46列車 体育祭
数日後・・・。
「ああ。体育祭かぁ。ダルイィ。」
大きなため息をついた。
「ハハハ。また家で模型いじってたいって言うのか。」
宿毛が隣で笑っている。
「それしたいよ。学校にあんな大きなレイアウト持ち込めないからさぁ。」
「確かに。持ち込めないな。まぁ、持ち込めたらそれはそれですごいけど・・・。」
「そうえいばさぁ、俺何と何と何に出るんだっけ。」
「それくらい覚えとけよ。」
教室に行って体育祭の選手名簿を開く。僕の名前は100メートル走と騎馬戦に名前が入っていたが、騎馬戦は補欠だった。
「騎馬戦補欠かぁ。まぁ補欠でせいせいしたけど。」
「騎馬戦お前弱いもんな。中学の時は開始5秒くらいで落ちたっけ。」
「うん。まさか後ろにすぐ回り込んでくるやつがいるとは思わなかったもん。」
僕は手を頭の後ろに回して窓辺まで行く。窓から外を見てみるとグラウンドが見える。外は当然のことだが体育祭の準備が進行している。
「それもそうかもしれないけど、お前の場合はケンカとかああいうやつやりたくないだけだよなぁ。」
「・・・。まぁそっちのほうが大当たりだね。」
すると教室のドアが開く音がした。入ってきたのは同じクラスの女子。
「早いなぁ。いつもこの時間に来てるわけ。」
「ああ。玉名さんこそ今日はやけに早いな。」
「別に体育祭張り切ってるってわけじゃないよ。ただ、朝なら誰もいないかなぁって。」
「朝早く来るなら7時40分前に来ないと。」
「えっ。そんなに早いの。眠くならない。」
「眠くなったことはないな。勉強の時だけは別。永島の場合は夜見たい番組とかないし、それでさっさと寝ちゃうって感じだけど。」
「ふぅん。まぁ。人それぞれってことだね。あたしなんか今日の2時に寝たから眠くてしょうがないよ。」
「よく起きてられるなぁ。」
「はたから見たらそんな感じだよねぇ。永島君って結構夜遅くまで勉強してるって感じするけどそうじゃないんだ。」
その言葉には宿毛も僕も開いた口がふさがらなくなった。
「玉名さんそれ偏見。こいつテスト前あんまり勉強してないでクラストップだし、これまで四ツ谷のノート一度も出したことないぞ。」
「えっ。マジ。」
これには玉名さんもびっくりしたらしく目が点になっている。
「な。うざいだろ。普段こんな感じのオチャラケでクラストップだぜ。」
「いやぁ、それほどでも。」
(褒めたつもりはないんだけどなぁ。)
「・・・。でもさぁ、永島君って性格悪くないし女の子から結構モテてるんじゃないかなぁ。」
「確かに。性格は悪くないな。」
「なんだよ宿毛。その言い方は。」
「冗談だって。性格も含め全体的に悪くないって。実技を除けば。」
そう言い合っているところを見ていた玉名が笑いながら、
「永島君ってなんか一つ一つの行動が笑えるからさぁ、他クラスでも噂されてることもあるよ。」
「なるほど。この頃風邪ひいたかなぁって思ってた根源はそれかぁ。」
「・・・。」
「俺って女子と話したことはあってもモテたことないからなぁ。・・・。女子からなんか言われたりされたりしたってことはヘアピンつけられたことがあるとか、でっかい子供って言われたりとか・・・。それくらいかなぁ。」
「へぇ。いじられキャラなんだな。」
「うん。俺結構いじられてるから。」
「それって全部坂口じゃないか。」
「しょうがねぇだろ。俺いじるのあいつくらいしかいないんだから。」
(鉄研の女子と以外話してるところ見たことないからなぁ。でも、その人と恋愛っぽいことはしてるんだ・・・。って十分モテてるじゃないですか。)
「ごめん。ちょっとクラティに着替えてきたいんだけど。」
「いいよ。行って来い、行って来い。」
そういうと玉名はクラスティーシャツとハーフパンツを持って教室を出て行った。恐らくトイレで着替えるのだろう。数分するとクラスティーシャツ姿で教室に戻ってきた。
ドアが開く。その音で僕は寝た姿勢から体を起こした。
「永島君。寝てたの。」
「寝てないけど、立ってるのダルかっただけ。」
「えらい違いだよなぁ。お前に鉄道が付いただけであれだけ変貌するんだからさぁ。」
「鉄研やってる時の永島君と普段勉強してる時の永島君ってギャップすごいよねぇ。まず部活やってる時と勉強してる時と声違うし。」
「そう。俺はそんなこと意識してないけど。」
(意識せずに変えれるんだからすごいよねぇ。)
なんか話が詰んだようで黙り込む。
「なぁ。そろそろ外いかねぇか。」
「宿毛君気が早い。まだだれも来てないじゃん。」
「そうそう。8時25分くらいになったら行けばいいって。」
「永島君は気長すぎ。」
8時20分までの間に僕も宿毛もクラスティーシャツに着替えた。それから運動場に自分の席を持って移動し、1年5組の所定の位置に席を置く。その頃には集まっていなかったメンツも集まった。運動場は色とりどりのクラスティーシャツが埋めている。それぞれのところで色が違ってカラフルだ。
それに目をやっていると誰かが僕の肩をたたいた。肩をたたいた人は新城という人だ。当然だがクラスメイトだ。
「お前100メートル1位とれよ。」
そう話しかけてきた。確か新城は200メートル走とホームルーム対抗リレーにエントリーしていた。相当足が速いということだろう。
「1位は取りにいかないけどビリも取にいかない。そこそこ頑張るよ。」
「そこそこって。お前クラス1位だろ。それくらい頑張れよ。」
「ヤダ。運動だけは頑張りたくない。」
そう返答しておいた。
9時。開会式で体育祭が始まる。最初は100メートル走。さっさと終わらせてあとは休む算段。結果は8人中4位。半分くらいがちょうどいい。
そのほかの種目で5組はそこそこの成績。良くも悪くもないという中間を走る競技もあったが頭一つ出る競技もあった。そんなこんなで午前中の部は残すところ部活どう対抗リレーだけになった。最初は文化部。その次に運動部がやる。
言われていた冬服をクラスティーシャツの上から着る。いくら残暑がなくなったとはいえこの格好になるとさすがに暑い。まだブレザーがないだけましなのだが・・・。
「よーす。持ってきたなちゃんと。」
善知鳥先輩がいつの間にかこっちに来ていた。後ろには同じく冬服に着替えた醒ヶ井、諫早、空河、朝風の姿がある。
「これで全員そろったな。よし。行けー。」
善知鳥先輩に押される形で入場門のところまで行かされる。
「あっ。言い忘れてた。これがバトンよ。汚さないでよね。ちゃんと走るときはこれしてよ。」
持ち出したのはやはり制帽。その制帽のつばの上にはヘルメットのような留め具が収納されている。よくここまで作りに凝ったものである。第1走者は諫早。これをかぶると嫌でも国鉄の職員に見える。
「よし。これでよーい、ドンって言った瞬間にチャカをぶっぱなすか。」
「それで俺の前に行ったら殺すっていうんだろ。」
空河が続ける。
「いや、動いたら殺すっていうんだろ。」
朝風が続ける。
「それプラス止まったら殺すっていうんだろ。」
ついでに僕も続けた。
「八方ふさがりじゃねぇかよ。それ。走っても殺されるし、動いても殺されるし、止まってても殺される。」
「いや。それって自分が動いてなかったらいいんだろ。チャリという選択肢があるじゃないか。」
醒ヶ井まで話に入ってきた。
「なんでですか。チャリ使ったら自分が動いちゃうじゃん。」
「考えてみろ。確かに動いてるけど動いているのはチャリであって自分じゃない。」
「よし。そう来たらロケランに吹っ飛ばすか。」
「違う。プラスチック爆弾で吹っ飛ばすんだろ。」
「いやいや。チャリの動力源をチャカでヘッドショットするんでしょ。」
「いやいや。核爆弾で吹き飛ばすんだろ。」
すごい会話だ。話した順番は諫早、空河、朝風、僕の順番。
「あなたは俺たちを殺す気か。」
中学生全員が声をそろえてツッコんだ。
レース開始。順番は諫早、醒ヶ井、空河、朝風、僕、佐久間の順番。諫早がまず10人中4位につけ、醒ヶ井も10人中4位。空河のところで一度5位に落ちたが、朝風が快進撃。3位につけ、僕のところでも3位をキープ。最後に佐久間ががんばって2位につけたが、パワーダウンで4位に落ち、そのままゴールした。
終わると制服の中に熱がこもってとても暑い。汗がじわじわにじみでてくる。
「あー。暑ーい。」
「永島君。ちょっとそのままでいて。」
「えっ。」
その声がしたほうには朝話していた玉名さんともう一人別の女子が立っている。
「ちょっと写真撮らしてもらっていいかなぁ。それあんまり見れないし、結構似合ってるし。」
結構似合っているというのは頭にかぶったままでいる制帽だろう。これはさっき佐久間が僕にかぶせてきたもの。さっきから頭に照り付けてくる太陽を少しさえぎれるならという思いでかぶったままでいるのだが・・・。
「マジ。これ暑すぎて死ぬんだけど。」
「そこをなんとか。」
「・・・。はぁ。分かったよ。」
「こいつと一緒に撮らしてもらっていい。」
玉名がそう言ってきた。いくら坂口が勘違いしないからってそれはまずい。それだけは断った。写真を撮影が終わったところで元のクラスティーシャツに戻る。本当に暑い。クラスティーシャツの中と外の空気を少し入れ替えて、かぶったままでいた制帽を善知鳥先輩に返しに行く。その間はもちろんかぶったままだ。
校舎側にいる3年生の観覧席に回って善知鳥先輩を探す。探し始めて数秒すると見つかった。
「善知鳥先輩。これ返しに来ました。」
そう言うと、
「えっ。部活の後輩。」
善知鳥先輩のクラスの人と思われる人が群がってくる。
「そうだよ。」
「かわいーい。」
「・・・。」
「なんか小学生がそのまま高校生になったって感じ。まさかの飛び級とか。」
「こんなに背の高い小学生いるか。いくら背が高いって言ってももうちょっと小さいだろ。」
「あ・・・あのう、これ・・・。」
「あっ。うん。ありがと。」
「ちょっと待ってよ、茉衣。せっかくだから写メらせて。」
「あっ。そういえばあたしもナガシィの写メ取ってなかった。」
(だからなんでそういう話になる。)
しばらく3年生にいじられまくって、自分の席に戻ってきたころには午前の部は終了していた。
午後の部はお呼ばれしない。騎馬戦はずっと補欠扱いのままだったので呼ばれることはなかった。後は男子・女子のホームルーム対抗リレーくらい。それの応援をやって体育祭は終了した。
「はぁ。終わった。今の時刻は15時30分。いつものやつじゃ帰れないね。」
「そうだな。まぁ、体育祭がいつもと同じ時間に終わるとは思ってないけど。この後終礼があって着替えて解散だろ。まだ15分くらいはかかりそうだな。」
「うーん。帰るやつは1000か2000か。そっちのほうが心配だな。朝1000系だったし。」
「心配することか。それ。」
その頃3年生は・・・、
「今日のあれなんだけどさぁ、あれ正直体操服のままでもよかった気がしない。」
「おい。おれ知らないぜ。それ1年生が聞いたら絶対キレるぞ。」
「サヤ。そこはあえて知っといて。」
左手に善知鳥が縋り付く。
「ちょっと離せ。」
「知っておくって言うまで・・・。」
「はいはい。分かったよ。」
善知鳥がサヤの左手を離すと、
「んじゃ、俺は知らない。そういうことで。」
「あっ。知っとけー。サヤのゴミー。」
なお。これが終了してもまだ新体力テストの持久走のほうが残っているのだ。
今回からの登場人物
玉名 新城
こんな小説でも作ったことに意味がある。この世にあるすべてのものは何らかの形で意味を成す。たとえそれがどんな意味を持とうとも。