149列車 521系のドア
1・2番線に向かうと木ノ本が声をかけてきた。
「永島。ここで「サンダーバード」が見れるってことだけど、何時通過か分かる。」
「そこまで解るわけねぇだろ。あの橋を通って来る光が見えてもまだ間に合うから大丈夫だよ。」
「681系か683系のどっちだと思う。」
「知るか。681系であること祈ときゃあいいだろ。」
15分程度経つと湖西線の橋にヘッドライトが現れた。「特急サンダーバード」の接近である。接近してきた「サンダーバード」は683系4000番台。接近中にパンタグラフがシングルアームであることを確認した。その「サンダーバード」が通過して1・2分経つと今度は上りの「雷鳥」が4番線を通過していった。その「雷鳥」にはパノラマグリーン車が連結されており、近くで撮れないということが惜しかった。
「おい、永島。上りのこと何にも言ってないから撮りそびれたじゃないか。」
今度は文句の嵐である。
「知るか。俺だってパノラマグリーンの「雷鳥」が来ることは予想外だった。」
「まあまあ。金沢に行っても撮れるんですから。」
隼がなだめてくれて助かった。
11時00分。さっき「雷鳥」と「サンダーバード」が通った橋の向こうから黄色く光るライトが接近してくる。僕達の乗る11時01分発の新快速敦賀行きだ。到着した223系はまたも2000番台。数が多いからここはしょうがないだろう。また同じ位置に乗車し、前の見える位置に構える。今度は右半分からしか見ることができないため木ノ本、留萌、柊木、隼、大嵐、青海川と僕で右側に固まって乗車した。
11時01分。近江塩津を発車。近江塩津を発車すると木ノ本が、
「「トワイライトエクスプレス」って上りも見ることできない。」
と聞いてきた。
「確かに。「トワイライト」が敦賀発車するのって10時50分ごろですよねぇ。」
柊木が続ける。
「確かに見れるかもしれないけど・・・。」
頭上を湖西線に分岐する線路が通過する。上り線は北陸本線をまたいで下り線と合流する。それをくぐると下り線が左から合流。小さなスノーシェルターの様なところを通って、短いトンネルをくぐる。すると、上り線が北陸本線と湖西線に分かれるところに行きつき、右にかじをきって、上り線が少し離れ始める。今度はトンネルに突入するのだが、上り線のトンネル内に黄色く光っているライトを見た。だが、すぐにライトが見えなくなり、単線になったところで勢いよくトンネルに突っ込んだ。もちろんトンネルの闇に包まれていた光の正体が「トワイライトエクスプレス」なのかは判別ができなかった。
「永島。今の・・・。」
「解んない。「トワイライト」かもしれないけど。」
(せめてライトがどの位置にあるかくらいわかれば・・・。)
「もし、今のが「トワイライト」なら最悪ですね。青函トンネルみたいになってるわけじゃないですからね。」
暗闇を見つめていた大嵐が顔をこちらに向けた。
「己斐さんに聞いてみればいいじゃないですか。」
「さすがに己斐もそこまでは分からないだろ。運転中止とか遅れまで分かれば時刻表なんかいらないよ。」
結局あの光が何なのか分からないまま11時08分。新疋田に到着。11時15分。敦賀の5番線に到着した。降りると予想以上に段差があった。敦賀もかさ上げしてホームの高さは高くなっているはずなのだが・・・。ここまで頑張ってきた新快速の行き先が「湖西線経由姫路方面播州赤穂」となっているのを見たのち、アド先生に呼ばれた。
「ここで30分くらい時間があります。お昼を調達する人はここで調達してください。」
(なんだ。それか。)
お昼を食べる気はさらさらない。柊木も朝風もお昼を買っているそぶりはなかったし、僕もお昼のことには触れなかった。
ちょっと待合室の方へ歩いて行くとある表示が目を引いた。そこには「敦賀発の今庄・福井方面の列車は乗降の際ドア横にございます「開ける」のボタンを押してお降りください。」ということだった。
(よし。)
新快速を見送って5分経つと3番線に「しらさぎ」が入線。続いて33分には「雷鳥」が入線。34分に金沢に向けて発車、入れ替わりに5番線に521系が入線した。到着した車両はたったの2両。それだけでも足りるということなのだろうが、これでは大きな地元の私鉄を見ているようである。
11時43分。駿兄ちゃんのボイスレコーダーで聞かされて聞きなれた発車メロディーを聞いて、521系のドアが閉まる。ドアが閉まるとドアの傍らにある「閉める」ボタンの赤いランプが消えた。
発車すると521系の乗務員室のすぐ後ろにへばりつく。大嵐は閉塞区間のカウントをはじめ、敦賀を発車してしばらくする信号が第11閉塞区間であると言っていた。521系はその後もぐいぐいとスピードを上げた。だが、途中でそれもしなくなる。直流と交流の切り替わる死電区間だ。そこを過ぎるとまたスピードを上げる。そして、大きな口を開けたトンネルが前に現れた。
「北陸トンネル。」
前を凝視していた柊木が言う。もうそう言った時には521系は北陸トンネルに突入。気圧の変化が耳をツンとさせていった。
北陸トンネルに入るとまずは左にカーブをきった。そのカーブをきり終わると延々とまっすぐに続く暗闇が前に広がった。唯一頼りになるのは521系のヘッドライトだけである。数分走ると前からも黄色っぽい色と黄色の目立つライトが前に現れる。さっきまでは信号の青と壁に取り付けられた蛍光灯の光しか見えなかったのに。
「なんか来たな。」
そのヘッドライトを視界に捉えた状態で前を見ている人全員に言う。
「「特急」ですかね。」
隼が言う。
「いや、特急じゃないでしょ。あれほど黄色が目立つヘッドライトだとすれば521系くらいしかないだろ。」
留萌がヘッドライトで形式を判断しようとするが、まだ色しか分かっていない。だが・・・。
「うん。黄色の目立つヘッドライトだし、これで間違いないかも。」
「でも、特急ってこともありえなくはないですよ。まだ遠すぎて上のライトと下のライトが一緒になって見えてるだけかもしれないし。」
青海川が反論する。
「・・・。」
しばらくの間はこの話は保留だ。再び閉塞区間のカウントに戻る。
「第6閉塞。進行。」
動きは決して大きくないが、指を信号に向ける。閉塞区間から考えて北陸トンネルの中心は第7閉塞か、第6閉塞のどちらかの間。ここで未曾有の大事故が起こっているのだということを思いながら前を見た。
「第5閉塞。進行。」
大嵐の声がまた聞こえる。すると、留萌が口を開いた。
「さっきの絶対521系だって。ここまで来て上のライトも解らないままだし、第一あすこまで黄色が目立ってると・・・。」
完全にその姿を把握した。留萌にも確信が持てたようで言うのをやめた。これ以上議論を重ねる必要もないということだろう。あれは紛れもなく521系だ。数秒後。521系はずんぐりとした身軽な車体をかざして、走り去って行った。
この後は北陸トンネルですれ違う車両もなく、右にカーブをきって13kmある北陸トンネルを抜けた。抜けてすぐに停車駅の南今庄に停車。30秒の停車ののち、発車。今庄の発車後EF81の牽引する貨物列車とすれ違う。その後は特に列車とはすれ違わず、鯖江に停車した。鯖江に停車する直前に案内があったが、ここの発車は12時24分。列車の到着は12時19分。この5分間の間に何かに抜かれる。その鯖江には上りの「サンダーバード」が停車しており、それには681系が充当されていた。
だが、一つトラブルがあった。「サンダーバード」が発車したと同時にドアを閉められたのである。
「なんで閉める必要があんの。」
閉められるとすぐにそう言った。
「あっ。それ僕も思いました。ホントにKYですよねぇ。」
「まったく。681系のVVVFくらい聞かせろつうの。」
文句を言っても始まらないだろう。2両しかない521系の車内にはたち客が目立たないほどの客がいる。いまさらドア開閉ボタンを押しにも行けないだろう。
12時23分。521系の左を「特急サンダーバード」が通過。充当されていた車両は683系4000番台だった。
「なんで4000番なんだよ。私はあんたのことなんか好きじゃないわ。」
「こっちもKYだなぁ。」
「今とってもむしゃくしゃしてるときに4000番なんか通過すんじゃねぇよ。」
確かにそうなのだが・・・。だが、充当されていたのだ。仕方がないことである。
15分後。終点福井が接近する。ここから12時45分発の列車で金沢に赴く。ここまでお世話になった列車は福井の上り線の引き込み線に到着。隣に金沢までの521系が控えている。
「よし。乗り換えるか。」
「永島先輩。そっちから。」
「ああ、いいねぇ。よし。じゃあこっちから。」
「こら。できないことやろうとするな。」
もちろんやるはずがない。こっちのドアのあるところは向こうにはない。できるわけがないのは初めから分かっている。
福井に降りて、ホームをむこうへ歩いて行く。521系の中で言われたことだが、福井に着いたら流れ解散になる。そのため柊木と朝風をひきつれて、隣のホームに向かった。ホームに上がって、521系に乗り込む。この車両に乗って一番目を引いたのは、吊皮も手すりも全部黄色になっているということだった。安全のためにこうなっているのだ。先頭が取られていたので、しばらくの間がまんする。数駅行くと先頭の僕達の定位置もあいた。そこを占拠して、終点金沢まで行く。当然521系のドアを開閉しながらである。どうせこんな席取る人いないだろう。
途中数本の特急と普通とすれ違い小松の手前粟津までコマを進めてきた。ここ粟津でも特急に抜かれる。木ノ本、留萌、柊木が取りに列車の外に出ていき、13時30分ごろ「しらさぎ」が通過していった。
これで開閉時に「ティントゥーン、ティントゥーン。」ってなったら完璧。223系にも同じことが言えますね。
ホームが左側だったら「来たぜ。俺の時代。」みたいなこと言って遊んでたっけ。