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MAIN TRAFFIC1  作者: 浜北の「ひかり」
Kishikawa High School Episode:1
52/184

52列車 マイナススパイラル

 その日。家に帰ったらすぐに離れに引きこもった。ピンセットを片手にそして木ノ本(きのもと)のEF510北斗星色(ほくとせいしょく)を持って。

「ああ。面倒だなー。」

そう言ってクリアケースのふたをかける。中には衝撃吸収のマット。俗にいうプチプチマット。その下に青色の機関車が入っている。真ん中には流れ星。そして「EAST(イースト) JAPAN(ジャパン) RAILWAY(レイルウェイ) COMPANY(カンパニー)」と書かれている。流れ星の隣にはほんの数ミリの穴が開いている。ここにナンバープレートをはめ込む。ほとんどの鉄道模型はこのようになっていて、この穴に適当な部品をはめ込むという方式。当然部品もとても小さい。くしゃみとかで吹き飛ばしたら一巻の終わりである。

 そんな部品をカッターで切りだして、側面と前面の横に長い穴にナンバープレートをはめ込む。これくらいは説明書を見なくても分かる。ナンバーはEF510-501号機。家にあるEF510が502号機だからだ。他にも505号機と506号機のナンバープレートもあったがなんか気に食わなかった。

 ナンバーをはめ込み終わると次は前面に取り付ける手すりだ。この頃の模型はこの小さな部分まで別パーツになっているものが多い。そしてそのほとんどはユーザーが付ける。なくしてもいいように予備の同じパーツがあるが、なくしたら一巻の終わりであることに変わりはない。慣れてない人ならこれには1分くらいかかる作業(一つのパーツに付き)。これを15秒くらいでやってのける。全部で4つ。しめて1分だ。

「ふぅ。出来たー。」

すべてはめ終わるとため息が出た。本当にしんどい作業なのだ。今までにこういう経験は少なくとも20回ある。1回目はよく覚えている。「寝台特急あさかぜ」の牽引を担当するEF66の前面の手すり、ナンバープレート、ヘッドマーク、そして模型の連結器「カプラー」を見栄えのいいものに換装(かんそう)したことだ。2回目は「あさかぜ」の客車24系のカプラーすべてを見栄えのいいカプラーに換装(かんそう)したこと。3回目は・・・。言っていったらきりがないか・・・。なお、この作業にはふつうに10分、5分はかかる作業。それを14両分やっていれば1時間などあっという間に立ってしまう。それほどツボになる作業ではないが、そうしないとあとあと困るのだ。

「さてと。」

そう言って椅子から立ち上がった。机の上に置いているごみを捨てて、次は(あかつき)フェスタに持っていく模型の選定である。

 車両庫に言って自分が走らせたい車両を決める。もちろんのことだが新幹線(しんかんせん)を持っていくことはできない。持っていける新幹線(しんかんせん)車両は400系「つばさ」とE3系「こまち」と「つばさ」。そしてEast(イースト) I(アイ)だけだ。それ以外が在来線を走るときは廃車か新車投入の時だけだ。

「えーと、「ネックス」と「北斗星(ほくとせい)」と・・・。」

箱の中をぐるっと見回してこの中にはもう目的のものがないことを確認する。次の箱に行ってキハ181系「特急はまかぜ」を、次の箱にいって「寝台特急はやぶさ」をその次の箱で223系1000番台を・・・。

「あれ・・・。」

ふと声が出た。

(あれ。1000番台どこだ。)

ふつうならこの箱に入っているはずの223系1000番台がどこにも見当たらないのだ。他の従兄の箱を探してもどこにもない。あったのはコキ100形の1300t(トン)級貨物だけ。

(どこにあるんだよ。223系1000番台の新快速(しんかいそく)米原(まいばら)方面(ほうめん)長浜(ながはま)行き12両。・・・。仕方ない。1000番台の新快速(しんかいそく)姫路(ひめじ)行き12両で我慢・・・。あれ・・・。新快速(しんかいそく)長浜(ながはま)行きだけじゃない。姫路(ひめじ)行きもない。駿(しゅん)兄ちゃんのやついったいどこにしまったんだよ。まさか、僕には走らせたくないから隠したのか・・・。いや、そんなこと今までなかったか。それとも、自分の箱にしまってないだけかなぁ。)

 そのあと30箱ある箱をすべて出して探してみたがどこにも駿(しゅん)兄ちゃんの223系1000番台新快速(しんかいそく)姫路(ひめじ)行きと米原(まいばら)方面(ほうめん)長浜(ながはま)行きは出てこなかった。

 翌日。

「・・・。」

永島(ながしま)。どうした。目の下にクマできてるぞ。」

宿毛(すくも)が心配そうに聞いてくると僕は顔を机に伏せた。

「い・・・いえにあるはずの223系1000番台が見つからないー。」

(・・・。それだけ。それだけでこんなに落ち込むのか。)

坂口(さかぐち)に聞いてみたらいいんじゃないか。あいつなら何か知ってるだろ。」

「そうだな。そうしよう。」

永島(ながしま)携帯(ケータイ)もってこい。」

前には四ツ谷(よつや)先生がそれをよこせというそぶりをしている。

(バカ・・・。)

「ホウェ。」

この声は自分でもどこから出たのか疑問に思った。

 1時間後・・・、

「あうー。今日俺ついてないー。」

「・・・。」

宿毛(すくも)のほうはなんて話しかければいいのかわからないみたいだ。

(こういう時坂口(さかぐち)ならなんて声かけていいか分かんだよなぁ。あいつってこういう永島(ながしま)になんて会話するんだろうなぁ。)

何かいい話ができるかどうか携帯(ケータイ)を開いてうお座の占いを見てみた。全体12位。

(ダメだ。とても話せるような順位じゃない。)

さらに話題に困った。

 放課後・・・、

「ごめん。昼言い忘れてたけど、EF510出来た。」

そう話しかけてきたのは木ノ本(きのもと)だった。

「あっ。」

カバンの中に手を突っ込んでみる。今度はどこにもクリアケースが見当たらない。

「・・・。」

「忘れてきたのか。」

小さくうなずいた。

「そう。じゃあ、明日持ってきてくんない。」

「ああ。分かった。」

そう言って僕は職員室に向かった。

(今日のあいつくらいなぁ。どうしたんだろう。)

いつもと反応が違う永島(ながしま)が少し不気味に思えた。

 職員室経由(けいゆ)芝本(しばもと)方面(ほうめん)中瀬(なかぜ)行き。家に着くと荷物を部屋に置き、私服に着替えて離れに行こうとした。かれこれ10年使っている勉強机の上に置いてある離れの鍵を持って離れに歩いて行った。

 離れに来ると、中から物音がする。この離れの鍵を持っているのは宗一(そういち)じいちゃんと隆則(たかのり)父さんと駿(しゅん)兄ちゃんと僕の4人。じいちゃんは遠江急行(こうきゅう)の経営で忙しいし、父さんも同じように忙しい。なら・・・。

「開いてるぞ。」

中からその人の声がする。ドアをあると中に駿(しゅん)兄ちゃんがいた。

「よーす(とも)。久しぶりだな。」

駿(しゅん)兄ちゃん今日は休みなの。」

「ああ。だからここにいるんじゃねぇか。」

「・・・。」

さっきから「チャチャ。チャチャ。」と模型が線路の継ぎ目をたたいている音と「シャー。」と線路の家を走っている音がする。その方向に目を向けてみると、シルバーの車体の車両が走っている。それだけで僕にはこれがなんなのか分かった。

「1000番台(223系)。」

「ああ。ようやっと戻ってきた。こいつも長く出張してたなぁ。」

「やっぱり駿(しゅん)兄ちゃんだったんだ。昨日探したけどなかった。」

「なんだ。使うつもりだったのか。そりゃごめん。こいつも今日パワーアップして帰ってきたばっかだから。」

「パワーアップ。」

その言葉が気になった。駿(しゅん)兄ちゃんの持っている1000番台は全車に室内灯を装備している。それに方向幕もすべて貼り付けてある。もうパワーアップする余地はないはずだ。

「どこがどうパワーアップしたっていうの。」

「だよなぁ。ふつうだったらもうパワーアップするところはないよなぁ。でもあったんだよ。一か所。」

そういうと駿(しゅん)兄ちゃんは1000番台を止めて、4編成あるすべてのクハ222形(制御車)とクモハ223形(制御電動車)を背中合わせに並べて、

「今からパワーアップしたところを見せてやるよ。」

と言った。

 いったいどういうことだろうか。クハ222が4両並んでいるほうに回ってみる。駿(しゅん)兄ちゃんがそれを確認して、

「これがパワーアップしたところだー。」

と言ってコントローラーのマスコンと常点灯を一気に最大出力にした。

「あっ。」

その違いにはすぐに気付いた。これまで黄色いライトだったクハ222のヘッドライトが本物と同じように黄色と白にはっきり分かれていたのだ。

「すぐに分かるだろ。これまでのライトとはもうおさらばだ。全部LED(エルイーディー)に変えてもらったからなぁ。」

LED(エルイーディー)って。これ駿(しゅん)兄ちゃんが家に持って帰って改造したの。」

そういうと駿(しゅん)兄ちゃんは笑って、

「そんなこと俺がするかよ。これ俺がネットで見つけた模型店の人にやってもらったんだ。1両1000円で。それが8両で8000円。送料とかも合わせて1万以上したぜ。」

(だから。だからなかったんだ。)

「それってどこの模型店。」

大阪(おおさか)のやつだよ。ていうかこの人起用だよなぁ。8両もこうしてくれたんだから。これで運転楽しもうぜ。」

「・・・。なんで教えてくれなかったんだよ。」

「本当はびっくりさせようと思ってな。」

「家に1000番台がないだけでも十分びっくりしたよ。」

「ハハハ。まぁ、入って来い。久しぶりに二人で運転やろうぜ。」

僕はすぐに中に入った。

「うん。もちろんそのお詫びとして1000番台走らせるからな。」

「はいはい。じゃあ、俺は813系でも走らせるか。」

「直流の隣に交流の車両が走るってないでしょ。」

「模型だからできるでいいんじゃ・・・分かったよ。じゃあ221系にしとくわ。6両たす6両で新快速(しんかいそく)。」

「そんな組み合わせあるんですか。」

「昔はあったんだろうぜ。昔は。」

「じゃあ、2000番台も走らせる。その隣に「雷鳥(らいちょう)」走らせてやる。」

(ここは草津(くさつ)から京都(きょうと)の間かよ・・・。いや。山科(やましな)から京都(きょうと)かぁ。短っ。)

 そんな感じで車両を並べる。走る線路は外側から485系「特急雷鳥(らいちょう)」、223系2000番台新快速(しんかいそく)姫路(ひめじ)行き、221系快速米原(まいばら)行き、223系1000番台新快速(しんかいそく)米原(まいばら)方面(ほうめん)長浜(ながはま)行き。それを30分間展開して・・・、

「満足したか。」

「うん。久しぶりにストレス発散したー。」

(そりゃ、よかったな。)

「で、2000番台(223系)の付属編成の行先を湖西線(こせいせん)経由(けいゆ)敦賀(つるが)行きにして、基本編成を近江今津(おうみいまづ)行きにしてほしいんだけど。」

「はっ。お前。これ変えるだけでも結構時間かかるんだぞ。」

「こら。そういうこと言わない。」

(チェー。(とも)に付け込まれたなぁ。当分はこれで雑用で扱われそうだ。)

「この野郎。後で覚えとけよ。」

「ヤダー。」

 これで1000番台の一件も落着。次は(あかつき)フェスタだ。


今まで出てきた脇役のフルネームを考えました。

玉名たまな 恵美えみ

新城しんしろ 隆彰たかあき

希望のぞみ ひかる

和田山わだやま 俊彦としひこ


報告します。お気に入り登録が2になりました。なかなか調子がいいとは言えませんが、頑張ります。

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