44列車 差出人ヘッドマーク
宗谷学園では・・・、
「あれ。何か入ってる。」
下駄箱を開けてみると何かがスリッパの上に乗っかっていた。取り出してみると手紙だった。差出人は結構几帳面な人らしく封筒の中に入っている。封筒を裏にしてみるとイニシャルがあった。HM。
「差出人ヘッドマークさん。」
なんとなくギャグってみる。
「これが逆なら差出人ミュージックホーンさんになるんだけどねぇ。」
封筒の封を切って中の手紙を取り出す。文面は・・・、
「突然こんな手紙を出してすみません。今日もし、放課後何も用事がなければ3時45分に体育館裏に来てください。待ってます。」
となっていた。
「明らかにラブレターじゃん。このヘッドマークさん、私に彼氏いること知ってて送ってきたのかなぁ。」
「ラブレターだって。」
振り向いてみるとそこには薗田と黒崎がいた。薗田のほうはラブレターという言葉に反応したのか目を光らせている。
「そんなのに首ツッコむなよ。」
「えっ。梓だって気になるでしょ。もしこれが梓の大好きな鳥峨家君だったら。心配なんでしょ。」
そう言われると黒崎の顔が真っ赤になる。
「べ・・・別にそういう意味じゃないってば。それに、あたしは・・・。」
「ねぇ、萌どう思う。」
「図星だよねぇ。」
言い返せなくなったようだ。目線をそらした。
「まぁ。梓は心配しなくても大丈夫だよ。差出人はヘッドマーク。鳥峨家君のイニシャルはTDだもんね。」
「よかったねぇ。梓。彼氏は浮気してなくて。」
「う・・・うるさーい。」
そうはいっても、今こう言った自分が恥ずかしくなった。全員の視線がこっちを見ている気がしたからだ。
「ちょっと場所変えない。」
「じゃあ、美術室行こうか。」
「私入っていいの。」
「分かった。教室に変えよう。」
「教室なんかでこんな話できないじゃん。」
「それ言ったら美術室でもこんな話できないだろ。」
「・・・。」
「よし。やっぱり教室で話そう。男子全然いないし。早い人でも8時だし。」
というわけで、教室に来てみると普段しまっている鍵が開いていた。そしてなかには男子が一人。
「・・・。」
「どこに行っても話せない話題じゃないか。」
黒崎が声を潜めて話しかける。
「じゃあ、小声で話せばいいじゃん。」
「多分それ無理。男子もそうかもしれないけどさぁ、こういう話って話してるうちに声が大きくなってって、ヒソヒソ話にも何にもならないんじゃない。」
「ですよねー。」
そんなこんなで放課後・・・。
「結局これの差出人が誰かも分からなかったけどさぁ、本当に行く気。」
「うん。だってこの人のこと好きじゃないし。まぁ、嫌いでもないけど。それに・・・今日は15時42分も54分も16時06分も1000形だったからある意味助かった。」
(この人に会いに行く真の目的はそっちかよ・・・。)
(この人かわいそうだな。)
そう思いながら萌の後をつける。お互い気になるのだ。萌が体育館裏に入り込んでいくと誰かが立っている。それも初めて会う顔ではない。クラスの萩雅紀という人だった。
「坂口さん・・・。」
(萩君。確か萩君の下の名前って雅紀だったか。差出人ヘッドマークさん。)
「あ・・・あの。こういうこといきなりいう・・・。」
「ああ。ごめんね。私好きな人いるから。」
(単刀直入・・・。)
「あっ。そうなんだ。」
「そうだから。萩君とは付き合えない。ごめんね。」
「・・・。なら・・・。」
そのあとにどう言葉が続いたのだろうか。萩はすぐに言うのをやめて坂口の横を歩いて行った。歩いていくと坂口の後ろをついてきた薗田と黒崎の姿が見えたようで、目線をそらした。その姿が見えなくなると坂口に駆け寄った。
「まさか差出人が萩君だったとはなぁ。」
よってきた黒崎がまず口を開いた。
「えっ。梓今頃。あたしはこのイニシャル見てすぐに萩君かなぁって思ったけど、あたしの知ってる萩君の字じゃなかったから自信持てなかったんだよねぇ。」
「だから。安希はそういうことに首ツッコまない。」
「ていうか。萌にも好きな人いるんだ。」
「えっ。」
萌自身すべてが筒抜けだったとは思わなかった。
「なんだ全部聞いてたんだ。」
「うん。まぁ。どうしても気になって。」
「まぁ。分からないわけじゃないけどねぇ。」
「ああ。せっかくだから携帯に録音しとけばよかったかなぁ。」
「だから。安希はそういうことしないの。」
「大丈夫だよ。梓。安心して。鳥峨家君がコクッたり梓がコクッたりするときは全部携帯に録音して、綾に送るから。」
「やめろ。ていうか、何であたし限定。」
「ダメじゃないでしょ。」
「ダメに決まってる。綾なんかにそれ送ったらクラス中に広がっちゃうじゃん。」
「大丈夫だって。あさひが広げたときは学年中だったじゃない。それに比べれば規模は小さいよ。」
「いや。それあったからトラウマになってるんじゃないの。ていうか、学年中に広がった話って何。」
「聞かなくていいし、教えなくていい。」
黒崎はそう言ったが薗田はそんな黒崎そっちのけでべらべらしゃべりだした。
「中学の時に林間学校みたいなの行った。」
「うん。行った。」
「ナイトウォークラリーとかやった。」
「うん。」
「梓ってこう見えてもお化けとか全然ダメでさぁ。ナイトウォークラリーやってる途中に同じ班の人がお化けの真似して梓のこと脅かしたのよ。そしたら梓涙目になって叫んでさぁ。それで友達のほうはドッキリ大成功みたいなこと言ってるじゃない。それ聞いて少しは梓も落ち着いたんだけど、さっきのショックが強烈だったみたいでさぁ。腰抜かしたのよ。」
萌の傍らで聞いている黒崎の顔がどんどん赤くなる。
「それで、みんなでどうしようってなってた時に鳥峨家君が「俺が集合場所までおぶってく」って言ってね。」
「このバカ安希。」
「それで助けられたことあるんだ。」
「そう。それでそのあとどうも梓鳥峨家君のことが気になったみたいでさぁ。でも、コクレないままなんだよねぇ。」
「・・・。」
「ふぅん。」
黒崎のほうに目線を向けると、
「見るなー。見るなー。見るなー。」
真っ赤な顔で叫んだ。
「ところで、萌が好きな人って誰。」
「えっ。この学校の人じゃないよ。」
「何、別の学校。」
「うん。今岸川に行ってるんだけどねぇ。梓見たことあるでしょ。鳥峨家君に似た人。」
「えっ。あったっけ。そんなこと。」
「あっ。覚えてない。なら、いいや。」
「岸川って言ったらソフト部だよねぇ。でも男でソフト部はないから・・・。」
「鉄研部に入ってるよ。」
「鉄研部。うわぁ。その人オタクだなぁ。」
「本人の前で言うと怒るんだけどね。」
「何マニアっていえってか。今更どうでもいいだろ。大体オタクもマニアもただ呼び方が違うだけじゃない。」
「ハハハ。でもそこは考慮してあげて。」
「よし。じゃあ本題に入るけど、その人とはいつからの付き合いなの。」
考えるまでもない。
「付き合いっていうわけじゃないけど、その人と知り合ったのは小学校1年生の時。最初のころはその人全然しゃべらなくて、なんか1年生らしくなかった。ずっと一人で外眺めててさぁ。」
「何。窓によさりかかってボーっとしてるって感じ。」
「うん。そんな感じ。授業中も先生の言うことまともに聞いてないって感じでさぁ45分の授業中に必ず8回外に目をやるんだよ。」
「何か規則性みたいなのでもあったのか。それともその人の癖。」
「規則性みたいなのはなかったなぁ。最初は癖って思ってたんだけど、観察してる中でその人が外を向くときは必ずカタンカタンっていう音がしてるってことが分かったんだよねぇ。」
(さすが鉄研だな。)
「それで席が前後ろになった3学期に思い切って話しかけてみたんだよ。そしたら今までのイメージだと想像できないくらい明るくてさぁ。電車のことふったらそのあとは電車のこと語りっぱなし。最初は電車のことわかんなかったけど、そのうち私にもわかるようになってさぁ。最初はこんな感じ。」
(それで今がこれかぁ。)
「じゃあ、そのあとはどうなったんだよ。」
「そのあとはその人の家に鉄道模型のレイアウトがあるんだけど、そこで1日中遊んだり、その人の従兄に浜松駅まで連れてってもらったりしてもらった。そんなこんなで中学まで過ごしてさぁ。その人には好きとはいえなかったんだけど、今でもあいつ以外に彼氏創ろうとは思わないなぁ。」
「好きって気持ち確認してないのにか。それ絶対終わってるだろ。」
「そうかなぁ。私そういうこと思ったことないんだよねぇ。」
「なんで。」
「なんでかはよく分かんないけど・・・。」
「・・・。」
少し萌から離れる。
「なんでよく分かんないのに好きなままでいられるんだよ。」
「梓だったらよく分かるんじゃないの。鳥峨家君が持ってる雰囲気とか。多分そういうのじゃないの。」
ヒソヒソ話から切り替えて、
「じゃあ、もう一つ聞くけどさぁ。なんでその人にそんなにこだわるの。」
すると歩みを止めた。すると薗田たちのほうを向いて、
「それこそ好きだからだよ。」
それだけ返答する。
「なんかそれだけじゃないような気がするんだよねぇ。」
薗田が疑ってかかった。
「なんか将来その人と一緒になるとかって思ってるのかなぁ。」
ドキッとした。もちろんこのことを知っているのは木ノ本しかいない。それをなぜ薗田が知っている。もちろん、薗田と木ノ本に接点はない。木ノ本は浜松市の芦原地区。場所で言うと浜松工場のあるあたりに住んでいる。薗田は浜松市の高島。場所で言うと遠江急行芝本駅付近に住んでいる。
「一途にそうなる時を待ってるって感じしない。」
「・・・。」
「あっ。梓に聞いてもダメかぁ。梓も鳥峨家君と一途な恋愛してるんだからなぁ。」
「黙れ。」
(まさか。安希ってみんなの思考回路高性能コピー機。ああ、いつか私もナガシィの思考回路高性能コピー機になるのかなぁ。)
ふとそういう考えが生まれた。
今はこういうことってしないですかねぇ・・・。
でも、こういうことがあるからこそ創作なんですよねぇ。