158列車 二人で
翌日。
「昨日旅行から帰って来て、今日は8時からここにいるのかよ。ナガシィ疲れてない。」
「何時からここにいようと勝手だろ。つうか萌もここに来るのが早い。まだ9時だぞ。」
「それこそ私の勝手じゃん。」
モジュールの並べてある長机の下を通って萌が運転区画に入ってくる。
「ねぇ、貨物とか運転してよ。あの超あり得ない運転する貨物。」
「あれ、出すの正直面倒くさいんだけど・・・。今日はタキでもいい。」
「ヤダ。コキ26両がいいなぁ。」
「おめぇ。コキのほうがタキより6両も多いんだぞ。」
「そんなこと関係なしに毎日やってるじゃん。」
「おめぇがやれっていうからだろ・・・。・・・分かったよ。ちょっと詮索してくるかぁ。」
運転台を発つと萌が箱を差し出した。これは・・・。
「用意早いなぁ。」
「いつものことじゃん。」
確かにいつものことなのだが・・・。箱を受け取って、貨物駅まで足を運び、反射板の付いているコンテナ貨車を一番最後にして積み下ろし線に置いていく。コンテナ貨車を26両置き終わると次は機関車だ。車両庫に行ってDF200(レッドベアー)、EH500(金太郎)、ED75を2つ、EF510の北斗星色、EH200(ブルーサンダー)、EF64を2つ、EF210(桃太郎)、EF81の重連セット、ED76を見つけて引っ張り出した。戻ってDF200をコンテナ貨車の前に置いていると、萌に声をかけられた。
「臨地研修どうだった。」
「ああ、結構よかったよ。」
「・・・。ちなみにどんなことあった。」
「えーと。行く途中にDD51(デデゴイチ)がさぁ、空コキ2両で走ってくの見た。」
「えっ。空2両・・・・。すごく少ないねぇ。どうしちゃったの。」
「あ。おじいちゃんだからもうそんなに引っ張らなくてもいいよって上の人が言ったんじゃない。それにから2両っていえばさぁ、富山でも同じようなの見てさぁ。EF510(レッドサンダー)がコキ2両だけで走ってったし。」
「えっ。それはおじいちゃんじゃなくて、お兄ちゃんの間違いだよねぇ。」
「だからさぁ、俺たちが「あんな仕事2度としねぇ」とでも言ってるんじゃないって言っといた。」
「って。EF510(レッドサンダー)がそんなこと言うのか。」
「さぁ・・・。」
僕はコキを並べる作業を再開。20両目の「コキ106」を置いて、次の車両の「コキ105」を線路上に置いた。ちょっと前までの僕の貨物列車の概念は「貨物には編成はない」だったが、実際のところ「貨物列車にも編成がある」ということが分かった。1両単位で仕業に就くことができる「コキ104」、「コキ106」、「コキ107」、「コキ110」、「コキ200」は文字通り「編成がない」のだが、「コキ100+コキ101」、「コキ103+コキ102×2+コキ103」、「コキ105(奇)+コキ105(偶)」には「編成がある」のだ。
「ていうか、駿兄ちゃんのコキにも見ないうちにコンテナ増えたな。」
「・・・。ああ。駿兄ちゃんから31フィートの「Freight Liner」が出たからそれをまとめ買いしたりとかしてた。ちょっと前に確か3箱ぐらいかって家に持ってきてたと思った。」
「まとめ買い・・・。そんなまとめ買いじゃないじゃん。」
「このごろ東海道線の貨物を忠実に再現することに目覚めたんだって。それで、「RUNTEC」のコンテナを買ってきてたし。」
「それで。このコンテナがあるわけね。て言ってもこのコンテナがなくても東海道線の貨物はできるよねぇ。空コキ増やせばいいだけだし。」
「駿兄ちゃんの場合空コキばっかでEF210(モモ)牽引っていうのはどうかなぁって思ってるんじゃない。まぁ、動画の中に20両ぐらいの空コキつないでる1300t貨物あったけど。」
「ナガシィ・・・。まさか、それやるとか言わないよねぇ。」
「・・・。やろう。」
(あっ。余計なこと言っちゃった。)
僕はたくさんのコンテナを積載しているコキからほとんどの車両のコンテナを取り外した。取り外さなかった車両は3両目の「コキ102」から1個。8両目の「コキ107」から3個。9両目の「コキ104」。10両目の「コキ105」。12両目の「コキ106」から1個。13両目の「コキ104」から2個。後は全て空にした。
「大量にコキを運んでるだけじゃないか。」
「まぁ、いいんじゃない。」
「よくない。やっぱりこれだけだと気持ち悪い。」
「・・・。萌学校のほうがまだひどかったよ。僕の先輩なんか「スーパーレールカーゴ」のコンテナ全部取り外して、走らせようとしてた人もいたからね。」
それをやろうとしていたのはハクタカ先輩だった。別に「スーパーレールカーゴ」が嫌いなわけではないと思うけど・・・。彼はそんなことをやっていた。
「うわぁ・・・。想像しただけで吐き気がするわ。」
「でしょ。」
「・・・。でもそれって「SRC」が全般検査の時はあり得るよねぇ。」
「ありえないって。検査をなんで中間の「T260」と「T261」が受けなきゃいけないんだよ。動力の4両だけで十分だって。」
ふざけた話だ。実際「スーパーレールカーゴ」が4両で検査にはいったりすることはあった。しかし、中間車が検査に入ったということは聞いたことがなかった。まぁ、僕が聞いてないだけで、本当はあったのかもしれないが・・・。この日から盆をはさんで8月の21日までこんな調子で時間が流れていった。
そして8月21日。今日は萌と一緒に大阪まで行く日だ。
「ナガシィ。まだその帽子持ってたんだね。」
遠江急行の芝本駅で電車を待っている間に萌が発した最初の言葉だった。
「ああ。だって捨てるわけにもいかないじゃん。お前からのもらい物なんだし。」
「大切にしてくれてありがとう。」
萌はそういうと僕からその帽子を取り上げた。そして、自分の頭にかぶせる。が、萌はヘアピンをつけている。それが邪魔になるのか、気になるのかすぐに帽子を取った。帽子をわきに挟んでつけているエアピン。後ろで短いポニーテルに縛っているゴムを取って、また帽子をかぶる。
「萌がかぶってどうするんだよ。」
「いいじゃん。だから、今日は・・・。頭の飾りをエクスチェンジするってことで。」
それってまさか・・・。いやな予感がした。数分後。僕はいつもの萌の髪型にされた。
「ねぇ。大阪のついたらこれ外してくれよ。」
「えっ。外すの嫌だなぁ。それにナガシィその方がかわいいよ。」
「かわいいからなんだよ。ずっとつけたままでいろってこと。そして、忘れてるよねぇ。俺が前いじるなって言ったこと。」
「あれは離れの中だけのことでしょ。こういうところは関係ないじゃない。」
「離れ含めて、俺をいじるなってこと。」
「ウソ。ナガシィあの時そう言ってなかったもん。ちゃんと「この中だけの事項ね」って言ってたよ。」
自分でもそう言ったかは定かではないが・・・。もし自分があの時「この中だけ」と言っていたら、ここでいじるなという効力をなすことがおかしい。どっちが本当なのか・・・。
「はぁ。分かったよ。今日はこのままでいることにするわ。家に着く前にちゃんとはずしてくれよ。このまま家に帰りたくないからな。」
「・・・。やっぱりナガシィいじってたほうが楽しい。」
(・・・。俺はMじゃないつうの・・・。)
電車が入ってきて、それに乗る。途中の小楠で急行に乗り換えて、浜松まで来た。浜松からは新幹線。親から新幹線代だけはもらっているため、それで切符を買った。ホームに上がってみるとまだ乗る「こだま697号」は来ていない。数分経つと700系が下り本線を通過していった。
「乗るやつって当然って言っていいほどに700系だよねぇ。」
「そうだな。出来れば300系に乗りたいけど。」
「そう言えばナガシィ知ってる。300系近々引退するんだって。」
「えっ。そうなの。早くない。」
僕にはそれが意外だった。どの車両にもいつか訪れることだが・・・。僕の好きな100系も引退が決まっている。100系はデビュー以来28年走り続けたことになると思うが、300系はそれよりも短い。もし引退が2012年だったら20年しか走っていないことになる。それだけ「のぞみ」でこき使われたということなのだろうか。
「まぁ、300もお疲れ様ってことだよなぁ。」
「・・・。でも考えてみれば、東海道新幹線もバライティなくなるよねぇ。700系とN700系だけになるわけだし。」
そうだな。それをやったら東海道新幹線には走る車両がたったの2種類になってしまう。それか、300系の引退でまた新形式が投入されるのだろうか。それでも種類が少ないことに変わりはない。山陽新幹線ほどいろんな車両に出会えるわけではない。そんな会話をしていると6番線に列車接近のアナウンスが流れる。「こだま697号」の到着だ。走りだして、まだそんなに立っていないから「こだま」と言っても乗る乗客が多い。僕たちがいるのは2号車、進行方向後ろよりのドアの一番前で待っていた。座れないということはないだろう。700系が止まってドアが開く。降りる人優先。降りる人がいなくなったところで車内に乗り込む。車内はガラガラというわけではない。ほとんどの席が埋まっている。真ん中よりちょっと向こう側に二人で座れるところがあった。そこの窓側に腰掛けた。
「もう。ナガシィばっか。窓側でずるいなぁ・・・。」
萌は僕の隣に座るとそう言った。僕は知らんぷりで外を見た。というか心配ごとが一つだけあった。こんな格好誰か知っている人に見られたくないのだ。中学でやられてた時は気付いていなかったパターンが多かったから、別に気にもならなかったが、今は知っているから余計気になる。
「知らん顔しなくてもいいじゃん。」
萌のそういう声が聞こえた。
1本だったか・・・。「のぞみ」が抜いていった。そしてこちらも浜松から発車する。浜松を発車したら「こだま」は言うまでもなく次の豊橋に止まる。豊橋の次は三河安城。各駅で乗客を拾って降ろしてを繰り返しながら、新大阪まで行く。僕はただ外を見て、萌は僕の隣からただ外を見て。ただ外を見てるだけでも会話があるときはある。外に貨物列車が走っていたり。何か珍しい光景と思えるものを見たら、会話がある。それに三河安城という駅にも言いたいことがある。それを言ったら岐阜羽島も同じか・・・。
米原まで来ると到着直前に席を立った。ここまで来ると途中の名古屋で後続の「ひかり」か「のぞみ」に乗り換えということで降りる人がたくさんいる。そのため中は少々すいていた。ドアのところまで来て、米原の車両基地を見てみた。当然そこには223系が止まっているわけだ。もちろん223系だけではない。221系も225系も止まっているのだが、今ここに225系の姿はなかった。
(マジかぁ・・・。てことは9時49分の新快速って・・・。)
「ナガシィ。どうしたの。」
「えっ。多分乗るのが2000番台(223系)じゃないかってこと。ライトつけてたのが2000番台だったから。」
「・・・。違うほうがいいね。欲を言っちゃえば1000番台(223系)に来てほしいけど。」
(本当にそうであってほしい・・・。)
EH500とかはEH500(金太郎)となっていること(ほかの機関車含め)多いですね。この場合は()内のほうを読めば正解です。