159列車 思い出を新快速で
不謹慎ですが・・・。話が飛んでしまうので、それを避けたいと思ったための結果です。
ここまで揺られてきた700系から降りて、米原のホームに降り立った。さっきデッキで萌は僕の後ろにいた。出来れば、芝本でやられたこの髪型をやめてくれるかと思ったけど、やめてもらえなかった。このまま行けって言いたいようだった。僕たちはわざとゆっくり歩いて、7号車付近まで来た。米原はここに階段がある。階段を伝って登っていけば、当然改札があり、自由通路か在来線への乗り換え口に通じている。
「帰るときは300系のほうがいいね。」
(帰るときはかぁ・・・。あいつにちょっと聞いてみるかなぁ。)
僕は携帯を取り出した。もしかしたら・・・。そういう淡い期待を持った。
「誰かにメール。」
「ああ。部活の後輩にものすごく時刻表に詳しい奴がいてさぁ。ちょっと聞いてみるわ。」
萌に話して、メールを打ってみた。その返信は即答で「ないです」となっていた。
「はぁ。残念。米原に止まる300系は俺たちが帰るときにはもうすでにないんだと。」
「それって米原だけの話だよねぇ。」
「まぁ、そうだけど・・・。」
萌はしばらく黙っていた。だけど、300系が止まらないということを知って諦めたのか、
「分かった。帰りも700系で我慢します。その代り、ナガシィのことは徹底的にいじらせてもらうからね。」
「・・・。いじるは無し。これだけでも恥ずかしいからやめろつうの。やるんだったら離れだけにしろ。」
「分かりました。」
(あっ・・・。も・・・もう、遅いかぁ。はぁ余計なこと言っちゃった・・・。)
在来線のほうに入ってくる。米原は本線の中間駅と乗換駅という性格を併せ持つ。大阪から来る快速(米原~京都・高槻間は普通)と新快速が設定され、新快速のほうは長浜・近江塩津まで直通。早朝と夕方には敦賀まで直通する列車も設定されているほど中間駅としての性格が濃い。また大垣方面からの列車は優等列車と朝・夕の大阪・大垣方面に直通する列車を除いて、すべてここで折り返す。
僕たちは3番乗り場に来た。すべての新快速がここから発車する。隣の2番乗り場は当駅終点のJR東海の車両が入線するのが基本となっている。ここ3番乗り場にはそんなに多くはないが客はいた。もちろんその人たち全員が列車に乗りに来ていないのだということがそのあとよく分かった。
「ナガシィ。何か来るみたいだよ。」
萌が「下本1」の信号を指差した。何か来ると分かるのはその信号が青だから。
「ここを通過するぐらいだから、貨物以外考えられないけどさぁ。」
しばらくするとその貨物列車が現れた。僕たちはその貨物列車に携帯を向けた。色違いのお揃い。その貨物列車の先頭に立つEF210-15号機は明らかに通過しないということをその速度で直感した。通過するには遅すぎるのだ。予想通り列車は停車。その間僕は後ろで何が来ているのか見当もつかなかった。
「ナガシィ。エスエル。エスエル。」
萌が僕をたたいた。そんなことしなくても振り向くのに。確かに。そこにはエスエルが止まっている。ここら辺でSLと言われて、僕が思いつくのは「北びわこ号」ただ一つだ。EF65もくっついている。エスエルのほうは間に合わなかったから僕はEF65のほうだけ撮った。そしてその後ろには1000番台の姿があった。
(本当に来るのか。1000番台。まぁ来ないほうにかけておくのが身のためか・・・。)
そう思っていた。しばらくたつと「北びわこ号」のC56もEF65もどこかに行った。そして、5番乗り場に止まっていた1000番台も。それと入れ替わるように2番乗り場に列車が来た。この列車はお呼びでない。快速だし、2000番台だった。またしばらく列車を待っていると3番乗り場に列車がやってきた。
「ナガシィ。あれなんだと思う。」
「2000番台・・・。いや。」
僕の目に映り方が違うということをすぐに直感した。ヘッドライトの下に空間があるように思えない。これはまさか。
僕の目にもそして萌の目にもその姿がはっきりとした。しばらくたつと1000番台は僕たちの前に止まった。色が落ちた。1000番台は僕たちの前にその姿をさらすだけで世界を白黒にして、雄姿だけに注目させた。
そのあとすぐに我にかえって、1000番台の中に入った。何度も言っているが米原はドアは自動ではひらかない。半自動のボタンをどっちが押すかもめて、萌がすぐ横、僕は真ん中のドアから中に入った。運転室のすぐ後ろに僕たちは陣取った。萌が先に入ったからと言って、占拠しているのではないかと思ったが、それはなかった。萌の隣に来て、前にあるポールをつかんだ。しばらくすると運転手が交代した。そして、2番乗り場に止まっていた快速が出発していった。発車時刻2分前に隣に特別快速が入ってくる。その客はおそらく6・7号車にあたりに収まりきるだろう。そして、発車時刻。
「ナガシィとこうやって前見ながら電車乗るって久しぶりだよねぇ。」
「そうか。お前からあれ聞いたときだってこういう感じだったと思ったけどなぁ。」
「・・・。」
「というか、お互い小さかった時はどっちが前見るかってことでもめて、お前が俺のこと散々いじくって、前見るどころじゃなかったと思ったけどなぁ。」
本当のことを萌に言ってやった。そしたら、何も言葉が返ってこなかった。米原を発車してすぐ。新快速は列車とすれ違う。
「前から来たやつは・・・。223系の・・・。2000番台。」
「と2000番台。」
萌の言葉に僕が続けた。前は簡単に分かる。先頭を見ればいい。
「あれ。私は1000番台って思ったけど違うんだ。ていうか1000番台と2000番台って先頭違うのは分かるけど、横は何か違うところあるの。」
「ああ。1000番台は側面になんて言うのかなぁ。・・・凹凸があるけど、2000番台は凹凸がない。」
「なるほど。それでね。じゃあ、側面にしわがなくてシングルだと・・・ってこと。」
「そういうこと。」
萌は225というところをぼかして、言わなかった。後ろから声がした。
「萌。」
この声は。振り向いてみれば思った通りの顔がそこにあった。木ノ本だったが、その木ノ本の顔は意外だけしかないように見受けられた。
「永島。どうしたのその格好。」
「エヘへ。驚いた。」
「萌。」
「ナガシィをちょっといじくってやっただけだよ。」
萌はそのあと木ノ本にその説明。後ろのほうで留萌が座ってると言っていたけど・・・。次の彦根に到着したときに確認してみたら、前から3列目。僕から見て右側の窓側にいた。
またしばらく走っていると、
「223系の・・・。2000番台と。」
「225系だな。」
列車が来た時のお約束事だ。
「うわぁ。後ろ・・・かぁ。前の2000番台吐き気してないかなぁ。」
「吐き気かぁ・・・。そういえば父さんも225系のこと気に入ってないのかも。父さん225系の模型買ってないから。」
「えっ。そうなの。」
「ああ。学校に225系の模型あったから、家にもあるのかなぁって探してみたけど、無かった。多分父さんもあれ趣味じゃないのかも。」
「・・・。ていうか今の新快速だったし、野洲あたりで快速が待避してる可能性高くない。」
「野洲止まりじゃなかったら、こっちに走って来るね。」
木ノ本は席に戻って、
「永島と坂口さぁ、中いいよねぇ。前紹介してもらったときは彼女って言ってたけど、本当に彼氏、彼女として思えないなぁ。」
「それあいつらには内緒ね。しゃべられるとなに言われるかわからないから。」
「じゃあ、そういうこと言ってるなよ。お前が言ったんだぞ。」
「だから。あんまりしゃべんないでよ。」
僕たちが乗る新快速は野洲までコマを進めてきた。大体中間ぐらいまでは乗ってきたんだ。あと半分とちょっとぐらいどうってことはない。
「車両基地に中にも・・・いたなぁ。」
「どこにでもいるんじゃないの。8両のやつは5編成あるし、計画されてる6両と4両バージョンが出てきてもおかしくないから。」
「ナガシィってさっきから225系のことよく言ってるけど、浮気でもしてるわけ。」
「してるわけないだろ。俺も225系は趣味じゃない。225系と1000番台(223系)比べたら断然1000番台のほう。」
ちょっと間をおいてから、
「ちょっと前のジャーナルだか鉄道ファンに書いてあったんだけどさぁ、225系って窓配置が席とあってないんだってさ。それに225系って窓の位置結構高いじゃん。ファンからしてみれば、223系より225系のほうは敬遠すると思う。」
「敬遠かぁ。確かに。まぁ、私は225系と同じような感じの287系のほうは好きだけどねぇ。」
(へぇ。287系好きなんだ。ちょっと意外。)
「じゃあ、見てみるか。「こうのとり」。「トワイライト」も走ってると思うから一石二鳥。」
「「こうのとり」って何時に大阪に来るのか知ってるの。」
「それぐらい知ってるって。11時30分ごろ。確か。」
「完全じゃないじゃん。」
(永島いじられてるなぁ・・・。)
(あのキャラからいじられって・・・。想像できん。)
列車に揺られて新大阪まで来た。留萌と木ノ本はここで降りた。僕たちは大阪まで行った。そして大阪で降りた。大阪はステーションシティのオープンに乗り大阪のホームを覆うように設置された屋根が目立っていた。僕たちはホームに降りるとまずここまでお世話になった1000番台を写真に収めた。
「ナガシィ。ちょっとこっち来て。」
萌が僕の腕を引っ張った。手を握られたのは久しぶりだけど・・・。そんなことに気を取られている間に萌えの携帯からシャッター音がした。
「あっ。お前・・・。今撮ったな。」
「怒んないでよ。見てみて。うまく入ったでしょ。1000番台。」
確かに。僕たちの後ろに1000番台が止まっているのが見える。それもちゃんと1000番台ということが分かるように映っているのだ。
「せめて、俺のこの格好だけ変えて撮ってくれよ。」
「もう時間ないし。」
新快速が僕たちの前から走り去って行く。後ろが2000番台だったことを確認して、僕たちは「トワイライトエクスプレス」が止まるホームに行った。だが、「トワイライト」は今日動く予定がなかったらしい。萌に本物を見せてやりたかったけど・・・。しばらくそのホームで待って「こうのとり」が入ってくる。その「こうのとり」を撮って、次の「サンダーバード」が11番乗り場に入ってきた。
「さっきから気付いてたけどさぁ、大阪って連結面もヘッドライトつけてるよねぇ。」
「ああ。舞子であの間に人が落ちて死んだっていう事故があったから試験的にやってるらしい。」
「あれさぁ、223系とかだったら効果あるの分かるけど、「サンダーバード」じゃあ意味ないよねぇ。貫通路のためにドアを開いてヘッドライトのある位置塞いでるから。」
「・・・。」
「それに運転台の上のヘッドライトまでつけても意味ないんじゃない。大体あんなところについてても「ここ隙間大きい」って分かんないんじゃないの。そもそもあんな高いところふつうの人が見るかっつうの。」
萌の言いたいことは分からないわけでもない。僕はそのあとも「トワイライト」のことを気にしていたのだが、萌のほうは気になっていなかったみたいだから、ほっとした。
その後笹子のオープンキャンパス。参加していたのはやっぱり女子だけ。その時にはこの格好のことを感謝したけど、やっぱり難波さんがそのことに触れてくると恥ずかしかった。唯一の救いは鉄道学科を受けた人の中に見知らぬ人がいなかったことだろう。
オープンキャンパスが終わって交通補助をもらう。僕たちは学校を出るとすぐに緑地公園に行って、地下鉄に乗り再び大阪まで行った。大阪で新快速を待っていたが、姫路方面に向かう新快速が225系だったことを確認した。そして、僕たちが乗る新快速がまた1000番台だったのだ。これで運は使い果たしたと思った。
「大阪からご乗車のお客様。新快速、米原方面、長浜行きです。前より4両、新快速長浜行き。後ろより8両、新快速米原行きです。この列車のお手洗いがございます車両は前より9号車と後ろより1号車です。なお1号車のお手洗いはただいま故障しているためご使用いただけません。ご了承ください。・・・。」
「後ろの223系のトイレ故障してるって。誰が壊したんだろうね。」
萌はそんなことを言っていた。確かに223系のトイレを壊したやつの顔が見てみたいと思う。まぁ、見れるはずもないかぁ・・・。琵琶湖線に入って安土あたりでC56を牽引するEF65の姿を見たこと以外は別に変ったこともなく、行きと同じ感じで流れていった。そして、米原に到着した。
米原につくと僕たちはホームに降りた。運転手もここで交代ホームに降りた。
「あの。運転手さん。ちょっと写真撮ってくれませんか。」
萌は引き継ぎが済んだことを確認するとそう切り出した。
「おい。」
「ええ。いいですよ。」
その運転手さんは快く引き受けてくれた。やさしい人だ。胸につけている名札には「野洲」と書いてあった。
「ねぇ。ナガシィおいで。」
萌に手を引っ張られて、萌の隣に来る。萌は僕につけていたヘアピンとか全部取ってから、その人にオーケイと言った。それから萌はここから長浜まで乗務する運転手にミュージックホーンを鳴らしてとも頼んでいた。僕とそんなに思い出を作りたいのか・・・。1000番台がブレーキを解除して、すぐにミュージックホーンが鳴った。これを降りて生で聞くのは初めてである。
「ナガシィにも本物を聞かせてあげたいと思ってね。感謝してよ。」
「感謝してるよ。取ってくれてありがとう。」
「・・・。」
1000番台がいなくなったホームには後ろにいた225系(I2編成)がいるだけになった。だが、ヘアピンを取ってくれたのはあの写真を撮ってもらった時だけで、すぐにまた僕につけてきた。
「この・・・。」
「写真くらい撮らせて。」
「ヤダ。」
「やっぱりナガシィいじってる方が楽しいなぁ・・・。」
まさか離れでも僕をいじることを解禁してほしいのだろうか。散々いじられた今日だったが、それはおらなかった。
本物。往路は1000番台のW1編成でした。復路は2000番台のV編成(後ろ8両は本編の通り)であったことしか覚えてません。