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MAIN TRAFFIC1  作者: 浜北の「ひかり」
Kishikawa High School Episode:3
144/184

144列車 打ち明け

 6月27日。この日はテスト1週間前。当然(とうぜん)部活動もなくなる。こうなると、放課後が()(どお)しくなくなる。そして、この気持ちに授業(じゅぎょう)拍車(はくしゃ)をかけるのだ。そんな気持ちであっても流れていくのは早かった。昼休みになると鉄道研究部員(てっけんぶいん)が部室に(つど)った。

「おい、永島(ながしま)。どういうこと。」

行くなり、佐久間(さくま)が言葉をぶつけた。

「どういうことって。」

理由が分からないわけではない。こう言ってくる答えは一つしかないからだ。

臨地研修(りんちけんしゅう)。あれのどこに(はな)があるっていうんだよ。」

(わがままだなぁ。)

「華ねぇ。華だったら「はくたか」があるじゃん。」

「それのどこが華なんだよ。」

カチンと来た。佐久間(さくま)にしてみれば(はな)でも何でもないだろう。佐久間(さくま)は同じようなことを僕以外にもぶつけていた。当然(とうぜん)、四国を支持(しじ)していた人たちにもだ。

「俺、今年の臨地(りんち)行かないからな。」

そんなことまでぬかしていた。

 13時10分。昼休み終了(しゅうりょう)。僕たちはというと昼休みが終わる前に教室に戻ってきた。

「あいつ何なんだよ。」

留萌(るもい)が言う。

朝熊(あさま)のこともひどいと思ったけど、あのプランをあそこまで言うとはな。」

醒ヶ井(さめがい)にも今回のひどさは分かるらしい。

「俺、佐久間(さくま)がああいう奴だとは思わなかった・・・。」

ふと、北石(きたいし)の言っていたことが脳裏(のうり)によぎった。北石(きたいし)の言う我慢(がまん)できないことというのはこういうことだったに違いない。今回のことにはさすがに我慢できなかった。

「前、アド先生が佐久間(さくま)を部員として認めないって言ってたよなぁ。」

「そういや、言ってたなぁ。」

(おれ)、今ほどあいつとはやっていけないって思ったことない・・・。俺たちとあいつじゃ()()わないんだ。今まで、なんとか我慢して来たけど、もう我慢できない。あいつは後輩(こうはい)にも認められない先輩(せんぱい)に落ちていったんだ。」

「今分かったことかよ。」

「そうだな。」

「もう引っ張り上げる必要もないんじゃないか。」

「いや、最初からなかったのかもな。」

こうなると最初に意気投合(いきとうごう)した自分がバカバカしく思えてきた。こういう風になるなら最初から・・・。

 その日、学校が終わるとすぐに教室を飛び出した。部活がなくなると、早く帰りたいという気持ちでいっぱいになる。もちろん、そこにはそれしかない。しかし、歩き始めると話は別である。

(そういや、(もえ)どこに進学するんだろう・・・。)

ちょっとそれが気になった。

 遠江急行(とおとうみきゅうこう)涼ノ宮(すずのみや)駅。ここから自分の家に一番近い芝本(しばもと)までいく。ここから芝本(しばもと)までの所要時間(しょようじかん)は今の時間なら普通で31分だ。

 涼ノ宮(すずのみや)のホームに上がった。対向式(たいこうしき)ホームの上り線には15時33分発、普通浜松(はままつ)行きが停車していた。すぐに発車ベルが鳴り、普通列車はVVVF(ブイブイブイエフ)インバーターの出す高い音とともに走り去っていった。

 15時42分。下り線に普通鹿島(かしま)行きが到着する。この列車のモーターは界磁(かいじ)チョッパ制御(せいぎょ)だったため、見送った。次の列車の方が乗り心地がいいからだ。

 15時43分。上りの普通列車を見送り、その3分後上りの急行列車(きゅうこう)が通過していった。そして15時52分。僕がのる列車がやってきた。

 この列車は、席はほんの少しではあるが開いていた。しかし、僕はこの席には目もくれなかった。車内灯(しゃないとう)の消された車両の一番前。4号車に向かって車内を少し急ぐように歩いた。4号車の浜松(はままつ)側まで来ると進行方向鹿島側に歩いて行く。もちろん、この車両にも空いている席はある。しかし、あんな席には座りたくない。電車に乗っていて、車両の真ん中にある席ほどつまらない席はないからだ。だから、乗務員室(じょうむいんしつ)のすぐ後ろの席まで足を運んだ。

 そこまでいってみると残念なことがあった。すでに先客(せんきゃく)がいる。さすがに、先客をおしやってまでこの席に座るつもりはない。僕は立って、ここが空くまで耐えることにした。

「ナガシィ。」

(だれ)かに呼ばれた。聞き(おぼ)えのあるこの声は(もえ)の声である。どこにいるのかと思い、その姿を探してみた。今走っている方向に向いている顔を自分の身体(からだ)が向いている方向に向ける。すると、目に入った。

(もえ)(ひさ)しぶりだな。」

久しぶりと言っても文化祭以来。最後に会ってからそんなに日は()っていない。

「久しぶりって・・・。文化祭であっただろ。」

そう言われてしまった。

「あっ、ナガシィ。朝歩いてきた。」

「えっ。今日は朝(あめ)降ってたし、送ってもらったから・・・。」

「そう。じゃあ、久しぶりに歩いて帰らない。」

「まだ、家に電話とかしてないし。いいよ。」

僕はすぐにこれに乗った。(もえ)を一緒に帰るのは中学校以来である。

 16時23分。芝本(しばもと)到着。ここまで運んできてくれた遠江急行(とおとうみきゅうこう)の2000系にありがとうを言って、見送る。これは絶対に欠かすことのできない風習である。2000系の姿が見えなくなるまでホームに残る。この間(もえ)は何をしているかというと、同じようにホームにいた。

 列車が発車して30秒くらい経っただろうか。(もえ)と合流して階段(かいだん)を下りた。

「変わってないね。」

軽快(けいかい)に段をたたく(もえ)が言った。

「うるさいなぁ。」

「そんな風に言ってないよ。いつも電車見てる目と変わってないなぁって事。」

「ほんとかよ。」

別に(うたが)いを持って言ったわけではなかった。よく言われていたことだからだ。(もえ)が言うには僕が電車のことを話している時はどんな時でも目が子供だそうだ。だが、僕としてはそんなこと思ったこともなかった。

 改札を抜けて、右にかじをきった。方角で言うと東である。

「そういえばさぁ、ナガシィ進路決まった。」

芝本の駅舎(えきしゃ)を出て聞かれた。

「まだ決まってないよ。学校は決めたけどさぁ。」

「そ・・・そうだよね。まだ6月なんだし・・・。」

駐輪場(ちゅうりんじょう)(となり)を歩いていく。この間だけお互い黙っていた。

「ちなみに、どこの学校に進学する気。」

「笹子観光外国語専門学校(ささごかんこうがいこくごせんもんがっこう)大阪(おおさか)にあるやつだよ。」

「へぇ。」

反応が薄かった。

(もえ)の方は。」

前から疑問に思ってたことだ。聞いてみた。

「・・・・専門学校。」

「えっ。何。」

前が聞きとれなかった。

(専門学校。(もえ)は大学じゃなかったっけ・・・。まあいっか)

「笹子観光・・・。」

目を見開いた。(もえ)の声が頭の中でこだまする。

「・・・えっ・・・。」

信じたくない気持ちと信じたい気持ちが入り混じった。足を止め、(もえ)を見た。(もえ)の方はというとそんなことお構いなしにさっさと歩いていこうとした。

「ちょっと()てよ。」

今までこんなことしたことがあっただろうか。去っていく(もえ)右肩(みぎかた)(つか)んだ。

「言った通りだよ・・・。」

「なんで・・・。なんでだよ。(もえ)幼稚園(ようちえん)の先生になりたかったんじゃなかったのか。なのに、なんで俺と同じところに来るんだ。」

「・・・。」

(だま)ったままでいる(もえ)に質問を浴びせる。

「その前に、なんで俺の進路知ってるんだ。俺、今日の今日までお前に行く学校のことなんか話したことないぞ・・・。」

これ以外浴びせるものがなくなった。しばらくそこに突っ立ったままでいた。この沈黙を破ったのはどのくらい時間がたった後だっただろうか。

「ナガシィが追ってる(ゆめ)を・・・私も追いたかったから・・・。」

(えっ・・・。)

「ナガシィいっつも、将来(しょうらい)は運転手になるんだって、すっごく(うれ)しそうな顔で言ってたじゃん・・・。私、そんなナガシィ見てたら、私にもなれるのかなぁっていつも思ってた。それで、調べたりしてみれば女性の運転手もいるってことに気付いて、ナガシィには悪いけど、ずっとそうなりたいって思ってた・・・。」

「・・・。」

「そしたら、ナガシィと一緒にいろんなところに行けるんだってずっと思ってた・・・。」

(もえ)の声は時折小さくなりながら、僕の頭の中に入ってきた。

「だから、ナガシィと同じ進路に行きたいって思った。ナガシィと一緒の学校に行けば、将来入る会社も同じにできるかもしれないって。そう思ったから・・・。」

(もえ)。)

(うれ)しかった。だけど信じられなかった。話しているのはすべて小学校時代の僕・・・。そのころからずっと思っていたことなのだろう。そうなれば、木ノ本(きのもと)留萌(るもい)以上に強くこの進路を考えていたことになる。それなら・・・。

「それなら、なんで俺にそのこと言ってくれなかったんだ。」

それまでうつむいていた(もえ)が顔を上げた。

「言ってたら俺、あんなバカなことしなかったよ。高校だって岸川(きしかわ)に行こうって言ってたはずだよ。それで、もしよかったら鉄研(てっけん)やろうって言ってたはずだよ・・・。」

「ナガシィ。」

(もえ)が言葉を(さえぎ)る。

「私、女の子なんだよ。そんなこと言ったら・・・。」

「女の子だからなんだよ。どんな趣味(しゅみ)()とうが、どんな職業(しょくぎょう)()こうが、そんなの男女関係ない。一番いけないのはそれを()(ころ)したままでいることじゃないのか・・・。」

「・・・。」

「そんなこと言われたら、俺はバカでしょうがなくなる・・・。ただ言うだけでも・・・よかったのに・・・。」

「ナガシィ・・・。」

今度は僕が顔を上げる。

「ありがとう・・・。私、ナガシィがこう言ってくれるとは思わなかった・・・。本当なら、ナガシィは私がこっちに来ることなんて(ゆる)してくれない。いくなら、なんで来るんだよって(おこ)ると思った・・・。」

(もえ)の眼があつくなっていたのが分かった。

「バーカ。そんなことで怒んねぇよ。バカバカしい。」

「・・・。」

「確かに、来る理由は聞くけど、それ以上のこと聞くと思うか・・・。」

目をこすった。

「今思ってみればそうかも・・・。私、まだナガシィのこと分かんないみたい・・・。」

「そんなことねぇよ。」

ふと眼を上げると高架駅に入っていく列車が姿を見た。菱形(ひしがた)のパンタグラフはさっき乗ってきた列車のものではない。少なくとも10分は同じ場所にいたようだった。

列車(でんしゃ)・・・来たの。」

自分の目の違いを見抜いて(もえ)が声をかける。

「ああ。」

「なんだった。」

「1000系だった・・・。」

高架橋(こうかきょう)から目をそらし、自分の帰るべき方向に歩きだした。(もえ)がその後ろをおってくる。

「そう言えば、もう一個の方答えてなかったね。」

「もう一個って。」

とぼけたわけじゃない。

「おいおい。ナガシィ(あたま)大丈夫(だいじょうぶ)か・・・。」

「大丈夫だよ。」

そう答えると、

精神科医(せいしんかい)、行ってくれば。」

と言われてしまった。

「さっきのだけど、私がナガシィの進路知ってるのは・・・。」

(まさか、あのメールもそれで・・・。)

 6月28日。いつものように学校に行った。今日はやらなくてはいけないことが一つある。そこだけがいつもと違っていた。

木ノ本(きのもと)、ありがと。」

木ノ本(きのもと)が来るなり頭を下げた。

「ありがとって。何か感謝(かんしゃ)されるようなことしたっけ。」

とぼけているのかそうでないのか。

昨日(きのう)(もえ)から聞いたよ。全部・・・。(もえ)が進路のことああいう風に思ってったってことも、俺と進路合わせるために木ノ本(きのもと)(もえ)精通(せいつう)して情報を流していたことも・・・。」

「ようやっと話したのかぁ。」

荷物を置きに行った。

(もえ)、なんて言ってた。」

「んっ。分かってる人ほど、話さなきゃ分からないものってあるんだなぁって言ってた。」

昨日の言葉をそのまま返した。


夢を追う人。僕は好きです。

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