14列車 揺られて
現実と大きくかけ離れているところがございますがこの中だけですので。
自己満足なところがあって本当にすみません。
5月2日。4月29日にサヤ先輩から言われたプランで旅行。
6時45分浜松駅在来線改札口を守るため、余裕を持って浜松駅に到着した。だが、余裕を持ちすぎたかもしれない。そこには僕以外誰もいなかった。しばらくそこからそんなに離れないところをふろふろと行ったり来たりを繰り返していると、
「ナガシィ。」
聞き覚えのある声だ。でもこの声は萌の声ではない。善知鳥先輩の声だ。
「ナガシィ早いなぁ。本当に鉄道好きっていう表われかもなぁ。」
「・・・。」
いうことは何もなかった。
またしばらく待っているとアヤケン先輩が、また数分後にはハクタカ先輩と楠先輩が、その数十秒後には醒ヶ井と箕島が、そのまた数分後にはナヨロン先輩が集合した。6時40分現在、まだ集合していないのは木ノ本と佐久間と中学生3人。そしてサヤ先輩だ。
改札口が少し大きな荷物を抱えた人で込み始める。でも人数は少ない。荷物が大きいために込んでいるように見えるだけだろう。この2分前には西鹿児島からの「寝台特急はやぶさ」がお目見えする。その7分前には南宮崎からの「寝台特急富士」が参上する。両者とも東京と九州を結んでいる寝台特急の仲間である。
「よーす。永島。」
後ろから肩をたたかれた。振り向いてみると木ノ本だった。さらに諫早、空河、朝風の姿もある。
「お・・・お前らいったいどこから来たんだよ。」
「えっ。どこって、こん中からだけど。」
木ノ本は親指で改札口の向こうをさした。イコール。今の今までホームにいた。イコール。「富士」、「はやぶさ」を撮影していた。
「まさか。「富士」と「はやぶさ」の写真撮りに行ってたのか。」
「うん。それにしても大変だったよ。お祭りから逃げるために口実作って、昨日の20時からここにこもって、「富士」と「あさかぜ」と「はやぶさ」と「出雲」と「瀬戸」と「さくら」と「みずほ」と「銀河」と「スーパーレールカーゴ」撮影してたんだから。」
「よくやるなぁ。」
「ああ、それにしても久しぶりにやったなぁ。だから今すっごく眠いんだよねぇ。ちょっと電車の中で寝ながら行くわ。」
「おい、まさか中学生も一緒だったとかって言わないよなぁ。」
「それは言わないよ。空河が来たのが6時00分ごろで、朝風が来たのが6時12分ごろで、諫早が来たのは6時21分だもん。」
(全員俺が来る前にホームに上がってたのか。だんだん木ノ本の撮り鉄根性がむき出しになってきたかも。)
「あっ、そう。」
6時45分。まだ現場に現れていないのはサヤ先輩と佐久間だけ。
「サヤとユウタン。置いてけぼり決定。」
善知鳥先輩はそのことを喜んでいるらしく万歳をしている。
「相変わらずだな。あいつ毎回時間通りに来ないからなぁ。俺たちが1年生の時の歓迎旅行もボイコットするみたいな勢いがあったからな。」
「サヤ先輩ってそんなに時間守れないんですか。」
「守れるには守れるんだけど、こういうときはルーズになるっていうのかなぁ。ホント。遊びに行く時だけはこういう風になる。遊ばないときは真剣に時間守るんだけどね。あいつって変だよなぁ。」
「まったく。後輩を待たせるなつうの。鉄研部の部長が。」
先輩たちが口々に文句を言って遅れてくる部長を待っている。すると、3分遅れでサヤ先輩が到着。さらに5分遅れて佐久間が到着した。佐久間が到着するとみんなから「休日乗り放題きっぷ」の2600円と「ホームライナー」の整理券料金310円を徴収。しばらくその位置で待っているとサヤ先輩とナヨロン先輩が「TOICA」の宣伝が書かれている包みを持って戻ってきた。それを順番に渡していく。渡された包みを開けてみると、切符が2枚入っていた。横に長い水色が買った切符が「休日乗り放題きっぷ」。小さくオレンジ色っぽくなっているのが「ホームライナー」の整理券だ。その整理券が示していたのは6番B席。後でだれがとなりか確認してみると僕の隣は諫早だった。
6時55分。コンコースでやる作業はすべて完了。それぞれ改札口に上がる。「休日乗り放題」は普段皆さんが使っているきっぷとは違う。改札機を通らず、直接窓口のほうを通って改札を抜けるのだ。そのとき5月2日と書かれたハンコを押される。この後改札を通ることについては改札で駅員に提示するだけでいい。無人駅だった場合は車掌か運転手に提示すればOKだ。
ハンコを押された切符はこの後熱海まで用はない。包みの中にしまって階段を上る。階段を上ると今度は右にかじを切って1・2番線ホームに上がる。
僕たちの乗る「ホームライナー」は1番線に控えていた。窓周りが黒。その下に入るオレンジ色の帯。JR東海の特急車両373系だ。これの3号車に乗り込み、発車の時を待つ。7時05分。「ホームライナー」は時間通り浜松駅を発車した。
浜松を発車した373系は快調に東海道本線を飛ばす。浜松を発車するとすぐに新幹線とはずれ、しばらくすると天竜川を通過する。天竜川を通過すると坂を上って鉄橋を通過する。
「永島。静岡まだ。」
後ろの席に座っている佐久間が話しかけてきた。
「まだだよ。まだこれ天竜川だろ。」
「えっ、これ天竜川。もう安倍川だと思ったよ。」
とぼけていることは知っている。弁当を食べているときによく話していることだが、本物を聞くとあきれる。
「んなことあるかよ。どこをどう曲げたらこれが安倍川になるんだよ。」
「ハハハ。そうだな。」
話が終わると、窓のほうを眺めた。下流には東海道新幹線の天竜川鉄橋が見える。
「ちょっと行ってくるよ。」
後ろに流れていく浜松の風景にさようならを言って、外を流れる風景に見入った。
時折下り列車がこちら側の視界を遮る。その時には何系かということがふつうに気になる。
「前が313系で、・・・後ろが211系。」
諫早が側面の色で判断をつけた。読者の皆様にも簡単に見分けたポイントを説明しておこう。まず、313系のラインカラーはオレンジ一色。211系のラインカラーは湘南色と呼ばれる緑とオレンジのライン。そして、顔。鉄道は皆同じ顔という概念がある人はぬぐい捨ててほしい。鉄道にはそれぞれ個性があり、皆が皆同じではない。313系はオレンジ色のラインが入った顔、211系は湘南色のラインが入った顔をしている。もちろん。違いはこれだけではないが、今ここで説明してしまうと処理ができなくなると思うのでやめることにしよう。
「313系と211系か。ここら辺ってそういう編成ふつうにやってるんだな。」
「確かに。名古屋圏はこんなくそったれ編成やってませんもんね。」
「くそったれかよ。」
「ああ、くそったれはありませんでしたね。名古屋圏はこんなゴミ編成ないですね。」
「あんまり変わってない気が・・・。」
そんな話で1時間。「ホームライナー」は8時03分静岡に到着。次に乗車するのは8時51分発。普通熱海行き。これまでは少々時間がある。
373系「ホームライナー」から下車して、まず集合がかかる。8時51分発の列車に乗るためにここに集合しろということだった。それの確認が終わると自由行動になる。
「なぁ、永島。おなかすかない。」
木ノ本が話しかけた。
「えっ、どうして。」
「だって、ご飯食べてないんだもん。昨日の晩御飯から何も食べてない。飲み物は飲んだんだけどね。」
「あっ・・・そう。よくやるなぁ。」
「よくやるなぁって、このくらい当然だろ。」
「俺は撮りに行ったりとかしたことないから、当然とか言われてもわかんねぇよ。」
「えっ。ないの。」
「そんなことより、なんか食べてこいよ。そこら辺にキヨスクだの蕎麦屋だのなんかあるから。」
「それくらい知ってるよ。で、話が脱線したけど、永島もなんか食べる。」
「食べねぇよ。つうか、ご飯家で食ってきた。」
「そうかぁ。」
と言ったら階段の向こうにある蕎麦屋に一人駆けていった。
ふと373系に目をやってみるとヘッドマークがさっきの「ホームライナー」から「ふじかわ」に変わっていた。案内には8時17分発。「特急ワイドビューふじかわ」甲府行きとある。
携帯電話を取り出して、その写真機能を使う。373系を収めるとそのあとに収めるものはなくなる。
「「ふじかわ」かぁ。」
横を見るとさっき蕎麦屋のほうに行っていた木ノ本が戻ってきていた。
「いつの間に戻ってきた。さっきまで蕎麦屋のほうに行って・・・。」
「ああ、さっき食べて戻ってきた。こういうとき便利だよねぇ。あの手の蕎麦屋とかうどん屋。ホームにあるから外に出る必要ないし。」
「・・・。そこまで食べるのが早ければ、おにぎりとかのほうが効果的なんじゃない。」
「それもそうかもしれないけどさぁ、気分によるんだよねぇ。今はおにぎり食べたいっていうと気じゃなかったから、そばにしただけだけど。それにそばとか麺類ってするする入って、早く食べ終わりそうな感じしない。」
「ああ、確かに。」
「だろ。こういうときはああいう店に駆け込み入店するのが一番いいと思う。」
(駆け込み乗車じゃなくて、駆け込み入店かぁ。)
それは一理あると思った。自分も麺類は好きだし、麺類だと早く食べ終わるという先入観もある。
という話は置いといて、8時45分。自由行動は終了。さっき確認された位置に全員が集合する。しばらくすると313系を先頭に6両編成の普通列車が入線してきた。この列車で終点熱海まで揺られる。
「ナヨロン先輩。さっきから何見てるんですか。」
僕は純粋にナヨロン先輩が向けている目線が気になった。彼はさっきから313系ではなくて上を見ている。それもずっと向こうの上だ。
「いや、パンタの向きがどっちかなぁって思って。」
ピンポーン、ピンポーン。ドアが開いたので、ホームに人があふれる。ドアから吐き出される人の波が終わると今度は乗る人の波。さっきと同じで降りる人も乗る人も同じくらいなのでさほど混みようも変わりない。ナヨロン先輩は先頭のドアのところに荷物を置いて、さっきの説明を続けた。
「313系と211系ってシングルパンタのつき方が逆なんだ。つまりどっち向きでついているかわかれば、後ろの車両を見ないで判別できる。」
ナヨロン先輩は手でくの字を作ってさらに続けた。
「これがシングルパンタとして、これが東に開いてる車両。つまり今乗った位置からすれば右に開いてたら313系。左に開いてたら211系っていう風になる。それで先頭車だけ判別したかったらヘッドライトの色を見ればいい。だいたい黄色っぽいヘッドライトしてる車両が211系。まぁ、運用のあれで、311系だったり313系の名古屋圏の車両だったりすることはあるけどな。それで、白のヘッドライトが313系2500番台。ここら辺で白は2500番台しかいないから、見分けやすいよ。」
「へぇ。」
「ナガシィ。そんなところ固まってないでこっちにくれば。座れるよ。」
楠先輩に呼ばれて、そっちのほうへ赴いた、
「ほら、ナガシィ座って。」
「えっ、でも。」
「いいの、いいの。あたしはこれくらい大丈夫だし。」
「やせ我慢するなつうの。お前こそ座っとけ。」
ハクタカ先輩が口をはさんだ。
「別に・・・。」
「いいから座れ。どうなってもしらねぇぞ。」
楠先輩はハクタカ先輩に無理やりという形で座らされた。
「チッ。アヤノンのやつうまく逃げたな。せっかくのいじる材料がなくなっちゃったじゃない。」
隣は善知鳥先輩。今のことはどうやらいじられるという立場から逃げたかったからだそうだ。気づくと列車はすでに発車しており、次の停車駅東静岡の案内を行っていた。
東静岡に止まって、すぐに発車。次は草薙と言っているころ、善知鳥先輩が話しかけてきた。
「ナガシィ。こうやってるのをひまだし、なんか話そうか。全員の面白い話とか、いろいろ。」
こう持ちかけてきた。今の僕にはそんなに暇ではないのだが、さっきまで「ホームライナー」に乗っていたという反動が大きかった。
「別にいいですよ。」
了承すると後は一方的に善知鳥先輩にペースになった。
「そうだなぁ。まず、アド先生の異名とかって聞きたいって思わない。」
「うーん。はい。」
「アド先生のもう一つの異名はねぇ・・・ハゲ友の会会長よ。」
「えっ。」
「だからその名の通りだって。アド先生今髪の毛ないでしょ。だからそういう異名も5年前の先輩がつけたんだって。そういう話。」
「アド先生のほかの話ってないんですか。」
「アド先生は何かと少ないんだよねぇ。でもほかの人だったらこういうの多いよ。例えばナヨロンとか。」
「ナヨロン先輩にもなんか異名みたいなのあるんですか。」
「ナヨロンの場合は伝説だよ。伝説。あいつ電車に異常に詳しいじゃん。」
「じゃんって言われても。僕はまだ付き合ってそんなに経ってませんから。」
「それでもわかるだろ。あいつ電車に乗ったら見るところが違うんだよ。パンダグラフとかっていう・・・。」
「パンタグラフです。」
「いいよそんなこと。あいつそれ見て、あっこれは何系だとかいうからね。他にあいつが入部したときに青木さんっていう人たちと電車のこと話してたのよ。その時ナヨロン、エスエルの話して、知識で先輩たちを撃ち落としたからね。」
「えっ、ナヨロン先輩ってそんなに詳しいんですか。」
「詳しすぎだよ。ここがこうなってるからこれは何々だねとかって、もうどっかの先生みたいに言うから。」
確かに。どこか先生じみているというところはある。
「じゃあ、鉄道知識でナヨロン先輩に勝つって無理じゃないですか。」
「あっ、でも勝つことができる分野もあるよ。例えば、料金とか、距離とか、駅名とか。ここ覚えてるとナヨロンに勝てるよ。」
料金。駅間。駅名。すべて僕が詳しくないところだ。
「ダメだ。僕はナヨロン先輩には勝てませんね。」
「何。ナガシィも電車のことだけなのか。」
「はい。僕、新幹線を除外するなら223系が好きなんですけど・・・。」
「ごめん。あたしその時点でついていけない。そもそも223系って何。211系とかじゃなくて。」
「善知鳥先輩。あまりそういうこと言わないほうがいいですよ。」
「それは分かってるよ。でもあたしには違いが分からないんだって。なんせ0系もわからない人よ。」
自慢げに言われても何の自慢にもならない。
「223系ってJR西日本の新快速なんですよ。それの1000番台と2000番台の違いはテールライトがヘッドライトのすぐ下にあるかないかなんです。」
「えっ、それだけ。もっと顔が大々的に違いますとかじゃないんだ。」
「だって同じ車両ですよ。違いが少なくなるのは当然です。でも、視認性だけで違いが判断できるわけですから、まだまだ優しい間違い探しだと思いますが。」
「うーん。そうなのか。」
電車のことを話して首を傾げられることは今までなかった。そもそも萌はこの違いは理解していたし、223系すべての違いも分かっていた。それとも、僕が今までそういう人としか話していなかったからこういう結果になったのだろうか。
「ダメだ。やっぱりあたしには電車のことはわかんない。それよりまだまだ面白い話あるんだけど、聞きたくない。」
何かと停滞した空気を進めたいらしい。うなずいて話を進めさせて、
「ナガシィ。この部活の中で好きな人っている。」
「いませんけど。」
「うそっ。ハルナンのこと好きじゃないの。」
「好きとか嫌いとかいうわけじゃないですけど、そういう目では見てません。」
「なるほど。他の人かぁ。ならいいや。ちょっと掘り込んだ話しちゃってごめん。でも、この部活には部活内恋愛しちゃってる人いるんだよねぇ。」
興味はないのだが何か答えを返さなければと思って誰ですかと聞いた。
「アヤノンとハクタカ。二人とも幼馴染同士なんだけど、冷やかされると否定するから。」
「それって自分がただただ冷やかしたいだけじゃないですか。」
「その冷やかすのが面白いんだって。」
これはどう反応したらいいものか・・・。
新入部員歓迎旅行。ようやっと鉄道研究部らしくなりました。
でもこういう旅行にいくとマニアの人の恐ろしい能力が発揮されるんですよねぇ。それがあらわになっている人が多いですが、これだけでとどまらない人も世の中には・・・。
あーあ。マニアのパワーって本当に恐ろしい。