4列車 スタート 高校生活
中学を完全に卒業して7日後。4月7日。僕は真新しいワイシャツに腕を通し、ネクタイを締め、黒いズボン履き、ブレザーに身を包んだ。
岸川高校入学式。1年生は9クラス。そのうち1クラスは中高一貫コース。2クラスは特進かコース。残りの6クラスがふつうにやっていくコースとなっている。僕は1年5組で、同じ中学校から来た人は僕を含め3人。そのうち一人は僕と同じクラスである。彼とは親友で名前は宿毛祐真である。もう一人は名前も顔も知らない。
「あーあ。俺は北星落ちてここになっちゃったけど、またお前と一緒だな。」
「そうだな。」
「これからもよろしくな。またテストとかになったら勝負しようぜ。」
「ああ。でも・・・、始まってそうそうテストの話っていうのもなぁ。」
「テストの話を引き合いにしたのは悪かった。いきなり勉強の話だと遊べなくなるってか。」
「うん。」
「お前は十分遊んでるって。受験勉強だってろくにしてないって自慢してただろ。」
「それでもやったって。受験前の1日前に1時間くらい。」
「それをろくにやってないっていうんだよ。まあ、私立なんて受からないほうがおかしいってところあるからそれでも合格したならいいか。」
「そっ。そういうこと。」
「ハハ。永島らしいな。永島の場合は結果しか気にしないからな。その頭ある意味うらやましいよ。」
「何。宿毛俺の頭みたいなほうがいいって思ってる。」
「自分の好きなことしか頭に入ってこないんだもん。そこまではっきりしてる頭だったら何かと苦労することがないのかなぁってこと。」
「そうかなぁ。」
「じゃあ、考えても見ろよ。お前高校決めるときここに鉄研があるから来たんだろ。他のところまともに考えてたか。」
「ああ、確かに。」
(分からせるにも一苦労かよ・・・。)
体育館に移動しながらこんな話をする。今日は部活紹介があるそうだ。まあ入る部活も決まっているのだが・・・。
「永島はどこをどう考えたって鉄研だろ。俺どの部活にしようかなぁ。」
「宿毛部活入ろうって思ってるの。」
「いや。出来れば入らないほうがいいなぁ。まぁ、強制だったら適当なところ入っといて活動に行かないっていうのも一つの手だな。」
「入るんだったら活動しろよ。」
「もう部活動にはうんざり。永島は運動部に入ってなかったからそう感じないんだって。」
「確かに運動部じゃなかったけど、情報処理部でも後々面倒くさくなったぞ。」
「お前その時代から遊んでたんじゃないのか。」
「うん。インターネットいじってKATOとかTOMIXのインターネットで好きな車両の再生産とかいつかなぁってみてた。」
「やっぱりやるのはそれかぁ。ちゃんとタイピングとかやってたんだろうな。」
「やってはいたよ。2年生までに表計算2級取ってスピードは3級まで取った。」
「・・・。なぁ、永島。気づいてはいたけど、お前活動と遊びがごっちゃになってないか。」
「えっ。」
永島のこの反応には正直困った。
中高一貫コースをのぞくクラスの生徒全員が集まったのが13時10分ごろ。始まったのは13時20分きっかりだと思いたい。まず始まるのは運動部の紹介。運動部なんて入る気はないし。運動部の部活紹介はとにかく耳から入れて耳から出した。頭をただ通り過ぎていくだけ。なんといっているのかも忘れた。
何分かたった後に5分間の休憩をはさむ。これが終われば文化部の紹介。まず一番に生物部の紹介。その次に鉄道研究部の紹介となっていた。
(これ以外聞かなくていい。)
そして、いよいよ鉄道研究部の紹介。出てきた人は2人。1人が演説台に行ってもう1人は胸の前で何かを広げた。あの広げた物は間違いなく鉄道模型である。その車両が何なのかは分からなかったが、何かと白が強調される車体である。583系「急行きたぐに」だろうか。その傍らで語っている人はこう言っている。
「僕たち鉄道研究部は3年生4人。2年生2人の計6人で活動しています。部費は年間14,000円と多少高いですが、年に一度臨地研修と言う旅行に行って東北などいろんな所へ訪問しています。また地域からの要請で学校以外でも展示を行っております。・・・」
(部費は14,000円。それを差し引いても入る価値はある。いや。入らなきゃ岸川に来た意味がない。僕は勉強をしにここに来たんじゃないんだ。それは二の次。)
また別の人は、
(鉄道研究部かぁ。私がここに来た半分の目的はあれ・・・。でも、女子が入っていいの。逆にそういう面でいじられたくないし・・・。)
それが終わるころ。僕の頭の仲は鉄道研究部のことだけでいっぱいになった。部活紹介が終わって教室に戻ろうとするころ。宿毛が話しかけてきた。
「頑張れよ。部費も高いみたいだし。」
「あんなの関係ないよ。関係すんのは、入るか入らないかだ。」
「それもそうだな。」
「宿毛は部活何にするんだよ。さっきはどうでもいいやつに入っとけばいいって言ってたけど。」
「なんていうかなぁ。こういうときに限ってそういう部活って見つからないんだよなぁ。」
「あっ、なんかわかる。自分に合ってるの探してる時って自分が気に入ったのは何か都合が悪くて、気に入ってないけど都合がいいっていうことだろ。」
「そんなところ。でもさっきの説明聞いて、俺情報部にでもしようかなぁって思ってる。やっぱりこれからの時代パソコンいじれなきゃついてけねぇだろ。さすがに基本操作ぐらいはできたほうがいいかなぁって。」
「ふぅん。」
宿毛にそう返事を返すと自分の肩が少し重くなった。
「どうした。」
落ち込み気味の僕が少し気になったらしい。
「なんかここまで来ると鉄研入るの俺だけなんじゃないかなぁって思えてきた。」
「なるほど。もし一人だったらお前が自動的に次期部長になるんだもんなぁ。」
「俺部長なんて柄じゃないし。出来れば俺よりもしっかりしたやつが入ってくれればいいなぁって。」
「ストライクゾーンの狭い要求だな。残念だけど俺は鉄研にはいかないぜ。部費14,000円なんて到底払えないからな。」
「そこをなんとか。お代官様。」
「他当たれって他。」
このやり取りを見ている人がいた。すらりと伸びた僕よりも身長のある人が。
教室に戻ると担任から部活登録届の紙をもらった。顧問はうちのクラスの副担任安曇川正司先生らしい。部活登録届をもらうと時間はすでに15時を回っている。全員10分間ぐらい自由にしていた。その10分間が過ぎると遊びを危ぶむ宣言があった。
「ええ、これからは毎日ノート3ページやって出してもらいます。」
(マジかよ。)
(これじゃあ北星と同じじゃん。)
「土曜と日曜合わせて6ページを次の週の月曜日に出して、ゴールデンウィークなどの連休中は1日5ページやって出してもらいます。この勉強は絶対みんなのためになるからな。この高校生活でどこまで頑張れるかが・・・。」
(知るか。)
その悪夢のホームルームが終わって・・・、
「永島。四ツ谷先生のあれ。どう思う。」
「俺たちを殺す気かよ。四ツ谷先生。」
「殺す気はないんだろうけど・・・。永島は当然やらないんだよなぁ。」
「やるわけねぇじゃん。あのなのやったらいつか死ぬ。だから反抗してノートは出さない。・・・。そう聞く宿毛は出す気あるのか。」
「ふと、これやったら永島を抜き返せるかなぁって思った。」
「やってみれば。ノート出したほうがいいか出さないほうがいいかはそれで決着がつく。」
「出したほうがいいだろ。・・・でもそれをすると対等じゃないか。永島が出さないなら、俺も出さないでお前に勝負しかけたほうがいいか。でないとハンデ大きいからな。」
「なんだ。結局宿毛も出す気ないじゃん。」
「だってやりたくねぇもん。北星受かってたら俺も考えたかもしれないけど。」
アルミ可撤出てきている下駄箱の下から2番目の手をかけて、ロックを解除。手前に引っ張ると靴の入った口がぽっかりと開く。上履きを靴に履き替え、両開きになっている昇降口を出る。その先には階段があって10段くらいの階段の2本立てになっている。最初の10段を下ると進行方向右側にまた別の階段が通じてきている。
「あれ、永島そっちから帰るのか。」
「違うって。鉄研のあるとこ体育館のステージ裏って言ってただろ。だったらこっちから言ったほうがいいのかなぁって。」
「ああ、そういうことか。」
その階段を下ると1回の昇降口に通じる。そこを左に曲がって2・3年生の駐輪場のあるところへ向かう。ちょっと開けたところに出ると右手側に2・3年生の立体駐輪場。左手側に体育館の入り口がある。その入り口からステージ側を除くとステージの上に何か置いてあるのがわかる。
「ステージ裏じゃなくてステージ上じゃないのか。何か置いてあるし。俺が思うにあれの後ろに部室みたいなものがあるとは到底思えない。」
「どこにあるかなんて今はどうでもいい。それより、分からなかったら安曇川先生に聞けばいいよ。」
「そうだな。鉄研の顧問らしいし。」
宿毛は歩き始めて、僕にさよならを言って帰った。
案内があった体育館ステージ裏に向かおうと思ったが、ここで路頭に迷った。すると誰かが声をかけてきた。振り向いて見るとクラスの・・・誰だっけ。
「佐久間だよ。永島何してんだよ。」
「鉄研見に行こうかなって思ってて・・・。でも、ステージ裏って言ってただけでどこにあるのか分かんないからここに突っ立ってるっていう感じだけど。」
「鉄研っ。永島も鉄研はいんの。実は俺も鉄研に入ろうって思ってんだ。つうかそのためにここ来たくらいだし。どうせ見に行くんなら一緒に行こうぜ。」
「ああ。」
「でも・・・、場所が分かんないっていうのは俺も同じなんだよなぁ。」
「安曇川先生に聞けばいいじゃん。あの人顧問だし。」
「なんでお前聞かなかったんだよ。」
「んっ。多分頭がそこまでまわんなかったんだよ。俺バカだし。」
職員室に戻って安曇川先生を呼ぶ。すると、居合わせた先輩らしき人を呼びとめた。
「鷹倉君。この2人鉄研見学に行くって言ってるから、部室まで連れてって。」
「はぁ。アド先生。僕はただのパシリですか。あっ後、部活登録。」
「はいはい。分かりました。じゃあ連れてって。」
安曇川先生は鉄研部内ではアド先生と呼ばれているようだ。誰が命名したかは知らないけど、まあいいか。そして呼びとめられた鷹倉先輩という人はいかにも迷惑そうな顔をしている。しかし、その顔も誰かを見てからは変わった。
「絢乃。こいつら部室まで連れっていってやって。」
「ハクタカさぁ。そういうことするのやめなよ。」
と言ってから僕達のほうに顔を向ける。するとため息をついて、
「分かったよ。場所教えるだけでも教えとくわ。だから案内終わるまでは待ってろよ。」
「ヘイヘイ。」
「で、ハクタカ。あたしの部活登録届も出しといてね。」
「お前なぁ。」
「じゃあ、行こうか。」
絢乃と言った人は紙をハクタカという人に渡して、すぐに僕達を連れていってくれた。
「鉄研に入部かぁ。君達ってなんか詳しいことってある。」
「俺は新幹線のことはだいたい分かります。」
まず佐久間が口を聞いた。
「俺は電車のことならだいたい・・・。」
「そう。電車のことで話をするなら先輩にいい人がいるんだけどなぁ。」
話しながら、体育館のグリーンベルトを歩く。端まで来るとドアを開けて中に入る。そこで体育館用のスリッパに変えるように促されて、体育館内に入る。中ではバスケット部が準備を始めている。どこまで行くのかと思っているとステージの手前で左にかじをきった。すると目の前にドアが現れる。そのドアを開けるとステージに上がるための階段。それを上ってステージに上がる。ステージを無視して、奥側の狭い通路に入る。そこをするするとすり抜けて、さっきいたところの反対側に来る。その前にはまた階段。それを7段上ると小さな踊り場を介してまた階段。この位置まで来ると上に二つのドアがあることを確認した。絢乃という人はそこまで来ると二つあるうちの左側のドアを指差して、
「あっちがあたし達の部室。普段は鍵がかかってるから、来たいときは安曇川先生か吹奏楽の山科先生に鍵をもらって開けてね。これで部室の場所分かった。」
「あ・・・、はい。」
「それじゃあ。今日は活動ないから。不定期っていうのも不便だよねぇ。ああ、そうそう。名前言ってなかったね。あたしの名前は楠絢乃。とりあえず部員だからよろしくね。」
そう言って来た道を戻っていった。僕と佐久間はしばらくその場にいたが、早く帰りたいという気持ちに押されて帰った。
今回からの登場人物
佐久間悠介 誕生日 1994年1月15日 血液型 B型 身長 174cm
鷹倉俊也 誕生日 1993年3月22日 血液型 B型 身長 173cm
楠絢乃 誕生日 1992年12月22日 血液型 B型 身長 167cm
安曇川正司(アド先生)誕生日 1951年10月21日 血液型 B型 身長 163cm
1年5組担任 四ツ谷