166列車 バカ騒ぎ
選考結果に書いてある文字を自分の目で追った。
「萌・・・。」
「ナガシィ・・・。」
お互い見つめあう。なんて書いてあったかというと僕のほうは「合格(特待生では不合格)」。萌のほうは「合格(特待生では不合格)」。
「やったーっ。」
お互い飛び跳ねて、ハイタッチ。
「よし。模型いじろう。」
「うん。」
これで肩の荷が下りた。もう合否のことなんて気にすることはない。やっぱり特待生で落ちたというのは悔しいけど、合格しなかったよりはましだ。
「やっぱり私は特待生じゃダメだったなぁ。」
「合格しなかったよりいいじゃん。まぁ、俺も見えてたけどね。特待で落ちたっていうのは。」
「榛名たち受かったかなぁ。多分もう見てるか、これから見るころだと思うけど。」
「さぁ。もしかしたら、ダメだったってメールがあるかも。」
「・・・。」
確かにそのあと木ノ本からメールが来た。結果は特待生ではダメだったけど合格はした。ついでにと書いてあった留萌の結果も書いてあった。留萌も特待生ではなかったものの合格はしたらしい。これで進学は4人だが、木ノ本たちが他を考えていたらそれはない。
「ナガシィ今日は何走らせるつもり。」
「ああ。そうだなぁ・・・。やっぱりあっち行くんだし関西でお祭りしない。」
「駿兄ちゃん681系持ってたよねぇ。」
「ああ。持ってるよ。じゃあ、俺は「雷鳥」と1000・・・いや、207系出そう。」
僕は一瞬1000番台(223系)を出そうと思った。が「雷鳥」が外側を走っていて、内側に223系が走っているとなると223系は快速仕業だということになってしまう。家の223系はだれも快速仕業ではないから、それができない。どれも新快速なのだ。草津~京都間は特急・貨物とかち合うときと日中の琵琶湖線の新快速は内側を走るみたいだが、そこを再現する気はない。
「ナガシィが207系かぁ。じゃああたしは何にしようかなぁ。221系で快速でもやろうかなぁ・・・。」
「別にいいよ。今日は1000番台(223系)以外は自由な。」
僕たちはすぐに車両庫に行った。ケースの中に入っている箱を取り出して、どんどんレイアウトのほうに持ってくる。今日は久しぶりにバカ騒ぎをしてもいいくらいに思った。僕は持ってくると決めた「雷鳥」と207系の普通。「雷鳥」の方はパノラマグリーンを先頭で走らせるつもりだから、スパートをかけている「雷鳥」。207系のほうは普通西明石行きになっているから特急に抜かれる内側の列車だろう。萌のほうは221系で快速と言ったから、おそらく12両で米原を目指している列車をやるだろう。そしてその外側は「サンダーバード」。681系にサンドされた683系で12両編成だ。僕たちは目的のものを見つけるとレイアウトのほうに戻ってくる。いつもならすぐに並べて走らせようとするけど、それをあえてせずにほかの車両も持ってきた。同じことを何度も繰り返しているうちに持ってきているものがすでに西日本だけに収まっていないことを認識した。「カシオペア」、「北斗星」、「EF510-502号機」と「505号機(貨物仕様)」と「510号機(「北斗星」仕様)」。787系の「つばめ」。813系の快速6両。313系の新快速(5000番台+300番台)と特別快速(0番台+300番台)。313系と211系の普通(2500番台+5000番台)と快速(1000番台+5000番台)。そういうことは今の僕たちには関係ない。持ってきてどんどん走らせようということしか頭にないのだ。
「よし。そろそろ走らせるかぁ・・・。」
僕はしめにコキ100形26両を持ってきて、並べ始めた。萌のほうはワム380000形34両持ってきてまず貨物駅に並べ始めた。それがすんだら、今度は最初に走らせる予定だったメンツを並べる。二人とも模型をいじることには慣れているから、すぐに並べ終わる。それすんだら、コントローラーのところにスタンバイ。列車を駅まで出してきて、走らせる。あとは放っておくだけ。僕たちは走っている車両に見入った。しかし、いつまでもそうしているわけにもいかない。すぐに次の車両のほうを準備していた。
「ねぇ、ナガシィ。ワムの牽引EH500(金太郎)にしたいんだけどさぁ。」
「EH500(金太郎)。ああ。それだったらあっちに埋まってるよ。」
「えっ。探しに行ってくれないの。」
「自分で探しに行けって。それぐらいできるだろ。」
「・・・。ねぇ、探しに行ってよ。お願い。」
「お願いじゃねぇよ。お願いされるか。お願いしてくれるまでいじるっていうのなしね。」
「いいじゃん。別に。探しに行ってくれても。」
「そこの(EF510)505号機でいいじゃん。あれもとりあえず貨物仕様だ。」
僕はそこに転がっているTOMIXの箱を指差した。全部同じ箱なのにそういうことが分かるのかというとこれの箱の中に白い紙を入れているからだ。そこに中学生の時に書いた字で「(北)貨物」とボールペンで書いてある。EF510、EF66、EF65、EF81、EF210、ED76、EF64、DD51は数が多いから、何がなんなのか横からでも分かるようにしているのだ。
「えー。あれで引っ張るつうの。いやだよ。ていうか実績あるわけ。」
「無いけど、いつか引っ張るだろ。それにひっぱてもおかしくないだろ。」
「おかしくないかもしれないけど・・・。」
「はぁ。あれ貨物仕様でこれ牽引されるつもりだったんだけどなぁ・・・。「カシカマ」(EF510-510号機)にでも引かせるかなぁ・・・。」
「でもあれって「北斗星」だよねぇ。」
「お前のせいだ。」
僕はつぶやくと萌のいない方向を向いた。白い車体が走っているのが分かる。どうやら「サンダーバード」のようだ。しばらく「サンダーバード」に見入っているとくすぐったくなった。
「ナガシィ。あれの中間のライトつけてよ。」
萌が僕をくすぐっているんだ。
「の前にくすぐるのやめろ。・・・。」
そう言ったら萌は僕をくすぐるのをやめた。そう言えば207系のほうも真ん中の先頭車のライト点灯をしていない。これを機会にそれもしてつけっぱなしにしてしまおうか・・・。僕は緩行線の駅に止まった207系の3号車(クモハ207形)と4号車(クハ206形)を連結したまま取って、レバーでライトのスイッチをオンにした。同じことを221系の6号車(クモハ221形)と7号車(クハ221形)。「サンダーバード」の6号車(クモハ681形)、7号車(クハ682形)、9号車(クハ683形)、10号車(クハ680形)にも施した。これで進行方向に向いている先頭車はヘッドライトを点灯する。それをしたら僕はレイアウトの外に出て、ここについている窓の雨戸をすべて閉めた。そして、照明を落とした。
この中が真っ暗になる。しかし、列車が今どこにいるのかは中についている車内灯がそれを教えてくれる。「雷鳥」はいま手前の駅を。207系はどこにいるのかわからないからトンネル。221系はこちらに向かってきている途中で、「サンダーバード」は駅を通過した後だ。
「ナガシィ。これじゃあ分かんないよ。」
萌の声が聞こえた。大体どこにいるのかは検討がついているが・・・。
「文句言うなって。時にはこういうことだっていいだろ。」
「慣れるまでに時間かかるじゃん。・・・。これやったのって久しぶりだったっけ。」
確かに慣れるまでには時間がかかる。だんだんこの暗さに慣れてきて、どこに何があるのかわかるようになっていく。萌のシルエットもとらえることができた。そこまでになったところで僕は中に入った。
「キャ。」
萌の声がする。
「どうした。」
「な・・・なんだ。ナガシィかぁ。ビックリさせないでよ。」
「人をさんざん臆病とかって言っておいて、自分だって臆病じゃねぇか。」
立ち上がって貨物駅のほうに歩いていこうとすると萌が僕の腕をつかんで、
「人のこと言えないのはお互い様。」
そう言って、いつものお約束。
「だから、くすぐるなって。くすぐったいだろ。」
「絶対いじり倒してやるから。」
萌の攻撃をすぐにかわして、貨物駅の方へ。何があるのかは大体わかっている。慣れた目で機関車のケースを探して、EF210の箱を見つける。それを線路上において、「雷鳥」を止めようとコントローラーのところに戻る。しかし、「雷鳥」はホームを通過したばっかだった。もう一周してきたら、止めることにした。ポイントを2番線に開通させて、そこに入線させる。「客を下ろすまでは少し時間が」という設定で、しばらくそこに放置しておく。その間に貨物列車をスタートさせた。
「・・・。このナガシィ。今貨物走らせてるでしょ。」
萌が聞いてきた。
「ああ。」
そう言うと萌はレイアウトから出て車両庫のほうに行った。戻ってくると車両を並べていた。「サンダーバード」を置き換える車両らしい。その車両がなんなのかはその車両が電気を取った時点で分かった。
「あっ。お前。1000番台(223系)以外はって言ったじゃん。」
「そっちが貨物走らせてるなら、こっちだってこうします。」
「この野郎。今すぐ止めろ。」
「そっちが貨物を止めたらこっちだって止めるわよ。」
「・・・。」
しばらくそのまま。この流れで行くとジャンケンになって、あいこを連発して、どちらかが負けて、勝った方に従うというお決まりのパターンだ。
「はぁ。分かったよ・・・。」
今日は萌が折れた。なんでだろう・・・。萌はそういうと車庫に1000番台(223系)を戻した。
「ナガシィ。今日は俺てやったからね。次はナガシィが折れてよ。」
「なんでだよ。折れたくなんかないよ。」
「折れろ。頑固者。」
「・・・。頑固者で悪かったな。」
そう言うと中の電気が付いた。そっちのほうを見てみると駿兄ちゃんがたっているのが見えた。
「おいおい。こんな暗闇の中で何やってんだ。・・・。うーん。察するところを見ると二人で変なことでもやってたのか。エッチとか。」
「エッチなんてやってないてば。」
萌と僕の声が揃って反論する。
「なんで、ハモるんだよ。」
また僕と萌の声が揃ってお互いを批判する。なんでここまでタイミングが合うのか。
「ていうか。駿兄ちゃん電気消してよ。まぶしい。」
「分かったよ。しばらく二人で楽しんでろ。今日は退散することにするわ。」
「・・・。」
「お互い裸で触れ合ってもいいんじゃないか。別にみる人はいないんだし。」
「・・・。駿兄ちゃん。いつからそんな変態になったわけ。」
声が揃った。
「えっ。男の性かなぁ。」
駿兄ちゃんはそういうと明りを消して、ドアを閉めた。離れの中は再び真っ暗になった。
結果が出たらこんな感じ・・・。ではダメでしょ。