177列車 模型だから・・・
萌はこう振ってきた。
「ナガシィってテストいつある。」
「えっ。テスト。えーと確か・・・。あれ。何日だっけ。確か近かった気がする。」
「おい・・・。自分の学校のテストの日ぐらい覚えとけよ。」
「覚えたくないし。」
(ダメだナガシィ・・・。)
「そう言えばテスト近かったなぁ・・・。どうするかなぁ・・・。」
僕が独り言を言うと萌のほうは黙ってしまった。しばらくたってから、
「ナガシィ。ナガシィってコスモにワンルーム決めたって言ってたよねぇ。」
「あっ。そう言えば、お前はどこに決めたんだ。」
この機会だ聞いてしまおう。
「エヘへ。私もコスモだよ。403号室。」
「えっ。」
それを疑ってしまった。こんなこと疑ってもしょうがないけど・・・。
「何。萌って403号室なの。俺その隣なんだけど。」
「あっ。そうなんだ。それは知らなかった。」
「・・・。」
「まぁ、それはそれでいいね。ナガシィ。困ったらいつでも行ってあげるからさぁ。」
「・・・。」
答えずに模型のほうに没頭した。
「はぁ、私もテストのほう勉強しないとなぁ・・・。」
「お前テストいつなんだよ。」
「火曜から。」
「へぇ。今週からかぁ。大変だな・・・。」
「・・・。ナガシィ。」
僕の肩に手を置いてきた。
「ナガシィ。お願いだから、勉強教えてよ。また赤点取りそうな予感して、超ヤバいんだけど。」
「へぇ。赤点かぁ。ヤバいね。」
「ねぇ、そう人のことって思わないでよ。お願いだから勉強教えてよ。」
「・・・。」
「お願い。」
「・・・はぁ。分かったよ。教え方下手だけど文句言うなよ。」
「ありがとう。ナガシィ大好き。」
「・・・。」
ということで萌の勉強を教えることになったが、端岡ほど教え方がうまくないということは自覚している。ということは当分模型をいじれないということか・・・。
「で、教えてほしい教科ってなんなんだよ。」
「えっ。数Ⅱ。」
「数Ⅱって今どこやってるのさ。」
「・・・。微分・積分。」
その言葉に引きつった。ソッコウで簡単だろと突っ返した。と言っても萌は何も持たずにここに来ていたから、そういう気もなかったのだろう。
「いや、でも微分とかは大丈夫だけど、定積分になったりしたら、計算間違いとかありそうで怖いじゃん。」
「そこまで言うものじゃないと思うけど・・・。」
「ねぇ、お願いだから。計算ミスをなくしたいっていうか・・・。」
「端岡に教わればいいじゃん。そのほうがいいんじゃない。端岡のほうが教え方うまいし、俺がやらなきゃいけないってところもないじゃん。」
「・・・。」
「模型いじろう。今はそれでテスト忘れちゃえばいいじゃん。」
(やっぱり、ナガシィには相談してもこういう反応しか返ってこないよなぁ・・・。)
それからというものいつもの通り模型をいじることに専念した。今日もD51やC58とかを使って昔線路を走り回っていた蒸気機関車牽引の客車列車。貨物列車を走らせて遊んでいた。
「このごろ、国鉄しか走らせてないよねぇ。」
「学校にさぁ、国鉄ゴミとかって言ってる人がいてさぁ、国鉄の車両ってなかなか走らせる機会がないっていうかさぁ。ていうか中学生は全員国鉄のほうはいいようには思ってないみたいでさぁ。空河はいるけど。」
「アハハ。今時の子たちってわけね。・・・そう言えば今年はキラキラ展やんないの。」
「あっ。言ってなかった。今年キラキラ展やらないんだってさ。」
「えっ。どうして。」
「さぁ。産業展示館の館長でもやらないって言って蹴ったんじゃないの。」
「・・・。残念だねぇ。ナガシィ産業展示館にでも嫌われてるんじゃないの。」
「ものに嫌われてどうするんだよ。」
「さぁ。どうするのかなぁ・・・。」
僕はD51の重貨物列車を見た。45両(ヨ5000形、ワフ29500形含む)つないだ編成は全部が真っ黒。中に白の貨車も連結しているが、そのほとんどは黒の貨車。あの中には貨物輸送が絶頂であった当時、用途別に作られたバライティに富んだ貨車が並んでいる。家畜輸送のために通風貨車。古いタイプの「ワム」。ワムと緩急車の性格を持ち合わせた「ワフ」。石炭などいろんなものを積載できる「トラ」。木材などの運搬をする「チ」冷凍した魚を運ぶ「レム」や「レ」。多彩の貨車を連結した貨物列車が走っている。当時はこれ以外にも魚を生きたまま運ぶ貨車などもあったくらいだ。
萌のほうで今走っているのはC57牽引の「ばんえつ物語号」。エスエルが牽引することに変わりはないが、これは昔とはかけ離れすぎている。客車は国鉄の時に製作された12系の改造車で、中には寝台客車14系の改造車も含まれている。そして内側2線を走っているのはキハ20とキハ58。こういうものならじいちゃんが最後に作った内側にあるローカル線の単線レイアウトで走らせればいいのに。なんでそうしないのかって。理由は教えてくれないのである。
「さて、次は何走らせるかなぁ・・・。C62にでもするかなぁ。」
「何。「燕」にでもするわけ。」
「そうなるねぇ。」
「じゃあ私のほうは「こだま」にでもしようかなぁ。151系の。」
旧東海道本線が成立するなぁ・・・。東海道新幹線が開業する前は「つばめ」「富士」「こだま」「おおとり」「はと」「ひびき」と言った優等列車が走っていた時代。そして、今は数が少なくなった急行もたくさん走っていた時代だ。僕はそう感じながらも車両庫のほうに行った。どうせなら萌のほうは「青大将」でも走らせてくれればいいのに。まぁ、絶対首を縦に振らないとは思うが。車両庫で「スハ44」と「C62」を見つけて戻る。そして、車両基地のほうで並べて、今走っているD51の重貨物列車を貨物駅のほうに待避させる。ポイントを変えて、貨物駅の隣を突っ走っていく本線に電気が行くようにする。これで特急が貨物駅にお邪魔しますにならないようになる。お邪魔しますにならないことが確認されたら、今度はテンダー式蒸気機関車の後ろ向きによる推進運転で駅まで回送。本物では絶対にやらない芸当をやって、駅で客を拾い発車の時まで待つ。
「1番線から「特急つばめ」大阪行きが発車します。」
「当時にアナウンスあるの。」
「多分ない。」
僕が生まれたときでも30年以上前の話だ。今からしてみればほぼ50年前。そんな前のこと調べればいくらでも出てくるけど、細かいところは知らない。これだって全部駿兄ちゃんから聞いた範囲でしかないのだ。
「煙たいから、さっさと発車してよ。」
「スゲェ自己中な客だな・・・。」
VVVFインバーターで蒸気機関車を発車させた。
「やめて。吐き気する。つうか蒸気機関車がVVVFなわけないじゃん。ナガシィ。さっきもそうだったけどさぁ、蒸気でどれだけVVVFやりたいのよ。」
「それ言ったらお前だってさっきからそれやってるじゃないか。」
「私のほうはまだましです。VVVFじゃなくてディーゼルだから。」
「じゃあ、こっちからツッコませてもらうけど、SLがディーゼルエンジンつんでるわけないじゃん。」
僕はこういったが蒸気機関車の格好をしたディーゼル機関車はある。一番有名なのは四国松山の伊予鉄道「坊っちゃん列車」の蒸気機関車だろう。
「いいじゃん。サウンドコントローラーにまず蒸気機関車のタグがないんだから、何で走らせようが自由じゃない。」
「自由なら俺がVVVFでSL走らせるのも自由じゃん。」
「自由のどこえすぎ。VVVFで蒸気機関車が走るなんて聞いたことがないわよ。いつパンタつけたのよ。いつモーター付けたのよ。」
「これにはモーター付いてるぞ。」
「それは模型だからでしょ。本物にはそんなのついてません。けど、それだってVVVFモーターじゃないわよ。」
「これにVVVF載せるっていうほうがどうかしてるって。」
「じゃあナガシィが今やってることはどうかしてないっていうわけ。」
「えっ。ウケ狙ってる。」
「笑う人がいないわよ。」
確かに。僕だって萌を笑わせるためにこんなことやってるんじゃない。萌とこういう話をしたいからやっているわけでもないし。本当を言ってしまえば展示にサウンドコントローラーを持っていった時に空河がやる真似をしているだけだ。僕も止めようとはしたもののすっかりそれにはまってしまった。はまるものがおかしいといわれもそれは仕方がないだろう。
「よーし。じゃあ、こっちは151系をディーゼルで走らせよう。」
「おい。それはエスエルをVVVFで走らせるよりもひどいぞ。151系だったら4番の動力と8番のタイフォンで決定だろ。」
「あえてそれに反抗する。」
「・・・。」
そんなこと言っちゃったらなんでも可能ではないか。例えば485系にVVVFモーターがついたみたいです的ノリが。これができたら、他のものも自動的にできることになる。EF210はVVVFモーターをやめて吊り掛けモーターにしたみたいですみたいに。本物ではできないことを模型ではできるから面白いといえば面白いのだが・・・。
「燕」と「こだま」を走らせ終わったら今度は1000番台と321系と207系と221系の組み合わせに戻り、ようやっといまどきの車両を走らせ始めたが・・・。
「萌。221系走らせてるコントローラーディーゼルのままじゃん。」
「あっ。本当だ。もういいや。いいでしょ。221系は電気をやめてディーゼルエンジンを載せ替えたみたいです。」
「無いだろ。それ。あるんだったら313系が電車であることをやめてキハ25になったか、キハ25がディーゼルであることをやめて313系になったのどっちかだろ。」
「おうぇ。気持ち悪いかも。」
「お前がやってるんだろ。」
「ナガシィのほうは大丈夫なの。」
「うん。さっきまでエスエルVVVFで走らせてたから変える必要がないのよ。」
僕はそう言うとコントローラーの下に置いてあるタイフォンを足で踏んだ。本物の車両は全て下に警笛を鳴らす部分がある。
「ファーン。」
「タイフォンは変える必要があるんじゃない。」
「しょうがねぇだろ。1000番台のミュージックホーンなんか入ってるわけないだろ。」
「まぁ、入ってたらすごいけどねぇ・・・。」
そんな会話でも盛り上がるには盛り上がるのだ。
月曜日からまた学校。本当になければいいと思える学校でも行かなければ笹子には行けないのだ。ワンルームまで決まったから、昨日は笹子に出す書類のほうをだんだん書いていった。僕のほうは学校に行って近いと思っているテスト期間のほうを調べた。テスト期間は12月5日から12月9までだった。そして9日に自動車学校のほうの説明会があって・・・。父さんは「免許は取っておいたほうがいい」といっているが。どうせ運転できるのは免許を取った2年後までだ。それまでは車を運転することなんておそらくないだろう。
0系は100系が生まれてから0系なのかぁ・・・。
今知る驚愕の事実。
「燕」と「つばめ」の違いは走っていた時期の違いだけです。漢字の「燕」は戦前、平仮名の「つばめ」は戦後です。同じ理由は「櫻」と「さくら」にも通用します。