143列車 また会った
雷鳥の車内放送で使われているメロディが鳴った。僕の携帯の着信音である。
「誰だよ。」
メールに文句があるわけではない。
From:坂口萌 タイトル 臨地研修 内容 行き先北陸に決まってよかったね。
(なんだ、萌かぁ。)
すぐに返事をした。
この時、僕はこのメールのことを何も考えなかった。
18時32分。浜松。ここのメイワンという建物の前に遠州鉄道の浜松駅前バス停がある。ここには浜松市を網羅するバスのほとんどが集結するのだ。
(こんなに遅くここを通ることは、もうほとんどないのかぁ。)
心の中でつぶやきながら、メイワンと遠鉄百貨店の間から見える浜松駅1番線をみあげる。
この時間にやってくる列車はない。あるとすれば貨物列車くらいだろう。そんなことを思いながら、肩にかけている撮影用バッグをかけなおした。
ふと顔を上げると、見覚えのある顔が前から歩いてくるのが見えた。一人は知っているが、もう一人の方は知らなかった。
「ごめんな、テストも近いのに。」
「ううん、別に今から勉強してもテストの点数2倍になるわけじゃないから。赤点取らなきゃいいよ。」
「いや、2倍はないと思うけど・・・せめて1点とかあげるくらい思っとけよな。」
一人の女の子が前に目線を向ける。
「あっ、榛名。」
目線の先にいる人の名前を呼ぶ。
「よーす。萌。久しぶりだな。」
「知ってる人・・・。」
当然のことだが、萌という女子の隣にいる人は自分が誰だかわからない。すかさず聞いた。
「あっ、岸川高校に行ってる木ノ本榛名さん。鉄道研究部員なんだ。」
「へぇ。」
(鉄道好きの女子もいるんだなぁ。)
「そいやぁ、萌の彼氏も岸川で鉄道研究やってるって言ってたよなぁ。」
しばらくして、そう萌に聞いていた。いったいどこまで彼氏がいるという胞子を撒き散らしているのだろうか・・・。
「ねぇ、私立ってるの疲れたし、どっか座って話さない・・・。」
萌がそう言ったため、近くにあるファーストフード店に足を運ぼうとした時、
「なぁ、あたし帰っていいか。」
「ええ。本屋一緒に行ったんだから、いてよ。」
「いや、あたしその人知らないし・・・。」
「今知ったでしょ。いるだけでいいからいてよ、梓。」
「あずさ」。ため息をついてその梓という女子から目をそむけた。
「どうしたの。」
「いや、この名前を聞くとどうしても183系(L特急あずさ)の方が頭の中に出てくる。」
「さすがだな・・・。」
そう言われているのが聞こえた。この後、萌から梓の紹介があった。本名黒崎梓だそうだ。
ファーストフード店に入ると4人がけのテーブルを探し、そこに座った。私と萌は対称の位置に腰を下ろす。
席に座ると萌が聞いてきた。
「ナガシィ元気。」
(自分達のことじゃないのか・・・。)
「元気だけど・・・。」
「そっか・・・。臨地研修北陸に決まってすっごくはしゃいでない・・・。」
「・・・。はしゃいではないけど、喜んでると思うよ。」
「そうだよねぇ。さっきナガシィに送ったメール。返信一言で終わってたから、想像できないくらいに喜んでると思うなぁ。」
(一言で終わってるから、想像できないくらいに喜んでる・・・。)
「どういう意味だよ。」
横で聞いていた黒崎が話しに入ってきた。
「だって北陸にはナガシィがずっと撮りたいって言ってた「スノーラビット」も走ってるし、乗りたいって言ってる「トワイライトエクスプレス」だって走ってるから・・・。」
「ちょっ、萌やめろ。」
すかさず止めに入った。素人にこんな話しても分かる人がいない。
「それ私なら分かるけどさぁ、梓に分かると思う。ふつう、女の子はこういうのに興味持たないって。」
「あっ、ごめん。」
「いや、別にいいけどさぁ・・・。」
「いいわけないだろ。梓にしてみれば、分からない話を延々とされるんだぞ。話題についていけなくなるって。」
「・・・。」
「で、そのことはたぶん、言葉にできないから一言なんだろうな。」
「榛名、わかってるねぇ。」
「・・・。」
こう言われるといつも気になっていることがあふれだした。
「なぁ、萌。聞くけどさぁ。」
「何・・・。」
「お前、永島が自分のこともうちょっと・・・いや、もっとかまってくれないのかって思わないのか。」
しばらくの沈黙になるか・・・。萌が頬杖をついた。
「思うなぁ。」
この問いは即答するようなものではないはずだ。なのに即答される。
「思うのかよ。」
黒崎がツッコミを入れる。
「それなら、なんであまり永島と会ったりしないわけ・・・。」
「お互い全力で夢に打ち込んでるから、会わないだけだけど。」
前も同じようなこと言っていた。お互い全力で夢に打ち込む。そして、一緒になる。なんかのストーリーでよくあるパターンなのだろう。だが、現実で見るとそのすごさに驚く。
「それがどうかした・・・。」
なんで聞いたのかが気になったらしい。それは前にも言ったと思うが・・・。
「ちょっと気になったから・・・。」
「そう。」
「・・・。あたしもこの話は聞いたけどさぁ、なんでその人のことそんなに信頼できるわけ。いくらメアド持ってるからっていっても学校とか別れれば、多少自分以外に彼女創らないかって心配になるだろ・・・。」
「それは、思ったことないなぁ。」
(ないのかよ・・・。)
萌が目を閉じた。少しばかり、このことを考えているらしい。3秒か4秒くらい経つと目を開け、
「好きだからかなぁ。」
とつぶやいた。
「好きだから、彼女創ったりしないのかも。」
(おい・・・。)
「でも、今考えてみると「なんで私こう思ってるのかなぁ」って不思議に思った。好きだから以外理由ないのに・・・。」
(好きだからかぁ・・・。この二人の間の問題すべてを解消しているのがそれだけだとしたら、この関係は誰にも想像できないかも・・・。)
「ふつう、そこまでいかないよなぁ。いくら小学校・中学同じだったっていっても・・・。」
「もつれなかったからここまでいったのかもね。」
(本当にこの関係は恐ろしいです・・・。)
その後はすぐに話すこともなくなり、別れた。
バス停に向かおうとしている時だった。もっと大切なことを思い出した。
「あっ。萌、あのことちゃんと永島に言ったのかなぁ。」
背後にある遠江急行の浜松駅の方に頭が向いた。
汽笛一声新橋を・・・♪。鉄道唱歌
ちょっとものすごい野心を持ってこれのイメージから知っている歌でアニメを想像したところ嵐の「マイガール」がいいところでは。