173列車 本物がギャグ
「ナガシィ。おはよう。」
いつも落ち合う場所に行くと宗谷の制服にマフラーを首に巻いた萌がチャリにまたがっていた。
「マフラーつけたんだ。」
「だって寒いじゃん。ナガシィは寒くないの。」
「・・・。俺もそろそろマフラーつけようかなぁ。」
独り言を言ってからチャリをスタートさせた。いつものいく道をこいで行く。この頃空気が冷たくなってきた。チャリできる風も冷たい。僕は手をグーにして、チャリのハンドルにおいている。ブレーキをかけるときだけ開いているが、冷たくて開きたくないというのが本音。そろそろ手袋もつけていい頃か・・・。
「ナガシィ。駅着いたら、この手、顔につけていい。」
チラッと萌の手を見てみた。手袋はしている。それでも冷たいということなのだろうか。まぁ、冬になればよくあったことだし今更、何か言うということもないが・・・。そうしてくる萌の手がとても冷たいんだよなぁ・・・。
「・・・。」
「ねぇ。何もないってことはオーケイってこと。」
黙ったままチャリを駅まで進めた。駐輪場にチャリを置いて、自分のカバンを持った。そこで、さっき言ってきたことを僕にした。
「ツメタッ。」
「・・・。そんなにていうかナガシィ、髪の毛はねてる。寝癖そのままって感じだぞ。」
「直してくれるのはいいけど・・・。」
と言った時にはもう遅かった。萌は自分のヘアピンを取っていた。
「やめろ・・・。」
「もう遅い。」
(だろうねぇ・・・。)
ホームで来る列車を待つ。1005が来る前は何が来るのかということを賭けて遊んでいたが、1005というワンパターンになっていて、このごろはやっていなかった。久しぶりにその賭けをやった。
「今日はもう1005じゃないだろうなぁ・・・。俺は2000形はおそらくないと思うから1006あたりに賭けとくかなぁ・・・。」
「昨日折尾町の展示に言って遠州鉄道乗ってるんだよねぇ。なぜか。・・・。私は1002かなぁ。」
「1002は昨日走ってた。」
「・・・。じゃあ2001かなぁ。」
僕は何も訂正しなかった。昨日2000形の中で唯一動いていなかったのが2001だったからだ。そういうことに期待してみたが、来た列車は・・・。
「いや。だから、何でこういうところで1005が来るのかなぁ・・・。」
「俺の1000形っていうのは当たってたけど・・・。1005ってなんだよ。」
「私は1005のことなんか好きじゃないのに。」
「いや、好きな人なんていないと思う。・・・。鉄研の人の中にさぁ、全検明けの1004好きっていう人いるんだけどさぁ、俺は1004のことを好きじゃないなぁ・・・。」
「へぇ。同じ4でも私は2004のほうが好きだなぁ。」
そんな会話をしながら上島まで来た。上島ではほぼ終日列車の交換を行う。そのため、僕たちが乗っている列車より先に西鹿島行きの列車が入線するということが多い。今日もそのパターンで止まっていたのは1004だった。
「1004かぁ・・・。16時06分は1007だし、(15時)54分だけだなぁ。」
「いや、(15時)54分か(15時)30分のどっちか。30分のほうは2003って言ってたし。」
僕たちのほうが付くと向こうがすぐにドアを閉めた。そして発車していく。僕たちのほうがもうすぐ発車するとなった時に1004の新浜松側の顔がこちらから見えるときになるが、
「萌。ちょっと見てみな。」
萌の肩をたたいた。僕からこういうことをするのはほとんどないがこれにはウケた。
「何あれ。車掌さん消し忘れたかなぁ。」
「あー。ツッコみどころ満載だ。ふつうあれはないな。大阪じゃないんだし。」
「大阪って連結面だけでしょ。連結も何もしてないじゃん。」
「じゃあ、1004が223系の真似をしてみたってことか。」
「真似になってないし。」
1004がどんな格好をして走り去っていったか。進行方向とは反対のヘッドライトをつけたまま西鹿島のほうへ走って行った。
「西鹿島に行ったらさすがに気付くよねぇ。」
「まぁ、あれで気付かないほうがすごいけどねぇ。目玉ついてるんですかってことになるけど。」
いつも降りる駅に来て、僕たちは降り、学校のほうへ歩いていった。
(ていうか今日1005だったってことは明日も・・・。)
学校につくとさっきのことが面白かった。
「それでさぁ、電車がヘッドライトつけたまま逆方向走ってたからさぁ、それがメチャクチャ面白かった。」
「・・・。」
宿毛と永原なには何がどう面白いのかということが分かっていないらしい。まぁ、自分だってわかると思って話していない。
「えっ。それって、列車がこっちに走ってってるのに、ライトだけつけっぱなしってことでしょ。」
永原は確認するように言った。
「そういうことになるけど、それってただの消し忘れだろ。」
「消し忘れだから面白いじゃん。こういうことあるんだなぁってことが分かるじゃん。」
「それは分かってもダメだろ。」
「うん。まぁそれは分かってるけど・・・。」
「でも、電車って進行方向と逆のヘッドライトってつけっぱなしにできるわけ。ふつうは車みたいに赤いライトしかつかないんじゃないの。」
「電車付けることができるよ。現にテールライトとヘッドライトを両方つけたまま停車してるってことだってあるしね。」
「止まってる時は分かるよ。どっちにも進まないんだから。」
「うーん。一番いい例は1000番台(223系)達かなぁ・・・。」
僕はそうつぶやいてから、こう説明した。
「このごろ大阪で電車と電車の連結してるところ。先頭同士が顔を合わせるところの電気つけたまま運転するってことやってるのさ。」
「えっ。なんでそんなことしてるわけ。」
「ちょっと前にこの間に人が落ちて死亡したって事故があったみたいでさぁ。それで目の見える人にはここに落ちないようにっていうサインとしてやってるんだって。」
「それはあくまで目の見える人に対してだろ。目が見えないっていう人がいたらどうするんだよ。そうなったらどこがそう言う場所なのかわかんなくないか。」
宿毛が当然のことを言った。
「あるんだよ。中に喋る電車が。」
(電車がしゃべる・・・。)
(おいおい。ファンタジーじゃないんだから。)
「て話それてる・・・。先頭同士が顔合わせるところは両方ともヘッドライトを照らしてるから、明るいんだよ。これってただスイッチをいじればいいだけだから。多分ね。」
「へぇ、そんなんなってるのかぁ。」
「そう。だから進行方向が違っても電気さえあれば点灯できるのさ。」
と言った。さっき言った通り二人が理解しているかなんて思っていない。ただ話すことが楽しいだけでもある。
その帰り54分の2002は変わらず。だが、新浜松に行った列車が1006から1002に変わっていたから、明日はまた1006と1005という組み合わせでやってくることは確定だ。なんで1005にこんなに好かれるのか。僕たちは別に1005のことは好きじゃない。
翌日。確かに1006+1005のままでやってきた。
「そう言えば、ナガシィってもうワンルームのほう決めてきたんだよねぇ。」
「えっ。うん。」
「まだいっぱいっていう感じじゃなかった。ナガシィが行ったとこ。」
「うん。どこもまだ空き部屋があったよ。」
(早いうちに行っとかなきゃなぁ・・・。ナガシィがどこに決めたのか知らないけど・・・。)
焦ってはいないけど、もし近くにナガシィがいるんだったら・・・。そういうことを考えていた。どうせ今のままはほぼ変わらないのだけど。
今日上島で入れ替えたのは2003。八幡で入れ替えたのは1001+1007で1001が動く。今日は早く帰れそうだ。折尾町の展示のほうの引き上げは今日。そのまま瀬戸学院のほうに搬入を行うとの話だが、今になって部活に行く必要もないだろう。なにもない日はとにかく早く帰るに限るのだ。帰りは(15時)42分の2003にあわせて帰った。
家に帰って離れに入った。これが僕の日常。そして、ここに入らない日のほうが珍しい。いつもは100系とかをいじっているけど、今日はどうしようかなぁ・・・。813系でもいじろうか・・・。そういうことを考えることができて楽しい。
(・・・「みずほ」でも走らせてやるかぁ。えーとEF66。EF66。)
それをやっているとどんどん時間が立って晩ご飯の時間になった。晩ご飯を済ませた後はここに戻ってきて、出しっぱなしにして言った「みずほ」とその牽引機EF66とED76を車両庫のほうにしまった。
翌日。
「ナガシィ。何来ると思う。」
「昨日動いてた2000形って2003と2004だったよなぁ。そいつらはもうすでにないから・・・2002あたりが妥当なのかも・・・。」
「ナガシィは2002かぁ・・・。私は何にしとこうかなぁ・・・。2001にしとこうかなぁそんなに痛くないし。」
いたくないというのは間違ってもそんなに悔いはない。そういう意味と取っていいのか。
「間もなく、上り、新浜松行きが参ります。黄色い線まで下がってお待ちください。携帯電話は音の出ないマナーモードに設定の上通話はご遠慮ください。」
お決まりのアナウンスが流れた。このアナウンスが流れ始めると大体西鹿島のほうにある踏切が鳴りだす。そして、駅近くの踏切が鳴り遮断機が下りる。来た車両は先頭が1004。後ろは2002だった。賭け的に言えばぼくの勝ちだ。
「お金はないからね。」
「いっつも金賭けてねぇじゃん・・・。」
「・・・。」
(こういうことができるのって私鉄ぐらいだよなぁ・・・。)
心の中でそう思った。JR。特に新幹線で言えばすべて来る車両が決まっているのだ。「のぞみ」の東京~博多間など東海道新幹線と山陽新幹線を直通する列車には100パーセントN700系がつかわれている。他に記憶に新しい「はやぶさ」。これには必ずE5系が使用され、E5系以外の新幹線は絶対に使われない。このほかの新幹線にもほぼ決まった車両が使われている。
帰りは八幡ですれ違った2004で帰った。そしてまた翌日。
「今日はどっちにする。私は1006にしとくけど。」
「じゃあ、昨日2002だったことにあやかり2002で。」
「二日連続2002かぁ。それありがたいけどねぇ・・・。」
来た電車は2002+1006だった。
「ある意味で当てちゃったね。二人で・・・。」
「お金はないぞ。」
「分かってる。お金はないけど、罰ゲームあり。」
「ちょ、やめろ。罰ゲームは無し。」
そしてそのまた翌日。
「今日は何にする。私は1001だと思う。」
といった理由はすぐに分かる。昨日2000形は3本動いていた。その車号は2001と2002と2003。どこをどう考えても2004がこの列車に入っている確率が低いということとなんか臭うということだろう。
「ああ。今日は久しぶりに賭けになんない。」
「ナガシィも1001。」
「だってありそうじゃん。怪しすぎるし、昨日走ってなかった1001。」
「まぁ、昨日の状況で怪しくないっていうほうがすごいけどねぇ・・・。」
「間もなく、上り、新浜松行きが参ります。黄色い線まで下がってお待ちください。携帯電話は音の出ないマナーモードに設定のうえ、通話はご遠慮ください。」
お決まりのアナウンスで踏切が鳴りだして、30秒くらい。電車が入って来た。前は2001。後ろの音にウソかと思った。
「2004・・・。」
二人でハモった。まさか2004が来るなんて思ってないからだ。
「今日の運使い果たしたかもね。」
「えっ。朝から・・・。でも使い果たしてるかぁ・・・。」
「でも、ヨッシャア。」
「ヨッシャア。」
翌日。今日萌の通う宗谷学園は創立記念日で休み。普段は土曜日でも奇数週の土曜日は授業があるのだ。休みを利用してワンルームを見に行くと言っていたが、今日はあいにくの雨。まぁ、大阪で降っているかどうかということは分からないが・・・。こっちのほうは学校に向かうために駅に来ている。
(前が1000で後ろが1001。ありえそうだなぁ・・・。)
僕は両方とも1000形だということに高をくくった。そしてアナウンスが流れて踏切が鳴る。いつも注意していることだが、今日も音に注意した。
「ゴォォォォォォォォォ・・・。」
「えっ。まさか。」
顔を上げてみた。そこには土曜日絶対に来ない顔が来た。51号だ。ということは後ろは自動的に25号。土曜日に30系の運用があることが・・・。現実にあるんだ。これは儲けたと思って乗り込んだ。そして授業がすんだら瀬戸学院での展示がある。
この小説は文字数のわりに読了が速いと思います。でも、説明文のほうも少しは読み飛ばさないでください。