22列車 当日
6月13日。文化祭当日。文化祭は9時からであるが僕達はいつも学校に行くように登校しなければならない。結局家の車で送ってもらった。こういう措置は模型の輸送のためである。運転手も手伝ってケースをホールに運び込む。
「よーす、ナガシィ。早いじゃん。」
ホールには既に3年生と中学生が集まっている。皆考えることは同じなのだろうか。
「ナヨロン先輩。言われたやつ持ってきましたよ。中に言われてないのも入ってますけど。」
「あっ、ありがと。これで今日1日は持つな。」
中で僕の持ってきた箱を受け取って中身に見入る。
(うーん。「北斗星」と「カシオペア」と「出雲」と「富士」。あとはEF510(アオカマ)・・・。これは「北斗星」に対応してるんだよな。それとEF81(ホシカマ)。いや、これが「北斗星」か。あとの機関車はその通りか。で、永島の言ってた言ってないやつっていうのが「しなの」。でも10両って。まさかな・・・。)
「何かありましたか。」
「いやなんでもない。・・・それと一つ聞くけど、これ全部走るんだよな。」
「昨日走行試験やってきましたから大丈夫ですよ。全部走ります。」
展示場に箱を入れてから8時25分までホールで遊んで、8時28分に体育館入り。8時50分ごろまでの開会式を経て、9時00分から文化祭開始だ。
「永島。外に5000番(313系)と300番(313系)の併結入れて。」
「はい。内何にするんですか。」
「373系か、311系か。それとも2500番(313系)と211系の併結か。迷うところだけど、ここは373系の「東海」だろ。」
「ですね。」
「箕島。俺たちが行っていいよっていったらすぐに走らせて。」
ナヨロン先輩はすぐさま373系の箱を探して、線路に置く。先に内回りの作業が完了し内回りから走りだす。だが、・・・、
「ヤベ。永島がパンタ車あっち向きで入れたってことはあれ逆じゃん。」
「名寄先輩。止めますか。」
「もういいよ。直すの面倒だから。そのまま行っちゃえ。素人にはわからん。」
「箕島。外線も行っていいよ。」
「よし、永島次だ。」
「えっ、早くないですか。」
「一つの列車の走行時間は10分。10分の間に入れ替えしないといけない。もたもたしてられないよ。」
「じゃあ、次は「しなの」行きますか。」
「うん。じゃあ「しなの」外に出して、内回りは・・・0番(313系)と211系の併結でいいか。並べて。」
「10両でいいですか。」
「6両だろうが、8両だろうが、10両だろうがなん両でもいい。」
持ってきた箱から「しなの」を取りだす。この「しなの」は基本編成6両と付属編成4両の10両編成。編成は大阪~長野間で走っている「しなの」の運用である。今からナヨロン先輩が外に取りだそうとしているのは中央本線(中央西線)である快速列車。東海道線の静岡圏でもそうだが、ここでは313系という新型車両と211系という従来の車両の併結運転が行われているらしい。
作業をしている間に9時00分。一般客の入場が始まり、たちまちホールは子供たちでごった返す。
「さて、ゴジラが入って来たぞ。」
そういうのは何となく分かる。子供は何でもかんでも触りたがるというのがある。これは模型にとって強敵だ。触るということは脱線の危険性が増すということ。普段脱線しないところでも脱線するらしい。ひどい時には走ってる車両を押さえつけるため走っている車両すべてが横転することもあるらしい。
とりあえずこのゴジラは外回りの人に任せるとして、9時05分。内回りを373系「特急東海」から313系0番台(運用は1000番台)と211系の併結に変える。外回りは東海道本線の新快速列車から中央本線の特急「しなの」に変える。ポイントを変えて「しなの」が発車していくのを見送ってまた次である。次はJR東日本に移るらしい。253系「特急成田エクスプレス」とE231系(209系?)の総武線をこれまで走ってきた車両を片づけて線路上に出す。作業を行っていると、誰かに話しかけられた。
「おい、名寄いる。」
誰だろうか。その問いに答えようとしていると、
「青木さん。青木さん僕の独断でこっちだから入ってください。」
「マジかよ。そんでもって、これはどうにかならないのか。」
走っている「しなの」を指差した。
「素人には分からないから大丈夫です。」
「分かる人来たらどうするんだよ。」
「来ないことを信じましょう。」
「あのなぁ。」
どうやら今来た人は青木というらしい。左側に展開しているプラレールの持ち主なのだ。よくあんなに集めたものだと感心する。その人は机の下をくぐって僕達の周回に入ってくる。
「とりあえず紹介しとく。OBの青木洋輔さん。」
「それだけかよ。・・・まぁよろしく。時折こうやってくるかもしれないから。」
「あっ、よろしくお願いします。」
「で、名寄。俺の「きたぐに」が入れる隙間はあるのか。」
「あっ、それ考えてなかった。」
「おい、考えとけよ。しょうがねぇ。サヤのほうで走らせてくるか。」
「それやったら「きたぐに」が死ぬと思います。」
「そうだな。じゃあ、次こいつを行っちゃえって。走らせてちょ。」
「へいへい。永島。外回り「雷鳥」出して。」
「あっ。はい。」
TOMIXの「雷鳥」の箱を開けて作業を開始したが、ナヨロン先輩が言ったあのことが少々気になった。
「ナヨロン先輩。これ持ってくるって聞いたときパノラマグリーンかパノラマグリーンじゃないかどっちかって聞きましたよねぇ。なんでですか。」
「パノラマグリーンだと支持率がいいっていうかなぁ。結構違うからな。」
「へぇ。そうなんですか。」
「ああ、それもあるけど。パノラマグリーンとそうじゃないやつの違いも見ておきたかったっていうのもあるかなぁ。まあ、それはさっき見て分かったけど。」
「どこがどう違うんですか。僕にはどうしても国鉄車は同じように見えるんですけど。」
「同じように見えるかぁ。まぁしょうがないよなぁ。大体そういうものしか作ってなかったていうのをあるからなぁ。113系とか115系とか・・・。」
外側に「きたぐに」を並べながら続ける。
「パノラマグリーンってふつうのやつに比べると窓が小さい。後、トイレのところにある行先表示がふつうのほうはドア側の客室窓上にある。だから簡単に見分けがつくよ。でも、中には変り種をあるからなぁ。パノラマグリーンの最終編成あたりだと思うけど、あいつはほかのパノラマグリーンに比べて窓周りが広い。だからちょっと見分けづらい。」
「へぇ。そんなに違うんですね。同じように見えるやつも似て非なるものってわけですか。」
「まぁ。そういうところだな。」
「雷鳥」を出している間青木さんは今走っている「しなの」に目をやっていた。
「名寄。これ持ってるの誰だ。」
声をひそめて聞いた。
「永島。あいつだけど。」
「俺思うんだけどさぁ。これ明らかに南さんのやつだよなぁ。」
「永島遠江急行の社長の孫だし、南さんがその親戚ってことじゃないのか。」
「・・・。そういうことだよな。ものすごい大物が入ってきたじゃないか。それであの性格だから誰もそう思えない。そこがすごい。」
「ハハハ。」
その頃僕はというと、文化祭を見に来た鉄道マニアらしき人と話していた。
「この「しなの」は10両だから大阪から来るやつですよね。」
「ああ、はい。」
「私も高校生の時にねぇ、この「しなの」で名古屋から長野まで行ったことがあってね。」
「へぇ、そうなんですか。」
「私が乗ったときはまだ383系じゃなくて・・・。」
「381系の時ですか。」
「いやいや。もっと前。確かディーゼルカーだったかなぁ。もう40年位前の話かなぁ。」
そういうとその人は持っているカバンの中から携帯できるサイズのアルバムを取り出し、その車両を探していった。
「あっ、あった。これだよ。」
指差した車両の真ん中には「しなの」、その下にローマ字で「SHINANO」と書かれている。今僕が親しんでいるヘッドマークとは全く縁のないものである。そして車両はどこかで見たことがあるような顔をしている。車両は確かキハ181系。大阪~鳥取間を結んでいる「特急はまかぜ」と同じ車両のはずである。
「今じゃこれもねぇ、「はまかぜ」だけになっちゃったからねぇ。本当はこれにはもっと走ってほしいんだけどねぇ。」
名残惜しそうに語っている。この人はキハ181系のことが好きなのだろう。昔から親しんできた車両であることには間違いはないのだ。
「そうですね。」
なんか暗い話になっているので話を変えよう。
9時25分。583系「急行きたぐに」、485系「特急雷鳥」に交代。
「ナガシィ。」
誰かに呼ばれる。今度は誰だかしっかりと分かる。萌だ。だが、それを聞いて唖然とする人もいる。それは3年生と2年生。あとは木ノ本である。
(今、ナガシィって呼んだよねぇ。この人。)
(まさか。ナガシィって他の人から呼ばれてたあだ名。気に入ってんだな。)
(彼女か。)
「よーす。「雷鳥」走ってるじゃん。それも「きたぐに」と一緒かぁ。」
(この人分かってる。まさかとは思うけど編成違うとか言わないよなぁ。)
「それで次はなに走らせるの。「カシオペア」。」
ちょっとナヨロン先輩に目線を向けた。ナヨロン先輩は首を横に振って、持っている箱を掲示した。「ワム38000形」の貨物列車と今自分が手に持っている281系「関空特急はるか」が次に走る列車だ。
「まだ「カシオペア」は出さないよ。」
「最後まで出さないつもり。」
再びナヨロン先輩に目線を向ける。何もなかったけどいつか出すということだろう。
「この間には出るよ。」
「ふぅん。」
背をかがめてホームの中をのぞきこむ。
「ホームに停まってるのは「ワム」と「はるか」かぁ。」
(「はるか」はまだしも、「ワム」まで分かるなんて・・・。ふつうの人だったら「あっ、貨物列車だ。」で終わるリアクションなのに。)
「あの「ワム」って駿兄ちゃんの。」
「ううん。部活にも持ってる人がいてね。これその人の私物なんだ。」
(今この人駿兄ちゃんって言った。間違いない。南さんのことこの2人は知ってる。)
「んじゃあ、他のとこもさらっと見てくるから。また来たらよろしくね。その間に「カシオペア」走らせたりとかしないでよ。」
「しねぇよ。俺の独断でやってるんじゃないから。」
萌は模型を見ながら、隣の周回のほうへ歩いて行った。
(あの人って永島のなんなんだろう・・・。)
今度は木ノ本のいる周回に来て同じように目線をおとした。すると向こう側から緑色の先頭の車両がこちらに向かってくる。
「ねぇ、これって「スーパー白鳥」。」
おそらくこれは私に聞いたのだろう。
「ああ、ちょっと・・・。ハクタカ先輩。これって「スーパー白鳥」ですよね。」
「うん。そうだよ。」
「だって・・・。でもよく解るね。」
「昔からナガシィと電車のこと話してたから。特急だったら名前と使われてる車両。あとはナガシィが好きな車両くらいだけだけど分かるよ。」
(永島の彼女なのか。)
「それで、ナガシィの言ってた、隠してなければ私と同じっていうのは君かなぁ。」
(あいつそんなこと言ってたのか。)
「まあ違うってことはないよね。ナガシィと同じ上履きはいてるのこん中に何人もいたけど、女子っていうのは君だけだったからね。」
「・・・。」
「あっ、名前言ってなかったね。坂口萌。また展示とかで会うと思うからとりあえず覚えといて。」
「永島から聞いてるんじゃ隠すこともないか・・・。木ノ本榛名よ。同じ鉄としてよろしく。」
「木ノ本さんね。よろしく。」
ふと永島を見て、
「やっぱり彼女創るなっていう方が無理だよなぁ。」
「いや、別にあいつのこと彼氏とか思ってないから。」
「ふぅん。木ノ本さんがどう思ってるか知らないけど、ナガシィは私以外に彼女を創らない。これは断言できるんだけどねぇ。でも言っといてよかったかも。」
「・・・。」
「ただ、一つだけ問題があるんだよねぇ。まだ本当のこと言ってないし・・・。」
「おい、言ってないなら言えよ。」
「私が今言ったのはそういう意味もあるけど、違う意味もある。あいつには秘密にしといてほしいんだけど。」
その内容を聞くと、
「秘密にしとく必要があるのかよ。それ。正直に話した方がいいだろ。」
「そうは思ってるんだけどね・・・。ごめん木ノ本さん。この話はまたどこかで会った時にお願い。今はいろいろとまずいから。」
(今のことは全部本当・・・。)
永島のいる周回のほうに歩いて行く後姿を見ながら心の中でつぶやいた。
今回からの登場人物
青木洋輔 誕生日 1989年11月1日 血液型 A型 身長 159cm
話がブレていてすみません・・・。
展開は考えたところで成り行きということが多いので、これからもそういうレが出てくるかもしれません。
そんなのでも読んでくれる人には感謝。
根性でまずは高校1年生の最後まで持っていきたいと思います。