15列車 熱海 国府津 清水
しばらく313系に揺られて熱海まで行く。途中にはパルプの盛んな富士。旧東海道本線。御殿場線との分岐駅沼津。新幹線の車両基地がある三島と主要駅が続く。三島を発車すると次は函南。函南を出ると次は終点熱海だ。ここ函南と熱海の間には丹那トンネルというトンネルが存在している。このトンネルを通りぬけると隣に東海道新幹線の線路が見える。そしてまたトンネルに入る。そのトンネルを出ると熱海のホームに滑り込む。
「やっとここまで来た。」
善知鳥先輩は体を伸ばした。
「よく耐えたな。」
サヤ先輩はそれに感心している。
「よく耐えたなって。よっぽど耐えきるのが珍しいみたいな言い方だな。」
「だってそうだろ。お前の場合寝てるかなんかしないとどうかなるだろ。」
この話を聞いていると善知鳥先輩がこの部活に入った理由がなんなのかわからなくなってくる。
「みなさん。集まってください。」
アド先生が集合をかけて、全員を集める。全員集まったら改札に向かい、朝渡された「休日乗り放題きっぷ」を駅員に掲示して出た。改札を出ると人盛り。歩くところが狭いからか東京よりも人がいると錯覚する。僕たちが出た出口付近には足湯と蒸気機関車が展示されていた。多分、日本に鉄道が走り始めたのころに走っていた蒸気機関車だと思う。その蒸気機関車の前まで来るとアド先生から指示があった。
「みなさん。これから自由行動にします。11時10分にここに集合してください。」
「はい。」
全員の声がそろう。それが済んだところで、みな思い思いに解散していった。
「さて、俺たちは昼飯にでもするか。」
佐久間が僕を誘った。
「昼か。早くない。」
「早くないだろ。乗る電車が11時30分なんだから。」
それもそうかと思いそれに同意することにした。熱海駅側には長屋みたいに建物が建っている。そこに2階はどうやら飲食店が並んでいるらしい。そこに入って、全員で昼を食べることになった。入ったところは2階に上がってすぐのラーメン屋。そこで昼をとったあとは何もすることがない。1回のお土産屋のあたりをふろふろと歩いて、家用に買っていくお土産を選んだ。それが終わったらさっきの蒸気機関車のところに戻った。
そこにはすでにナヨロン先輩がいた。ただ、厳密にいえば違う。のんきに足湯に浸かっているのだ。
「ナヨロン先輩。」
声をかけた。すると振り向いて僕のほうを見た。少し驚いたようだ。
「永島か。善知鳥かと思ったよ。」
「善知鳥先輩だったら都合が悪かったですか。」
「悪すぎたよ。もしかしたら、この足湯に突き落とされるかもしれないからな。」
「そうなんですか。」
「いや、それくらいしてきかねないっていうのかなぁ。まぁ、そんなとこ。・・・ところで、永島今まで何してきた。」
正直に昼ご飯を食べてきたと答えると、
「そうかぁ。真面目だな。」
「えっ。お昼ご飯食べることって真面目なんですか。」
「そう真面目。いや、真面目すぎる。こういう業界にいくと昼なんてただ邪魔なイベントになるだけだぞ。永島もそういうタイプだからすぐに分かる。」
(そういえば、アヤケン先輩「昼食べたい奴は食べとけ」って言ってたなぁ。もしかして、アヤケン先輩も食べてないのかなぁ。)
「アヤケン先輩はいま何してるんですか。」
「んっ。確か綾瀬なら、海のほうへ歩いてったと思ったけどなぁ。何か写真にでもとってるんじゃないか。ギャルとか、ギャルとか、ギャルとか。」
「それしそうなのは断然ナヨロンのほうだけどなぁ。」
後ろを見てみるとさっき噂していた善知鳥先輩だった。その姿を見るとナヨロン先輩はさっさと足湯から出た。
「どうしたナヨロン。」
「いや、何となく。」
一息おいて、
「ところでなんだよ。俺がギャルの写真撮りに行くって。」
「だってしそうじゃん。ナヨロン彼女いないんだし。それに初恋もないらしいし。」
「初恋はあった。フラれただけ。」
「どっちも同じじゃん。そんなことよりナヨロンで遅れてるぞ。このナガシィでさえ彼女いるくらいだぞ。」
このナガシィでさえって言い方はなんだ。
「へぇ、そうなのか。」
「ナヨロンいつまで、電車が彼女だって言ってるんだよ。」
「勝手に話進めるなよ。俺はそこまでじゃないぞ。・・・ところで、そういう善知鳥には春が来たのかよ。」
ナヨロン先輩がそう聞いた瞬間善知鳥先輩の顔が少し赤くなった。
「い・・・いえるかよ。恥ずかしい。」
少しは恥じらいというものあるらしい。
11時10分。サヤ先輩が1分遅れて集合場所に到着。これで全員そろった。揃ったところで改札口を通り抜けて、またホームに戻る。ホームで待っていると函南側から白いヘッドライトをつけた車両が接近してきた。JR東日本の一大勢力。E231系のお出ましである。乗車位置は8号車。15両編成の車両のちょうど中間である。
11時30分。僕たちを乗せた15両編成の車両が熱海を発車する。その隣には185系の「特急踊り子」など。東海道本線の特急列車が並んでいる。熱海を出るとしばし、外の風景に目を向けていた。
しばらくすると眼下に相模湾が広がるようになった。世界に比べれば相模湾などほんの点でしかないのだが、ここから見る限りはそんなことは思わない。かなたには地球の輪郭がわかるように少し丸みを帯びて見える。
「海だ。」
普段海に縁のない人のテンションが上がる。しかし、すぐにトンネルに入ってその視界が遮られる。
「このトンネル死ねばいいのに。何やってるんだよ。」
トンネルに文句を言ってもどうにもならないと思うが・・・。そのトンネルを抜けるとまた海が見える。しかし、今度は木に邪魔されてよく見えなくなる。これを何度か繰り返して、根府川に停車。その後早川まで相模湾を望み、早川から沿岸部を外れて小田原に。次の鴨宮は東海道新幹線が開業する前モデル線があったところである。ここから30km程離れている綾瀬までモデル線は伸びていた。ここで新幹線のための各種試験が行われたのだ。鴨宮の次は国府津。ここで東海道本線からは分かれる。
12時00分。国府津に到着。8号車から下車して、E231系を見送る態勢をとった。しばらくするとE231系のドアは3回電子音がしてしまった。すると高い歌声を奏でて国府津のホームを後にいしていった。国府津を発車すると線路が左にカーブしている。そこに差し掛かるころにはスピードは70km/hを優に越しているだろう。こんなに早いものかという速さで走り去っていった。
それを見送ったら、御殿場線のホームに赴いた。ここに列車が来るのはまだ先である。そのころ。さっきE231系が走り去っていったホームにはまた別のE231系が入線してきた。これもさっきと同じスピードでホームから走り去っていく。
「早いなぁ。」
ふと言葉が漏れる。
「あんなに早いものかなぁ。いっつも寝台特急とか見てるからあんなに加速率いいとはっきり驚くわ。」
木ノ本も意外な感じで話している。
「まぁ、そこは人それぞれだろうな。普段電車しか見てない人はあの速さがふつうと思って、寝台特急とかが発車するときはこんなに遅いのかって思う。だけど、それのほうが見慣れてる人はあれくらいの速さが速く見えて、寝台特急のほうがふつうに見える。木ノ本はそういう方面では正常だよ。」
ナヨロン先輩がさらに続けた。
「乗ってるぶんにはそういうこと考えないんですけどねぇ。」
「乗ってるときはそういうこと考えないだろうなぁ。他のに気をとられてるから。」
(他のに気をとられてるかぁ。そうかもな。)
「・・・。」
この会話が終わってしまうと3人とも黙ってしまった。全員見る風景に気をとられて、そういうことを考えないようにだ。
数分後。御殿場線の列車を待っているホームに電車が入線する。今度はさっきの313系と違い211系という車両である。違いは前述したとおりである。
「211系かぁ。乗り心地悪い奴だな。」
佐久間が211系を見るなり文句を言った。
「えっ。乗り心地悪いのか。」
「悪すぎだよ。こいつ発車したときにガックンガックンなるからな。」
この表現は相当悪いということらしい。
「佐久間。乗るんだったら前がお勧めだぜ。」
隣で会話を聞いていたナヨロン先輩が答えた。前の車両のパンタグラフを遠目ながら見てみると2つあった。僕にはそれが何系なのかわからなかった。
御殿場線に乗車して、発車を待つ。12時32分国府津を発車。しばらく外に目を向けていると隣に大量の線路が現れた。車両基地のようだ。そこには211系など御殿場線で活躍する車両が止まっていた。この光景を後にすると山に分け入り、風景的にはそんなに面白くない光景が続く。また数十分揺られていると目の前に富士山が現れた。今日の富士山は晴天に恵まれ頂上まで見える。その写真を僕は写真ではなく目に焼き付けた。しかし、そのころになると風景にも飽きてしまった。もちろん、こうなったらやることは一つだ。席を立って数人誘った。
乗った車両は3号車。隣の2号車に方へその数人を引き連れて歩いて行った。2号車に入るとシートの形が変わった。さっきまでのロングシートがクロスシートに変わった。
(なるほど。ナヨロン先輩が「前がいいよ」って言ったのはこういうことか。)
ここでようやっと白黒はっきりした。
そのころ、誘った諫早、空河、朝風はすでに一番前にかじりついていた。僕もその一員に加わって前を見る。さらに木ノ本、佐久間が加わって6人で前を見つめた。
この状態を終点沼津の手前までや手、沼津に到着する直前に元の場所に戻った。
「お前ら何してんだよ。」
戻るなりハクタカ先輩にそう聞かれた。
「大目に見てやれって。ハクタカだってわからないわけじゃないだろ。」
「確かにそうだけど。ガチでそれをやられると・・・。」
「何か不都合なのか。まぁ、普段裏声上げてるハクタカが言うのにも説得力っていうものがないけどなぁ。」
「このぅ。」
沼津に到着。ここからは東海道本線を逆戻りだ。14時15分発の普通列車で、途中清水まで揺られ清水で下車。下車してからは清水の繁華街っぽいところを抜けて、東海道線をまたいで、清水の東側にある公園を通り抜ける。途中に踏み切りがあって、そこを211系が通過していくのが見えた。さらに歩いて静岡鉄道の鉄橋が見えるところまできた。そこをゆっくりと通り過ぎていく静岡鉄道の車両を眺めて、また歩き出す。そのあとはいろんなところを通って行ったため、どこをどう歩いたかなんて覚えていない。30分か40分くらい歩いただろうか。エスパルスドリームプラザに到着。しかし、鉄道好きの僕には何もすることがなく困っていた。ふろふろと中を歩いていると佐久間が僕の肩をたたいた。
「おい、永島。見てみろよ。フェラーリ乗り場。」
笑いが噴き出た。当の佐久間も笑いをこらえられないでいる。
「フェラーリって。フェリー乗り場じゃないか。」
「こっから乗れるのは、フェリーじゃなくて、フェラーリに変わったんだよ。」
こんな冗談誰なら受けるだろう。
高い歌声ってモーター音のことですよ。
電車を人に見立てた描写がまた多く出てくるときがあるかもしれません。
また、電車にも感情があるんですよ。
読者のみなさん。これからはたとえものといえどいたわってやってと思う今日この頃です。