161列車 受験準備
9月9日。
「そう言えば。笹子の受験まであと1か月無いな。」
僕は萌にそう切り出した。
「あっ。そうだね。でも、ナガシィなら絶対受かるって。」
「お前も受からなきゃ意味ないの。他のところ考えてるわけじゃないだろ。」
「そりゃあ。そうだけどさぁ・・・。」
僕はさっさと学校のある方向へ歩いた。萌はそれについてくる感じ。こんな感じで中学も小学校も通学してきた。
「でも、ナガシィの場合は受験ってことを真剣に考えてるのかっていうほうが疑わしいけどねぇ。明日だって模型いじくって遊ぶ気でしょ。」
「そうだけど。」
「はぁ。もう最悪。受験生としてね。」
「・・・。うるさい。」
「じゃあ聞くけどさぁ、これまで受験勉強何分したわけ。」
「勉強時間・・・。0分0秒。」
「ほら。最悪じゃん。」
僕はしばらく黙った。受験に際して必要なものがたくさんある。調査書だって必要だし、それにその調査書を作成する依頼を出す前に受験計画書というものを提出しろと学校が言ってきている。それも提出しなきゃいけない。そして、僕たちのところは筆記試験だけではないから、面接の練習だってしとかなければならなくなる。受験が終わったら受験が終わったで、受験報告書を出さなければならない。10月8日までが忙しい。その先は遊びほけてもいいかもしれないが、学校で滑らない程度に抑えなければいけないのは事実だ。
「お前の学校ってさぁ、受験計画書とか出せって言われてる。」
「うん。言われてるけど。ていうかそれふつうじゃないの。大学じゃないけど、どこでどういうタイミングでこの人はここを受験するっていうのは学校に分かってたほうがいいんじゃないの。ふつうに考えて。」
「あれ正直書きたくないんだけど・・・。」
「おい。私はナガシィの字体に字を似せることはできないからね。」
「知ってる。」
「・・・。分かったよ。私が明日ナガシィの家に押し掛けるから。その時に受験計画とか書いちゃっていいでしょ。そうすれば、来週には調査書の作成依頼が書けて、再来週中には願書出せるんじゃない。」
「・・・。えー。明日くらい遊ばせてくれよ。」
「こら。子供。そういうことがダメって言ってるの。こういうことぐらい早いほうがいいに決まってるじゃない。早いにこしたことはないでしょ。」
「ねぇ。早いから遊ばせてくれよ。」
「・・・。」
萌は黙ってしまった。あきれたのか・・・。しばらくすると僕を呼び止めて、前されたことと同じことをされてしまった。
「ナガシィ。今日一日その格好で学校にいろよ。外したら、ただじゃおかないからね。」
(・・・。あの野郎・・・。)
萌はそう言って小走りに逃げて行った。僕はこの髪型を覆いたかったけど、隠せるものがない。諦めて学校まで歩いていった。学校につくと案の定のことを言われた。
「えっ。永島君だよねぇ。どうしたの。」
永原の目が点になっている。
「ああ。友達にやられた。」
(やられたって・・・。)
「あっ。永島久しぶりだなぁ。それ。」
宿毛は笑って僕の肩に腕を置いてきた。
「まったく萌のやつも子供だよなぁ。でもまぁ、だいたい原因はお前のほうにあるんじゃないか。」
「今日は違うって。」
「へぇ。どこがどう違うんだよ。」
(そこツッコむな。)
「やっぱりお前に原因があるんじゃねぇかよ。分かりやすいなぁ。分かりにくいようにもうちょっとましな言い訳したらどうなんだ。」
「・・・。」
「・・・。宿毛君平気なの。これ。」
「平気っていうか。中学の時は日常茶飯事だったからなぁ。だいたいこういう髪型にされない時が10日に3日ぐらいだった。同じ中学の人には見慣れてたよ。」
「同じ中学の人にはってことは。他の人が見たらびっくりだよねぇ。」
「びっくりどころじゃないな。腰が抜けるかも。」
(さすがにそれないだろ。)
さすがに宿毛が腰を抜かすといったことは大げさだった。全員腰を抜かすことはなかったけど、この髪型を見たことがない木ノ本と留萌以外はこの髪型で女の子を思ったらしい。そして家に帰る帰路、萌と合流して、ようやっとはずしてもらった。
「恥ずかしかった。」
「・・・。」
「正直言いなさいよ。恥ずかしかったって。」
「うるさい。」
翌日9月10日。
「本当に押しかけてくることないだろ。」
「押しかけるって言ったら押しかけるからね。」
もうこれで僕の降参。部屋に戻ってこっちに受験計画書をとボールペン。シャープペンを持って戻った。
「これは笹子観光外国語専門学校って書けばいいだけじゃないの。」
「そうだね。じゃあ。先にナガシィがそう書いてよ。」
「なんでだよ。お前も書かなきゃ意味ないじゃん。」
「私だってちゃんと書くよ。ナガシィの場合書かないでほったらかしってことがあり得るじゃん。」
「・・・。なぁ、お前は俺の親かよ。」
「違うよ。ナガシィのお姉ちゃんぐらい。・・・。ウソ。冗談。フフ。」
「疑わしいなぁ。それ。」
「ほら。早く書きなさいよ。でないとまたいじるよ。」
「そのいじるっていうのネタにするのやめてくれよ。高校でもあれが浸透したらどうしてくれる気だよ。」
「どうもする気もないよ。それはナガシィのせいだもん。」
(・・・。こいつ。)
翌日9月11日。
「今日は願書のほう書いちゃおう。」
「願書書いちゃっていいのかよ。調査書とかで来てからでも遅くないんじゃない。」
「思い立った時にさっさとやらないとダメでしょ。特にナガシィの場合。」
僕はしばらく萌のことを見つめていた。
「どうしたの。何かついてる。それともブラでも見えてる。」
「いや。ブラは見えてないけどさぁ、やっぱりお前昨日のこと冗談で言ってないだろ。本気で俺の姉ちゃんって思ってるから言ったんだろ。」
「ないない。双子のお姉ちゃんだなんて思ったことないから。」
「・・・。」
「ほら。ボーっとしてないで、書いちゃおう。」
翌日9月12日。
「ああ。鳥栖先生。」
「なんだ。」
「あの。これ書いてきたんでお願いします。」
鳥栖先生におととい書いた受験計画書を渡す。鳥栖先生はしばらくそれに目を通してから、
「永島。ちょっと職員室のほうに来て。・・・。調査書の作成依頼渡す。」
と言って席を立った。僕は鳥栖先生の後ろについて職員室まで来た。4枚ある扉の一番手前のドアから職員室の中に入る。こちら側が3年生の職員が集中している。東のほうに行けばいくほど学年が下がり、一番向こうは中学生の職員がいる。
「これ複写式だから、気をつけて書けよ。」
鳥栖先生にそう言われて紙を渡された。
「今日私も調査書の依頼もらってきた。これでまた書いちゃっていいよねぇ。」
「って言っても書き方が少し違うなぁ・・・。」
「大丈夫だって。書き方心配だったら私が見てあげるから。」
「うちの進路課曰く第三者に見てもらえ。」
「あっ。そうなの。」
「だから、お前に見てもらってもしたがないというか・・・。」
「どこがしかたないの。私だってナガシィからしたら第三者じゃん。」
萌は不満そうな顔をした。そして、結局・・・。萌は学校の制服のまま僕に家にやってきた。もちろん必要なものを持ってこっちに来たというのはすぐに分かった。
「お前がスカートはいてここに来るって珍しいなぁ。」
「別に。この中短パン(体操服)はいてるから絶対見えないし。」
と言って萌はこの中に入ってくる。いつもと同じように使ってない机を使って調査書の作成依頼を書いた。
翌日9月13日。
「鳥栖先生。調査書依頼書いたんでお願いします。」
鳥栖先生にきのう書いた作成依頼を渡した。鳥栖先生は昨日と同じくしばらくその依頼書に目を通して、
「永島。調査書のほうだけどいつまでにいる。」
「ああ。締め切りが10月5日ですから、そうですねぇ・・・。9月の25日以降ぐらいですかねぇ。」
「・・・。まぁ、この時に受け取ったから、調査書のほうは来週中までには完成できると思うから、それぐらいでもいいか。」
「あっ。はい。」
来週中ということはそれまでの間にすることは実質なくなったわけだ。と言ってもそう入ってられないかぁ。前述したとおり、僕の受ける学校は面接試験のほうもある。そっちのほうを作っておかなければならないのだ。
「あっ。永島。面接の練習用紙の紙持ってるか。」
「はい・・・。これのことですよねぇ。」
「そう。お前のところは面接をあるから、これができたら俺に言え。この紙をもとに練習するから。」
「分かりました。」
朝の内に済ませたら、あとはこの後の授業を受けるだけ。体育とか僕は苦手だけど、今の卓球なら少しは楽しい。まぁ負け続けているが。10戦中2勝8敗だ。1勝したあと7連敗した。
「ねぇ。永島達ってもう試験の準備進めてるわけ。」
木ノ本がそう切り出してきた。
「えっ。そうだけど。」
「早いなぁ・・・。」
「早くないだろ。受験が10月8日なんだろ。それに早く準備しとけばあとあとあわてることもないっていう考え方じゃないのか。」
留萌が木ノ本の言葉を遮った。
「そう言えば、留萌と木ノ本はどこ受けるか決めてるの。」
「私は笹子受けようと思ってる。一番早いのが特待生だし、それ取れちゃえば学費が減免になるじゃない。最高で100万だったっけ。」
留萌がまず言った。
「私も笹子受けようとは思ってるよ。まぁ、学力でどうこうっていうのはないと思うから、私も特待生だけどねぇ。」
「全員考えること同じなんだ。」
「えっ・・・。あんたも特待生なの。」
留萌と木ノ本の声が揃って僕のほうにかえってくる。
「うん。ていうか、俺本気で落ちるんじゃないかって思ってる。」
「チキンにもほどがあるなぁ。お前の学力で落ちるわけないだろ。クラスでも上のほうにいるんだろ。」
「いや。だって俺ここの受験の時にも内申34あって落ちるんじゃないかって思ってたくらい・・・。」
「無い、無い。」
二人とも同じように首を横に振った。
数日後。調査書ができたと鳥栖先生から言われたので、南棟1階の事務室まで言った。調査書を受け取って、戻ってくる。木ノ本もその間には調査書の作成依頼を出していたらしく、木ノ本にも言っておけと言われた。そして、今度は願書のほうだ。願書のほうはまたもえがぼくのいえに押し掛けてきて、一緒に書いた。
「なぁ。萌後ろのアンケートだけどさぁ、これどんなこと書いた。」
「まだ書いてないよ。ていうか人の見るなよ。」
「恥ずかしいことでも書いたの。俺に見られたくないような。」
「そんなの書くわけないだろ。見られてもいいものを書くつもりだよ。ちゃんと。」
「・・・。」
「ていうか。そういうものこそナガシィが書きそうな気がするけど。」
「書くわけねぇだろ。まぁ、お前に見られたくないっていうか人に読まれたくないとは思うけど。」
「その時点でダメだろ。少なくとも向こうの人は見るんだから。」
「大丈夫。ちゃんとそういう内容にするし。」
こんなことを言い合いながら願書を作成した。必要なものを募集要項の中に入っていた青色の封筒の中に入れる。これが向こうのほうに届けば向こうから受験票みたいなものが届くはずだ。9月26日。朝。それを芝本駅近くのポストに投函。そのことを鳥栖先生に報告すると、
「まぁ。それで戻ってこなかったら、それが届かなかったってことだ。」
何とも不吉なことを言う先生だ。だが、僕だって答えが返ってくるまでは心配だ。次に僕は面接練習のほうに頭を悩ませた。
萌(坂口)は貧乳っていう設定。黒崎も同じく。他は、貧乳っていう程じゃないとふつうぐらい。
永島の声ですが、普段はすごくマヌケっぽく。真剣なときは声が違うよ。そして、歌うときはミク声・・・。どれだけ声色持ってるんだ・・・。