38列車 車撮
5分後。新大阪に到着。新大阪に停車すると押し出されるようにしてホームに降りた。
「ヤバかったなぁ。あの人の数。」
「ヤバすぎだよ。関西ってもっと車両増やせばいいと思うんだけどなぁ。」
「そういうわけにもいかないんじゃないんですか。」
「まぁ、そうだろうけど・・・。」
「前来たことありますけど、あすこまで人が多いのは通勤ラッシュだけで、昼とかそういう時間帯はそんなに混んでませんよ。」
「へぇ、そうなのか。」
「の前に、朝風っていろんな所行きすぎじゃない。」
「あっ、バレました。」
「おい。そんなことより「彗星」だろ。」
諫早に怒られてしまった。
「早くしてくださいよ。もう後5分くらいしかないんですから。」
「んじゃ、聞くけど、「彗星」って何番線に入線んだよ。」
「12番線です。このホームは13・14番線ですから、隣です。」
中学生の方が情報通だ。高校生の方がしきられてしまっている。
「分かった。早い所行こう。」
降りたホームから階段を使い線路の上に行く。さらにこの上は新幹線ホームだ。だが、今は新幹線などにかまっていられない。早い所「彗星」を達成しなければ。
11・12番線に降り立つ。ここは特急専用ホームだ。11番線には紀勢本線の「特急くろしお」「特急スーパーくろしお」「特急オーシャンアロー」と「関空特急はるか」が、12番線には山陰本線の「L特急北近畿」「特急文殊」。また北陸本線の「L特急雷鳥」「特急サンダーバード」が発着する。そして、大阪と九州各地を結んでいる「|寝台特急あかつき」、「|寝台特急彗星」、「|寝台特急なは」と「|寝台特急トワイライトエクスプレス(TwilightExpress)」、「|寝台特急日本海」が発着する。
7時22分。
「12番のりばに、当駅どまりの、列車が、参ります。黄色い線の、内側まで、お下がりください。」
アナウンスが入る。「寝台特急彗星」の接近がここに告げられた。
全員の顔が曲がって何も見通せない大阪方面を向いた。
7時23分。大阪方面から甲高い汽笛が聞こえた。
「「EF65は今日も元気です。」って言ってるみたいだな。」
「ああ、そうかもな。」
そして、姿をあらわす。前を見ている黄色い二つのヘッドライト。真ん中に掲げられている寝台特急の象徴。ヘッドマーク。そして、その後ろに続く7両の青い車体。新大阪~南宮崎間を結んでいる「寝台特急彗星」だ。
入ってくる「彗星」を僕達はシャッターの嵐で出迎えた。「彗星」は僕達がそんなに移動しないよう加減して停まったのだろうか。ゆっくり、ゆっくりとスピードを落とし、ギギギギギギという鈍い音を立てて、停車した。
(一度でいいから、運転してみたいなぁ。)
心の中でその日が来ることを願った。
「一度でいいから、運転室中に入ってみたいなぁ。」
僕の傍らで木ノ本がそうつぶやいていた。
「早い所撮ってくださいよ。「あかつき」がすぐに来るんですから。」
僕も木ノ本も我に返って、
「あっ、そうだった。ここまで来て撮り損ねたんじゃ来た意味がないよ。」
(ヤベ、お土産一個減るところだった・・・。)
我に帰った後は「寝台特急彗星」を牽引してきたEF65-1123号機と、ヘッドマークのアップ。24系のトレインマークなどなど。ざっと撮れる部分は撮り終えてしまった。そして、僕達が満足したことを見計らったのか。「寝台特急彗星」は新大阪駅から走り去った。
「お疲れ様。」
その後ろ姿を見送りながら、つぶやいた。女の子がテディベアに話しかけるのと、何ら変わりはないだろう。ただ、話しかけている対象が違うだけである。話しかけると、電車が「ありがとう。」と答えてくれる気がするのだ。
「さて、今度は「あかつき」だな。」
「ああ。「あかつき」も仕留めてやる。」
仕留めるという言葉に朝風があきれる。
「仕留めるって・・・。動物じゃないんだから・・・。」
「よーし、どっからでもかかってこい。」
聞く気のない木ノ本を見て、
「永島さん。木ノ本さんって、カメラ握ると10歳くらい若返りますよねぇ。」
「んっ。そうなのか。」
「そうなのかって・・・。木ノ本さんだけじゃなくて、永島さんもそうなんですからね。・・・。」
その後朝風が何と言ったかは分からなかった。
「あっ、やっぱそう見えるんだ。」
「・・・。あの・・・自覚したことないんですか。」
「ないけど、友達からよく言われてたから。目だけ子供のままだって。」
「・・・。」
「そんなことより、「あかつき」のためにスタンバらなきゃ。」
固まったままでいる朝風を促して、「寝台特急あかつき」の停止目標まで足を運んだ。
7時29分。大阪方面にこっちに向かってくる二つのライトが姿を現した。それに向けてカメラを構える。
「間もなく、12番のりばに、寝台特急、「あかつき号」、京都、行きが、参ります。黄色い線の、内側まで、お下がりください。」
7時30分。EF65-1120号機に牽引された、14系寝台客車13両が新大阪に滑り込んだ。
「・・・」
木ノ本は一人12番線の大阪側の突端で固まっていた。
7時30分。
「12番のりばから、寝台特急、「あかつき号」、京都、行きが、発車します。ドアが閉まります。ご注意ください。」
「寝台特急あかつき」の発車が告げられた。このアナウンスが終了すると、14系の折り戸が閉まった。ブルーの車体についていた赤いランプも消える。
「ポッ。」
「あかつき」が短く挨拶をした。「もうちょっと、頑張ってくるよ。」といっている気がする。
(頑張ってね。)
心の中で「あかつき」を送り出す。そのやり取りをしているうちに、「あかつき」はゆっくりと走りだした。傍らを通って行くEF65のモーターがうなりを上げる。何とも腹に響く地声である。
この地声の後は、足から伝わる振動と耳にする勇ましい音を聞いて「あかつき」のラストスパートを見送る。
ラストスパートを見送り終わると木ノ本と合流した。
「なーぁ、永島。」
「何。どうしたのか。」
「「あかつき」シクッタよ。」
「あっ、そういうことね・・・。」
するとため息をついて、
「私「あかつき」に嫌われてるのかなぁ・・・。」
「・・・。」
どう言えばいいのだろうか。それに困る。
「うーん。木ノ本は「あかつき」のこと好きかも知れないけど、カメラが拒否ってるかも。」
「えー。「レフちゃん」が「あかつき」のこと嫌いなの。」
(レフちゃんって・・・。)
「ようし、決めた。今日から「レフちゃん」を特訓させるぞ。」
(特訓って・・・。)
「あの、木ノ本さん。言いづらいんですけど、それ一眼レフを特訓しても意味がないと思いますが。」
「うるさい。撮った写真がブレるのは「レフちゃん」がゴミだからだ。だから、そのゴミ要素をなくせば大丈夫だ。」
ちょっと救助を頼みたい。
それから、ちょうどいいくらいの朝御飯を食べて、9時26分に到着する「寝台特急なは」に備えた。
「「なは」が来るのって何時ですか。」
「9時26分。」
「あっ、そんなに遅いんですね。」
「まだ、遅い方じゃないだろ。「さくら」が東京に着くのが11時29分だから、そういう意味では「さくら」が一番遅いよ。」
「「さくら」も遅いけど、「はやぶさ」と「富士」も遅いよ。東京着は遅くないけど、西鹿児島着と南宮崎着は15時10分と13時23分だから。」
「そんな時間について何するんだよ。」
「だから、飛行機とかに客が流れるんですよ。あんなののどこがいいんですかねぇ。」
朝風が腕組をする。
「飛行機はただ速いだけだし、夜行バスはただ安いだけだし、車は窮屈なだけだし、自分で運転するから疲れるし・・・。」
(まだ、自分で運転してませんよねぇ。)
「まあ、そこは人それぞれだから・・・。ただ速いだけに見せられる人もいるかもしれないし・・・。」
「これだから、地球温暖化に貢献するんですよ。」
朝風は寝台特急の話になると燃える。というのが今回の臨地研修で分かったことでもある。
朝御飯を食べ終わるとすることもない。それも人それぞれなのだが・・・。
「12番のりばに、「特急、雷鳥、5号」、金沢、行きが、参ります。・・・。」
この放送を聞くと木ノ本が12番線の京都側に飛んでいった。今度こそ失敗しないためだろう。僕達もその後ろを追う。
「「雷鳥」って485系ですよねぇ。」
空河が聞いた。
「ああ、そうだな。」
「「|雷鳥5号(5ごう)」ってパノラマグリーン連結してましたっけ。」
「知らねぇよ。俺そこまで守備範囲じゃない。」
しばらく間をおいて、
「ただ、一つ言えるのは・・・、今木ノ本が行った方向はもしパノラマグリーンが連結されてるとしてアウトだってこと。」
「あれ、パノラマグリーンって大阪側でしたっけ。」
「大阪方だよ。」
「そうでしたっけ。」
「そうだよ。」
「あっ、僕てっきり金沢側だと思ってました。」
「まあ、デビューした時に金沢方にあったからな。無理もないかも。」
後ろから。カン、カン。コン、コン。軽快に新大阪のレールをたたく。その音がだんだん自分の方に近づいてくる。
チラッと後ろを振り向く。
僕の視界に三つのヘッドライトをつけた顔がある。
(早く行かなきゃ・・・。)
そう思い走り出す。すると、すぐに追い抜かれる。追い抜かれてもなお、その後を追う。ついにその速度に追いつき、僕が抜き返そうとしている時には、485系は鈍い音を立てて止まるころだった。
先頭には既に木ノ本がスタンバイしていた。
「あれ、「雷鳥」ってパノラマグリーン連結してたよねぇ。」
「連結してるよ。」
「もしかしてこれハズレかな。」
そうつぶやいていた。
「ハズレかもしれないけどさぁ・・・」
と言った時「雷鳥」の発車が告げられる。
「もう発車かよ。早いなぁ。」
と言うと、カメラ片手に12番線の京都側の突端に走って行った。
僕も顔を「雷鳥」に向けて見送る準備をした。別れるときになるとどんな列車でも名残惜しい。
「雷鳥」は信号が青のことを確認すると、ゆっくりと新大阪を発った。軽く継目を叩いて、重く継目をたたく。少し重々しいのはモーターを積んでいるからだろう。4号車、3号車、2号車。そして、金沢行きの最後尾。1号車が通過した。
(んっ。これは・・・。)
1号車が横を通った時あることが脳裏に映し出された。
「パノラマグリーンってふつうのやつに比べると窓が小さい。後、トイレのところにある行先表示がふつうのほうはドア側の客室窓上にある。だから簡単に見分けがつくよ。・・・。」
これは文化祭の時にナヨロン先輩が教えてくれたことだ。
今自分の隣を走って行った車両の特徴はナヨロン先輩に教えてもらったこと全てに当てはまったのだ。
(間違いない・・・。)
今から携帯を出しても間に合うはずがない。それなら・・・。今は恥ずかしいだのなんだの言っている場合ではない。
「木ノ本。後ろだ。後ろがパノラマグリーンだ。」
大声で、構えている木ノ本に情報を提供した。
木ノ本の横を485系が通り過ぎる。
しばらくすると、木ノ本が高く手を上げた。親指を立てている。口が動いていたが、何と言っているのかは分からなかった。
また、合流すると、
「ありがと。永島のおかげで失敗せずに済んだよ。」
とお礼を言っていた。
「失敗されちゃ困ると思ったからな。」
「でも、向こうに行く奴だったとはなぁ。テールライトだったのが惜しかったなぁ。」
「何だと、貴様。せっかく教えてやったのに・・・。」
「まあまあ。」
空河が止めに入る。
「で、今からどうするんですか。まだ1時間以上ありますよ。」
「ベンチとかに座ってればいいだろ。」
「絶対座ってれませんって。車両が来る度にどっか行っちゃいますよ。」
「ハハ、それもそうだな。」
結局、「寝台特急なは」車で新大阪の在来線ホームで待つことになった。その間に「雷鳥4号」が来たが、ハズレだと言って撮りには行かなかった。
9時25分。
「12番のりばに、当駅どまりの列車が、参ります。黄色い線の内側までお下がりください。」
「ようやっと来たな。」
「でも、車撮とかで時間使ってそんなに長くなかったじゃないですか。」
「来たぞ。」
「寝台特急なは」姿を視界に捉えた。
この後、「寝台特急なは」が回送されるまで撮影を続け、「なは」が撮り終わると、佐久間達と別れた。佐久間と別れた後何をしていたかと言うと、ほとんどの時間をホームで過ごしていた。具体的に何をカメラにおさめたかというと、「特急オーシャンアロー」の283系。「特急北近畿」の183系。「特急くろしお」の381系。「特急はまかぜ」のキハ181系などなど。大阪に集結するJR西日本の車両のほとんどを撮りつくした。さすがに12時を過ぎると精神的にもまいってしまい、大阪のベンチに腰掛け、来る車両を眺めていた。
・・・。
ようやっと臨地研修にも終わりが見えてきました。
何とか頑張ってきましたが、まだコメントが一つもないという状況が続いています。書いてくれると本当に助かります。
それとも話が話で書きづらいですか・・・。