147列車 散々
うーん。行くところに嫌われてるのかなぁ・・・。
7月27日。岸川の1学期は25日で終了し、待ちに待った夏休みをのんびりと過ごしている。まあ、待ちに待ったという言い方は受験生にとってふさわしくないだろう。
「ナガシィ好きだねぇ。ここ。」
「いいだろ。」
「今走らせてるのは何。「さくら」。」
机に手をつき模型に目線を合わせた萌の前を模型の寝台特急が通り過ぎていく。
「さすがに書いてあれば、どんなバカでも解るかぁ。」
机の下をくぐってレイアウトの外に出る。外に出ると立ちあがっているパソコンのインターネットを開いて調べ物をした。
「北越急行。」
画面を萌がのぞきこむ。
「北越急行って「はくたか」が160km/hで走る線路だよねぇ。」
素人には分からないことかもしれない。萌がどうしてこのようなことを知っているかというと僕と話すことで覚えたらしい。僕の知る範囲では100系新幹線以外は基礎レベル(多分)くらいのことを知っている。
「北越急行って線路じゃなくて、会社の名前だけどなぁ。」
誤りを訂正して目的のページを開く。
「うわっ、何これ。」
めまいのする表だろうか。8月分の「はくたか」の運用表で萌が顔をひきつらせた。
(スノーラビットが連結されてるのは・・・。)
携帯を手に取り、テキストメモを開いてメモる。
(17号は「スノーラビット」オンリー。19号は基本編成が「スノーラビット」。21号は19号の逆で、23号は683系の「スノーラビット」。上りは8号が基本編成。10号と14号は「ホワイトウィング」で関係ない。12号が683系の「スノーラビット」オンリーか。こりゃ12時45分発で行かなきゃだめってことだな。)
そう思ってマウスを閉じるボタンに動かす。
「終わった。」
インターネットを閉じると萌が声をかけてきた。
「うん。」
軽く返事をして、今度はレイアウトの中に入る。
「ねえ、ナガシィ。笹子のオープンキャンパスに行かない。」
「オープンキャンパス。」
オウム返しに聞くと、
「ナガシィ、それでも狙ってる学校。」
前にも同じことを言われた記憶がある。
「オープンキャンパスには行くよ。」
「じゃあ、一緒に行かない。ナガシィは研修で使う18切符があるから、それで行けばいいし。」
「うーん。分かったよ。」
7月30日。今日は臨地研修に行く2日前。何もないため家でのんびり過ごすことにしていた。
「ナガシィいますか。」
「ああ、離れの方にいらっしゃいます。ご案内しますか。」
「あっ、いいです。分かりますから。」
そう断って、離れの方に行く。
離れに着くと、ノックもなしにドアを開いた。
「ナガシィ。」
「おーう。何、萌。」
「何じゃないよ。駿台のオープンキャンパスいつ行くんだよ。」
「ああ、そういえば決めてなかったねぇ。」
それまで持っていたPFPをコントローラーを置いている机の上に置く。
「いつでもいいけど、4、5、7、19はやめてよね。」
「はいはい。」
「萌はこの日はダメとかっていうことないの。」
「いつでもいいよ。部活とかやってないし。」
と言って、模型を置いている机の下を通って、僕のところまで来た。すると、持ってきたパンフレットを僕に見せながら、
「21日とかどう。特待生のガイダンスあるみたいだし。」
「21日。」
「うん、どうせナガシィだって特待生で受けるだろ。」
「それもそうか。じゃあ、21日で申し込んどくから・・・。」
「今申しこめよ。ナガシィの場合、先送りとかして、いつ申し込むか分からないもん。」
「ハハ、分かってる人は本当に分かってるな。」
本当のことを衝かれて、苦笑いする。その表情を見ると、
「はぁ、いいよ。ナガシィの分も私が申し込んどくから。」
「えっ、でも・・・。」
「いいって。ナガシィは大阪までどうやって行くか考えといて。さすがにそこまでは手が回らないし、分かんないから。」
(ウソつけ。)
「分かったよ。じゃあ、米原まで「こだま」で行って、その後新快速でいいか。」
行く方法はもうすでに考えてある。いや、考えなくてもできているのだ。
「なんで、米原までなんだよ。どうせなら、新幹線で大阪まで行っちゃえば・・・あっ、見たい車両でもあるのか。」
「それと、223に乗りたいからもある。」
「ふうん。見る車両っていうのは「トワイライトエクスプレス」。臨地研修でも見れるのに。」
「いいじゃねぇかよ。」
「分かったよ。」
と言うとしばらく黙っていた。
「6日からかぁ。」
とつぶやいているのが聞こえた。
「えっ。」
「あっ、臨地研修6日からだったなぁってこと。」
「うん。「サンダーバード」とかいろんな車両の写真撮って来るから。」
「楽しみに待ってるけどさぁ、はしゃぎ過ぎてヘマ外さないようにな。」
「そんなにはしゃがねぇよ。」
「ふうん。どうかなぁ。ナガシィの場合そこが分かんないからなぁ。」
「どういう意味だよ。」
こう言われるのは初めてな気がする。顔を上げた。すると萌は僕の顔に指を当て、
「高校2年生(2ねんせい)の修学旅行の時だっけ、100系に「好きだ」って叫んだのは、どこの誰だっけ。」
「えっ。」
声が漏れた。確かに、学校の修学旅行で博多に行った最終日、僕は100系にそれをした。でも、なぜそれを萌が知っているのかということが気になった。なぜ知っているのか。それを探るために頭の中を整理してみる。すると、
「木ノ本だろ。木ノ本からそれ聞いただろ。」
「さぁ、どうだろうね。」
笑いながら言っている。これは間違いなく木ノ本からの情報だ。
「木ノ本のやつ。そういうことベラベラしゃべるなよな。」
顔と目線を萌からそらした。そらすと、寄ってきて、また、顔に手を当てられる。
「顔赤い。まさか、恥ずかしいの。」
「やっ・・・やめろって。」
「ハハ。カワイイなぁ。そういうとこ全く変わってないんだから。」
「ちょっ。やめろっ。やめろって。」
結局、このことで30分ばかりの間萌にいじられる羽目になった。小学校、中学とこれまでずっと恥ずかしいなんて感じなかったのに。なんで今になってこうなったのだろう。そこだけが引っ掛かった。
数日後。
「ナガ・・・。」
今日もまた萌が僕の家に来た。だが、前と違うことが一つある。いつもなら、だれ来たか確認するために顔を上げるのだが、今回はそれもなかった。
「ああ、萌。全く雨ホントにゴミだよ。新潟の大雨の影響で「トワイライトエクスプレス」が走らないだの、「はくたか」が「ほくほく線」に入線しないだの、もう散々だよ。」
声も肩も落としている。
「てことは・・・、ナガシィ達帰ってこれないじゃん。」
「ルートはまだいっぱいあるからそっちはどうでもいいんだよ。「トワイライト」が拝めないっていうのが一番イタイ。」
永島が寝がえりを打ったときその傍らにある一枚の紙を見つけた。なんなのかと思い目を通してみる。すると、3日目の工程が書かれていた。
「でも、「妙高」読みか分からないけど、珍しい列車にも乗れるじゃん・・・。」
少しは慰めになるかと思ったが、すぐにそうでもないということが解った。2日目に行く工程をほぼ逆走する状態なのだ。これなら、永島が再起不能なのが理解できる。
(でも、ナガシィなら大丈夫か。どんな状態でも楽しみ見つけて帰って来るかぁ。)
結論はこれだが、自分としても「トワイライトエクスプレス」が見れないというのは惜しい。
本当なら「はくたか」の160km/h。体験できるはずだったのに・・・。憎き天災。