53列車 無線
10月21日。6時52分。遠州鉄道芝本駅・・・、
(はぁ。今日も間に合わなかった・・・。2分差で出てくっていうのもなぁ。)
心の中でため息をついた。
列車は芝本を発車すると進行方向右手に分かれた線路と再び合流し、バラストの真新しい線路に入る。今芝本と次駅小林の間は高架化工事中。そのために仮線に付け替えられている。
(ああ。今日の組み合わせは2003と1005。この頃1005にしか乗ってないよ。いい加減にしてくれないかなぁ。この車両好きじゃないんだよ・・・。つうか、毎日乗ってたらふつう飽きるし嫌になる。)
心の中で不服を爆発させる。そんなことをしてもどうにもならないのは仕方がないことなのだが・・・。
すると・・・、
「遠鉄電車。遠鉄電車。こちら遠鉄・・・です。・・・。」
無線が入った。
(そういえば。この時間の列車ってよく無線入って来るけど・・・。でも、言ってることは最初の遠鉄電車と車両しか理解できないんだけどなぁ。)
そう思った。そう思う頃には無線の受け取り側からの無線が入る。そしてそれにまた答える。
「おはようございます。16列車です。2004号、1006号。・・・。どうぞ。」
(2004・・・。)
「おはようございます。16列車2004号、1006号・・・了解です。」
そのあと無線発信元からまた通達があって無線が終了する。
(2004って今はっきり言ってたなぁ。何がなんなのかはよく分かるけど、16列車って何分の列車だろう。この先で2004に会わないのははっきりしてるから、この後の列車よね。次の列車にしては無線が入るのが遅すぎるかぁ。なら次のはないわね。その次は30系だし、あるとすればそのあとかぁ。)
さっきから語られていることについて説明しよう。遠州鉄道は地元浜松を走る私鉄。恐らく日本有数のバスのネットワークを作り上げていることで有名だろう。しかし、遠州鉄道にはバス以外に百貨店、タクシー、鉄道、建設会社といろいろな幅がある。その中の鉄道のことを説明しよう。今乗っている車両は遠州鉄道が所有する1000形という車種の第5編成。新浜松側が制御電動車で西鹿島側が制御車。付番は新浜松側から1005+1505となっている。この前にいて、1005をリードしているのが2000形の第3編成。付番は2003+2103となっている。1000形と同様新浜松側つまり数の小さいほうが制御電動車。数の多いほうが制御車となっている。そしてさっき無線の中で語られた2004と1006はそれぞれ2000形第4編成と1000が第6編成のことである。この中で一番新しいのは2000形第4編成。まだ工場から出てきてまだ1年足らずしかたっていない本当の新米である。
そして、逆に古いのが今乗っている列車の2本あとにやってくる30系という系列。顔は昔の湘南電車。窓が真ん中で2枚に分かれていて、ヘッドライトは車体の一番上にしかない。その中でも変わり種はいてモーターを1000形と同じものにし、ライトを下にずらし、二つ目になったものだ。しかし、ドアは1両に2枚しかついておらず、その中には片開きのものまで存在する。そのため昼に通常営業に就くことはなく朝のラッシュ時のみ4両編成で働いている。
(うーん。どういう意味だろう。)
どうしてもさっきの無線の内容が気になった。
この列車に乗っていくと途中浜北と上島と八幡で列車の交換をする。それはこの鉄道が単線であることが関係する。そこであった車両は順に1007、2002、1003、1004だった。
(今日動くのは2002と1003と2003かぁ。さっきの2004も気になるけど、2002だよなぁ。)
今日帰りに乗る車両を決めながら学校への道を急いだ。
その日の放課後・・・、
15時28分に出る列車に間に合ったのでそれをホームで待つ。しばらくすると列車が参りますとアナウンスが入り、西鹿島側から列車が上ってくるのが見えた。特徴は菱形パンタグラフ。
(あれ完全に1000じゃん。)
それだけで形式の判断はつく。しかし、それより掘り込んだことは分からない。それは近づいてこなければ・・・。
(もしこの時間が1000だったら次の来るのも1000かぁついてないなぁ・・・。んっ。)
近づいてくる列車に耳を傾ける。そして左上にある形式を確認してみた。車両はパンタグラフに似合わない歌声を奏でながら自分のいるホームの反対側に入ってきた。
(2002。なんで。)
何が起きているのか少しわからなくなる。
(そうか。2002今年の猛暑で頭がどうかなっちゃったんだ。それであんなに血迷ったパンタグラフを。1001じゃないんだからやめてよね。これじゃあ余計複雑になるじゃん。)
止まる直前になって新浜松側からも列車がやってくる。特徴はシングルアームパンタグラフ。2000形か1001か。これはもう賭けの領域である。
車番を見て思わずガッツポーズをした。2000形第4編成。2004。一番乗りたい車両だ。
「ヤッター。2004。」
この番号を見たらすぐに新浜松側に向かう。列車に乗り事には変わりないのだが、乗る車両は制御車より電動車のほうがいい。理由は楽しいからだ。もちろん、乗りこんだらやることはこいつの歌声を聴くことである。
列車のドアが開くのを待って車内に入る。乗りこんだところは電動車の真ん中のドア。それでもまだ運転席に近づく。電車に乗っていて真ん中の席ほど座っていてつまらないものはないからだ。
進行方向右側には先客がいる。その人の前に荷物を置いて、そこが空くのを待つ。それまでは辛抱だ。しかし、次駅助信はこちら側に降り口が来る。つまり、この席が空く確率も高いのだ。
車掌が笛を吹いて、
「ドア閉まります。」
と早口気味に言う。言い終わったら乗り込む乗客がいないことを確認してドアを閉める。ドアは電子音を2回発して閉まろうとした。
「梓。早く電車来てるよ。」
どこかで聞き覚えのある声だ。その声を聴くとドアがまた開く。あわただしく電子音は2回余計になった。そして、よく見慣れた制服を着ている女子が二人階段に一番近いドアから乗り込んだ。
「梓。安希。」
その二人は黒崎と薗田だった。顔を見るなり話しかける。
「よーす。」
二人は結構全力で走ったようで息切れしている。
「よかった。間に合って、これに乗り遅れたら12分待たなきゃいけなくなるからなぁ。」
薗田が制服内にこもった空気を入れ替えながら言う。
「はぁ。安希。なんで大声出すんだよ。恥ずかしいじゃん。」
「いいじゃん。間に合わないよりはましだったろ。」
「た・・・確かにそうだけど。」
「ハハハ。」
「そうだ。萌だったらどうする。もし電車に間に合いそうで間に合わないっていう状況。萌だったら乗っちゃう。それとも乗らない。」
「えっ。車両による。」
「・・・。」
(当然の答えかよ。)
「今乗ろうとしてるやつが1000形だったら問答無用で見送るでしょ。まぁ、次に来るやつも1000形だったらあきらめるけど・・・。で、もし2000形だったらふつうに乗る。」
(・・・。萌の判断基準はなんなんだかわからん・・・。)
その会話をしている間にも列車は坂を下って、
「ご乗車ありがとうございます。助信―、助信です。降り口右側です。助信でございます。」
とアナウンスが入った。
助信に停車し、進行方向右側の席が空いたので、黒崎たちを促してそこを占領する。次駅曳馬は降り口が反対側になるので、この車両からの下車は少ない。次の上島も同じでこの車両からの下車は少ない。一つ違うとすれば、八幡と同様入れ替えを行うということだろう。新浜松に向かう列車は1003だった。
(あれ。これって朝見た・・・。これは折り返しで15時54分の西鹿島行きになるから、次の2003が16時06分。・・・。)
朝あったことと自分の頭の中で整理する。
(この列車が2003の3本前。ていうことは・・・。昼遠州鉄道で走る車両は6本。つまり、2004はきょう2003の3本前であり3本あと。だから、朝言ってたあれをかけ合わせて・・・。これの3本あとだろ。だから6時52分の3本あと。7時28分。7時28分、西鹿島発7時24分のやつが帰りの15時30分になる。・・・。じゃあ残りの16列車っていうのは。)
ただひたすら考える。自分の頭の中に時刻表を広げて、
(一番最初5時34分の始発が1列車とすれば・・・。次に出る5時52分が3列車。次が5列車で、36分が7列車。それで私が乗ってく列車は9列車ってことになるけど・・・これじゃあ7時28分の列車は16じゃなくて15になっちゃう。どっか間違えたかなぁ。・・・。あっ。)
これですべてがわかった。さっきから言われている番号は列車番号というもので世界で運行されているすべての列車において番号がある。それはある法則の元付番されているが、ここでは触れないことにしよう。なお、列車番号は時刻表で下りと書かれているものには1・3・5・7などの奇数。上りには2・4・6・8などの偶数が付番されている。そして遠州鉄道の上り下りは新浜松行きが上り。西鹿島行きが下りである。つまり・・・。
「なるほどね。分かっちゃうと案外簡単。」
とつぶやいた。
「何が。」
さっきから考え込んだままだった坂口は普通に気になる。黒崎と薗田が声をそろえて話しかけてきた。
「やっぱり毎日使うとこれぐらいふつうに分かっちゃうんだね。教えてあげるよ。」
(また電車のことだ。)
止める暇もなく坂口が続ける。
「この時間に来る列車は7時28分に芝本を発車する列車。6時52分の列車で上島で入れ替えるのが15時40分発。八幡で入れ替えるのが54分発。そして、6時52分の新浜松側の車両が16時04分。次の7時4分の新浜松側の車両が18分発。っていうこと。」
(何を言いたいのか全然わからん。)
「これで、いつどの時間に列車が来るのかわかる。いやあ、毎日使うんだし、それくらいの贅沢したほうが楽しいよねぇ。」
「・・・。」
それは贅沢っていうもんじゃないと思うが・・・。
「はぁ。でもわからないところがあることには変わりないかぁ。7時28分のやつって混むから嫌なんだよなぁ。」
というと今度は、
「あれって自分の降りたい駅の出口に一番近いところに乗ろうとするっていうのがふつうの流れじゃない。だから一番降り口から遠いところから降りれば、混まなくなるんじゃないかなぁ。」
「・・・。」
なんと回答していいのか。
「うーん。それって終点まで行く人は階段に一番遠いところに乗れっていうことだろ。」
「うん。そういうこと。」
「・・・。」
黒崎と薗田は顔を見合わせた。どう回答していいのかわからない。普段から遠州鉄道を使っているがそんなことなど考えたこともない。やっぱり鉄道マニアとごくごくふつうの一般人とは考えることと見ることが違うのだろうか。
「ダメかなぁ。」
「ダメっていうわけじゃないけど、それってただ人を均等にしたいだけだろ。」
「うーん。やっぱり終点まで行く人が多いってところかぁ・・・。あっ。」
今度は何を思いついたのだろう。
「混むと言えば、」
「混むといえば。」
「よく朝の列車ってドアに固まる人いるじゃない。あれって死ねばいいと思う。ムチャクチャ腹立つんだよねぇ。ドア付近メチャクチャ混んでるのに通路混んでないって。蹴り飛ばしたくなるわよ。」
「・・・。」
多分、坂口だったら乗客に対する文句で半日つぶれそうである。
この頃のアクセス数は後書きになんか共感しやすいものを書いた日上がるという傾向にあります・・・。