29列車 行程 テスト
その日の放課後。岸川学園では・・・、
「今日は2日目の工程上げちまうぞ。」
僕がみんなをまとめる。
「ところで、みんな何か考えてきた。」
「全然浮かびません。ディーゼルに乗ろうとするとどうしても。」
「大体形は考えてきたんですけど、自分が納得いくようには。」
「あっ。考えるの忘れてた。」
「まぁ、木ノ本の場合無理ないよなぁ。昨日考えてきたのがボツになったわけだし。そんなにポンポン考えが量産できるような人じゃないしね。」
「・・・。」
何か今日は永島と話しづらい。萌があそこまでしたい理由が自分の中では一つしか見つからないからだ。自分のほうははるかに彼女より短いのだが、そう思ったことがあるというのは事実だからだ。しかし、話さなくてはならない。鉄道の話に置いて口数が少ない自分は異常。心配かけまいと思って口を開いた。
「そんなの誰でも同じだろ。あれ、相当自信あったんだから。・・・。そういう永島は何か考えてきたのか。」
「全然。」
(即行否定かよ。)
「でも、昨日佐久間が熊本行くって言ってたじゃん。あれの行先だけパクって行こうかなぁと。」
「行こうかなぁって。熊本にですか。」
「パクっててことはずっと各駅ですよねぇ。」
「ああ。そんで、いちばん最後のほうは木ノ本の案も少し入れた。で、これで本当に回れるのかわかんねぇから、今から時刻表で調べるってわけ。」
「こら。ちゃんと調べてから来いよ。つうかちゃんと考えてきてるじゃないか。」
「まあまあ。そう怒らずに。じゃあ、醒ヶ井。時刻表貸して。」
「だから。前にある時刻表取ってくればいいじゃん。」
「お前のほうが前の時刻表に近い。それに取りにいくの面倒だし。」
(さすが。金持ち出身の人だなぁ。)
「いいよ。私が取ってくる。」
これをやり続けていてもらちが明かない。そう思った木ノ本が時刻表をとってくる。その時刻表を渡されて、
「えーと。鹿児島本線、鹿児島本線。えーと。あった。」
見つけて開くのをやめたところ、開かれたのは鹿児島本線「上り」のページ。このページは「上り(八代-門司港) その3」となっている。前にページをめくって、鹿児島本線「下り」のページを出す。
「えっと、まず。8時11分発の快速荒尾行きで、荒尾が9時26分。」
小倉方面からきている快速列車は大牟田の一つした。荒尾という駅でその先に時刻の表示がない。これはここ荒尾が終点だという証。当然列車を乗り換える必要がある。荒尾をさした指を右に動かす。右側に行けばいくほど時刻は遅くなる。一本「特急つばめ」を挟んで9時44分。普通列車八代行きがある。これに乗ると途中熊本には10時32分。この先八代まで行こうと思えば八代まで行ける。だが、あえてここでとめることにしよう。
「熊本まで来て10時32分かぁ。この先どうするんだよ。」
「熊本って市電があるんだよ。」
「しでん。」
木ノ本にはそれがわからなかった。まだ元の知識量に戻ってない。
「路面電車ですよ。木ノ本さんそんなことも分かんないんですか。」
「空河。後でシバカレたい。」
「嫌です。」
「その話は置いといて、それ乗りつくして、帰りはどうしようかなぁ。全部乗りつくすって言ってもそんなにかからないよなぁ。なら、13時57分発の普通鳥栖行きに乗って・・・。」
出る言葉がなくなった。終点鳥栖到着は16時05分。長いのだ。
「これ快速運転やってくれませんかねぇ。」
「やっちゃくれないだろうな。」
「この間だけでも「つばめ」とか「有明」とか使いましょうよ。」
「金かかるからやめよう。よし。そんでこれに乗ってって、鳥栖が16時05分。これで言って一番早く行ける列車が快速小倉行き。こいつに乗っていくと博多に16時58分。これに一番早い博多南線は・・・。」
ページを白い部分の真ん中あたりから前よりの青いページに変える。東海道・山陽新幹線の下を探っていたが、博多南線の表示はどこにも見つからない。散々探して、いま開いているページは「東海道・山陽新幹線上り その7」。仕方がないので、ページを前に送って青いページよりも前のページを開いた。ここにはいろんな情報が乗っている。それはホテルや臨時列車の時刻など様々。しばらくめくっていくと東京首都圏の拡大された路線図が出てきた。もう1ページめくると北海道がでかでかと載っているページ、次は東北地方、関東地方、中部地方、近畿地方という風に分かれている。これの九州地方が乗っているページを出して、博多南線をおった。
(444ページ。)
ページ数を記憶して、そのページまでページをめくる。そのページには左上に小ぢんまりと博多南線が載っていた。
「これで一番早い博多南線が17時29分で、博多南着が17時39分。これで返ってくるときは・・・。19時04分のやつでは方が19時14分。完璧。」
とりあえずこんな感じで頭の中にあった案はこれでようやく実体化した。
あとはこれをアド先生に提出するだけ、
「はい。分かりました。」
この反応は通ったということと受け取っていいらしい。
「永島君。3日目はどうするつもりですか。」
「えっ。3日目は大阪か新大阪に缶詰めのつもりですけど。」
「ナヨロンじゃあるまいしよくやろうとするな。死ぬぞ。やめとけ、やめとけ。」
そういったのはサヤ先輩だ。
「人を鉄道バカみたいに言うなつぅの。」
「そう言ったって何の説得力もないわ。どこからどう見たって鉄道バカじゃないか。」
「・・・。」
「おいおい。二人ともやめろ。」
アヤケン先輩が仲裁に入った。
「ナヨロンはどこからどう見ても鉄道バカっていうの認めろよ。」
「本人否定してるところであっさりというな。」
「そして、サヤは鉄道好きの天然の際物好きって認めろよ。」
「際物好きってなんだよ。」
「・・・。」
「まぁ、そんな話どうでもいいや。でも、このプランからすると、「RedDiesel」とか見ないんだな。」
「「レディー」。」
この言い方には疑問を持った。まず何を言いたいのかが分からなかった。
「あの、名寄先輩。」
何か心当たりがあるらしく、空河が名寄に話しかけた。
「もしかして「キハ200」のことですか。」
「すっ・・・すごいなぁ。通じるやつがいた・・・。」
さすがにこのことまでは予想していなかったようだ。面喰っていた。
キハ200というのはJR九州のディーゼルカーである。この車両は働く線区ごとに色分けされており、赤と青と黄の3色がある。今、ナヨロン先輩の言ったのは赤いキハ200のこと。他の色は「BlueDiesel」「YellowDiesel」とあだ名をつけているようだった。
6月24日。佐久間の班が原案を出し、これで全部の班の自由行動の計画が出された。これでテスト前の部活は終了。次の部活はテストが終わってからになる。ここまでくれば一時は安心していいそうである。後はただ、その日が来るのを待つだけだと言っていた。
7月上旬。そうそうテストだ。
「なぁ、宿毛。ここ教えてくんない。」
数学Ⅰの教科書を持って宿毛のところまで行く。
「お前なぁ。数学じゃなくて国語勉強しろよ。国語。」
「いいじゃん。国語なんてどうにでもなりそうだし、それにこれわけわかんねぇ。」
「分かんないとかって言っておきながら、理解してる。お前に多いパターンじゃないか。」
「そ・・・それで教えてくれないとでもいうのか。」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・。」
「じゃあ、教えて。」
「はいはい。」
(学年トップが縋り付いてる・・・。)
そう思いながら、宿毛とのやり取りを見た。
1時間後・・・、
「宿毛、今度はこれ教えて。」
「はっ。それ教えるもんかよ。覚えろよ。お前の短期記憶最強なんだから。」
「いいじゃん。なんか問題出して。」
「問題かぁ。じゃあ、生殖細胞ができるときの分裂の名称。」
「減数分裂だろ。」
「正解。次。相同染色体どうしが平行に接着するようになった染色体は。」
「えーと・・・。二価染色体。」
「正解。問題出すまでもないだろ。」
「いいからもっともっと。分かんないから。」
「ウソじゃん。」
ずっと問題を出し合って7分後。
「あ、覚えらんねぇ。」
「ウソつけ。覚えてるだろ。永島。今回も生物100点取ったら殺すからな。」
「大丈夫。今回は取れないから。」
「嘘くさいんだよ。」
「ハハハ。」
「ハハハじゃねぇよ。まったく。」
また1時間後・・・。同じことを繰り返して今日は終了。次の日も同じだった。そして数日たつと・・・、
(ゲッ。)
「おい。俺に縋り付くからこういうことになるんだよ。縋り付かなきゃよかったものを。」
耳元で宿毛が悪魔みたいな声でささやいた。
「結構できてたと思ったらまたこの結果だもんなぁ。なんで宿毛が上じゃないんだよ。」
「知るか。俺のほうはあれだけ勉強してきた結果がこれっていうほうに腹が立つ。」
「・・・。」
「まぁいいや。次で抜けばいい。」
「だな。次で抜かれればいい。」
(一番上っていうのがよっぽど気にくわないみたいだな。)
その昼・・・、
「今回も学年トップって宿毛君っていう子なのか。」
木ノ本がその話題を振った。
「あっ。木ノ本まだ知らなかったんだ。」
木ノ本の対岸に座っている箕島が口を開いた。
「宿毛っていう人が学年トップっていうのは嘘なんだよ。本当の学年トップは・・・。」
箕島は視線を永島のほうに向けた。
「それ言うなって。」
「マジ。学年トップってこいつなのか。」
「そうだよ。」
疑問には佐久間が答えた。
(マジかよ。今までずっとバカっていう方面で同類って思ってたのに。そもそもなんでそんなに頭いい人が岸川に来てるわけ。)
「まぁ、ほかの高校狙う気もなかったし、行くの面倒くさかったし。」
「ここは面倒じゃないんだ。」
「うん。ここはね。遊ぶために学校来てるし。」
「そりゃ目的が違うだろ。」
「まぁ、いいじゃん。人それぞれ目的が違うっていうのはふつうだし。」
(こいつの場合それがふつうって言ってもふつうじゃないように聞こえる。)
その日の放課後。ソフトボール部。
(ダメだ。なんかやる気しない。でも、夏の大会も近いんだし、どうにかついて行かなきゃ。でも・・・。なんだろうこの気持ち。今までそんなにきつくなかった練習がこんなにきつく感じるのは・・・。)
この頃木ノ本の表情がとてもうらやましく思えるのだ。
ようやっとここまで来ました。
結構現実と違うというところは目をつぶりたくなくなるほどでしたかねぇ・・・。