43列車 新たなクルー
9月23日。夜。
「何。話って。」
いつかは通らなければならないところである。いつもは共働きで家にいないことが多い。だからこの申し出を言うのが今日になった。
「私。ソフト部辞めようと思ってる。」
いきなりこんなことを言うと絶対反対される。それは承知だ。
「ダメに決まってるでしょ。さくら分かってるの。」
「分かってるよ。でも・・・。今のままじゃいつか行き詰まるのは自分でもわかってる。だからいっそのことやめて、違う部活に入部しようと思ってる。」
「違う部活って。何に入るつもりよ。」
「鉄道研究部。」
「ふぅん。それで、部費とかまた集めなきゃいけないものとかあるの。」
「部費は年間で14000円。私が入部するときは10月ぐらいからだと思うからまずは7000円。後年に1回いく臨地研修代が20000円くらいかかる。」
「また、そんな・・・。」
話し始めようとした時、
「みずほ。お前席外せ。」
お父さんが部屋に入ってきた。
「あなた。」
(父さん。)
「みずほは席外せって言っただろ。聞こえなかったか。今この話にお前は邪魔なだけだ。」
「・・・。」
それを聞くとみずほはさっさと席を立ちどっかにいった。
「さくら。まず聞くぞ。本当にやりたいって思ってるのか。」
うなずく。
「そうか。分かった。やる気があるならそれでいい。」
「いいの。」
「ああ。その代りやる気がなくなったらさっさとやめろ。そんな部活入ったって仕方ないからな。・・・。さて、また俺の懐が寒くなるなぁ。」
「えっ。部費とかも出してくれるわけ。」
「・・・。節約すればそれくらいどうにでもなる。」
「父さん。そんなことしてくれなくていいよ。バイトするから。」
「・・・。」
そういうとすぐにリビングを出た。
思わず飛び跳ねたくなった。
その話が終わるとみずほがリビングに戻ってきた。
「あなた・・・。」
「いいんだよ。あれで。ずっと親の敷いたレールなんて走りたくないだろ。ようやっとやりたいものが見つかったんだ。それを反対するなんて親としておかしいだろ。あれでいい。」
「・・・。」
「俺はもう寝る。」
「えっ。寝るってまだ。」
「明日早いんだ。」
そう言ってさっさと寝室のほうに歩いて行った。
翌日。
「えっ。さくらがソフト部を辞めるっ。」
朝学校に行って一番最初に聞かされたことがそれだった。
「またどうして。」
「まぁ半分は木ノ本のせいって思ってたほうがいいよ。あんたが鉄研に入ってなかったら留萌だってこういうことはなかったんだけどさぁ。」
「なんで私のせいなのよ。どんな部活に入ろうが自由じゃないんだっけ。」
「そりゃそうだけどさぁ・・・。」
噂をしていると留萌が教室に入ってきた。
「あれ。榛名早いじゃん。浜松駅で「富士」と「はやぶさ」撮って来るんじゃなかったの。」
「その前に何でソフト部辞めるんだよ。」
木ノ本は留萌に当然の質問をする。
「・・・。もうする気がなくなったから。じゃダメかな。」
「・・・。」
「木ノ本。そういうことはあまり詮索しないでおいて。」
すると室蘭は耳元で、
「中学の時にソフト部辞めてったあんたと同じ気持ちだと思うから。」
と耳打ちした。
(中学の時の私と同じか。・・・。)
「分かった。理由はそれでいいよ。」
「ところでさぁ、話変わるけど、いちばん早い部活っていつ。」
一番答えづらい質問である。活動日は決まっていない。プラス先輩たち。特に善知鳥先輩が増やす部活がいつあるかなんて分からない。
「いや、いつあるかなんて分かんないし。」
「なんで分かんないのよ。鉄研だろ。」
「鉄研でも分かんないもんは分かんないんだよ。」
すると誰かが木ノ本を読んだ。ドアのほうを見ると永島がそこに立っている。
「永島。何しに来たんだよ。」
「いやあ箕島に教科書借りようと思ってさぁ。箕島いる。」
「今日あいつ日直だし今はいないよ。」
「あっ。そうなの。・・・後、善知鳥先輩が言ってたけど、今日部活あるってさ。」
「そう。了解。」
木ノ本がそう言っているときドアのすぐ近くにはられている日課に目を通した。木曜日は国語総合、数学Ⅰ、芸術、芸術、英語Ⅰ、生物Ⅰ。
「ダメだこりゃ。今日ないのかぁ。」
「えっ。何借りに来たの。」
「現代社会。」
「ああ。そうなのか。ドンマイ。」
ため息をついて帰っていった。
「今の人って誰。」
席に戻ると留萌が問いてきた。
「同じ鉄研仲間。昼になったら紹介するね。箕島君以外。」
「で、今日活動あるの。」
「ああ、今日はあるって。だから先輩たちも後で紹介するから。」
今の心配は先輩たちのカオスさに留萌がついていけるかどうかだけだ。
昼休み。
「今日から鉄研に入る友達の留萌さくらちゃん。」
「へぇ。「さくら」かぁ。」
「永島想像してるものが多分違うと思う。」
「あっ、バレた。」
「バレバレだよ。」
(さっきの人この人かぁ。)
「じゃあ何。もし名前があずさだったら想像するものが183系かE257系か知らないけどあの「あずさ」になるってこと。」
「まぁ、そんなところかなぁ。」
「て、話脱線してる。」
木ノ本が話の脱線を訂正して、部員の紹介を進める。
「永島の隣に座ってるのが佐久間君。佐久間君の隣が醒ヶ井君。後は中学生と2年生と3年生だから。」
「ねぇちょっと聞いていい。よく榛名から3年生は全員おかしいって聞いたけど、本当にそうなの。」
「うん。そういうところ多い人の集まりだよ。」
(こいつ。今はっきり言ったなぁ。)
「まぁ、今日部活あるんだし、その時になればわかるよ。」
というわけで、放課後。
「今日から皆さんの鉄研部に入る留萌さくらです。よろしくお願いします。」
「留萌さくら。留萌さくら・・・。うーん。あっ。あだ名はルモタンでいい。」
善知鳥先輩がまず勝手にあだ名を考える。
「えっ。あだ名なんて。ふつうにさくらでいいです。」
「さくらじゃふつうすぎるもんねぇ。サヤ。」
「また不法侵入部員かぁ。」
「あの。入ってきた人がヒクからそういうこと言うのやめましょう。」
「・・・。」
「さくら。これが鉄研の先輩たちだけど、ついてこれる自信ある。」
木ノ本が耳打ちした。
「多分無理。」
「ですよねー。紹介するけど、今さくらにあだ名つけたのが善知鳥茉衣先輩。サヤって呼ばれた人は北斎院大智先輩。その奥にいる人が名寄真佐哉先輩。通称ナヨロン先輩。多分話するならナヨロン先輩が一番いいと思うけど。そして、そのナヨロン先輩の隣にいるのが綾瀬健人先輩。通称アヤケン先輩。で、今ここにいないけど現部長の鷹倉俊也先輩と桜の隣にいる女の人が楠絢乃先輩。」
「そうか。本当にすごいインパクトのある部活だな。」
「ハハ。そうでしょうね。」
「ていうか、あの永島の適応能力ってすごくない。あんな先輩たちとふつうに話せてるわけだし。」
「いや、あんな先輩って。永島だって善知鳥先輩とはあんまり話さないよ。永島がよく話すのはナヨロン先輩のほうだから。」
「ふぅん。ナヨロン先輩ってなんかジャンルとかあるの。」
「車両鉄だからねぇ。それもディープな。」
「へぇ。あたしと同じだね。」
「いや、同じって思うのはどうかなぁ。さくらSL分かる。」
「分かんないけど。なんで。」
「ナヨロン先輩そこまでわかるから。」
「へぇ。すごいなぁ。」
永島と話しているナヨロン先輩のことが何となく神に見えてくる。
「何かほかの人はそういうことないのか。」
「えっ。アヤケン先輩は物作りが得意で、部活のモジュールも結構作ってるらしいけど、完成するとその呼ばわりがゴミになるとか。」
「何それ。」
「サヤ先輩は電車が好きなのはわかるんだけど、時折間違うとか、鈍感とかそういうことがあって、善知鳥先輩は新快速を新幹線って言っちゃったり、「ムーンライトながら」の373系を313系と言い間違えたり・・・。」
「な・・・。それって間違うようなやつじゃないよねぇ。どこをどう間違えたら特急列車が通勤電車になるのよ。・・・。あっ、そうか。「ホームライナー」とか373系使ってるか。それで言い間違えるのね。」
「いや、善知鳥先輩そういうこと全然分かんないから。」
「・・・。ようするに天然ってわけね。」
「そう。天然。」
「おい。そこさっきからあたしのこと天然って丸聞こえだぞ。アヤノンの次のいじられ対象にするぞ。ルモタン。」
「えっ。どういうこと。」
「つまり、楠先輩の次にいじられる人。」
「いや、それ分かるけど、いじるって何するつもり。まさかコスプレ。」
「今のところいじるでコスプレはないから。」
「・・・。」
「コスプレかぁ。いいかも。」
「・・・。」
「じゃあ、コスプレするんなら何が・・・。」
そう留萌に聞こうとすると
「ここをメイド部にするなー。」
男子全員が声をそろえて言う。
「演劇部にもしないでください。」
楠先輩も続けた。
「分かったよ。全員なんでそういうこと嫌いなのかなぁ。」
「文化祭の時に被った制帽だけならまだ許しますけど、それ以上は許せません。」
「それ以上って制服もダメなのか。真似て作ったやつ。」
「そういう方面だけに凝りすぎ。」
「だってあたし家庭科以外得意な教科ないし。」
「だからって懲りすぎ。」
「・・・。」
(私この部活でやってけるのかなぁ。)
鉄道研究部という船にまた一人クルーが加わったのだ。
数日後。宗谷学園では・・・、
「あれ。何か入ってる。」
下駄箱のスリッパの上に何かが乗っていた。
今回からの登場人物
留萌寛太 留萌みずほ
この部活動に萌えはありません。