152列車 早朝の富山
突然部屋の電話が鳴った。出てみると木ノ本からだった。
「永島。「きたぐに」って何時に富山に来るんだ。」
「えっ、4時頃だと思ったけど・・・。」
「だよねぇ。ありがとう。」
と言って電話は切れた。
(何を考えてるんだろう。)
その後携帯のアプリ機能を使って「きたぐに」のダイヤを調べた。結果はこうだった。新潟行きは4時30分。大阪行きは2時22分。今は0時23分。両方とも撮ることはできる。これをメールにして木ノ本に送ってやった。
「ほれ、私が言った通り4時頃だったじゃん。」
「榛名携帯鳴ってる。」
携帯を撮って中身を見てみる。
「永島からだ。大阪行きが2時22分で、新潟行きが4時30分だって。」
「ほら、私の言った2時頃だっていうのも間違ってないじゃないか。ていうか翼と結香はいいとして、空河たち本当についてくのか。」
「はい、そう言ってました。今は翼の部屋に固まってるって。」
「じゃあ4時の撮りに行くか。」
「今から寝たら死ぬ。」
「じゃあ、どうすんのよ。」
3時32分。さっきから全く眠れていない。それでも記憶が飛んだ時はあっただろうか。今度は携帯が鳴った。発信元は木ノ本だ。
「何。」
「よーす、永島。今私たち富山駅にいるんだけど、永島も撮りに来ない。4時30分発の「急行きたぐに」。」
(「きたぐに」かぁ。)
「ああ、行くよ。」
「分かった。待ってるよ。」
電話をきると今度はメールだ。中身を開けると、
「「きたぐに」撮って来てね。」
(萌かよ。お前ら俺を殺す気か。)
このまま部屋にこもってもまずいと思い、部屋を出た。フロントに鍵を預けて、富山駅に向かった。行ってみると改札の手前で木ノ本達が待っていた。まあ、この状態を待っていたと言っていいのかは知らないが・・・。閑散とした改札口には木ノ本達に混じって一人か二人の客が床に横たわって寝ていた。
「お前らいつからここにいるんだ。」
「1時50分ごろからここにいるよ。」
「てことは2時22分の「きたぐに」撮ったのか。」
「撮ったよ。根性で。」
(いや、そこでガッツポーズされても・・・。)
4時頃。券売機の発券が始まる。まあこんな時間に券売機で切符を買う人がいるのかということが気になるが・・・。まあいるのだろう。特に、今ここにいる僕達とか、僕達とか、僕達とか。改札で8月7日分の「18切符」のスタンプを押してもらい、ホームに上がる。ホームにはなにもいないのかと思ったが5番線に475系が留置されていた。もちろんめったに見られる光景ではないので写真に収めた。その後は5・6番線ホームの糸魚川よりのベンチに腰をかけた。またしりとりをしようという話になったので、僕もそれに参加してしばらくすると、
「間もなく6番乗り場を、貨物列車が・・・。」
「よし、貨物撮りに行こう。」
席を発って6番線の黄色い線ギリギリにつけて、カメラを構えた。北口に通じている壁が黄色く照らされている。「フォー」という音がホームに響き渡る。
柱の陰から貨物列車を牽引する機関車が姿を現す。上に2つついているヘッドライトが強く目に突き刺さったが、これだけ分かれば形式は判断できる。この列車を引いているのはEF81だ。通り過ぎる直前にその塗装も明らかになる。下の方に白いラインを巻いている。更新車の証である。シャッターをきって処理している間に隣を通り過ぎていった。
また10分くらいするとまた6番線を貨物列車が通過していった。今度の牽引機はEF510「レッドサンダー」だった。「レッドサンダー」は金沢でも見たのだが、回送されていく521系に邪魔をされてよく見ることができなかったのだ。今度も同じように写真を撮って、次の「きたぐに」を待った。
4時27分。「急行きたぐに」の接近が告げられる。「フォー」という音とともに583系が6番線に進入する。レールの継ぎ目がなくても継ぎ目があるように聞こえる音は何だろうか。そんなことはどうでもいいか。
4時28分。「急行きたぐに」は定刻で富山の到着。その姿をカメラに収めて、4時30分の発車を待った。
4時30分。「きたぐに」は「ゴーッ」という音を立てて、富山を後にしていった。辺りはまだ暗い。蛍光灯の光がなくなれば、583系の車体は尾灯だけを残して闇に飲まれていった。
「行っちゃったな。」
「次はなに撮るんだよ5時29分に「日本海」が行くけど。」
「当然それも撮る。」
場所を6番線から3番線の高岡側に移して、5時29分の「寝台特急日本海」を待った。
4時45分ごろ。
「3番乗り場に4時53分発。「特急サンダーバード2号」大阪行きが・・・。」
「ここって本当におかしいですよね。」
隼が言った。
「おかしいって。」
「だってそう思いませんか。ふつうなら早朝の始発は普通じゃないですか。ここは早朝の始発が普通じゃなくて特急ですよ。」
「その方が北陸の人には助かってるってことじゃないか。4時53分の「サンダーバード2号」に乗れば8時28分に大阪に着くし。富山からでも通勤可能なんだよ。」
まあふつうにそうなるのだ。他にも、さっきの「急行きたぐに」の大阪行きに乗れば大阪に6時49分。福井4時51分発の快速か敦賀5時40分発の新快速で大阪に8時09分。また、鉄道雑誌にも書いてあったことだが、「サンダーバード」や「びわこエクスプレス」などの特急を通勤電車の代わりに使っているサラリーマンもいるそうだ。乗車率は立ち客が出るほど。相当需要があるのだ。
「まあ、ここはそうしないといけないってことでいいじゃないか。」
そろそろ「サンダーバード2号」の姿もはっきりする。
「うわぁ。また4000番台かよ。なんで681系じゃないんだよ。あっちの方が可愛いじゃないか。つうか4000番台をパノラマグリーンで量産すればよかったじゃないか。」
(4000番台がパノラマグリーン・・・。)
ちょっとその姿を想像してみた。いやいや。やっぱり想像もつかない姿になる。
「まぁドンマイ。」
文句を言いたくなるのを押さえて683系を写真に撮る。
4時53分。「サンダーバード2号」発車。ちょっと別な意味も含めて、みんなで手を振ってみた。
「フィン、フォン、ファン、フォン。」
どう受け止めたのかは知らないけど、返事はしてくれた。
今度は4番線に5時02分発の「特急しらさぎ2号」名古屋行きが入線。こちらも定刻で富山を発車していったが、独特のミュージックフォンはなかった。手を振っていなかったというのもあるかもしれないが・・・。
またそのすぐ後。3番線を貨物列車が通過する。全員カメラを構えて糸魚川方面を見た。
「おっ。510だ。」
だが何かおかしい。
「あれ、510の後ろに何もない気がするんだけど。」
「えっ。まさかの単機。」
「鉄研部のネタに困ったら単機回送の単機か。」
そして、横を通過する。
「えっ・・・。」
全員の声がそろう。
「落ちちゃったな。」
空河がその貨物列車を見送りがてらそう言った。
「期待させといてあれやめろよな。東海道線みたいに10両以上つないでこいよ。」
「あれは来るときに見た貨物よりひどいかも。」
「すっごく予想外だったな。」
「おいおい。EF81でも17両引っ張ってたんだからEF510(レッドサンダー)も頑張れよ。」
全員が意外だった貨物列車はこうだった。EF510の後ろに何も乗っていないコンテナ貨車がたったの2つ。あれならとても機動力がよさそうだが、宝の持ち腐れ過ぎる。
「今のEF510(レッドサンダー)-7号機だって。」
「あれ、絶対文句言ってるぞ。なんでこんなに少ないんだよって。」
「「もう2度とこんな仕事したくねぇ」って言ってるかも。」
貨物列車を見送った後はちょっとそのことでいじりまくってやった。
5時27分。3番線に「寝台特急日本海」の到着が告げられる。明るくなった東の空を背に「日本海」を牽引するEF81のヘッドライトが富山駅2番線の陰から現れる。僕達は停車までの間12両編成の停車位置より高岡側で停車を待っていた。しかし、「日本海」は予想とは裏腹に9両編成の停車位置に停車。そんなむこうに停まるとは思っていなかったため、一様に「そんな向こう。」という声を上げた。
5時29分。「寝台特急日本海」発車。それを見送ってホテルに戻った。
ホテルに戻ってもすることがない。7時の朝食まで何とか時間を潰して、朝一で朝食を取る。朝食を取り終わって7時34分。富山駅に向かってホテルを出た。
前回の問題の答えは「ハッサム」です。
僕が富山に「きたぐに」を撮影しに行った時、2時だというのに乗る人がいました。需要あるんですね。
683系4000番台のあだ名「ツルペタ」。写真を見れば間違ってないと思います。