39列車 寝たら死ぬぞ
14時30分。朝言われた集合場所に赴いた。
「サヤ先輩と善知鳥先輩何してるんですかねぇ。」
疲れた言い方で今二人を待っている状態である。
「特にサヤの方は時間守った例がないもんな。」
「それ8日の朝も言ってました。」
しばらくするとサヤ先輩達が戻ってきた。
「ちゃんと時間を守ってくれないと困ります。」
とアド先生に叱られていた。まあ、当然のことだろう。
「遊ぶのもいいけど、程々にな。」
アヤケン先輩がそう言っているのが嫌でも聞こえてきた。
14時43分。大阪駅のホームに再び戻ってくる。今日何時間見たホームだろうか。ハッキリの光景を見るのは嫌になった。だが、来る車両によりその光景も新鮮になる。
14時58分。いくら車両でも新鮮に感じられなくなった大阪駅を後にする時間がやってきた。
最後に乗るJR西日本の車両である。その車両に目を向けた。
(マジ・・・。)
飛びはねたくなった。僕達の乗る新快速長浜行きは223系-1000番台だったのだ。
「運が良かったな、自分の好きなやつに乗れて。」
後ろでナヨロン先輩が僕の肩を叩いて言ってくれた。
乗り込むと人でいっぱいだった。12両編成のはずではあるが、こんなに混むものなのだろう。
ティントゥーン、ティントゥーン。14時59分。223系のドアが一斉に閉まる。15時00分。223系がブレーキのストッパーを外した。ここから米原まで81分。浜松まで264分の行程のスタートである。
新快速は130km/hで米原を目指す。14時55分発の快速米原行きとは途中の長岡京でごぼう抜きした。京都までコマを進めると乗客の入れ替えがある。ここで運転席の右斜め後ろ。一番前の補助席を確保した。
その後は、運転手と同じ目線で前を見つめていた。12両編成ということもあって僕の視界は人で遮られていない。そのためゆっくりと前の視界を楽しむことができた。走っている途中、何本もの旅客列車と数本の貨物列車とすれ違い、そのたびに空河と「何か来たな。」と言い合っていた。
16時20分。
「ご乗車ありがとうございます。米原ー、米原です。」
このアナウンスで耳に残るものがあった。
「なお、ドア付近にございます、ドア開閉ボタンを押して、お降りください。」
「ドア開閉ボタン。」
ドア付近にあると言っていたボタンを探した。見つけると何とも分かりやすいものである。
「僕が押します。」
空河が緑色の「開く」ボタンに手を添えた。
「おう、任せたよ。」
16時21分。米原の6番線に入線。停車するとドア開閉ボタンの上にあった黒い部分に赤くドアという文字が浮かんだ。この合図で空河がボタンを押した。
ティントゥーン、ティントゥーン。聞きなれた音を立てて、ドアが両側に開く。開き切るのを待たずに、ホームに飛び出した。
ホームには他のドアから降りた人もいる。真ん中のドアから降りるアド先生を視界の隅に捉えてから、階段のある方向へ歩いて行った。
次の列車は16時30分発。普通大垣行きだ。この列車はすでに8番線に控えている。それに向かって階段を駆け上がり、人の波をかいくぐって8番線に向かう。新快速から大垣行きの普通列車の乗り換えは案外多い。行く手を阻まれながら向かった。
8番線に来るとオレンジ色のラインの入った白い車体があった。117系という車両であることはすぐに分かったが、中身はよく知らない。
(117系かぁ。)
と思って片側に2枚しか付いていないドアから乗り込んだ。車内をざっと見まわしてみれば、ほとんどの席が埋まっていた。その中で空いている席を見つけ、そこに陣取った。
「おい、永島。そこ私と変われよ。」
顔を上げてみれば、木ノ本の顔がそこにあった。
「なんでだよ。」
「私、新快速の中でずっと立ってたんだからね。足が棒になってるから変わって欲しいなぁって事。」
「・・・。」
「なぁ、お願いだよ。」
「分かったよ。」
木ノ本に席を譲り、僕は立つことにした。この列車は途中醒ヶ井、近江長岡と終点大垣までの各駅に停まって行く。さっきまでの新快速とは違いゆっくりとコマを進めていく。そのため、この区間はクソがつくほど長く感じてしまう。
「あーあ、さっきまでスッゲーカットンで来たのに・・・。」
さっきの223系の姿が脳裏によみがえる。確かに大阪~米原は早すぎるのだ。110.5kmを81分で結んでしまうのだ。他だったら考えられない距離を通勤可能区域にしてしまっているのだ。
「まあ、しょうがないだろ。」
「そりゃ、分かってますけど・・・。」
諫早がさっき発車した柏原の方向に目を向けた。
17時04分。117系に乗車するのはここまでだ。大垣に到着する直前局地的な雨に見舞われたもののホームの屋根の下にいる僕達には関係のないことである。
17時09分。今度はJR東海の新快速の出番である。この313系の新快速で終点豊橋まで揺られる。僕は途中の木曽川までは起きていた。木曽川を過ぎると空いている席にフラフラと歩いて行った。ちょうど楠先輩の隣が空いている。
「楠先輩。隣いいですか。」
「んっ。いいよ。」
窓側に行きたいと言ったわけではないが、楠先輩は窓側の席を開けてくれた。
「ナガシィすごく疲れてるみたいだけど、大丈夫。」
「大丈夫です。」
「そう。なら・・・い・・・。」
楠先輩の声がはるか遠くで聞こえていた。
18時30分くらいだろうか。
「・・・シィ、ナガシィ。」
身体をゆすっているのは誰だろうか。
「どうしたんですか。」
「ああ、榛名。次で乗り換えだから起こそうとしてるんだけど、起きないんだよ。」
楠先輩の隣に目を向けると窓に頭を押し付けた状態で寝ている永島が視界に入った。
(夜行バスの中で寝れなかったって言ってたもんな。ここで噴き出たか。)
「なんかいい方法ないかな。」
ちょっと考えてから、
「入れ知恵してくれる人だったらいるかもしれません。」
携帯電話を取り出し、ある人にメールを送った。
1分後その内容の答え返ってきた。
「ナガシィが寝ちゃった時は、くすぐってやれば一発だよ。」
メールはこうなっていた。
(マジかよ。)
「で、どうだって。」
楠が聞いた。
「ああ、知ってる人が言うにはくすぐってやれば起きるって。」
「はっ。くすぐるって・・・。」
「んっ。どうかしたんですか。」
「いや、どうもしないけど・・・。」
「じゃあ、早くしてくださいよ。」
「間もなく終点豊橋ー、豊橋です。乗り換えのご案内をいたします。・・・。」
車内に聞きなれたアナウンスが流れる。
「もうすぐ豊橋に着くんですから早くしてください。」
なかなかやりだそうとしない楠を急かす。
「榛名、変わって。」
「えー。」
「早く。お願い。」
「わ・・・、分かりました。」
楠と場所を変わり、永島の横に行く。
(本当に起きるんだよねぇ。)
ためしに彼女の言っていたたたき起こす方法を試してみた。すると、
「な・・・。何。」
(起きた・・・。)
「豊橋だよ。降りるんだから、早く準備しろよ。」
「あっ、もう豊橋かぁ。」
と言って伸びをした。だが、一つ引っ掛かることがある。
(今の起こし方って、萌しかやらないはずだけどなぁ。うーん・・・。まあいっか。)
18時38分。313系は終点豊橋に滑り込み、僕達はここまで運んでくれたことに礼を言い313系と別れた。
次に乗る列車は18時50分発。新快速浜松行き。これが、最後である。
「はぁ、ようやっと戻ってきたー。」
「そうだな。」
「永かったですね。特に今日。」
「本当だよ。ほとんどの時間ホームにいたんだもん。」
「そうか。私はそんなに永くなかったと思うけどなぁ。」
「そりゃ、木ノ本が月に何回もそういうことしてるからだろ。」
「おい、醒ヶ井君が知らないかい。」
アド先生が僕達に聞いた。
「ナニナニ、サメちゃんがどうかしたって。」
いつの間にか善知鳥先輩達が僕の後ろに立っていた。
「まさか、乗り遅れたとかっていうことないよな。」
「いや、降り忘れたかもしれないぜ。」
「精神が負けたか。」
「おい、みんな手を合わせろ。」
「えっ。」
ハクタカ先輩に言われるがまま、名古屋方面に手を合わせる。横目で3年生を見てみると同じように手を合わせていた。ざっと確認したところ、手を合わせてないのは楠先輩と箕島だけだった。佐久間はというと、ここにはいない。別の車両にいる。
「バカ。何勝手に後輩殺してんだよ。」
「えー、後輩殺しちゃいけないよ、ハクタカ先輩。」
するとアド先生の携帯が鳴った。
「サメちゃん今どこだって。」
「今、蒲郡にいるそうです。」
「あいつバカだな。降り忘れて313に蒲郡まで連れてかれたのか。」
「なんだ、死んだんじゃなかったのか。」
「ハクタカって後輩殺すの好きだな。」
列車の中でこういうことを話しながら、終点浜松に19時24分に着いた。
「ウーン。アッ。」
313系から降りて、ほかの乗客の邪魔にならない位置まで行って伸びをした。
「戻ってきたー。」
改札を出て、ようやく解散のはずだったが、醒ヶ井がいないとなるとそういうわけにもいかないだろう。そう思っていた。
「1年生と中学生は帰ってもいいよ。サメちゃんだったらあたしたちで何とかするから。」
善知鳥先輩にそう言われたが、帰るつもりもなかった。
「いえ、いますよ。」
「そうか。じゃあ、今ここに残ってる人は私と同類だな。」
満面の笑みで言っている善知鳥先輩が少し怖かった。
「醒ヶ井のやつ電車の知識0だよなぁ。」
ナヨロン先輩が分かりきっていることを言う。
「へぇ、私と同じかぁ。でも、私は帰ってこれたけど。」
「あのなあ、それは俺がいたからであってだなぁ・・・。」
「大丈夫。何とかなるって。私でも何とかなってるんだから。」
「サヤ、諦めろ。何言っても無駄だ。」
「このやろう・・・。」
その後20時13分まで浜松駅の在来線改札前で醒ヶ井を待った。この時間から推測すれば、豊橋どまりの新快速と浜松まで直通する新快速を乗り継いできたようだった。
「お帰り。サメちゃん。」
「まったく。2日目みたいに精神的に死んでくれば面白いのに。」
アヤケン先輩が2日目に精神的にまいっていた時のことを言う。
「まったく。本当に死んでくれば面白いのに。」
「アヤケン先輩もハクタカ先輩も心配じゃなくてそんなこと考えてたんですか。」
すかさず醒ヶ井のツッコミが飛んだ。
「はいはい、人を勝手に殺さない。」
「あっ、面白がってる途中なのに。」
(あーあ・・・。)
ハクタカ先輩と楠先輩は醒ヶ井が来るとすぐに帰って行った。まあ、ハクタカ先輩にしてみれば強制的に帰らされたと言った方がいいだろう。
「よーし。サメちゃんも帰ってきたことだし、私達も帰るか。」
善知鳥先輩が伸びをする。
「はぁ、ようやと終わりかぁ。よし、遠江急行班も帰るか。」
ナヨロン先輩が帰ろうと言う。
「はい。」
「じゃあ、アド先生。さようなら。」
「あっ、永島君。18切符返してくれないかな。」
「あっ、はい。」
うっかり忘れるところだった。
「あれ、ナヨロン先輩は返さないんですか。」
「んっ。俺は何かと使うからね。」
アド先生に今回お世話になった18切符を渡す。
「後、返してもらうのは醒ヶ井君だけだね。」
この言葉を後ろに受けながら、歩いて行った。
臨地研修がようやっと終了しました。これからは9月などまた活動に入っていきます。
一つ思いましたが、これって説教してるように見えますかねぇ。説教してると思った方には謝ります。
とにかくここまで読んでくれた人には感謝。