49列車 いじるとA編成とB編成
このレは濃いです。
翌日。土曜日は10時15分に授業が終わる。授業が終わると即行で部室に行ったが、開いてなかった。部室の前でちょっと待つ。
「いい加減に自分で鍵取り行くとかしてくんないかなぁ。」
僕の姿を見て呆れているのは楠先輩である。
「ああ。じゃあ取り行ってきます。」
「もういいよ。次からそうしてくれれば。」
「ていうか楠先輩は鍵取りに行ってないんですか。」
「取りに行ってないから今ここでこうしてるんじゃない。」
ため息をついてその場に腰を下ろした。
「永島―。」
僕を呼ぶ声とともに現れたのは木ノ本と留萌だ。
「おー。二人とも鍵ある。」
「ありません。」
その言葉で僕も楠先輩も一気に力が抜けた。その場にしゃがみ込む。そのすぐ後に箕島が現れて部室を解放した。その数分後には醒ヶ井とナヨロン先輩も集合した。
「ふぅ。永島。木ノ本。留萌。箕島。醒ヶ井。俺たちは寮に行くぞ。」
そう言ってナヨロン先輩が立ち上がる。
「えっ。それあたしここに一人になるじゃん。」
「分かったよ。来たいなら来てもいいから。」
「あっ。でも今日やるのって車両いじりですよねぇ。」
「ああ。」
「じゃあ。やっぱりやめます。」
「・・・。よし。じゃあ俺たちは行くか。」
促されて部室を出た。
寮に着くとまずはいつもの部屋と思ったが、ナヨロン先輩は文化祭前に入った部屋のほうへ歩いていく。階段を上って右に曲がるとすぐのところにプレートがある。それをどかして、自習室1の鍵を開ける。どうやらアド先生から預かってきたらしい。その部屋には布団の敷かれていない2段別途と教員用机と折りたたみ椅子が2脚置かれている。この部屋に15箱ぐらいの折り畳みケースが収納されている。
ナヨロン先輩はまず2段ベッドの下に置かれている折り畳みケースに手を伸ばした。それの一つをとって木ノ本に手渡す。外に運んでと指示を出されて、外に運び出す。それを何度か繰り返して、ようやっと新幹線の箱を引っ張り出した。新幹線の箱は2つ。この量からすれば少ないほうだろう。その箱を運び出し終わるとこれまで出した7箱をもとに戻す。それがすんだら今度は教室をいつもの学習室に変えた。
「よし。まずはどれでもいいから一つとってけ。」
そう指示される。その指示で僕たちは新幹線の車両ケースを一つ取り出す。もちろん僕はそう指示を受けると真っ先に100系のケースを選んだ。
「永島。それ「グランドひかり」だぞ。いいのか。」
「・・・。」
よく背表紙の文字を見ていなかった。ただ100系ということだけしか見ていなかった。
「・・・。」
「どうも不満そうだな。えーと。」
ナヨロン先輩がケースに入っている車両ケースの背表紙を確認しながら指をずらしていく。
「ほれ。こっちがよければこっちにしろ。」
「あ・・・ありがとうございます。」
今更ながらやさしい人だと思った。「グランドひかり」はナヨロン先輩と交換という形で僕のところに100系のJR東海編成がやってきた。ちなみに「グランドひかり」はJR西日本の編成である。
「よし。まずはこれの先頭車をとって、車輪を見ろ。」
ケースを開けてケースの一番上に入っている車両を取り出す。白くどがった鼻。横に入るつり目のヘッドライト。窓を包み込む青いライン。0系の登場時と同じ大きな窓。そして、模型でも貫禄のある車体。これらすべて100系の特徴である。
「永島。好きだから見とれるのはいいけど・・・、ちゃんと聞いてくれよ。」
そう注意された。そのあと全員の顔を見渡していると、
(同類がここにもいた。)
「留萌。0系が好きだから見とれるのはいいけどちゃんと聞いてくれよ。」
留萌にも同じ注意をした。今視界に飛び込んできたことだが、木ノ本が手に取った車両は500系「のぞみ」。醒ヶ井は700系「ひかりレールスター」。留萌は0系「こだま」。箕島が300系「のぞみ」。そして僕が100系「ひかり」だった。ものの見事に東海道・山陽新幹線で活躍する車両たちであった。
「よし。まずはこいつらを裏返せ。」
ナヨロン先輩は「グランドひかり」の先頭車を180度回転される。逆さまになった「グランドひかり」は天井が床を向き、床が天井を向いた。僕たちもそれに倣い持っている先頭車を逆さまにする。
「そうしたらここを見ろ。」
そう言ってナヨロン先輩がスカートのすぐ後ろ。つまり運転席の真下にある台車を指差して、その車輪の軸を抑えて持つ。
「この車輪をゆっくりと回して、黒いところを探せ。」
どういうことだろうか。意味は分からないが言われた通りやってみる。すると僕の持っている100系はほとんど黒い。車輪全体が黒くなっている状態で、車輪の銀が顔をのぞかせているところが全体の10パーセントくらいしかない。
「そして、黒いところが見つかったらこれを使って車輪をきれいにする。この作用の繰り返しだ。」
ナヨロン先輩はレールクリーナーと綿棒を持ち出す。今の今までレールクリーナーは線路にしか使わないと思っていたがそういうわけではないらしい。レールクリーナーは鉄道模型のほとんどのものの掃除使用することができるそうだ。
僕たちは1本綿棒を手に取り、レールクリーナーを順番に綿棒につけてまわす。そして車輪に綿棒の頭を当て、綿棒を当てた反対側の車輪を指でゆっくり回す。1周するとさっきは10パーセントくらいしかなかった銀の部分が大部分を占めるようになった。当てた綿棒を見てみると真ん中らへんに長方形の黒い塊がついている。汚れが取れた証拠だ。この作業を何回も繰り返して一つの台車をきれいにしていく。綿棒は1両につき一本。もしくは台車1つにつき一本消費するくらい。ほぼ浪費状態だ。僕が2両目の車両の台車をきれいにしていると、
「どこまで進んだ。」
ナヨロン先輩が自分の作業をしながら聞いた。全員今やっている車両をこたえる。醒ヶ井は「レールスター」の3号車。留萌は0系の2号車。木ノ本は500系の4号車。と回答。
「分かった。じゃあ、今やってる車両で一度作業やめろ。」
そう指示を受けた。
その車両が終了するとナヨロン先輩は次の説明を始めた。
「次は模型のM車のクリーニングな。お前らもその箱の中で一番重い車両探してみろ。」
そう言われる。僕はすぐにどれがM車かわかった。上から数えて3番目。3号車がM車だ。木ノ本には少し難題だったみたいで教えてときかれた。留萌と醒ヶ井はちゃんと見つけられたようだ。
「全員見つけたな。まずは同じように裏を見ろ。」
これまでと同じように裏返す。車輪は今までの車輪とは違い真中は軸剥き出しではない。代わりに目に入ってきたのはギアだ。
「これで今までのやつと違いって分かるよな。この車輪をきれいにするにはまずこれを取り外さなきゃいけない。そのためには・・・。」
車両を横倒しにして持ち、車両を持っていないほうの手を台車にかける。そして力を加える。
「はーっ。ってあれ。はずれねぇ。おい言うこと聞けーっ。・・・。まだ聞かねぇなぁ。・・・。はーっ。」
独り言を言いながら台車と車体を割くようにして台車をとった。台車には何やら付属品があるみたいで、緑色の小さな棒もくっついてきた。
「今やったみたいにお前らもやってみろ。」
今ナヨロン先輩がやったみたいに僕たちもやってみる。台車は案外簡単に取れた。そんなに力入らないみたいだ。
「よし。取れたら木ノ本はこの棒をまわしながらさっきと同じ手順で。永島と留萌と醒ヶ井はさっきと同じ手順でやれ。そうすればきれいになる。そして、戻すときはさっきとは逆をすればいい。」
そう説明を受けた。
さっきと同じ要領でこのギア台車もきれいにしていく。それが終わったら今度は掃除を行っていない車両のメンテナンス。それが終わったら次の車両に行く。
「へぇ。「ドクターイエロー」もあるんだ。」
そういうと留萌が覗き込んできた。
「んっ。どれどれ。って。それ0系タイプじゃん。これがいたのって2000年以前の話でしょ。懐かしいなぁ。」
「あれ。こんなのいたっけ。」
「いたよ。浜松工場の新幹線なるほど発見デーで見たことないの。」
「ごめん。記憶にない。」
「・・・。」
「今700系だもんなぁ。俺はあっちよりこっちのほうがいいかなぁ。」
「永島分かってるじゃん。今の「ドクチャン」ってなんか好きになれないんだよねぇ。まぁ見たらテンションあがるのは同じだけど。」
「えっ。それふつうじゃないの。」
「ですよねぇ。健康そのものですから。」
「ハハハ。留萌って結構車両に詳しいって善知鳥から聞いたけど、どれくらい知ってる。」
「今そんなに知らないんですよ。中学の時に一気に忘れたっていう感じで。ああ、でも新幹線の試験で使われてたA編成とB編成とそれを新幹線の救援車にしたことぐらいはちゃんと知ってますよ。」
「そうか。お前A編成とか好きじゃないのか。」
「A編成は2両だけだし、0系と結構イメージ違うでしょ。B編成も同じ理由でそんなに好きじゃないんです。かわいいけど・・・。」
「まぁ。A編成よりB編成のほうがましってか。」
「どういうことですか。」
木ノ本にはこの意味が分からなかったようだ。
「A編成ってあの丸い鼻のところが光ったんだよ。B編成は光らなかったけど。」
「えっ。マジ。」
このことには僕もびっくりした。あれは最初から光らないものだと思っていたからだ。
「マジだよ。昔は白花のトナカイみたいな感じで鼻を光らせてたの。だけど光らせないほうがいいっていう考えに多分至って、量産車である0系にはそのシステムがないわけ。」
一つ利口になった。
「確かB編成ですよねぇ。当時最速の256km/h出したのって。」
僕も話に参加した。
「ああ、そうだよ。綾瀬と鴨宮の実験線でな。」
「でも、なんかもったいないって思いませんか。0系も260km/hまではメーターふってあるわけだし試作車のB編成でも260km/hは出たはずなんですけどねぇ。どうせならあと4km/h頑張って出しちゃえばよかったのに。」
「出せないB編成の事情でもあったんじゃないか。あれ計測してる時に蛇行動も観測したみたいだし、これ以上出すのは危険だって判断したんじゃないか。」
「説得力ないですね。」
「うん。ないな。」
さっきから僕たちが話しているA編成・B編成とは新幹線の試作車。現在の新幹線の礎を築いた車両である。容姿は0系とよく似ているがヘッドライトが縦に楕円形ではなく横に楕円形であること。運転室の窓が湾曲していたことなど。細部に0系との違いがある。またA編成は前述したとおり2両。B編成は4両と量産車である0系よりも身軽。さらに塗装にも違いがあり、A編成は車体の裾に細く。B編成は窓周りに太い青いラインが入っていた。この2編成による各種試験ののち1964年10月1日に東海道新幹線として開業するのである。なおこの2編成は営業運転には就かず東海道新幹線開業後は生涯を通して救援車として、もしもの場合に備えていた。しかし、安全神話の新幹線に救援車の出番はなく、いい意味で一度も出動せずに「ドクターイエロー」にバトンを渡したのだ。その後車両は廃車されているが今でも鉄道の博物館などでその模型を見ることはできる。
「・・・。」
しばらく黙って自分たちの作業を進める。
「そうだ。留萌、お前C編成って知ってるか。」
ナヨロン先輩が振る。
「C編成。」
この反応は分からないということだろう。
「なんですかそれ。初めて聞きましたけど。」
「これも試作車なんだけどな。A編成とB編成は有名だけどC編成は兄ちゃんたちに隠れてそんなに知られてないんだ。容姿はほとんど0系に似てるっていうけど6両編成っていうのが0系と違うところかなぁ。」
「へぇ。そんなのあったんですね。」
「・・・。そりゃ反応薄くなるよねぇ。うん。うん。」
自分に言い聞かせるように言っていた。
この話を作った後に調べましたが、B編成は救援車ではなく線路関連の計測車になっていました。訂正します。
A編成の救援車もB編成の計測車も今日の「ドクターイエロー」と同じく黄色に青のラインをまいている塗装でした。
昨日パソコンのほうのアクセス数で1000突破しました。
ユニークは300を突破。だんだん数が増していくのは嬉しいですが、このごろアクセス数は低迷したり、のびたりで安定していません。
ユニークアクセス数はアクセス数よりは安定しているのですが・・・。