141列車 批判から完璧
6月22日。今日も行き先決定のためのミーティングである。今この時期になっても決まらないというのはこれまであったのだろうか。それとも・・・。
今日も変わらず、黒板にプランについて書いた。朝熊は2日目の自由行動について書いていた。一方北陸はというと何も書いてない状態だった。昨日書いたことで書くことがなくなったようにも見えた。
「あのプラン見てみろよ。」
佐久間が僕の隣で耳打ちした。
そのプランを見てみる。朝熊がよく言っている道後温泉に行くプランだ。
「どう思う。」
「どうって。」
「だから、あのプランはオヤジが考えるもんだって。」
「・・・。」
何も言えなかった。プランを立てたのは朝熊である。僕は朝熊のプランを否定するつもりはない。
「俺たちまだ高校生だぜ。あんなオヤジ臭いプランよりこっちの方がいいだろう。」
この声は朝熊にも聞こえていたようだった。どっかに行ってしまった。
(今のは・・・。)
「佐久間、今のはひどいよ・・・。」
「何がひどいんだよ。当然だろ。あんなプランはオヤジになってからでいいじゃん。道後温泉とか、松山城とか。行って何すんだよ。」
「朝熊っ。」
留萌は飛び出していった朝熊を追っかけた。
駐輪場の隣に車1台が通り抜けられる幅の道がある。
「早く終わってくんないかなぁ。」
朝熊はそこにあった小石を蹴飛ばした。
「朝熊っ。」
声のする方向に目をやる。
「・・・留萌先輩。」
朝熊に近づいた。
「ごめんね。佐久間はああいう奴だから。人が傷つくことなんて何も考えてないんだから・・・。」
「いや、僕・・・。」
「そんな事ないよ。ああいう風に思ってるのは佐久間だけだと思う。あいつ、この頃ひどいんだ。だから、そんな風に思わないで。私は朝熊のプラン悪くないと思う。みんなそうだよ。みんな朝熊のプランはいいと思ってるよ。もし四国になったら、ああいうのもいいかもって思ってるはずだよ。」
(それは・・・。)
今日の部活はこんなごたごたもありながら終わった。
「ナガシィ先輩。一緒に帰りましょう。」
進行方向の同じ2年生集団と朝熊が声をかけてきた。
(今は声かけづらいなぁ。)
そう思いながら、自分のカバンを手に取った。
帰り道は全員朝熊のことを気にしていた。
「そんなに気を落とすことないよ。2日目は自由なんだし、どこに行ったっていいって。」
「そうそう、私たちは朝熊の考えたやつオヤジ臭いだなんて思ってないよ。」
「むしろ、よく考えたなって感心する。」
「ああ、「しおかぜ」や「いしづち」に乗るなんて。俺じゃ絶対考えられない。」
「・・・。」
黙ったままである。黙ったままの朝熊を見ているとかける声もかけづらくなる。
「ていうか。今日の佐久間先輩、本当にひどいですよね。」
「ああ、あれはひどいな。ふつうあんなこと言うか。」
「この頃、アド先生のことじゃまだとか何とか言ってるけど・・・。」
重い口調で北石が口を開いた。
「佐久間は俺たちにとって、もう先輩じゃないってことも改めて思った。あんなひでぇ事言う人、先輩なんて思いたくない。」
「北石・・・。」
「だってそうだろ。俺もアド先生はいろいろと「うざいなぁ」って思うことあるけど、あっちの言うことの方が筋通ってるだろ。あいつはいつも自分が面倒くさいって思うことはやらなくていいって思ってるじゃないか。それに、いつでも自分が正しいと思ってる。」
「・・・。」
「お前らなんで我慢できるんだよ。遊び過ぎてる奴がこの部活を動かそうとしてるんだぞ。」
すると声を少し小さくして、
「俺、もし行き先が北陸に決まって「きたぐに」に乗ることになったら・・・臨地研修には、行かない。」
「なんでよ。行かないより、行った方が楽しいって・・・。」
「だからなんだよ。部活にはめったに来ないで、来たと思ったら何もしないで・・・。14日のときだってそうじゃないか。俺たちがモジュール運んでるときに、あの野郎部室にずっといたんだぞ。それで手伝わなかったか理由を聞けば、「俺忙しいんだよ」ってなんだよ。それで、行き先が四国になろうとしたら、死んでも北陸に行かせるように「きたぐに」のプラン立ててきやがって。我慢できねぇよ。」
(後輩にもこう思われてるのかぁ。)
「あの野郎。四国行って寺とかには行きたくないとか言ってるけど、それなら寺に行かなきゃいいだけの話じゃないか。やることや見るものが人それぞれ違うだけだろ。なのに、俺たちのプランを真っ向から否定してくる。そんな奴の意見なんか聞いてられるか。そんな奴の立てたプランで臨地研修に行きたいか。」
北石の声は文章のたびに大きくなった。
「北石先輩・・・。」
帰り道で初めて朝熊が口を開いた。
「そこまで言わなくても・・・。」
「なんでだよ。俺、言い過ぎだとかってこれっぽっちも思ってないぜ。」
北石の口調は荒いままだった。
「おい、落ち着けって。頭に血が上りすぎだよ。」
「どんなにひどいこと言っても、佐久間は俺たちの先輩だ。それがひっくり返ったり、なかったことになるのか。」
この会話を聞き流していた僕であったが、一ついいことを思いついた。
「アド先生に渡した北陸の案。自由行動を減らせばOK出るんだよな。」
「何言ってるんですか。」
「いやちょっといいプラン考えてみた。これなら、四国の人も納得するかもしれないプランを・・・。」
強く、そこだけを強調した。
「時刻表持ってる人いる。」
涼ノ宮駅に着くと僕は早速そう切り出した。
「時刻表なら、僕が持ってます。」
朝熊がカバンからJTB時刻表を取りだした。17時42分発の急行鹿島行きがあったが、それに乗る気は全くなかった。
「いいプランって、なんですか。」
柊木が興味ありげに聞いた。
「まず1日目。」
僕は考え着いたプランの開設を始めた。
「まず7時06分発の普通で豊橋までいく。そこから・・・。」
「米原までの特別快速で米原に9時47分ですね。」
ここまではパターン化されている。北石が続けた。
「そう。それで米原まで行ったら9時49分発の新快速で大阪までいく。」
「それじゃ、佐久間先輩が出したプランと何ら変わってませんよね・・・。」
長い髪が垂れている潮ノ谷が疑問をぶつけた。
「こっから先を変えるんだ。12時まで昼休憩を取る。」
「なんで12時までなんですか・・・。」
「バカだな、隼。11時50分に「トワイライトエクスプレス」が見れる。だから、12時までにしたんですよね。」
「そう。その後に弁天町にある交通博物館に全員で押し掛ける。」
「交通博物館ですか・・・。」
「行くのはいいと思いますけど、交通博物館はもっても2時間くらいが限界ですよね。」
「その後に大阪城に行くのはどう。」
「大阪城。」
「そう。そして、大阪城を出てから自由行動にする。」
「いいと思います。」
後ろから北石の声がした。
「ここからどうするんですか。23時27分の「急行きたぐに」まで待つんですか。」
「いや「きたぐに」は待たない。1日目はもうここで宿泊しちゃうんだ。」
全員の顔を見てみる。顔をうかがい終わると続けた。
「それで2日目。7時45分大阪発の新快速敦賀行きで敦賀までいく。」
「それで敦賀に着くのが9時50分です。そこから一番早く発車する列車は9時53分発の普通金沢行きです。これに乗ると金沢に12時25分に着くことができます。」
朝熊が時刻表をおった。柊木が時刻表がのぞきこむ。
「金沢について次に乗り換えるとしたら12時56分発の列車ですね。」
「じゃあ、その待っている間が昼休憩ってことですよね。」
「そうだね。そうしよう。」
「それで富山に着くのが13時58分。」
朝熊がページをめくる。そして、北陸本線富山から先の時刻表を出した。
「あっ。」
朝熊が小さく声をあげる。
「どうした。」
「富山に到着して一番最初に直江津まで行ける列車が15時05分発までありません。」
「そこはしょうがないな。富山にはライトレールとかいろいろあるから、それを見たりするってことでいいだろ。」
「そうだね。列車がなんじゃしょうがないね。じゃあそれに乗って直江津に到着するのは・・・。」
「16時56分です。」
朝熊が答える。
「じゃあ、ちょうどいいね。この「はくたか19号」で越後湯沢まで出て・・・。」
「そこで泊まるか、新潟までいくか・・・。」
「たぶん行ける。」
上越線のページを開く。
「永島先輩。越後湯沢で休憩がいいでしょう。ていうか、そうしないとダメですね。」
時刻表を覗き込んだ。
「納得。そうだね。」
「休憩したら18時42分発の普通長岡行きで長岡まで行って20時05分。2分接続で20時07分発の普通新潟行きに乗れば・・・。」
「新潟到着が21時24分。」
「この日は「ムーンライトえちご」に乗ることにしよっか。」
「「ムーンライトえちご」が新潟を発車するのは23時36分。その間何をするのかっていうことは後にして、それで新宿に行けばいい。」
「5時10分に新宿に着いたら、「北斗星」までを団体行動にしよう。その間に上野駅にやってくる「北陸」「能登」「あけぼの」「はくつる」を見ればいい。」
「完璧ですね。」
「いえ、完璧じゃありません。」
朝熊が潮ノ谷の言い分を否定した。
「「カシオペア」を見てません。」
「朝熊。見てみろよ。」
時刻表の「カシオペア」の表示に目をやった。
「あっ。」
「そういうわけで、完璧ってこと。」
そのやり取りが終わると、
「後は17時くらいに東京に集合して、去年のパターンで帰ってくればいいんですよね。」
「うん。」
「いいこと・・・。そうかもしれませんね。」
メール機能に書き続けていたこのプラン。打ち終わると席を立った。
「このプランを、アド先生に送る。これは、北陸と四国の人が考えた、俺たちのプランだ。」
いいながら送信ボタンを押し、端末を閉じた。
どこまで引っ張りたいんですか。僕。