160列車 キャラ
9月1日。今日から2学期のスタートだ。僕としてはこのまま夏休みが長く続けばいいのにと思う。萌も同じことを言っていた。僕たちは途中で合流して、遠州鉄道の芝本に向かった。
「おはよう萌って・・・。」
黒崎と薗田の声が消えていくように聞こえなくなった。
「梓。鳥峨家君そっくりだね。」
「・・・。」
二人ともヒソヒソ話になっていった。萌は大体話の内容がつかめたらしく、
「この人のことでしょ。紹介するね。友達のナガシィ・・・。じゃ分からないか。永島君。」
二人とも頭を下げる。僕もそれにつられるように頭を下げた。
「似てるよねぇ。」
薗田が口を開いた。
「似てるって・・・。ああ。鳥峨家君にってこと。」
「萌。誰なんだ。その鳥峨家っていう人。」
「ああ。ナガシィと顔つきがすっごく似てる人だよ。瓜二つっていうぐらい。親戚どうし。」
「あのさぁ、俺の親戚に鳥峨家っていう人はいないし。」
「そのくらい知ってるって。」
(ああ。前萌が言ってた鳥峨家にそっくりな人・・・。萌の好きな人かぁ・・・。鳥峨家と違ってなんかぬけてそう。)
「で、萌。これから来るやつどっちか賭けない。」
「賭けるのはいいけど・・・。まぁ、大方1000だろうねぇ。」
「だな。俺も1000。」
(賭けになってねぇし・・・。)
「その中でもっと言うと1004かなぁ。なんかそんな気がするし。」
「1004かぁ。俺もそんな気がするんだよなぁ。」
(賭けの意味ねぇし・・・。)
しばらくするとその列車が入ってきた。先頭は2000形独特の音がしてきた。
「音からして2004な気がするんだけど。」
「あれ。ナガシィって2004乗ったこと・・・あったなぁ・・・。感覚か。なんか違う気がするの・・・。」
その車両が姿を現した。車番は2004だった。
「ほら。やっぱり2004じゃん。」
(子供だ・・・。子供だ・・・。真逆だ。)
「・・・。ナガシィは今の勘でしょ。経験で言ったら私のほうが遠州鉄道には長く乗ってるんだから、私のほうが分かってる。勘だけで私に勝とうとするな。」
そして、最初の二人の賭けは外れた。後ろは2001だった。2001に乗り込み、萌はいつもの場所をとる。僕はその隣に荷物を下ろした。萌と一緒に朝通学している人たちは開いている座席のほうに腰掛けた。
「この列車に乗ってる伊奈中の人は伊那と鈴鹿と安芸と姉別さんと糸魚沢さんと花咲さん。後は同じ学校でも知らない人。だから多分安心だよ。」
「あそっ。」
「|この電車(10レ)ってよく無線が入ってくるんだけどさぁ、このごろ無線の受信機っていうのかなぁ。それの番号だけで形式が分かるようになってきた。」
「それはそれですごいなぁ。どうなってるんだよ。」
「えっと。全部3ケタで、3、5、1っていうのがあの30系の51号のことで、他の30系の動力が3、2、5とかっていう付番。1000形は30系と1ケタ目は同じで、3、0、1とか。2000形は1000形と下2桁は同じで最初の桁が2になっただけ。西鹿島の制御車のほうは真ん中の桁が後ろの車両の3ケタ目と同じ。でも1000形だけは2ケタ目が1っていう感じになってる。」
「すごいむだなことを覚えたな。そんなこと覚えても何にもならないぞ。」
「でも役に立たないってこともないんじゃない。だってこれから駅員もそうだけど列車は全部わかりにくくなるのよ。あの乗った新快速だって列車番号で呼ぶことになって、運転手や車掌なんかになったら当たり前。それに駅の番線だってそうなるのよ。」
「・・・。」
そんなことは分かっている。普段電車に乗るときホームでは「5番線。10時12分発。普通、西鹿島行き」と案内されている。これが乗務員相手になると「当駅4番線。10時12分35秒発。82レ。」に変わる。他に「のぞみ1号」。お客様相手ではこのように案内されているが乗務員相手には「1A」と案内されている。詳しいことはここでは触れないことにしておこう。これ以上説明したら、この話の中だけでも納まらなくなるほどのことになる可能性は否定できないからだ。
「まぁ、確かにそうなるけど。それは業界に入ってからでも遅くないんじゃないか。まだまだ時間はあるし、俺たちはまず笹子に受かるかどうかだろ。」
「ナガシィは心配ないって。絶対受かる。」
「そうか。俺は岸川に内申34で受かるかどうか心配してた人だぞ。」
「いや。それはナガシィが臆病なだけだって。」
「臆病だと。」
電車の中だ。迷惑にならない程度に声を上げる。
「だってそうじゃん。ナガシィって臆病すぎるもん。お化けだって怖いし、ジェットコースターにも乗れないし、ていうか絶叫マシン全部だめだし。」
言い返せないというのがすごく悔しい。萌の弱みでも握って自分の意のままに動かしたいと思うときは少しはあるけど、なかなかそういうことができないのだ。ちょっと前にも萌には俺をいじるなと言ったが、10分としてそれは持たなかった。
「うーん。あと他にナガシィが臆病っていうこと証明するなんかあるかなぁ。」
「もういい。」
数分後。僕たちは助信で降りた。岸川がここから一番の最寄り駅だからだ。萌もここで降りた。宗谷にはここからでも歩いていけない距離ではないそうだ。災難にあったのはいつも萌と一緒に通学してる人たちだろう。萌が下りたのを勘違いして、ついてきてしまったのだ。
「ああ。君たちは宗谷だから、ここで降りると結構歩くことなるんじゃないのか。」
「いや。だってさっきは梓の勘違いだし。」
「・・・。」
(梓・・・。「あずさ」。)
「他にナガシィの臆病なところ。」
「もうその詮索はよせ。やめろ。」
(顔赤くしてるし・・・。鳥峨家よりはカワイイかも・・・。)
「萌に嫌なところ衝かれて嫌がってるんだ。フフ。カワイイ。」
「・・・。」
そのあと永島君と一緒に途中のバイパスのところまで歩いていった。永島君はバイパスを渡ると上に続く道を歩いていくので別れた。私たちのほうは学校に向かう道を歩いていった。
「萌。永島君ってさぁ、ああいうキャラなの。」
「・・・。」
「萌。」
薗田の顔が自分の前に来る。ここでさっきまで考えてたことが頭の中から消えた。
「ああ。うん。ああいうキャラだよ。私がいじってる時わね。」
「なんかさぁ、永島君って鳥峨家君に似てるんだけど、萌にいじられるためだけの男子な気がするんだよねぇ。さっきの「詮索やめろ」って言ったときなんて顔赤くしてたし。」
「そりゃ顔赤くしたくなるって。さっきまで考えてたことってナガシィの臆病なところだもん。」
(男子で臆病・・・。それダメでしょ。)
「ナガシィってさぁ、遊園地とか行かないし。それにナガシィの場合遊園地に行ってもすることがないのよねぇ。ジェットコースターとかの絶叫系は苦手だし。じゃあ、お化け屋敷とかに入ろうかっていうと「お化け怖いし」っていうし。」
「絶叫系苦手かぁ。昔嫌なことでもあったんじゃないの。」
「それだったらまだいいって。ナガシィジェットコースター一度も乗ったことがないの。」
「・・・。」
「チキンじゃん・・・。」
「だから、そういうところで私のいじられるネタになるのさぁ。だって、キャラがギャグだもん。ぬけてるし、変に真剣なところは真剣だし。いまだに子供なこと言うし。天然だし。」
(どういう男子なんだよ。)
その頃、
「今日お前は学校あること忘れて、家で遊びふけってるのかと思ったよ。」
学校に着くなり宿毛はそう振ってきた。
「遊びふけって。永島君の家って何か遊びに困らないものでもあるの。ゲームみたいに。」
そのことが気になったらしく永原さんが口を開いた。
「いや。家にはゲームは電車でGO!ぐらいしかないけど、実物にして、総延長10キロぐらいのレイアウトがあるから。それにそこにある車両の数がハンパじゃないし。今のところ暇な日は毎回それやって、飽きたことがないし。」
(さすがオタク・・・。)
「レイアウトって文化祭で鉄研がホールに広げたようなもののこと。」
「そうだよ。あれは一つ一つを分解できるから家のとはまた違うんだけどねぇ。まぁ、一つ言えるのは文化祭の展示の2倍以上の大きさはあるってこと。」
(あれの2倍。相当大きいよねぇ・・・。)
「へぇ。なんかそういうところで悠々育ってますって感じだもんねぇ。」
「アハハハ。」
この日は午前中だけ。午後は家に帰って模型であそべる。
「あれ。今日は遠江急行じゃ帰らないんだ。」
「ああ。今日チャリ遠州鉄道のほうにおいてあるから。」
宿毛にはそう説明して宿毛と別れた。
午後。離れ。
「今日は何走らせようかなぁ・・・。」
独り言をつぶやいてから、
「小倉、門司、下関。幡生、新下関。長府、小月、埴生。厚狭、小野田。・・・。宇部、厚東、本由良、嘉川、新山口。四辻、大道、防府、富海、戸田、福川、新南陽。」
「徳山、櫛ヶ浜、下松、光、島田、岩田。田布施、柳井、柳井港。大畠、神代、由宇、通津。」
僕の声は途中から萌の声に置き換わった。
「・・・。萌いたのかよ。」
「はぁ、今日は気付かなかったかぁ。ありがとう。」
(どういう意味だよ。)
「ナガシィの歌声初めて聞けた。ミクの声真似して歌わなくてもいいんじゃない。」
「・・・。しょうがねぇだろ。あれミクの声に似せないと歌えないんだから。」
「ふつうの歌はミクの声じゃなくても歌えるのに。」
「ああ。」
「て。覚えてきたぞ。私も。東海道線と山陽線ぐらい上りだけなら言えるようになったからな。」
「分かったよ。俺が確認してやる。」
模型を選ぶのをひとまず中断して、僕は時刻表を取り出した。そして、萌に全駅歌に乗せてもいいから行ってみろと言ってみた。確かに。萌の言うとおり全部言えるようになっている。まぁ、ここまでの日数があったわけだし、当然ぐらいだった。
「ナガシィ。今日は何走らせるつもりなの。また1000番台。」
「・・・。今日は別なのにしようかなぁ。ここら辺の2500番台(313系)+211系。」
「じゃあ、私は6000番台(223系)+221系でもやろうかなぁ・・・。」
「なんで東海の隣に西日本が走るんだよ。」
「別にいいじゃん。ありえないことじゃないし。」
「ありえないだろ。」
「勉強しろ。」
「お前に言われたくない。」
これはあり得ることだが、静岡圏の車両が関西圏の車両と出会うことはない。出会うのは大垣の車両たちだけだ。
「まぁ、そういうのは知ってたよ。ここは基本番台(313系0番台)で妥協しとくことにするわ。」
「なんだよ。その言い方。こっちは外側に5000番台(313系)と300番台(313系)で新快速でも走らせてるかなぁ。」
「なんでそっちで5000番台(313系)使っちゃうのさ。こっちに渡せよ。」
「お前のことならどうせ5000番台と5000番台つなげて12両やろうってこと言うんだろ。・・・。でも、萌これなら妥協しないこともないぞ「新快速名古屋方面浜松行き」。」
「気持ち悪。つうかどっち行きたいのかわからないし。」
「あっ。じゃあこっちの方が通じたかなぁ。「Special Rapid Service」。」
「・・・。納得。それならつじつまが合うわ。」
萌はこれに納得したが、これでも分からないという人はいるだろうと思うのでさらに説明を加えよう。名古屋圏でも新快速は走っているが、それの英語案内は「New Rapid」。これに対し関西圏で走っている新快速の英語案内が「Special Rapid Service」なのだ。かつては関西の新快速も「New Rapid Service」と案内されていたらしいが、223系1000番台から案内が変わったのだ。と話がそれてしまったが、この英語案内からしてこの列車は大阪から浜松に向かう列車になるということを遠まわしに言っているのだ。
「分かった。そうしろっていうならやらない。でも、今ので私も面白いのが思いついた。」
「どんなのだよ。」
「天竜暁経由。区間快速静岡行き。」
「なるほどねぇ。」
使う車両は十中八九キハ25系でなければだめだな。
今回は永島の中身を一色に出してみました。絶叫マシンが苦手を言うのは何となくわかると思います。
歌を歌うときだけ声が変わるというのは歌っている人の声に似せないと歌えないだけです。元がある場合はこうしないと歌えないという設定。
そして、永島はこの本編でも言われているとおり臆病キャラとして作っていきます。まぁ、とても変な臆病キャラであるということは変わりませんが・・・。