36列車 夜行バスで
博多に到着すると、改札を出た。
「どうする。17時29分発の博多南行きに乗ろうと思えばまだ乗れると思うけど・・・。」
腕時計を見て今後の予定を話した。
「もういいよ。どこにも行きたくないもん。」
「空河は。」
「別にいいです。」
「朝風は。」
「新幹線だったらいつでも見れますしね。」
「で、永島は行きたいのか。」
「別に。」
「んじゃ、入場券買って入って、新幹線でも車撮しるか。」
「140円払ってまで車撮に行くんですか。」
「もう動きたくないですよ。」
「そうだろうなぁ。私はまだ行けるんだけどみんながダメじゃあなぁ。」
「えっ。俺もダメじゃないけど。」
「・・・。」
「で、どうする。」
考え込んだ。皆の体力はすでに限界に達している。これ以上無理をさせることもないだろう。
「んじゃあ、終わりにするか。」
17時25分くらいだろう。僕達の自由行動はここに終了した。その後、バスの発着する筑紫口の方に足を運んだ。
「永島。」
筑紫口をもうちょっとで出ようとした時、誰かに呼ばれた気がした。
「永島さん。」
声のする方向を探してみる。
「あっ、あすこ。」
木ノ本が上を指差した。長い階段とエスカレーターの向こうにいるのは佐久間と諫早だった。僕達はそこまで続くエスカレーターを上り、上まで行った。
「佐久間来てたんだ。」
「人身事故とかって大丈夫だったか。」
「えっ事故って・・・。」
「・・・。しっ、知らないの。」
「ああ。そっち事故あったの。」
「あったよ。おかげで列車は遅れるわ、春日とかいうところに臨時停車がするわで散々(さんざん)だったんだからな。」
(いや、臨時停車の方はそれのせいじゃないと思うけど・・・。)
「それいつくらいにあったの。」
「たぶん13時30分とか、それくらいだよな。」
「そんとき俺ら、熊本にいないからね。」
「はっ。」
「さっさと「つばめ」で帰ってきてたから全く関係ないよ。」
(それ、普通で行ってた俺らがバカみたいに見えるじゃないか・・・。)
「でさぁ、「つばめ」ん中で・・・で乗ってきた。」
「何やってんだよお前ら。」
僕と木ノ本の声がそろう。
「フハハハハハ。スリル満点で楽しかったよ。」
あきれて言葉も出なくなった。
「スリル満点だろうがなんだろうが、何やってんだよ。」
「前々から、やるやるとは言ってたけど、本当にやるとは・・・。」
ここで言っていることは読者の皆様には実行してほしくない。
その後は21時に出る夜行バスまでゆっくりと待った。今度は待つ時間が長い。そして、僕は夜行バスの中で寝れるのかと思っていた。正直言うと僕が乗り物で一番嫌いなものがバスなのである。
「なんで「ムーンライト山陽」とか「ムーンライト九州」じゃないんだよ。」
同じ文句を言っているのは木ノ本である。なお、説明が遅れたが、「ムーンライト山陽」は下関までなので博多には乗り入れない。
「ホント、バスって死ねばいいと思う。」
「バスってどこがおもしろいんですかねぇ。僕には全然分りません。」
朝風が話しに入ってくる。
「それプラス格安でしょう。」
空河も入ってくる。
「そうだな。アドの爺のことだから格安のやつだよなぁ。」
「夜行バスと「ムーンライト」だったら、まだ「ムーンライト」の方がましですねぇ。」
「だな。夜行バスって乗ったら最後監禁されないといけないからな。」
「もう、走るホテルじゃなくて走る牢屋だよ。あんなの乗ったら死んじゃう。」
「走る牢屋って。そこまでひどいのか。」
「ひどいってもんじゃありませんよ。ゴミです。ゴミ。」
すると、怒ったような口調になって続けた。
「僕一度に夜行バス乗りましたけど、寝れるようなもんじゃありません。床下からのエンジン音はうるさいし、縦や横に揺れまくって寝れません。で、寝れなかったら外見てればいいやって思って外見ようとすると、車内に明かりがちらついて他の客が眠れないだの。うるさいですよ。」
「朝風いいこと教えてあげようか。」
今度は後ろで声がした。この会話を聞いていたのだろう。ハクタカ先輩が立っていた。
「いいか、夜行バスって、麻酔薬を常備して乗るもんだぞ。あんなのの中で寝られる人は神経がおかしいんだ。」
(うっ、そこまで言うか・・・。)
「えっじゃあ、ハクタカ先輩って眠り薬持ってきてるんですか。」
「んっ。ああ。麻酔薬ないと眠れないって。バスに乗った段階でこれ飲んじゃえば発車する時にはたぶん寝入れると思うから。」
「そんなの持ってきてたんだ。」
「うるさいな。ないと眠れないんだよ。」
「えっ、ハクタカ先輩って不眠症ですか。」
「違う。バスがゴミだから眠れないだけ。」
「違う」の言葉の後は胸を張って言っていた。そして、「ゴミ」を強調していた。
21時20分。自分達が乗るバスに乗り込み、発車を待った。
21時51分。発車時刻から1分が経った。まだバスはエンジンをフル回転させていない。その後5分経っても、10分経っても、15分経っても発車する気配はなかった。
「なあ、朝風。バスってこんなにトロイもんか。」
木ノ本が前の席にいる朝風に話しかける。
「トロイもんですよ。これだからバスは嫌いなんです。できれば「寝台特急」とか「寝台特急」に乗りたかったですけど。」
「まあ、乗してくれるわけないな。」
「そうなんですけどねぇ。」
「そんなに寝台特急に乗りたいのか。」
木ノ本の隣に座っている楠が朝風に聞いた。
「はい。寝台特急にはこんなのにない良さがいっぱいありますから。」
(こんなのに(バス)ない良さ・・・。)
「うん。朝風、君は立派だよ。」
「でも、なんでそんなこと聞くんですか。」
「んっ。ああ、ちょっと気になっただけだから。」
22時15分。ようやっと九州福岡を発った。
バスは発車するとすぐに高速道路に入った。高速道路に入るとすぐに車内灯が消される。車内灯が消えるのはいいのだが、どうにもならないものがあった。バスのエンジンである。この床下から聞こえてくる電車のモーター(吊り掛け)よりもひどいこの音はどうにかならないのだろうか。ずっと思っていた。しかし、こんなこと思ってもどうにもならないのは分かっている。その夜、僕はこれのせいで眠れなかった。
これはひどすぎでは・・・。
言動は確かにひどいですが2日目終了。次からようやっと最終日に入れる。