170列車 交代
数日後。11月9日。
「今日まで1005で我慢だったよなぁ。」
「うん。今日まで我慢したからもう1005はないよ。」
「そう言えば、話変わるけど、このごろ1003見ないよねぇ。」
「ああ。1003は多分全般検査だと思う。西鹿島の工場に入ってるんじゃない。」
いつものように列車を待った。今日まで1005というのは前にも言ったかもしれない。昨日まで16日連続で6時52分は1005に乗ってきた。今日でこれともおさらばできる。
「2002と1005かぁ・・・。」
「これまで2002前に連結パターン多かった気がするけど。」
「2002は多くないって。2001じゃなかったっけ。」
「えっ。そうだっけ。まぁ、どうでもいいや。」
「まぁ、私も乗った列車の回数数えてるわけじゃないし。」
(ふつう数える人はいないと思うけど・・・。)
ドアが開いて、中に入る。席には目をくれず立った。そして、学校まで行った。
学校についたら、本当にいつもと同じだ。2学期に入ってからというもの宿毛と永原が最初にいるこの教室も変わってなかった。
「よーす。永島。」
「よーす・・・。そう言えば、宿毛って学校決まった。」
「えっ。ああ、決まってるには決まってるよ。瀬戸学にね。」
「あっ。宿毛って瀬戸学なんだ。」
「そういう永島君はどこの学校に決まってるの。」
永原が話に入ってきた。
「俺。俺は大阪の専門学校に受かってる。」
(大阪・・・。)
「笹子だったっけ。」
「うん。そう。」
ちょっとの間黙っていた。
「永島ってさぁ、なんか課題みたいなのその学校からもらった。」
「えっ。もらってないけど。あったとすれば金振りこんでくださいっていうのと、学生証作るからこれ書いてっていうのと、誓約書だったなぁ。」
「課題ないの。いいなぁ。俺の方なんか今課題片付けてるんだけどさぁ、少し難しいというか。」
「えっ。瀬戸学ってそんなレベル高くないよねぇ。」
「ああ。高くないよ。でも、時折あるじゃん。簡単すぎて難しいって問題が。」
「それに頭悩ませてるの。」
「うん・・・。そう。」
「宿毛もバカになったんじゃないの。テストで俺が1番取らない程度にはやってくれよ。」
「お前どんだけ1番嫌いなんだ。そして、お前に言われるほど俺はバカじゃないぞ。」
「ふぅん。そう・・・。」
「・・・。」
永原は声をひそめて、隣にいる宿毛に
「永島君って、今日いつもみたいになってないね。」
「ああ。今日はいじられなかったんじゃないのか。」
「いじられるって。女の子にだっけ。その女の子ももの好きって感じだよねぇ。」
「もの好きかぁ。確かにそうかもなぁ。その子電車にも詳しかったからなぁ。本当にすごいと思えるよ。」
「まさか、その子まで「これゴミー」とかって言ってないよねぇ。」
「さぁな。言ってたかもしれないけど・・・。」
そのあとしばらくたつと人が集まってくる。違うクラスの人も集まってくるから、3人で話せるというのはごく限られた時間でしかない。人が集まってきても暇なままというのはいつもと変わらない。僕は僕でゆっくり過ごしている。その間に留萌が僕の教室に来た。
「永島。アド先生が言ってたんだけど、折尾町の展示行く気。」
「折尾町・・・。」
僕はしばらく考えた。あすこは子供のパワーがハンパじゃないのはよく知っている。留萌はその時部活にいたけど、確か展示には来てなかったはずだ。
「の前に留萌は展示行くの。」
「ガキは嫌いだよ。行くかよ。」
「別な意味でだろ。」
「分かってるじゃん。て、私のことなんかどうでもいい。永島は行くのかって聞いてるじゃん。」
「ああ。時間があったら行くよって伝えといて。」
「時間があったらね・・・。瀬戸学の展示は行く気。」
「瀬戸学っていつだっけ。」
「確か11月の19・20じゃなかったかなぁ。まぁ、私はその時は大阪にワンルーム決めに行くつもりだから20日のほうはいないけど。」
「・・・。」
僕だってワンルームのほうは決めることになっている。今月中には決めておきたいとのことだった。早ければ11月12日だ。
「・・・。その日って確かこっちの展示もあったっけ。」
「オープンキャンパスのことか。なかったと思ったけど。」
留萌はそう言ったけど、なんだか自信がなさそうだった。まぁ、いいか。瀬戸学の展示にはいく。そう伝えておいてと言ったら、
「明日あたりに膳所さんたちが来るって言ってるから、明日の予定はあけておいてだって。」
「あっ。そう・・・。」
放課後、
(今日は4連のまま。4連のまま。4連のまま・・・。)
助信までいつもの足取りで帰った。乗る列車はもうすでに2001+2003に決まっている。ふつうの流れでいって明日の朝は2001+2003が来るはずだ。まぁ、そうでなかったらシバクが・・・。助信まで来ると2001+2003の後に西鹿島に向かう列車がやってきた。2002+1005だ。これで本当に明日からは1005に乗らなくてすむ・・・。交差点を渡って、踏切を渡る。渡ったら改札口のほうに行って、屋根が終わるところ。ホームの真ん中あたりまで歩いていった。ここで新浜松のほうから来る列車を待つ。
15時41分ごろだった。踏切がなりだして、線路と並行して走っている道路の信号が青になった。列車が向こうから近づいてくるのが見える。その列車に取り付けられているパンタグラフがシングルアームであることを確認。1001か2002以外の2000形であることはこれで確定された。だが、1001が含まれていることは絶対にない。いつもはそれが否定できないが、今日は否定できるのがうれしい。近づいてきた2000形の車番は2003ということは後ろは2001だ。
車内に乗り込むと萌の姿があることを確認した。
「もうちょっと混んでると思ったけど、そんなに混んでないねぇ。ていうかこれじゃあいつもと同じ・・・。」
車内を見てみたが、そんなに混んでいるという感覚は受けなかった。いつもと同じぐらいの人が乗っていたとして、4両だから客が分散する。その結果なのだろう。
「それか遠江急行のほうに流れちゃってるのかも。今日は終日で急行出してるから。」
「へぇ。そりゃ、小楠の人たちはそっちの方に流れちゃうよねぇ。」
「まぁ、逆に混むって考えてこっちに乗る人もいるだろうけど・・・。」
そこは人間がどこまでスピードを求めてないかによるだろう。混むが早く着くというほうを取るなら、向こうに乗り、早くはないが、こっちでも確実に着くと考えたらこっちに乗る。それは新幹線と飛行機でも言えることだろう。まぁ、僕はどこがどうあっても新幹線のほうを取るが。
「・・・。これで明日は2001と2003だな。」
「はぁ、待ったかいがありました。久しぶりに朝2000形に乗れる。」
「本当だよ・・・。」
そのあとはそんなに話をしなかった。途中上島で入れ替えた車両は2004+1001。積志は51+25。浜北は1006+1007。芝本は1004+1002だった。編成は全て新浜松側から順にだ。列車を降りると家の近くまで自転車で帰って、近くなったところで、萌と別れた。
翌日。11月10日。今日は昨日やっていた4両もやらない。今日からはまたいつものように戻る。ただ・・・、
「萌。起きなさい。」
目を開けてみると紗代母さんの顔がそこにあった。それもいかにも不機嫌そうだ。時計を見る前に時間を言われる。ヤバいと思い、すぐに制服に下に走って降りる。朝食はパンだった。それに助かったと思って、口の中にほぼ無理やり状態で押し込んだ。上にかばんを持ちに戻り、そのまま走って、部屋から出た。チャリのかごにかばんを入れて、自分はチャリにまたがった。ナガシィと落ち合うところに来てもナガシィはまだ来ていなかった。この間にくわえたままのパンを食べきってしまおうと思った。
「萌。」
声をかけられた。その声に驚いたので、思わず一気に飲み込んでしまった。
「大丈夫か。」
背中をさすってくれたのはありがたかったけど・・・。落ち着いてきたら、
「ナガシィ。ビックリさせないでよ。心臓止まるかと思ったじゃない。」
「ビックリさせるつもりなかったけどさぁ・・・。」
(ああ。恥ずかしいところ見られた・・・。)
頭を抱えてみたけど、どうにもならないことっていうのは自分がよく分かっていた。芝本に来てもへこんだままは変わらなかった。
「今日からだよなぁ。」
僕がそうつぶやくと、
「えっ。何が。」
「だから、今日から1005じゃないってこと。今日から2003じゃん。」
「ああ。そうだった。よかった間に合って・・・。」
しばらく待ってきた列車は前が2001。後ろが2003。昨日の組み合わせのままだ。まぁ、昨日は朝の4連から夜の4連までずっと4連のままだったのだ。組み合わせが変わるとも考えられない。僕たちは久しぶりに朝の2000形に乗り込んだ。新鮮さがあるというのは何となく感じていた。
放課後。
「膳所さんまで来ないのかなぁ・・・。」
柊木が文句を言った。
「来てくれるだけでもありがたいと思え。まぁ、まだ講演が終わってないってことはないだろうから、もう少し待てつうの。」
北石がそう言う柊木を何とか抑えようとする。
「まだ講演やってたらって・・・。それないんじゃないのか。今日来るって言って待たせるようなことしないだろ。」
(・・・。善知鳥先輩が付いてきそうな予感。)
しばらくたつと部室のドアが開いて、そこから膳所さんの顔がのぞいた。
170かぁ・・・。長いもんだなぁ・・・。暇つぶしにはもってこいかなぁ・・・。