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MAIN TRAFFIC1  作者: 浜北の「ひかり」
Kishikawa High School Episode:3
142/184

142列車 筒抜けの決定

 携帯が鳴った。

「もしもし。安曇川(あどがわ)です。」

「あっ、アド先生。箕島(みしま)です。」

「どうしたんだ。」

臨地研修(りんちけんしゅう)の行き先のことなんですけど・・・。」

「行き先・・・。それなら潮ノ谷君(しおのやくん)が四国の方になったから四国でいいんじゃないかな。」

「・・・。」

しばらく(だま)った。

「その行き先ですけど、今年の行き先は・・・。」

 6月23日。今日、今年の臨地研修の行き先が決まる。

(僕の出した案は通るんだろうか。)

そんな心配ばかりをしていた。今の状況では、高い確率で四国になるのは確定的だからだ。

自信(じしん)()ってくださいよ。僕だってあの案は悪くないと思いますから。」

僕の心でも読めるのだろうか。朝熊(あさま)が励ましてくれた。

「あっ、言うの忘れてましたけど、あの案部長に送っときました。」

「そう。それでなんか言ってた。やっぱり21時に新潟(にいがた)に着くのは問題(もんだい)だとか・・・。」

「それは言ってませんでした。でも、北陸(ほくりく)がただ通っているだけになってるから、そこだけ変えればどうにかなるんじゃないんですか。」

(ただ通っているだけ・・・。)

確かに。あのプランは行き先である北陸をただ通過(つうか)しているだけである。大阪(おおさか)で行動を止めてしまっているからしょうがないのだが・・・。

「そうか・・・。」

なにも返事しないよりはましだろう。

 放課後(ほうかご)、3年4組。

永島君(ながしまくん)。昨日送ってきたプランだけど、あれで決定でいいのかな。」

「まだ決定しないでください。箕島(みしま)にも意見聞きましたけど、あのプランでは北陸をただ通過しているだけになっているから、そこを変えろと・・・。そこを変えれば、北陸の方はあれで決定でいいです。」

箕島君(みしまくん)からは何も聞いていないのか。)

その後、僕から話すことはない。柊木達(ひいらぎたち)を巻き込んで雑談に(ふけ)った。

 この間、僕はアド先生と箕島(みしま)が何を話しているのかは分からなかった。

(四国も最終の()めか・・・。)

と思いながら聞き耳を立てていた。だが、ほとんど聞くことはできなかった。唯一(ゆいいつ)聞きとれたのは、

「分かりました。じゃあ、このプランで明日(あした)計画書を作ってきます。」

「お願いします。」

という言葉だけだった。箕島(みしま)の顔が少し笑っていた。

(こりゃ、天地(てんち)がひっくり返っても北陸になることはないな・・・。)

心の中にそれだけが広がり、思考回路(しこうかいろ)をさえぎった。

 6月24日。今日もまた部活である。

 昼休み。いつものことで部室に向かう。

「今日、アド先生が計画書作ってくるって言ってたけど、どっちに行くことに決まったのかな。」

「計画って言ってもどうせ四国だろう。」

木ノ本(きのもと)が横から話に入ってくる。

「あっ、言ってなかったね。」

箕島(みしま)が今の会話で思い出したように言った。

「行き先は北陸(ほくりく)だよ。」

自分の耳を(うたが)った。

 心の中にこだまするこの声は何なんだろうか。今のことを僕は信じることができなかった。

「なんで・・・。」

すぐに出た言葉はこれだった。

「だって、決まんないだろ。ここまで割れてて・・・。」

(割れてる・・・。そんなことはない。潮ノ谷(しおのや)が四国の方を支持して、四国票(しこくひょう)は11。北陸票(ほくりくひょう)は10。僅差(きんさ)だけど、これは北陸じゃなくて四国に決まったってことじゃ・・・。)

「だから、ここはみんなが行きたいって思ってる北陸の方がいいかなって思って・・・。」

(そんなつもりはない。いや、こうなることを望んでいたわけじゃない。お互いのプランをぶつけて、それでも四国っていうなら、四国にしよう。こういう風になること前提(ぜんてい)であのプランは作ったはずだ。)

心の中で思っているだけで、言葉にはならなかった。箕島(みしま)もこのことには、これしか言わなかった。決まり方があっさりしすぎている。胸がカラッポになった。そこにあるという感覚(かんかく)()せた・・・。

 昼を食べ終えて、僕はすぐに部室から飛び出した。この(ごろ)はいつもこうである。もちろん、僕が部室を去った後にどういう話をしているのかは知らない。

 13時10分。昼休み終了(しゅうりょう)。その(かね)を聞いて箕島(みしま)たちは部室を出た。

箕島(みしま)・・・。なんで四国じゃなくて、北陸なんだ。」

木ノ本(きのもと)が自分の疑問をぶつけた。

「なんでって・・・。あいつに楽しんでほしいからだよ。」

それだけ言った。部室に(かぎ)をかけ、階段を下る。

「それだけ・・・。それだけかよ。」

去っていく箕島(みしま)の肩を(つか)みそうになった。

(おれ)永島(ながしま)の作ったプラン見てみた。なんか、どうしても北陸に行きたいっていう気持ちがそのプランから読み取れた・・・。俺も、あのプランならみんな満足(まんぞく)できる。そう確信(かくしん)したよ。だから、行き先を北陸にしたんだ。」

(でも・・・。)

「もちろん、留萌達(るもいたち)にも北陸でいいかって聞いたよ。そしたら、全員からOK(オーケー)が出た。それもあるから、問題はないよ。」

「そりゃいいけどさぁ・・・。」

大丈夫(だいじょうぶ)。四国には(ひま)ができた時に一人で行ってくるから・・・。」

笑って見せた。

(本当は行きたいんだろうなぁ。でも、なんでだろう・・・。)

そう思えた。

 放課後(ほうかご)。話し合いをする3年4組に向かった。アド先生が来るまではどういうプランになってくるのか楽しみだった。昼休みはあんな風に思っていたけど、内心は飛び上がりたくなるほどうれしかった。たぶん、今の僕にはなんで行き先が北陸になったかなんてどうでもいいのだろう。

 アド先生が扉を開けた。

「はい、皆さん。これをもらってください。」

鉄道研究部員(てっけんぶいん)全員2枚組(まいぐみ)(かみ)をもらった。1枚は集金用(しゅうきんよう)の紙。そしてもう1枚はこの臨地研修(りんちけんしゅう)の計画表である。

 計画の全容(ぜんよう)はこうだ。

 まず、浜松(はままつ)を7時06分に出る、普通豊橋(とよはし)行きに乗車する。これに乗ると終点(しゅうてん)豊橋(とよはし)には前述(ぜんじゅつ)した通り7時42分に到着する。豊橋(とよはし)で7時45分発、特別快速(とくべつかいそく)米原(まいばら)行きに乗り換える。この列車で行くと終点米原(まいばら)到着は9時47分だ。ここ米原(まいばら)からは北陸本線(ほくりくほんせん)にかじをきる。この列車で一番最初に乗れる北陸本線の列車は10時03分発、新快速(しんかいそく)近江塩津(おうみしおつ)行き。この列車で近江塩津(おうみしおつ)に行き、近江塩津(おうみしおつ)からは敦賀(つるが)まで足を延ばす新快速に乗車。これで敦賀(つるが)到着は11時15分。ここ敦賀(つるが)に到着すると少し時間がある。11時43分敦賀(つるが)発、普通福井(ふくい)行きで終点福井(ふくい)まで乗車する。ここ福井(ふくい)までくれば、団体行動から、自由行動に移行(いこう)する。ここから先はゆっくり集合場所の富山(とやま)までいくもいいし、北陸本線から外れていくローカル線に乗るもいい。そんな感じで自由行動を満喫(まんきつ)しながら、富山(とやま)集合19時00分に間に合うように移動する。これが1日目の行程(こうてい)だ。

 2日目は完全に自由行動である。班ごとでいろんな場所に行っていい。

 3日目は9時49分に富山(とやま)を発つ。ここでこの臨地研修一番の目玉(めだま)特急(とっきゅう)はくたか」のお出ましである。この「特急(とっきゅう)はくたか7号」で越後湯沢(えちごゆざわ)まで出る。終点越後湯沢(えちごゆざわ)には11時53分の到着。7分の乗り換えを経て12時00分発普通水上(みなかみ)行きに乗車。終点水上(みなかみ)到着は12時39分。昼時(ひるどき)ではあるがまだ先にコマを進める。12時46分発普通高崎(たかさき)行きに乗車する。終点高崎(たかさき)到着は13時51分だ。ここでようやく昼ごはんである。この時間を経て15時17分高崎(たかさき)発、湘南新宿(しょうなんしんじゅく)ライン経由(けいゆ)特別(とくべつ)快速(かいそく)小田原(おだわら)行きに乗車し、終点小田原(おだわら)到着は3時間後の18時18分。ここ小田原(おだわら)でまた乗り換えを行い、18時27分発、普通熱海(あたみ)行きで終点熱海(あたみ)に18時51分。3分乗り換えで18時54分発、普通島田(しまだ)行きに途中(とちゅう)沼津(ぬまづ)まで()られる。そして、ここ沼津(ぬまづ)からは20時00分発、ホームライナーに乗り、終点浜松(はままつ)には21時37分着である。

(これじゃあ、僕が一番最初に考えたのと、あんま変わんないなぁ。)

正直そう思ったが、不満があるわけではなかった。臨地研修はこれで決まりだ。


水上(みなかみ)水上(すいじょう)なんて読まないでね。このレでは。

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