148列車 落ちた 新快速
新快速223系の地位は落ちてませんよ。
8月6日。6時23分。毎度同じ列車で浜松の改札口前までやって来る。もちろん、この時間に改札口前にいるのは木ノ本など鉄道にとても洗脳された人。それ以外の人たちはまだ集合していない。集合しきる間にまだ来ていない人についていじりまくるのは日常茶飯事。暇を潰しながら、その時間を待つ。
6時56分。7時06分発の列車を待つため4番線ホームに上がる。ホームに行くと東京方面から2つの黄色い目が接近しているらしい。皆が向いている方向へ僕も目を向けた。
「EF210(桃太郎)だ。」
大嵐が声を上げる。自分の隣をEF210(桃太郎)が通過すると後ろに続いているコンテナ貨車の数を数えてみた。今EF210(桃太郎)の引いて行った貨車は17両であった。自分達が展示でやっている貨物列車は26両連結しているから、東海道本線の貨物は少し短いんだなと思った。
7時05分。さっき貨物列車が来た方向から列車が接近する。入ってきた車両は311系。最初は311系か313系だと思っているから想定の範囲内である。この列車に乗ってまずはゆっくりと旅をスタートさせる。4両編成の浜松よりの車両に乗り込み、しばし風景に目を向ける。豊橋着は7時42分。3分の接続で7時45分発の特別快速米原行きに乗車する。だが、一つだけ誤算があった。3分ならこの列車が到着するホームの対岸に特別快速が控えているというのがふつうである。だが車掌から案内があったのは5番線。この列車の到着は8番線。つまり、ホーム自体が違うのだ。降りる人で集中するドアの近くに何とか近づいて、ドアが開くのを待つ。ドアが開くと素早く抜け出し、まだ数人しかいない階段を駆け上がって、隣ホームに通じる階段を駆け降りる。ドアのすぐ前にいた大嵐と青海川と牟岐が特快に乗り込んだことを確認して自分も車内に飛び込む。飛び込んだ車両の席は埋まってしまっている。なら次の車両だ。席が空いていることを期待しないで次の車両に向かった。だが、次の車両は少しならまだ座れる。2人で座れる席を見つけて座ろうとすると、後ろから追って来た空河に窓側を取られてしまった。
7時45分。特快のドアが閉められる。だが、すぐには発車しなかったため「ドア閉めたならさっさと発車しろよ。」と文句を言ってやった。
「アド先生乗れたかなぁ。」
空河がアド先生の心配をするが、今はそんなことどうでもいい。
「米原になったらわかるよ。」
それだけで済ませておいた。
この特快に乗っている間はゆっくりしていていい。さっきと同じように外の風景に見入る。時折その視界を遮りに対向列車が走って行くが、それが何系なのかは顔の判断がつかない。まあ、311系か313系のどちらかでしかないのだが。こうだ付近を走っていると上りの貨物列車が目の前を通過していった。グレーに塗られた機関車の換気用の空気取り込み口が下の方に見えたのが解ったが、それ以外は解らなかった。
「今のなんだった。」
「さぁ。たぶんEF210(桃太郎)じゃないですか。」
「うーん、EF210(桃太郎)か。EF200だった気がするけどなぁ。」
「EF200も新塗装になっちゃったから分かりづらいよなぁ。旧塗装なら白とグレーで分かりやすいのに。」
「そうすると、後はパンタだけか。」
「EF210(桃太郎)はシングルと下枠交差でしたよねぇ。 EF200はY字みたいになってるから分かりやすいですね。」
空河が自分手を使って人差し指を中指の間を広げてその形を表現する。
「でもこっからじゃその決定的部分が見えないからダメだよなぁ。」
そう話してからは珍しい光景とも合わなくなったが岐阜まで行くとまたそのようなことがあった。今度は完全に車両を判別できた。赤い塗装の車体は明らかに東海道本線を仕事場としている機関車ではない。さっき稲沢貨物に停まっていたDD51だ。
「えっ。」
さっきとは違いすぐに走り去って行った。
「今のコキが2両だった。」
「はっ。2両だけ。」
「うん。コキ2両でコンテナなし。落ちちゃったな。」
ここ最近見たとても空しい貨物のことを思い出した。
「ちょっと前にこういう貨物見たよ。さっきのDD51でコキがその後ろに何十両くらい続いてるんだけど、その編成の真ん中くらいのコキの真ん中にコンテナが一個。」
「はい。」
「走ってて何も載ってねぇじゃんで、コンテナ一個積んでたで、コンテナ一個しか積んでなかった。」
「本当に落ちちゃいましたね。」
また次の西岐阜では、
「あれ。「おじいちゃん」何やってるの。3月にお悔みを申し上げたはずなのに。」
「うわぁ。ホントだ。お悔み申し上げたはずなのに走ってる。それも快速で。」
その「おじいちゃん」とは117系のことである。確か3月に現役を引退したはずなのだが、まだ完全に現役を引退したわけではないようだ。現に飯田線では「その風トレイン」という名前で改造された117系が充当されている。それと今ここで見たようにだ。この後は大垣~米原間で働いている313系などを見ながら、終点米原についた。
米原で313系の特別快速から下車。次は当臨地研修の舞台。北陸本線へと入って行く。乗る列車はおそらく521系だろう。2番線の対岸には2分後に発車する新快速が客を待っている。形式を確認してみたが基本・付属とも223系2000番台だということが確認できた。これを見送ってから6番線に行こうかとも思ったがそんな時間はなさそうだ。見送るのをあきらめて5・6番線に向かった。
5番線にはさっきと同じ223系の2000番台が回送の時を待っている。そのホームに行って数分するとその223系も車庫に回送され、電光掲示板の表示が変わった。そこには10時03分発。新快速近江塩津行きの表示が踊っていた。
「乗るなら1000番台の方がいい。」
青海川が独り言のように呟いている。
「でも、1000番台って編成少ないよな。量産する時に早い段階で2000番台に移行しちゃったからなぁ。できればもっと1000番台を量産してほしかったよ。」
留萌がその声を拾って続ける。
「高い確率で2000番台ってことだな。まあ、どっちも悪いところはないんだけどな。」
9時55分。その車両が到着した。青海川にどっちかということを聞かれたため、223系を凝視した。見た感じは1000番台にも見えるが、223系の小さい違いを見抜けないはずはない。ヘッドライトの下が広がっている感覚がある。なら・・・。指でVサインを作って青海川に向けた。
「そうですか。」
ちょっと残念なようだ。肩を落としていた。
到着すると車内に乗り込んだ。僕達が乗車した車両は9号車。席は完全に埋まっており、とても座れる環境ではない。だが、223系ではこんな席には用はない。僕が座るところは乗務員室のすぐ後ろだ。
大嵐を誘おうかと思ったが、大嵐の姿はない。仕方ないので柊木を誘って12号車に向かった。中間車同士の引き戸を開けて次の車両に移動すると、さっきの9号車とは別にガクッと乗車率が落ちた。次の車両にはまた一段と客がいない。先頭の12号車にはほんの数人がクロスシートを占拠するくらいしかいない。その空いている席に見向きもしていない人も二人いるが、そのうちの一人は大嵐だった。
「よーす。やっぱここにいたか。」
「当然じゃないですか。ここ以外どこに行くんですか。」
大嵐に声をかけて僕は運転席側に柊木は助手席側に分かれた。
9時59分。先行する「特急しらさぎ」が5番線から発車。ゆっくりとポイントを乗り越えて北陸本線に入って行った。僕達の方は10時03分に開いている全てのドアを閉めて、北陸本線に進入していった。しばらく進むと車庫が見えてくる。そこにはさっき回送された223系もいるはずである。その223系の中に1000番台の姿もあった。表示は普通となっていた。新快速でないというのがとても残念である。しばらくすると青海川も前にやってきた。
「青海川。さっき車庫に1000番台がいたぞ。」
「クソッ。見過ごした。」
自分の左手を拳の打ちどころにしている。
「まあ、途中で見れるかもしれないから、ここにいろよ。」
大嵐が真ん中を青海川にバトンタッチする。しばらくすると、
「間もなく坂田ー、坂田です。降り口は左側です。乗降の際ドア横にございます「開ける」のボタンを押してお降りください。」
(ドア横のボタン。)
ちょっとそのボタンを探してみた。柊木がいる方は席のある方にあることは分かる。こっち側はどこだろうか。探してみると自分の背中の下敷きになっていた。向きをかえて、いつでも押せる体制をとった。ホームに到着すると「ドア」というサインを待って緑色の開けるボタンを押した。すると、すぐに青海川が「閉める」ボタンを押してドアを閉めた。ドアは半分くらい開いたところでまた閉った。
「お・・・青海川何やってんだよ。」
柊木があきれた顔で言う。その傍らに大嵐は笑いを抑えている。
「それやっちゃダメだって。223のドアが壊れる。」
「一度やってみたかったんだ。」
笑いながら言っている。
次の田村、長浜、虎姫でも乗客の有無にかかわらずドアの開け閉めを行った。青海川と大嵐は駅のたびに分散して、4号車(クモハ223形)にある3枚のドアに分かれてボタンを押しに行った。虎姫を発車するとふとドア上にある電光掲示板に目を向けた。
「次は「河毛」かぁ。」
「次は河毛ー、河毛です。」
全員でふいた。
「けって・・・。アド先生じゃん。」
柊木が顔を押さえて笑っている。
「河毛っていうのはちょっと予想外だったなぁ。」
「今9号車でもこれで盛り上がってますよねぇ。」
「だろうね。」
3分後。その河毛に到着。河毛でも同じようにドアをいじって発車する。発車すると下り線を列車が走ってきた。
「永島先輩。あれってなんですか。」
青海川が聞いてきた。しばらくの間接近してくる223系を凝視する。番台が分かるとさっきと同じようにVサインを作った。
高月を過ぎたあたりで、また下り線を列車が走ってきた。
「今度は何ですかねぇ。」
今度は大嵐が疑問をふる。
「さっき新快速は行ったし、「しらさぎ」か何かかな。」
ちょっとすると、
「あれ。「しらさぎ」って米原側が貫通タイプでしたっけ。」
接近してくる白の目立つ先頭を見て柊木が疑問をぶつけた。
「翼先輩バカですか。名古屋側が非貫通タイプだから自動的に米原側が貫通タイプになるじゃないですか。」
「あっ、そうか。」
「しらさぎ」の683系が隣を通り過ぎる。
「やけに短いな。」
「基本5両だけだったな。」
走って行った「しらさぎ」のことは全員どうでもいいらしく、すぐに「しらさぎ」のことは話されなくなった。
木ノ本、余呉と停車して次が終点の近江塩津となる。近江塩津に着く直前で左側に高架橋が現れる。
「ナガシィ先輩。あれ、何線ですか。」
「んっ。」
ほんの少ししか見えなかったが、これ以上見る必要もない。
「湖西線だよ。」
「あの、湖西って書いて湖西って読む線路ですよねぇ。」
「開業したのが1974年だからもう30年くらい経つのかぁ。とても30年前に造られた線路とは思えないけどな。」
話している間にトンネルで近江塩津の近くまでコマを進めて、3番線に停車。今までやってきたのと同じ方法で降りてすぐに敦賀からの新快速播州赤穂行きに接続。僕達は1・2番線に行って湖西線経由の新快速敦賀行きに乗車する。
ドアは自動では開かないところ。他にもたくさん出てきます。