54列車 進めます
10月24日土曜。今日はまた暁フェスタの準備だ。今僕たちは事務所の2階にいる。
「箕島君。そっちの「青木海岸」のモジュールをここに持ってきてくれるかなぁ。」
アド先生が箕島に指示を出す。今ここにいるのは箕島と僕と留萌だけ。木ノ本は昨日から寝台特急の撮影に出かけたらしく、今は富士にいるという。醒ヶ井はただあることを知らないだけ、佐久間は面倒だから来てないのである。今日に限って出席率が悪いのだ。
「永島君。「青木海岸」の3枚目どこにあるかわかるかなぁ。」
「あっ、ちょっと待ってください。」
そう返事して「青木海岸」の3枚目を探す。「青木海岸」とは文化祭の時に手伝いに来てくれた青木洋輔さんの作品らしい。それを示すものとしてタイトルに青木とはいっている。モジュールは海岸線を行く線路になっていてS字カーブが連続してある。ここを通るとき列車はうねうねと蛇のようにうねって通過していく。これが1両や2両といった単行では映えないが貨物列車など10両以上の車両が連なる長大編成なら映える。鉄道好きのちょっとしたこだわりだ。
「ありました。」
「青木海岸」の3枚目は白いケースに埋もれるような形で白いケースの中に入っていた。前に置いてある白いケースをどかして中の「海岸」を出す。それをアド先生のいるところに持ってって2枚目と4枚目につなげる。
つなげ終わった時アド先生の携帯が鳴った。着メロはクラシックらしい。と言ってもクラシックということ以外は分からない。どっかで聞いたことがある曲なのだが・・・。
「もしもし。」
アド先生のいつもの対応だ。
「はい。ああ。じゃあそこからずっと東に行って、製材所のところをこっちに入ってきてくれるかなぁ。」
誰かと話している。多分誰か加勢してくるのだ。
「はい。待ってます。」
そう言って電話を切った。こういう切り口だと善知鳥先輩かもしれないが・・・。でも善知鳥先輩が道を教えてというのはおかしい。前にもこういうことがあったからだ。とすると電話口の人が誰なのかわからなくなる。
「アド先生。新幹線ってこんな感じでいいんですか。」
留萌がアド先生に聞いた。今留萌がやっていることは2面4線の駅の設置。ここに新幹線車両を置いて、体験運転をさせようというのだ。
「うん。それでいいよ。だけど、そのコードどうにかならないかなぁ。」
コードというのはポイントレールからのびているコードである。模型のポイントレールには手動で操作するものと電動で操作するものの二つがある。電動操作のものはポイントレールからコードがのびていて、それを専用のコントローラーに差し込み、さらにそれを模型を動かすコントローラーに差し込んで給電する。手動の場合は当然だが、このような設備は要らない。また、さっき電動ポイントもあるといったが、電動ポイントも手動で操作できるため結果を言うと手動だろうと電動だろうとそんなことは関係ないのだ。
「そんなことできるわけないですよ。これを根元から切るんだったら話は別ですけど。」
「そうかぁ。じゃあ、そのままにしといてくれるかなぁ。」
「はい。」
ガタン、ガタンという音が近づいてくる。時折通る営業列車だ。もし営業列車じゃなかったら、天竜暁構内で行われている列車の走行テストだろう。ここから右手に見える扇形車庫の向こうに隠れてすぐに引き返してくる。外からする継ぎ目の音はこの二つのうちどちらかしか考えられない。
「アド先生。こっちのほうは電気系統ほとんど完了しましたけど・・・。」
「じゃあ、走行テスト行ってください。」
「はい。」
僕は持ってきたケースの中に入っている車両をどれでもいいから抜き出そうとした。でも・・・。探し始めるとどれでもいいやという考え方はどこかに吹っ飛んでしまい自分の好みで選ぶようになってしまう。ちょうど手に取った381系「特急スーパーやくも」を走らせることにした。「スーパーやくも」とはもちろん列車の名前であるが、岡山と出雲市を結んでいる列車の名前である。ここには「やくも」が走っておりそれの停車駅を可能な限り減らし速達でこの間を結ぶ列車が「スーパーやくも」なのだ。名前は消えてはいないがこの列車はすでに「やくも」に統合されて存在しない。懐かしいといえば懐かしい列車だ。
車両ケースの留め具を外して中を見てみる。下のほうにしまってあった先頭はパノラマグリーン車。大きな窓は前にせり出している。そして、車体の薄紫と窓上にある「SUPER YAKUMO」のロゴ。これがこの車両のキーポイントだ。
これの上から数えて3番目(4号車 モハ380形)をレールの上に乗せて、コントローラーの電源を入れ、ディレクションを前進に入れる。つまみを回すとすぐに「やくも」は発車してくれなかった。この箱には「椥辻将利 部活寄贈」と書いてある。買ってもらってから何十回も走ったことは間違いない。コントローラーのつまみを半分くらいまわしたところでようやっと発車してくれた。一周難なくするかと思ったが、やっぱりつかえた。古いうえに電気をとりづらいのだ。何とか一周させて、駅まで戻した。裏にひっくり返してみると汚れが所々についているのがわかった。車輪にはほとんど同じ位置に汚れがついているところもある。これでは車両に電気が行かないことも分かる。ちょっと前に教わった方法で車輪をきれいにしてもう一度走行試験をやった。さっきつかえたところは減速したものの通り抜けられるようにはなった。
誰かが階段を上ってくる音がする。床がギシギシなるのだ。
「手を上げろ。」
と言って入ってきたのは諫早だった。
「あっ。なんだサヤさんいないんだ。」
ちょっと残念そうに言うと、
「永島さん。持ってきましたよ。宮原のMA編成と網干のV編成。このごろ走らせてなかったから走行試験やっていいか。まぁ、いいって言ってくれなかったら殺すけど。」
「諫早君。ちょっとこれ手伝ってくれないかなぁ。」
「黙れ。このハゲが・・・。あっ。ヤバい、言っちゃった。」
「おい。それはどういう意味だよ。」
ちょっと怒り気味の口調になる。
「ハハハ。サラって言っちゃわないように気を付けないと。」
「はいはい。」
「走行テストだったら僕がやっとくけど。ここの通電テストもしたいし。」
「お願いします。えっと脱線したら・・・。」
「分かってる。「なんで脱線するんだよ。バーカ。」って言っとけばいいんだろ。」
「はい。お願いします。」
と言ってアド先生が申し出た手伝いに入る。僕はKATOの223系の箱を開けて、線路に並べる。モーターが入っているのは宮原の車両は6号車(モハ223形)、網干の車両は8号車(モハ222形)になっている。まずは宮原所属の「丹波路快速」のモーターを線路に乗せる。こちらは何の支障もなく一周。次は網干所属の快速加古川行き。こちらも何の支障もなく一周した。あとは各種走行試験。機関車を筆頭に貨物列車を運転する。今回の周回は解放ひとつない。ごく稀の線路状況になった。
そんなことをしている間にも時間は12時をまわった。
「それではお昼にしてください。また13(1)時になったら作業を再開します。」
アド先生はそういってお昼を食べに行った。
「はぁ。食べるもん持ってきてねぇ。」
「おいおい。大丈夫か。」
留萌が心配そうに聞く。
「大丈夫だよ。この頃の部活お昼は向こうで買うよって言っておきながら何も買わずに活動してるから。」
(なんか榛名に似てるなぁ。)
「省エネなんだな。」
「・・・。」
「そうだ。走りました。僕の6000番台(223系)は。」
「ああ。両方とも走ったよ。あれって行先見て思ったけど網干にいるやつ。あれは前に221系の6両つなげて走るんだよなぁ。」
「はい。」
「・・・。」
「どうかしたんですか。」
「いや。ただ。そうするんだなぁって思っただけ。」
立ち上がって僕のカバンのほうへ歩く。チャックを開けて中のものを取り出す。今日は必要ないとは思ったが223系1000番台を持ってきている。
「うーん。1000番台ですかぁ。」
「なんだ。1000番台より2000番台のほうがお気に入りか。」
「そういう意味じゃないですけど・・・。」
諫早は語尾を濁らせた。その時箕島は模型にかからないところで弁当を食べ、留萌は持ってきた車両の中身を開けては閉めてを繰り返している。
「なんじゃこりゃー。」
その留萌がいきなり叫んだ。
「どうかしたんですか。」
「これ最後にいじったやつ誰だよ。」
留萌が持っていた箱には「TOMIX Series 381 Limited Express SUPER YAKUMO」と書いてある。
「俺だけど。」
なんか悪いことをしたように恐る恐る手を挙げてみた。
「なんだよ。これ。編成ムチャクチャじゃないか。国鉄の特急車両はどちらかの先頭車にドアの位置を合わせれば正解なんだよ。こんなムチャクチャな編成がどこにある。」
説明しよう。今ドアの位置は上から順番に右、左、左、右、右、左となっている。
「それにパンタ車の位置だってすごいじゃないか。これじゃあ編成無視の領域を超えてるぞ。2号車のパンタ車の隣がパノラマグリーンって。こいつはいつクモロ380になったんだよ。」
説明しよう。この381系という車両はパンタグラフ車の次。もっと詳しく言うとパンタ車のドアがついているほうにパンタ無しの電動車がくる。つまり下から2番目に入っているパンタグラフ車の右隣。編成において先頭車にあたる車両の位置に電動車が来なければならない。ちなみに「スーパーやくも」のパノラマグリーン車は電動車ではない。
「んなこと知るか。俺が触ったのはMのパンタ車だけだ。それ以外は何も触ってないぞ。」
すかさず抗議する。
「えっ。そうなのか。」
「そうだよ。」
「じゃあ、これ一番最後にしまった人って相当バカだよなぁ。ドアの位置までムチャクチャだし、編成無視にもほどがあるし。」
そう言いながら下から2番目と3番目の車両を出してくるっと回転させる。その状態で元に戻して、
「よし。これで完璧。」
と言って箱のふたを閉じた。その頃には僕が持ってきた1000番台(223系)にも気づいたようで、
「これ。関西の新快速じゃん。」
と言っていた。
「知ってるのか。」
こういう問いをするほうもおろかだろう。留萌は車両鉄。ここまで有名な車両は知らないはずがない。むしろ知っているのがふつうのレベルの車両である。
「知らないわけないだろ。こんな名車。でも・・・私は0番台のほうがいいんだけどねぇ。」
ちょっと声を落とした。
「ああ。留萌って「関空・紀州路快速」のほうが好きなんだ。」
「0番台ってあのマアルイおめめのあれですよねぇ。」
諫早が続ける。そういうと留萌は小さくうなずいた。
「そういえば、留萌って一番好きなの0系だったよなぁ。だったら裏付けるかぁ。」
自分の中で勝手に結論まで持っていく。
「なるほど。じゃあ、丸いヘッドライトしてるやついってけば大体好きな車両にあたるってことですよねぇ。」
「・・・。」
留萌はしばらく黙っていたが、
「まぁ、そういうことになるかなぁ。だって四角いヘッドライトのやつってなんとなく男の子っぽいって感じしない。」
「・・・。」
しばらく考え込んだが、分からないわけではない。
「それにヘッドライトが丸いとかわいいって感じしない。」
それも分からないわけではない。
「うーん。やっぱり俺には女の子の感覚って理解できないわ。俺は昔からつり目のほうが好きだし。」
「だから100系なんだろ。あれ試作車に至ればものすごいつり目じゃん。」
「・・・。」
「・・・。まさかの知らないなのか。」
大きくうなずく。
「なんの自慢にもならないぞ。」
というとため息をついて、
「いいか。X0編成は窓小窓で・・・。」
「あっ。なんだ。それのことかぁ。それだったらふつうに分かる。あれって量産車よりつり目なんだな。」
これでまた100系について賢くなった。
書いてて思いました。
鉄道小説として風上におけなくてすみません。
報告します。11月21日を持って累計アクセス2000突破しました。
今のところアクセス数2059(11月22日7時47分現在)
ユニーク数340 (11月22日7時47分現在)です。
これからもがんばって書いていきたいと思います。