176列車 常識と非常識
翌日。いつもと同じように萌と来る列車をかけた。萌は2002と言い僕は1002と言った。同じ2でも正反対の車両である。
「はぁ。昨日2002動いてたんでしょ。確実に負けるじゃん。」
「賭けでは負けても、金賭けてねぇんだから±0だろ。」
「そうだけどさぁ・・・。」
そう言うと萌は来る列車の音に聞き耳を立てた。モーターの音を聞くだけで大雑把に分けることはできる。今日は1000形でも2000形でもないことは何となくわかった。
「えっ。もしかして・・・。」
「30系・・・。うわぁ。朝にドア2枚っていうのもなぁ・・・。」
萌がそう言った。確かに。そう言った後で僕が見たのは30系だった。51号と25号。14列車で来る組み合わせだが・・・。
「はぁ。今日はドアのところでもいいかぁ。ていうかそのほうがいいね。」
「・・・。」
そう言いたい意味はずっと利用してない僕でも十分わかった。そんなのはいつもの光景を見れば十分だ。普段1000形や2000形でドア付近に客が固まるというのはふつうに起きていること。ドア付近ほど広くて狭いところはないのに。どうしてそんなところに固まりたいのか。固まるんだったら電車で通学するなということだ。30系はその扉が1両に片側2枚しかない。座席部分の長い30系にドアに固まって座席部分はすいている。最悪である。
「これっていつも乗ってるのと違うよねぇ・・・。」
自信がないみたいに黒崎が萌に聞いてきた。
「このぐらい分かるよねぇ。」
(まぁ、分からなかったらただのバカだけどなぁ。)
いや、バカ以下だ。僕としては電車が全部同じように見えるというその根拠が分からない。
「なぁ、萌。(6時)52分にこの30系が来ることってあるのか。」
「ああ。うん、まれに。おととしは3週間ぐらい連続でこれが来たことがあったけど・・・。運用が狂ってるんだね。9日の百貨店オープンから。」
「それはいいとして、14レのほうはどうするんだよ。これがここで出たらふつうのやつか26と27だろ。」
「さぁ。これに乗ったら無線がよく聞き取れないからなぁ。」
(まず無線は聞くものじゃないけど・・・。)
「多分26と27でやってるんじゃない。この時間に30系が来るって1000形と2000形じゃあやりくりできないってことだろうから。」
そういうことになるのだろう・・・。
駅に停車して客を拾っていく。また駅に停車して、客を拾った。その中にはいろんな客がいる。マナーの悪い客もそうだ。
「おい。今あいつ降りる人より先に乗り込んできたぞ。電車のるときは降りる人優先ってことしらねぇのか。」
「さぁ、バカに何言ったってしょうがないんじゃない。自己中なんだから。あれで、席に広く座って、勉強だよ。勉強ぐらい家でしろつうの。」
「勉強できないことやってるんじゃねぇの。携帯とか音楽とか。別にそんなの無くても困らないだろ。」
「それはナガシィだけだと思う。でもナガシィでも模型がなかったら暇つぶしに困るよねぇ。」
「・・・。」
「あれだったらまだまだましかもね。私見たことあるんだけどさぁ、外国の人がここの車いすスペースのところに座り込んでたの見たことある。」
「最悪じゃねぇ。電車乗るなよ、そいつ。」
「座り込むんだったら席に座りこめつうの。その時お昼だったからさぁ、席ぐらいふつうに空いてるのよね。」
「後マナーが悪いっていえば携帯かぁ。」
「携帯ねぇ。あれさぁ、おじさん、おばさんで時折マナーモードじゃない人いるんだよねぇ。」
「マナーモードなんだろうけど怪しいっていうのもあるよなぁ。ヘッドホンしてるのに音漏れしてるやつ。音楽聞くなって言いたい。」
「それって音楽聞く以前の問題だろ。そいつがバカなだけじゃん。」
「バカなだけじゃないって。バカ以下だからそうするんだって。」
「あっ。バカ以下かぁ。そのほうがあってるね。」
「ていうか。こういう話で盛り上がれる俺たちって何。」
「よっぽど不満があるんじゃないの。バカな客に。・・・でもそういうこと考えるとJRのほうってもっとバカな客がやってくる可能性あるよねぇ。」
(まぁ、無い方がすごいけどねぇ。こういうところでもあるんだから、無いとおかしいかも。)
「酔っ払いとか、酔っ払いとか、酔っ払いとか。」
「酔っ払いだけかよ。」
「でも酔っ払いだったら年に数回ぐらいだからましかなぁ。」
学校につくと、
「そんな話で盛り上がってさぁ。」
「・・・。」
宿毛と永原の顔はそんなので盛り上がれるのかという疑問を持った顔である。
「いや、分からんわけないけど・・・。」
「永島君って他にどういう客が迷惑だと思う。」
「ああ。ドアに固まるやつ。あれメチャクチャウザい。ドア付近って結構広いじゃん。でも混んでくるとその奥に行かない人が固まって結局狭くなって、降りるに苦労するじゃん。だからあれウザい。」
(ようは固まらなければいいことじゃん。)
「それってその人が広い場所取りたいからそこにいるんだよねぇ。」
「それだからダメなんだって。」
僕はさらに続けた。
「ドア付近って最初広いじゃん。でもあとあと狭くなるから、通路のほうにいても結局同じことになるじゃん。それが分かってないバカはとてつもないバカだなぁってこと。」
(こういう時になると周りの人って相当バカ扱いされるんだね。)
「いや、それだけでバカバカっていうのは・・・。」
「なんで。バカだからドアに固まるんだろ。ウソ言ってないぜ。」
反対に首都圏には言えないことだ。首都圏は人が多すぎるから、どこに行こうが結果が同じになるからだ。それにあっちは広いところなんて一つもない。
萌のほうも今こう言うことを話している。
「安希って電車乗ってる時音楽聞いてる。」
「えっ。聞いてないけど。つうか寝ちゃうことが多いし。」
「・・・。安希ってさぁ、電車乗ってる時にこいつ迷惑だって思ったことない。」
「無いけど・・・。どうかしたの。」
「いや、今日そんな話で盛り上がってさぁ。」
(あの鳥峨家モドキとねぇ・・・。)
「いや、でも盛り上がっちゃうものは盛り上がっちゃうんだよ。音漏れするぐらいで音楽聞いてるバカはやっぱりバカだなぁとか。」
「・・・。」
翌日。6時52分はまた51と25。変わらないのは前にも書いている。11月24日。6時52分は2001と1001。萌が言うにはこの組み合わせは読めたらしい。
「今日は何が来ると思う。」
「さぁね。昨日2000形が2本しか動いてないなら、期待持っていいよねぇ。」
「うん。持っていいね。まぁ、2003が妥当ってところかなぁ。」
(あっ・・・。)
「もしかしたら2004かも・・・。」
今日は2003が来るのではないか。それは僕もうすうす感じていたことだ。だが、それは萌にとられた。ここは2004で負けることを我慢するしかない。来た車両は2004と2003。ある意味二人とも当ててしまった。
「両方とも2000形かぁ。久しぶりじゃない。」
「あの時からね・・・。」
それからまた数日。土曜日。
「ナガシィはこの部屋以外来るところがないわけ。」
僕は何も答えなかった。ここの部屋にいるのが一番落ち着くことには落ち着くのだ。
「ナガシィは勉強しなくていいわけ。テストとか大丈夫なの。」
「自分の心配したらどう。」
「まぁ、ナガシィなら大丈夫だと思うけどねぇ。」
「それで、何。萌はここに勉強しに来たの。気が散ってダメだと思うけど。」
「勉強しにここに来るか。ナガシィの言うとおり気が散って勉強どころにならないのなんて見えてるよ。」
バカじゃないから当然かぁ。ここに来る理由は萌の場合一つしかない。列車を走らせに来るのだ。
「で、今日は何走らせるの。」
「いきなりそっち・・・。」
まぁいいか。僕だってここには模型を走らせるためだけに来ている。100系のアルバムもあるけど、あれは本当に暇なときよう。そこまで見ることはない。
二人で車両庫に入って、たくさんある模型のケースを眺めた。この中から毎回は知らせたいものを決めて走らせる。今日はちょっと昔に戻ってみることにした。黒の2軸貨車の45両だ。それを持って戻ると、萌のほうはキハ58を持ってきていた。
「萌。頭大丈夫か。おかしくなってない。」
「ナガシィに言われたくない。」
「・・・。」
ちょっとの間萌の作業を眺めて、僕のほうも作業に入った。ワムとかトラの45両。両数的に言えば1300t級貨物よりも多い。もしかしたらこれ以上の長さになるかと思ったが、その長さにはならなかった。大体1両70mだから、52両つなげないと同じ長さにならないのだ。
「ナガシィだってそんなの出してきて、ナガシィこそ頭がおかしくなったんじゃないの。」
「お前に言われたくないけどな。」
「やっぱり牽引はD51(デゴイチ)か。」
「じゃなくてどうするんだよ。」
僕はそう言いながらD51を貨物船の線路に置いた。ふつうこういう方式の貨物列車にE&S方式というのはない。このタイプならなおさら操車場式だ。だが、このレイアウト自体に操車場がないから、そこは妥協するしかない。
D51を並べ終わったらコントローラーのところに行った。D51が止まっている線路に電気を送り込むためにポイントを開通。そして、緩勾配線のほうにポイントを開通させた。緩勾配線はこの大きなレイアウトの中の駅で一番手前を通過する線路のものしかない。ここのポイントを開いて貨物列車とすべての優等列車(特急・急行)はこの線路を通過させる。ポイントを開いたら、そうなっていることを確認して、僕は運転台についた。そして、ありえないがD51のVVVFインバーターで貨物駅を出発させた
人間として当然のことを言ったまでです。