの物体を手に取った。それには青と白のコードがのびており、その先には他のコードが結線できる形状になっている。
「これをここに差し込んでください。後はいつも配線をやる通りです。」
説明は終了。その説明の通りに高架用フィーダーを差し込む。差し込むと高架用フィーダーのほとんどの部分が隠れる。見えているところは取り外しの時に使う爪だけだ。このフィーダーの刺さった高架カーブを二つ作り対角線になるように配置する。残りはこれを必要としない。文化祭の時に行った作業だけで他のは完了。それを配置して集会を完成させる。周回が完成したら次は配線。配線が完了すると車両を乗せて走らせる準備をした。乗せた車両は外回り(外側から見て手前側)がE2系新幹線「はやて」。内側(外側から見て奥側)がE4系「MAX」。
「よし。行くぞ。」
と言ってコントローラーのアクセルを自分のほうに引く。今使っているコントローラーは発車と停車しかできない非常に取り扱いやすいコントローラー。普段家で使っている「サウンドコントローラー」の操作を非常に簡略化したものだ。
電源を投入するとE2系とE4系は同時に同じ方向へ動き出した。
「なんで「MAX」がそっちに行くんだよ。「MAX」はそっちじゃなくてこっちでしょ。」
僕の位置から見て左に動いたE4系に留萌がキレる。
「まったくバカだな。」
「バカはどっちだよ。」
まずは留萌を抑えることだ。
「どっか配線間違えただろ。今のは「はやて」しか動いちゃいけない。「MAX」も動いたってことはどっか配線が違う。」
「配線違うって。これでどこを直せばいいんだよ。」
「それこそ探せよ。」
留萌のほうはぶつぶつ言いながら、配線をチェックする。周回のほうには何も不具合がなかったらしい。とすれば・・・。
コントローラーが乗っかっている大の下に新幹線の給電する配線がある。そこを調べてみると案の定そこだった。配線は片方からのびてきた線が分岐コード一つに集中していた。つまり左から来たコードは左の分岐コードに。右から来たものは右の分岐コードに刺さっていたのだ。これならすぐにそうなるのもわかる。もう一度留萌にコードを調べてもらい、正しくコードをはめなおす。これで「はやて」が動いても「MAX」は動かない。
試しなおすと今度はちゃんということを聞いてくれた。だが・・・。はめたほうは左に来たものが外回りで、今僕がいじっている右側が内回りになってしまったみたいだが・・・。これもどうでもいいか。
次は線路に並べてあるE2系とE4系を別の車両に変える。次に留萌が引っ張り出してきたのは100系「グランドひかり」と500系「のぞみ」それを実際より10両少ない6両並べて、オーケイが出たらコントローラーの電源を投入。まず最初に走ってくれたのは「グランドひかり」のほうだった。
「こいつ変な音してるけど大丈夫か。」
発車したときから「グランドひかり」は「キューキュー」と音を立てて走っている。そして500系のほうはというと動いてすらいない。
「留萌。500系のほうって電気すらいってないか。」
留萌がロケットのような500系の顔を覗き込み、
「電気は来てるみたいだよ。ライト付いてるし。」
今度はM車に回って、
「ちゃんとモーターも動いてるみたいだけど。動かないわねぇ。」
さっきから空回りしかしてないようだ。
「ちょっとそれ貸して。」
留萌から500系を受け取り下を見てみる。でも・・・。どうなっているのかわからない。車輪はあの時きれいにしたから汚れはついていない。それ以外に問題があるのだ。恐らくギアが一個かけているとかそういう問題だろう。
「ダメだ。こりゃ俺でも分かんない。500系はこれ動かないね。」
「そうかぁ。東海も嫌ってるけど、模型も嫌ってるとはなぁ。この地方って500系走るなっていう運動してる人でもいるのかなぁ。」
「それは少なくともないだろ。うちにも500系あるけど、バリバリ動いてるよ。」
「・・・。」
しばらくその500系に見入る。
「永島。これ知ってる。」
いきなり留萌が話題を振った。
「こいつ。来年東海のほうに乗り入れなくなるんだって。」
「えっ。」
留萌が悲しそうな目になる。
「そうですよ。こいつは来年から8両になって山陽新幹線のほうで活躍することに・・・。」
なんかテンションが上がっている諫早を・・・、
「諫早。飛び降り自殺して。」
と言ってから続ける。
「まぁ、そうなんだけど・・・。永島はどう思う。」
なんか前にあったことと似ている。確かあの時は萌に・・・。
「東海道新幹線から0系がいなくなるんだって。寂しいよねぇ。」
と聞かれたはずだ。そしてその答えは・・・、
「そうなのかぁ。寂しいな。」
だっただろう。
「そうなのか。俺正直あいつは「のぞみ」のまま終わると思ってた。」
「・・・。そうだよなぁ。私だって信じたくないよ。500系の「こだま」なんて。あいつらしくない。」
確かに。500系らしくない。1997年に登場した15メートルにもなるロングノーズを有する500系。その体は全体的に丸くそれまでの新幹線のイメージから大きく離れた冒険者。合わせて9編成が製造され、初代「のぞみ」300系の運用から速達のものを受け持ち、東海道・山陽新幹線の東京~博多間を最速4時間49分で結んだ。それが今度は追い抜かれる立場に転向するということだ。
「・・・。」
どう言葉を発していいか分かんない。だが、留萌には結構衝撃的な事実だろう。
「前も500系見に行ったんだけどさぁ、「まだ俺は走れるのに。」って言っているようにしか聞こえなかった。なんでだよ。もっと走らせてあげれば・・・。」
留萌の声はどんどん悲しさ一色に染まっていく。
「・・・。」
声のかけ方も分からない。もし萌がこういう状態だったら・・・。僕は声をかけられないということになる。でも、どうすることもできない。
「そうだな・・・。」
今はそれしか答えられなかった。何とか留萌を元気づけてやりたいが仕事が残っている。
「でも・・・、仕方ないって言えば仕方ないんだよねぇ。」
どうやらその結論に達したようだ。目つきは変わってないけど、今はこれでいいのかもしれない。
「・・・。そうだな。早く残ったこと終わらせちまおうぜ。」
車両を変えて、またテストする。
(500系が「こだま」になると・・・。0系がいなくなる。ついにお別れなんだ。)
TOMIXの0系の箱を見ているとその上に涙がこぼれた。工場で触った・・・。お父さんと一緒に運転席に入った・・・。そして、家族と乗った・・・。それが遠い過去になる。
(さようなら・・・。)
みんなには気づかれないように泣いた。
15時。今度は持ってきた車両で走るものの選定。
「えーと、373系は走ったと。」
車両ケースの中に箱を入れる。するとすかさず留萌が中身をチェックする。中に変な編成になっている車両がないか見るためだ。
「永島。これの2号車(サハ373形)むき逆。方向幕があるほうに揃えなきゃダメだろ。」
「それだったら自分で直せよ。」
「・・・。はい。分かってます。」
「よしこれも完了。永島。そっち手伝うか。」
模型の周りに「手を触れないでください」という表示を貼っていた箕島が聞いてきた。
「ありがとう。じゃあ、外回りの運転ついて。」
「わかった。」
諫早と一緒に車両を並べる。次に僕のほうに並べたのは223系2000番台。学校にあるものだ。行先は播州赤穂。姫路よりさらに西だ。これの5号車(モハ223形)を線路に置いたが、ピクリともしない。前ナヨロン先輩が言っていた寿命が来ているようだ。
諫早が外に並べたのはキハ95「ドクター東海」。走る分には走るのだが、よく脱線する。
こんな調子で調べていくと一つだけハプニングが起きた。床に物が落ちる鈍い音がする。
「何か落ちただろ。」
箕島がそう言って外、内両方のコントローラーのノッチを切り、電車を止める。落ちたのはいま目に見える範囲にいる381系「スーパーくろしお」ではない。とすると落ちたのは内回りを走っていた381系「スーパーやくも」のほうだ。
「「やくも」のほうだよなぁ。」
「「やくも」だったら今出口のほうにいるよ。」
留萌がその方向を指差した。
ここは内側から向かうのでは狭すぎる。向こうの在来線と新幹線の間ではないが、カニ歩きをしてようやっと通れるくらい。そこに走っているコードがさらに通りづらくしている。下を見てみると薄紫の車体が横たわっているのが見える。そして、運がいいことに横たわっているのは1両だけであることを確認したが・・・。状況を見る限り運がいいという言い方は失礼だった。車両は上と下の両方に分離し、一つのギア台車が外れている。運が良かったというのはパンタグラフのほうだろう。破損は見られない。
それらを手にとって来た道を戻ろうとしたが、外から留萌が受け取り、僕はゆっくり車両のおいてあるほうに戻った。
「これはひどいなぁ。」
諫早がそうつぶやいて、落ちた車両の部品をかき集めていく。しばらく落ちた部品に目を通していたが、
「ウォームアップギアがない。」
と言った。このギアはモーターからの動力を車輪に伝えるもの。両方の線路から受け取った電気でモーターが動き、その動きがシャフトという部品によって今ないと言っているウォームアップギアに伝えられる。このギアが回転することによってギア台車の車輪がある一定方向のみに回転するという構造になっているのだ。これがないというのは模型にとって致命的だ。もちろんどの部品が欠けても模型は動かない。
「探して。これないと動かないから。」
諫早に命令されて、床を探す。案外簡単に見つかった。それは大体2cmくらいの大きさしかない。横幅はあって5mくらいだろう。それを白い棒がのびていたところにはめようとする。しかし、うまくはまらない。
「はまれ、ボケ。」
と言って白い棒をもぎ取る。それをウォームアップギアの取付口につけて、はめ込む場所にはめ込む。そして、ギア台車を取り付けた。何とも慣れた手つきである。そして、床と分離してしまった車体の外装を上からかぶせるように取り付ける。後は線路に乗せてまたテストをする。多少ぎこちないがちゃんと走った。
「それにしてもよくあんな細かい作業できるなぁ。」
「あれくらいふつうですよ。223系のM車からモーターもぎ取ったりしてきたわけだし。ていうか、そこに感心するな。」
今日あったとすればこのくらいだろう。他の車両も走行テストを行って今日は終了。日曜日はやることもなく家の模型で遊び、次の土曜は最終の詰め。そして、11月1日が来た。
地元の鉄道が廃止になったりした時、どう思いますか・・・。
さっさと消えてくれと思いますか。それとも、まだ走り続けてほしいと思いますか・・・。