50列車 文化財へ
初掲載の作品で連載して50話です。
このシリーズの最後までまずは頑張ります。
日曜日。午前中に暁フェスタに持っていくモジュールを学校のハイエースに詰め込む。そして午後。
「はい。みなさん集まってますね。」
アド先生が全員の顔ぶれを見る。今日ハクタカこと鷹倉俊也先輩とアヤノンこと楠絢乃先輩はいない。今日は僕たちだけで活動する。
「はい。みなさん、今日は天竜暁駅に行きます。みなさん荷物を持って私の車に乗ってください。」
そう指示を受けた。とするとハイエースのほうはどうなるのか。
「あのう。バンのほうはだれが・・・。」
「バンは山科先生に運転してもらいます。なので心配ありません。それでは行きます。」
いつものように体育館から出て、正門から入ってすぐのところにある駐車場に車がいくつかとめてある。その駐車してある車のうち1台にアド先生が歩いていく。
「マジ。アド先生の車ってウィッシュじゃん。」
醒ヶ井が言った。
「へぇ。あれウィッシュっていうだ。」
僕は関心が内容に返事をした。その時アド先生は真ん中のシートを倒して後部座席に人が乗れるようにしている。
「はい。乗ってください。」
そう言われて一番最初にウィッシュに乗り込んだのは木ノ本だ。続いて留萌が乗り込み、助手席には箕島が乗り込んだ。残った醒ヶ井、佐久間、僕はというと真ん中の座席におしくらまんじゅうで乗り込んだ。
ふと外を見てみた。
「それじゃあ、山科先生。バンのほうよろしくお願いします。」
「はい。分かりました。」
すらりと背の高い先生が返事をした。彼が4月から名前しか聞いていなかった山科先生だそうだ。アド先生の呼ばれ方からして部活のみんなからはヤマ先生かシナ先生という呼ばれ方をしているはずだ。その人がバンに乗り込んだことを確認すると、アド先生も自分の車に乗り込み、ウィッシュのエンジンを起動する。まず最初にウィッシュが動き出し、山科先生の運転するバンが僕たちの後を追っていう形で天竜暁まで赴いた。
ゆっくり運転されるハイエースに合わせて40分ほど。普段から見慣れている光景が僕の前に広がる。と言ってももうここは天竜暁地区。いろんな意味で見慣れたといえば見慣れた光景だ。飛龍大橋という天竜川に架かる橋を渡ってすぐの交差点を左に曲がり、またすぐのところにある交差点を左に曲がる。その道に入ったらまたすぐのところを今度は右に曲がり、さっきよりも少し長く走ったところでまた右に曲がる。すると僕たちの前には木造の建物と扇形の車庫が広がる天竜暁構内に入ってきた。
僕たちの乗るウィッシュは木造の建物の北側を通って、暁鉄道のディーゼルカーが止まっているすぐ隣に車を止める。ハイエースはというと木造の建物の入り口の前に止まっている。
その光景を見た人が木造の建物の中から出てきた。
「どうも。こんにちは。」
アド先生の姿を見るなりその人は話しかけてきた。
「こんにちは。今回もよろしくお願いします。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
アド先生は僕たちのほうを向いて、
「紹介します。今回暁フェスタの運営を担当しています。富士史崇さんです。」
「よろしくお願いします。」
みんな声をそろえて頭を下げる。
「こちらこそ。よろしくお願いします。それでは安曇川さん。先日伝えました通り当事務所の二階に展示を行うということでお願いします。」
この富士という人に後ろに建っている建物が暁鉄道の事務所らしい。僕から見てみるとこの事務所には隣接して2枚の引き戸があることがわかる。その右側の扉の窓には事務室と書かれている。ここが事務室である証拠でもあるが・・・。とは言ったが文字は剥げていたためあくまでも推測ということだけでとっておいてほしい。
話が終わると僕たちを促して、バンに乗せた荷物を下ろし始める。まずは事務所の前に置いておくだけ。さっさと仕事は終了する。空っぽになったハイエースを見て、
「安曇川先生。これから中学生の迎えに行ってきます。そろそろ模試が終わったころなので。」
とことわって山科先生がハイエースに乗り込む。とその瞬間だった。アド先生の携帯電話が鳴った。
ここからは電話内でのやり取りです。
「もしもし。」
「あっ。アド先生。今どこにいるんですか。」
「あっ、善知鳥君。どこっていま事務所の前ですけど。」
「分かりました。私たちもすぐそっちへ行きます。」
と言って電話は切れた。
「誰ですか。」
「善知鳥君だったよ。」
そういうと山科先生はほっとしたような顔になってハイエースに乗りなおす。そしてすぐ出て行った。それを見送って、
「それではまずは荷物を2階に置いてきてください。そしたらここにあるものを上に運びます。」
そう指示を受けた。
まずは荷物を2階に置いてくるため事務室の中に入る。僕たちが入った扉は左側から。入るとすぐ目の前に急な階段がある。その隣の部屋をのぞいてみたが何があるのかはすぐに分かった。僕の目線から見て左側に机。前のほうにはところどころにつまみがついているパネルがある。このパネルにはこの天竜暁の線路配置が簡略化して書かれており、ところどころにあるつまみはおそらくポイント操作のために使う機会。ここからポイントを遠隔操作しているのだ。一瞬だけだったから認識できたのはこれくらい。階段を上がって左にある部屋に入る。部屋の天井の梁には進めて色の落ちた棒が2本貼り付けてある。一つは長方形と三角形を組み合わせたような形をしていて黄色い。もう一つは長方形のしっぽを三角形でくりぬいたような形をしている。そして黄色のものより少し長い。佐久間にはそれが気になったらしく、
「永島。これ何。」
と聞いてきた。
「多分。これ腕木信号の腕木だよ。」
「うでぎ。」
これには木ノ本も声をそろえた。僕はどんなものかわかるように何か令を出したい。そう思って窓のほうへ歩いて行った。確かエスエルの動輪と一緒に腕木信号もたっていたはずだ。
「ほら。あれだよ。あれが腕木信号。」
エスエルの動輪の隣に立っている腕木信号の腕木は黄色くここの天井にある黄色い色をした腕木と形も同じ。
「よくローカル線とかにあった信号だよ。今じゃほとんど見れないけどね。」
と説明を加えて、下に下りて行った。
下に下りていく間に箕島と留萌と醒ヶ井とすれ違った。階段はすれ違えるような幅ではない。箕島と留萌と醒ヶ井が通った後に僕が入れ替わりに下に下りた。ハイエースが止まっているところまで行くとアド先生にまず白いケースに入ったほうを運んでといわれた。その指示で僕は白いケースを2つ持って階段を上がる準備をする。上から木ノ本と佐久間が下りてきている。降り切るのを待って僕た2階へ上がる。2階へ上がるとまっていた箕島と留萌と入れ替え。醒ヶ井が2階の部屋で荷物を置いているところに遭遇する。僕も荷物を置くとまた下に下りる。下からは佐久間と木ノ本が上がってきている。上がりきるのを待って、入れ替わりに僕が下に下りる。ずっとこの繰り返しだ。
2回この操作をやって下に下りると見慣れた顔がそこにあった。善知鳥先輩とサヤ先輩とアヤケン先輩だ。
「サヤ先輩に善知鳥先輩にアヤケン先輩。どうしたんですか。」
「いやあ、私たち受験あきらめた組だから手伝いに来た。」
頭の後ろに手を当てて善知鳥先輩が言った。
「じゃあ。まずはこいつらを運ぶかぁ。」
サヤ先輩はまだ残っている気の箱に目をやった。この箱の中には上野駅とその他S字モジュールが多数入っている。これらはそのまま持っていくには至難の業である。なので・・・。
「よし。お前ら1列に並べ。これから上野駅を運んでいくぞー。」
ということになった。並びは下から善知鳥先輩、木ノ本、留萌、醒ヶ井、サヤ先輩、佐久間、箕島、僕、アヤケン先輩の順。
「はい。まず上野駅13番線。」
「上野駅13番線。」
「上野駅13番線って・・・。「カシオ」と「北斗星」が来るところじゃん。」
「上野駅13番線かぁ。」
「上野さんの上野駅。」
「・・・。」
「上野駅。」
「13番線ホーム。」
「ああ、上野さんのゴミだ。」
ただの伝言ゲーム状態。もちろん言葉のとおり伝言ゲームにもなっていないが・・・。
上野駅モジュールを運び終わると次はS字カーブ。
「次。S字のトップバッターは綾瀬川。」
「綾瀬川。」
「綾瀬川・・・。まさか。」
「まさか・・・。何。」
「アヤケンの綾瀬川。」
「・・・。」
「綾瀬川。」
「綾瀬川。」
「あっ。俺の「特急ゴミ1号」。ダストボックス行き。」
こんな具合で運び上げた。最後に空になった箱は佐久間とアヤケン先輩が上まで運びまずはひと段落。次は山科先生が次のモジュールを持ってくるまでないが、長机を上に運ぶという仕事があった。それが終わるとぼーっと外を眺めていることができた。
それから30分くらいたつと山科先生が戻ってきた。
「さぁ。シナ先生が来たぞー。行くぞー。野郎どもー。」
(中には野郎じゃない人もいるが・・・。)
下に下りて諫早、空河、朝風を迎える。それが終わったら上に運び上げる。今度は白いケースだけ。どんどん上に運んで仕事を終了させる。これが終わると空河と朝風を連れてまた学校まで戻っていった。今度来るのはまた1時間後ぐらいだろう。
今回からの登場人物
山科雄哉(シナ先生) 誕生日 1982年8月1日 血液型 AB型 身長 169cm
暁鉄道職員 富士史崇 誕生日 1964年10月1日 血液型 B型 身長 154cm
この「暁鉄道」は地元の「天竜浜名湖鉄道」をモチーフ。というかそのままです。ただ社名を変えてるだけにすぎません。