26列車 まとまらない
現実と大きく違う個所が多々あります。すみません。
正式な部員と認められた。そのような感覚に浸っているのもわずかの間。これから僕たちは本当にイベントに体を傾けていく時期になった。その鉄道研究部一大イベントというのは毎年恒例臨地研修である。
「サヤ、今年どこ行こうか。」
善知鳥先輩がサヤ先輩にどこに行こうかと聞いた。
「そうだなぁ・・・。去年は東北だったし、おととしは四国だったしなぁ。アヤケン、ナヨロンはどこがいい。」
「九州でよくない・・・。」
ナヨロン先輩が提案する。
「おっ、ナヨロンさえてる。」
「うっさい。」
「九州かぁ・・・。うん、いいかも。」
「よーし、みんなで九州に行こうー。」
「じゃあ、僕からそうアド先に言っとくよ。」
「サヤお願いね。」
「で、どうする。九州って言ってもどこに行くんだよ。」
「行くって・・・、博多か小倉あたりだよなぁ。」
「エー。」
「エーって・・・。病むこと確定なんだから文句言わない。」
「だって精神的に病ませるのはどうなんだよ。ハクタカ達はともかく1年生は耐えられないだろ。まぁあたしも耐えられないけど・・・。」
「そんなこと言ってたらどこにも行けないだろ。それにその心配はないよ。」
「どうして。」
「木ノ本は撮り鉄だからそんなこと考えなくていいだろ。永島は電車が好きだから入ったんだから問題ない。他は・・・、どうにでもなるからいいや。」
「ナヨロンってそういうことよく一発で見抜けるな。」
「見抜いてないよ。勘なんだから。」
「そんなことはどうでもいいよ。」
「じゃあ、博多行くってアド先に言っていいな。」
「まだ、言ってなかったの。」
「善知鳥が嫌だって言うからだろ。」
「はいはい、分かったから早く電話してよ。」
今日の定例会はこれで終わった。
(また遠いところまで行こうとするなぁ。)
そう思っているのはアド先生だ。この頃は遠いところにしか行っていない。
「まあ、できるだけ抑えましょう。」
独り言を言った。抑えるというのは旅費。これができれば学校への申請は簡単である。
6月17日。今日は放課後に部活がある。今日からは夏の臨地研修についての話し合いだ。
「今年どこ行くんだろうな。」
僕から見える人全員にこの問いをしてみた。
「できれば東北がいいな。」
「四国かな。」
「やっぱ北海道だろ。」
「どこでもいいよ。」
木ノ本、箕島、佐久間、醒ヶ井の順に回答があった。言ってはないが僕もできれば東北がいい。
「ああ、どこになるんだか気になるなぁ。」
すると教室のドアが開いた。全員の顔がそっちを向く。
「先生じゃないんだから、みんなでこっち向くなよ。」
見ると楠先輩だった。もちろん顔はあきれていた。
「絢乃先輩。去年は東北のどこに行ったんですか。」
荷物を置こうとしている楠先輩に木ノ本が聞いた。
「去年は確か・・・。」
「「ばんえつ物語号」に乗ってきたよ。」
今度は楠先輩の後ろで声がする。声の主はハクタカ先輩だった。
「ハクタカ先輩達って結構いい所行ってますよね。」
「そうかもな。」
ハクタカ先輩はそう言って去年の旅行の説明を始めた。
「去年は東京まで各駅で出て、夜新宿から出る「ムーンライトえちご」に乗って新潟まで行って、その後「ばんえつ」に乗って、戻ってきたんだよなぁ。」
「それより「ばんえつ物語号」ってどんな感じでした。」
木ノ本が興味ありげに聞く。
「それは・・・。」
「ダメだよ、そんなこと聞いても。だってハクタカ「ばんえつ物語号」の中で爆睡してたもん。」
「ええ、なんで爆睡してたんですか。」
「「ムーンライトえちご」の中で徹夜してたんだってば・・・。」
(よくやるなぁ。)
「それでも、最初くらいは覚えてますよねぇ。」
「それもないね。座った瞬間に寝たから。」
(何やってるんだか・・・。)
この話が終わるころには3年生も中学生も集合していた。全員が集合するとすぐに本題に入った。
「今年はみんなで博多の病院に行くぞー。」
「オー。」
テンションの上がる先輩達。なんで博多にまでいって病院に行かなければならないのか。
「あのなぁ、普通に言えって。」
「そうそう、いくら1年生が鉄研色に染まったからって伝わらないだろ。」
ナヨロン先輩とアヤケン先輩がツッコンでいたが、何か通じてきた。
「それって、今年の臨地研修は博多に行くってことですよねぇ。」
思ったことお口にしてみた。
「おお、さすがナガシィ。」
何となく分かりたくなかった。でも、九州に行けるのはうれしい。
「よーし。んじゃあ工程言うぞー。」
またサヤ先輩たち恒例のあれが後にはまっているのだろうか。
「まずハカグチに6時45分集合。7時06分に出る普通で豊橋まで行って、豊橋から7時49分発の特快米原行きに乗って米原で乗り換え。米原から9時50分発の新快速で大阪まで行って、大阪で昼休憩。昼ご飯食べたくないやつは食べなくていいぞ。それで12時00分発の新快速播州赤穂行きに乗って途中の相生で降りる。相生からふつうに乗って途中の糸崎で乗り換え。いと先から「シティラナ」とかっていう・・・。」
「略すなよ。」
「いいじゃん「シティラナ」で。そいつに乗って広島で降りたら17時55分発の「レルスタ」で博多に19時06分だ。」
「だから略すなって。」
「もうどうでもいいわい。次行くぞ。2日目は自由研修で、全員で乗るやつはオリオンとかっていうバスの21時40分発のやつ。こいつに乗って大阪が多分7時30分。三日目は大阪に着いたら自由で全員で押しかけるのは15時30分発の新快速。これで米原に着いたら米原で乗り換え16時59分発の特快に乗って豊橋に18時59分。そのあとは普通であーって浜松に戻ってくるっていう工程だぜ。」
「そんなんで通じだのかよ。」
「多分通じた。問題ない。」
「多分って・・・。おい。」
今ここにその工程を聞かされた。
「そんでもって、2日目と3日目は自由行動があるから、その班を決めてくれ。」
何とも展開の早い部活である。
その後、善知鳥先輩の言っていた自由行動の班を決めた。班は北斎院、善知鳥班。名寄、箕島班。綾瀬、醒ヶ井班。鷹倉、楠班。佐久間、諫早班。そして、永島、木ノ本、空河、朝風班となった。この班で行動し、いろんなところに行ってくる。班が決まると次はその中身を立てる。
「どこ行こうか。」
「そうだな。九州行けるんだし、いろんな所行きたいよな。」
「いろんなところって言ったって駅だろ。俺駅以外そんなに行きたいって思わないし。」
「それは私も同じ。城廻とかは箕島が喜びそうだけど、私たちはそういうがらじゃないしね。」
「向こう行くんだったら九州特急とか見れるか。」
「納得だ。お前好きだもんな。ほれてるものが違うと思うけど。」
「それ言ったら空河だって同じだろ。キハにほれてるじゃん。」
「・・・。」
「ほれてる、ほれてないっていう話じゃないだろ。今はどこに行くかだろ。全員どこに行きたいんだよ。」
「正直博多から離れたくないっていうのが本音ですね。」
「博多だとディーゼルが見れない。熊本とかそっちに言って「ゆふいんの森」とか「くまがわ」とか見たいなぁ。」
「私は「かもめ」と「つばめ」と「有明」と「ハウステンボス」と「みどり」の写真が撮れればいいなぁ。」
回答は朝風、空河、木ノ本の順。
「そんな都合のいいプランなんてあるかよ。」
「そうだけど。つうか、まだ永島がどうしたいかって聞いてないよ。」
「俺・・・。俺は鳥栖とかに行って寝台特急とか向こうに行く特急撮ってたいなぁ。」
「全員なんか写真撮りたいっていうのは変わらないんだな。」
「そうだな。」
「でも、具体的にどこに行きたいかっていうのは出てませんよねぇ。」
「それはもう出てるも同然じゃないのか。朝風は本音を言うと博多から離れたくない。空河はディーゼルカーが撮れればどこに行こうが関係ない。木ノ本は特急。僕は寝台特急と特急。それで、朝風が博多から離れたくないっていう理由は寝台特急の「富士」と「彗星」と「あさかぜ」、「出雲」、「瀬戸」意外完全網羅できるからだろ。」
「永島さんよく分かってます。」
あたりを見回して時刻表を持っている人を探す。
「醒ヶ井。時刻表貸して。」
「前にあるだろ。それでいいじゃん。」
「お前のほうが近いんだからお前がそっち使えばいいじゃん。」
強引にも醒ヶ井が使っている時刻表をもらって最初のほうにあるブルーのページをめくった。これの前のほうには新幹線。真ん中に新幹線と特急の接続。後ろのほうには特急のダイヤ。一番後ろには寝台特急の時刻が記載されている。僕が開いたのはブルーのページの一番後ろ。つまり、寝台特急の時刻表が記載されているページだ。白の青の境目のページを開くと載っているのは「カシオペア」「北斗星」「はくつる」の時刻。次のページをめくると左のページから「出雲」「瀬戸」「北陸」。右のページに「あけぼの」「ゆうづる」「日本海」「トワイライトエクスプレス」の時刻が乗っている。さらにページをめくると見開きに大きな時刻表が現れる。左ページは下り。右ページは上りの時刻。載っているのは「富士」「はやぶさ」「さくら」「みずほ」「あさかぜ」「あかつき」「彗星」「なは」。
「これで分かるな。」
「今思ったけど、寝台特急って結構いっぱい走ってるんだな。」
「今でも定期列車が18往復36本。不定期が2往復4本設定されてますからね。」
「計40本か。多いなぁ。」
「そんなでもありませんよ。過去には「明星」と「ゆうづる」がそれぞれ7往復14本設定されていた時代がありますから。」
「えっ。それだけで14往復28本。多すぎじゃない。」
「確かに多すぎですね。そのあと「明星」は4往復8本。「ゆうづる」は5往復10本に整理されてますから。」
「それでも多いだろ。」
「そんな話今はどうでもいいだろ。それよりこっち。いつか仕上げなきゃいけないんだから。」
「そうだった。ごめん。」
「別にいいよ。木ノ本の場合そういうこと話してたほうが楽しいだろ。久しぶりなんだし。盛り上がればいいじゃん。」
「盛り上がるのはこれが終わった後。そう決めました。さっさと終わらせちゃお。」
「だな。」
今度は見れる寝台特急の整理だ。実際に行動ができるのは7時30分から8時以降。その時に博多に来る寝台特急は物の見事にない。
「あっ。寝台特急のそんなに空気を読んではくれないみたいだな。」
「寝台特急のKY。」
「まぁ、KYって言っても時刻表がこの通りですから。」
「そうですよ。どこかに行ってからまたとれるかもしれないじゃないですか。」
「そうだな。」
僕はしばらくその時刻表を見つめ続けていた。これは・・・。
「これって3日目にまわしちゃえばいいんじゃないか。」
「どういうことだよ。」
「3日目にまわすと東京発着の寝台特急は見れないにしても大阪発着の寝台特急は見れるっていうこと。」
「ああ、なるほど。」
「でもそれって大半を捨てるってことですよねぇ。」
「だってそうしなきゃダメだろ。いくらなんでも5時31分の「なは」はまず撮れない。」
「撮れないこともないんじゃないか。早起きすればいい話だし。」
「それはそうだけどね。」
「木ノ本さん。電車に12時間乗った後にまたホームに行ける自信あるんですか。」
「自信はないけど。ふつうに考えてできるってことじゃん。」
「やめとけって。木ノ本まだ体が慣れてないだろ。歓迎旅行の時も20時からホームにいてずっと寝てなかったんだろ。電車の中で爆睡だったじゃねぇか。」
「そうでないところもあった。これからずっとそれしてけば・・・。」
「いつか体壊すぞ。やめろ。」
「・・・。分かったよ。今回はやんないことにする。」
「で、話し戻すけど、「さくら」や「はやぶさ」や「みずほ」まで待ってたら広い範囲行動できない。」
「「さくら」と「はやぶさ」と「みずほ」が博多に来るのって何時だよ。」
「全部9時台。そん中じゃ「さくら」が一番早くて、「はやぶさ」が一番遅い。」
「でも9時ならまだいろんなところいけるよねぇ。」
「・・・。」
「確かにそうですけど、もうちょっと現実ってものを考えたほうがいいんじゃないんですか。大体「さくら」、「はやぶさ」、「みずほ」が時間通りに来るっていう保証はないじゃないですか。」
「それは安全神話の日本が何んとか・・・。」
「何ともならない時だってあるってこと。事故と天災にはどこをどうあがいても勝てない。」
「そうですよ。もし寝台特急が事故を起こさなくても貨物が事故を起こしたら同じことですよ。」
「そう。だから、今回は東京発着の寝台特急は切り捨てていいと思う。ここでも見れるんだから。だったら見れない大阪発着のやつを見たほうがいいだろ。」
「・・・。」
「それもそうですね。普段見れるやつ見たって機関車が変わってるだけだし。」
「でも、機関車変わってるんだったらそっちも見たくない。こっちじゃ見れないんだしさぁ。」
「確かに見れないけど・・・。」
全員黙り込んだ。ここ浜松で見れる機関車はEF66をはじめとする直流専用の電気機関車。九州で見れるのはED76などの交流電気機関車。EF66やEF65には青を基調とした塗装。ED76は赤をまとっている。それだけでも違うのだが・・・。
「ダメだ。好きなもの同士集まりすぎてるからこういうときまとまんねぇ。」
結局今日は何も進まなかった。
今回から臨地研修シリーズの話です。
ストーリー中に出てくるみたいに寝台特急がいっぱい走ってたらなぁ。新幹線より乗ってて飽きません。